実現しないのは やろうとしないからだ@ことばぐすい

共通しているのは燃えるような渇望

共通しているのは,影響をあたえたいという燃えるような渇望と,世界のフラット化によって,活動家兼起業家になるのがこれまでよりもずっと簡単で,なおかつ金がかからない,という固い信念だろう。こうした活動は,簡単で,金がかからず,どんな小物でもできるのだから,現代の若者にはぜひ挑戦してもらいたいと思う。実現しないのは,やろうとしないからだ。
アフリカの貧困救済やダルフールの難民のために募金したい?スリランカの象を救うために募金したい?それなら,グローバルな聴衆を持つグローバルなプラットホームを,インターネットがあたえてくれる。アマゾンの環境悪化や,近所の舗装道路の穴に注意を促したい?www.flickr.comに画像を送るか,ユーチューブに自家製ドキュメンタリーをアップロードするか,ポットキャスティングすればいい。不正を訴え,支持する候補のために資金を募るには,プログを使えばいい。諸君のビデオや写真や意見に説得力があれば,視聴者が見つかるだろうし,視聴者のほうから諸君を見つけるだろう。

だが,インターネットなしでも,成果は出せる。起業家の心があり,パスポートとわずかな資金と積極性があれば,どこででもビジネスを始められる──1日の収入が1ドルしかない人々のために,もっといい仕事を生み出すこともできる。そういう人々のために,次の世界銀行の会議に抗議するよりも,ずっと実際的だ。それができるのは,世界のフラット化によって,自由市場が世界中のあちこちに広がっているからだ。社会起業家はいまや,そうした市場にテコ入れして,さまざまな人々──金持ちばかりではなく,貧しい人々や,向上心に富むミドルクラス──のために,仕事やサービスや利益を生み出すことができるようになった。

幸運を祈る,ロブ。それ以外の諸君には,前に述べたこの言葉を贈ろう。実現しないのは,やろうとしないからだ。

フラット化した世界は 壁と屋根と床を吹っ飛ばした

誰一人として,子供たちにその話はしたくない。
誰も話したがらない真実を今話そう。三重の集束のおかげで,このフラット化した世界の新プラットホームは,壁と屋根と床を実質上,一気に吹っ飛ばした。つまり,光ファイバーとインターネットとワークフロー・ソフトウェアが世界を結ぶと,共同作業を阻んでいた壁が吹っ飛ばされた。ともに働けるとは夢にも思っていなかった個人や,外国に移すことなど考えられなかった仕事が,突然動き出し,旧来の高い壁が消え失せた。このプラットホームが,われわれの屋根も吹っ飛ばした。アップロードすること──ブログに意見をアップし,新しい政治的意見をアップし,新しいソフトウェアをアップすること──などとてもできるとは思えなかった人々が,いまや世界にグローバルな影響を及ぼすことができると気がついた。旧来の屋根がなくなると,上へも横へも,これまでは考えられなかったやり方でひろがることができるようになった。
そして,今度は突然床がなくなる。「検索」という新産業のおかげで,個人が事実,引用句,歴史,他人の個人情報まで,いまだかつてなかったほど深く掘り下げることができるようになった。以前は硬いコンクリートの床で,人間や物事の過去や現在を調べるにも限りがあったのだが,それがなくなってしまった。
もちろん,こうした壁や屋根や床は,だいぶ前から腐りはじめていたのだ。フラット化が始まったのは1980年代末だったが,三重の集束のために,いまやそれが臨界点に達し,これまで以上に多くの人間や国を巻き込もうとしている。
さて,ここで宿題だ。20年ほど前からビジネス関係のマスコミは,「IT革命」とやらについてかまびすしく書きたてている。あいにくだが,これはプロローグにすぎない。この20年は,共同作業と接続のための新ツールを鍛造し,研ぎ,配っただけだ。本当のIT革命はいまから始まる。競技場を平坦にするために,これらのツールはいま補い合っている。
開演の辞を述べたのは,HPのカーリー・フィオリーナだった。ITバブルとその崩壊は「始まりの終わり」にすぎないと,フィオリーナは2004年の講演で語っている。テクノロジーにおけるこの25年は,準備運動にすぎなかった,とフィオリーナは告げた。「いまこそ私たちは,メインイベントに突入しようとしています。つまり,テクノロジーがビジネスのあらゆる局面,人生と社会のあらゆる局面を完全に変貌させる時代が訪れます」

新しい時代への移行は速く幅広く破壊的

このフラット化の先行き──さらに,あらゆるプレッシャー,秩序の崩壊,それによって生まれる機会──に将来への不安を覚えるのは,間違ってはいないし,少数派でもない。文明がこういう大ががりな科学技術革命を経るときには,全世界が揺らぎながら大きく変化する。しかし,いまの世界のフラット化は,従来の大変化とは本質的に違う。速度と範囲が桁外れなのだ。たとえば,グーテンベルクの活版印刷の実用化の場合は,何十年もかけて行われ,長いあいだ地球のごく一部にしか影響を及ぼさなかった。産業革命も同じだ。いまのフラット化の過程は,時間がワープしているような速さで進み,直接的もしくは間接的に地球のかなりの範囲の人々に同時に影響をあたえている。新しい時代への移行は速く,そして幅広く,破壊的な力を秘めている。昔とは違って,勝者から新たな勝者へ権力の受け渡しが整然と行われることはないのだ。

(トーマス・フリードマン「フラット化する世界〔増補改訂版〕経済の大転換と人間の未来」)