外伝05O・紹興其之一ヰ 安微浙江遠討編・星期六 ヰ
紹興老城水郷に遊ぶ

▲杭州城[立占]。
 合肥型の共産主義臭い一棟ドドーンじゃなくて,日本…よりさらに欧米(ベルリンやニューヨークの駅に相似)に近い駅ビル形式は,中国で初めて見ました。

 さて3日目の朝。追い山出走まで45時間。
 レンタルサイクルで名所巡り?とも思ったけど,借りる場所が分からない。歩き方に書いてあるから,どこかにあるはずなんだがな?
 とにかく,一度,地下鉄で城[立占]を目指すことにする。
 ここには動車組(新幹線)は止まらない。高速移動の機能を切り離されたばかりの鈍行専用ローカル杭州駅ということになるーー。
 と思って降りたら意表をつかれた。バカでかいツインタワーの下部を駅にしてる形で,今まで見たことのない中国駅。駅前のロータリーらしき場所はまさに工事中だから,駅ビル機能はもっとハイパー化するのでしょう。
 人出もスゴい。これは全然,時代に置いていかれた感はない。
 ただ,工事中だからだろうか?食い物の店を含めて店舗はやや少なめ。
 今夜は紹興に泊まるつもりだったけど,移動はバスを考えてたので,飯が食えないならここに当面用はない。ただし,土産物屋っぽい店で西湖龍井の特級茶を買い揃えることはできましたので,まあ吉しとせんかい。

▲巧燕坊の鮮肉芥菜饅頭と小龍包

 引き上げかけて駅北側の地上レベルにも幾つか店があるのに気付き,物色してたらやや流行り目に見えた店を見つけた。店名「巧燕坊」。杭州のファーストフードかどうか分からんが,雰囲気はローカルっぽい。
 入る。
 レジのオヤジが気さくで,お勧めっぽいのを言ってくるから頼んでみた。
(累計▲1106kcal)
鮮肉芥菜饅頭11元
小龍包8元 500kcal
 饅頭のアンは,長くまとわりつくような肉味。かまぼこ質なのに肉味が染み付いた味。あんまり中華スパイスは効かせてなくて,材料の味を際だたせてるようだけどどうやってるのかは見当がつかない。
 小龍包は初め中のあんを入れ忘れたのかと思ったほどごく薄く,しかしじわりと染み出す味わいあり。
 それとこのポロポロした奇妙な食感…が「芥菜」なんだろか。とろりとすんなり溶けてくれない,昨日も感じた口に残る食感です。単に質が悪いという感じじゃなく,どうも意図して出してるらしいこの食感は──浙江の味覚なのかどうかは分からないが,十分に味わえるレベル。

▲西湖の美観
 宿の前に帰ってきた。こりゃあ,とっとと紹興へ移動しちゃうか…と思ってふと見ると?
 宿の目の前が自転車レンタルのステーションではないか! 何で今頃気づいてるんだ,ワシ!
 壁の注意書きでシステムをチェックしてみると──300元の保証金で外人も借りれるみたい。鍵がいい加減っぽいけどまあシステムは分からんでもない。各所のサイクルポート以外なら普通に鍵かければいいんだろ?
 んで,この自転車で,とりあえず聞鴬閣の茶荘を目指してみることにする。
 自転車自体はまあまあの整備度だったし,湖畔に出て飛ばすとなかなか気持ちはいい。けど,やっぱり…ちょっと危険過ぎるなあ,中国道路事情。
 茶荘までやっとたどり着いて店に入る。が,案内もない。ウロウロしてたら「シェンマ?」と睨む不良少年めいた給仕が登場。おいおい,懐かしいなあ,ここだけ解放前なのか?
 目視する限り食い物そのものも大したもんじゃなさそう。とても期待できそうにないんで,景色だけ楽しんで謹んで退去いたしました。
 帰り道で外婆家にでも入ろうかと思ったけど,何か異常に混んでたから断念した。
 で挙げ句の果てに──。
 自転車返そうとしたら窓口にムチャクチャに長い列が出来てた。10分以上経ってたどり着いた窓口で係員曰く「自転車が止められてないから,保証金は返せないです」。
 そんなん…止まったと認識できない機械の問題やんけ!並んでる間に,既に借りた自転車は他の人が乗って行ってしまってる。
 苦情を申し上げましたら「自転車がないなら28番窓口へ」と案内されました。しかし28番窓口は…同じような難癖なんだろか,興奮した群集がもぐれついてて,もし並んだとしたら1時間以上は楽しいオシクラ饅頭が予測される雰囲気ですねえ。
 何ちゅうシステムやねん!元の窓口で200元だけ返させて,とっとと諦める。
 自転車借りてから見つけ出せたけど,レンタサイクルは,普通に貸し出すだけの民間のが他に幾つかある。少し高くてもそっちで借りた方がはるかにマシでした。
教訓:中国で公の息のかかったものに関わるべからず。

 地下鉄で「客運中心」下車すると,すぐそばのキレイな建物がバスターミナルでした。
 売票庁(発券専用建物)に入ってビックリ!
 票(切符)を買う行列がない!自動発券機がズラッと並んでる。
 杭州では,共産中国と現代中国がモザイクになってる様がくっきり見えた気がします。
 中国旅行は疲れるとはいいながら…こんなんしてると,ひと昔前の中国人がよく…ここで生きてたもんだなと思います。そうだ,切符の購入って昔は半日仕事だったよな。
 自販機の表示は中国語のみだったけど,隣を盗み見しつつピコピコしてくと何とか買えた。25元。
 紹興に向かう。12時20分杭州汽車[立占]発。追い山出走まで40時間と19分。

 座席は指定席制でした。
 3番,3番…のわしの通路側座席には,グラサンの男がドッカリ座ってますよ?
「対不起,我的座位的」(すんませんけど僕の席だよ)と穏やかに抗議してみますと,「七号[乍/心][公-、]様?」(7番はどうだ?)と交渉モードに入って来る。交渉っても事後承諾だし,要は連れの女と隣になりたいらしいから断り辛いんだけどね。7番は窓側だからラッキー!と内心喜びつつ「那…没方法」(仕方ねえな)と受ける。そしたら,そのうち棗の漬け物みたいなのを渡して来ました。ちょっとした買収らしい。
 一時間,車窓と文庫本を交互に眺めながらつまんだその棗が,何かエラく旨かった記憶があります。この辺りのツマミモノも,今までバカにしてきたけど実は捨て難い(もしくは当たりが隠れてる)のかもしれません。
 バスターミナルは市街の北郊外。市内に行くバスが分からず,とりあえず目指した市街のホテル,如家酒店紹興城市広場店には恥ずかしながらタクシー移動しました。
168元。まあまあだな。

 追い山出走まで39時間。つまり明日夕方の上海を発たないといけない。とりあえず明日の上海行きの火車票を確保せねば。
 火車[立占]へ向かう。バス路線がどうも分からんので観察しながら結局30分ほど歩いて行きついた。──宿の位置は,老城(旧市街)とその東の新市街,北側の火車[立占]の三角形の中心辺りに当たるようです。北側はややだらだらと街が広がってる。そのさらに北がさっき着いたバスターミナルで,この辺りは閑静な高級アパートが大小の湖とマダラを成して立ち並んでる。将来はここが新しい紹興になっていくんでしょう。
 と他人事みたいにイメージしてたんだけど──火車[立占]で買えた票は紹興北発上海虹橋行。買ってから調べてみたらこの「紹興北」ってのは,この高級アパート群のさらに北の果て…だと知ったのは夜になってからだったのでした。
 ど…どーやって行けっつーの?

 帰りはバスの見当が着いたので,宿を通り過ぎた辺りまで行って降りました。
 確かにデパートが並ぶ日本的な繁華街が広がり初めます。
 でも腹減ったな…。
「多味姿 天然緑色食 2004国際美食節金賞」
中華饅頭 3つ 300kcal
 これだけです。一品のみを積み上げた店先でオバチャンが売ってる店。それだけなのに,客が並んでまとまった量がどんどん売れてく。これは買いでしょ?と即決。
 宿で,杭州で買い込んだ西湖龍井で頂く。
 ──確かにスゴい!
 白あんと言うのか,これ?おそらくココナッツミルクが混ざってると思う。そんな絶妙の甘さのトロミを,ポロポロした焼餅の独特の食感が包み込んで来る。これは…単に中国伝統菓子の味じゃないぞ?相当に創造的な華洋折衷なんじゃないかと思えました。
 この紹興まで来て,ようやく現代中国の歩き方が飲み込めてきた手応えがあります。昔も今も,中国旅行はホントに一種のスポーツで…ガイドブック情報はこの新創造された国ではまだあまり使えない。体力と反射神経で深みがぐんと広がるわけで。

▲橋頭臭豆腐

 [感-心]亭という,古い水路が入り組んだ辺りまで来た。観光エリアらしい。
 その老街に入る手前で,オバチャンがやってた「橋頭臭豆腐」という店の軒先で一休み。
「うちのは少し長く漬けてるから酸っぱいよ」と言う。つまんでみようか?
橋頭臭豆腐
15個5元 200kcal(1000)
 確かに。爽やかな臭みを酸味がふわりと包む。これは,ほとんどヨーグルトの世界です。沖縄の豆腐ヨウの感じに近いけど,臭みをストレートに出してるとこに大陸独特のセンスがある。「臭」は一つの旨味だという食感覚,この辺りは台湾の滷味に通じるものもある。
 続けて街客という飲料屋台で
招牌紅豆[ン令][シ水]7元 150kcal(1150)
を購入。
 台湾っぽい表示や雰囲気はないが,大陸中国発なのか?小豆の自然な甘味がシャリシャリと好ましく暑気を払う。

 運河に沿って古い街並みを楽しんで歩いていくと,いつしか道は西へ向いた。
 紹興老城。細やかに入り組んだ運河の胡同(裏道)。
 驚いたことに,わしの中では中国一の蘇州並みの風情でした。区画がぐちゃぐちゃなのは,蘇州ほど条里制が徹底した計画都市ではないからでしょう。その分,そぞろ歩きの味は出てます。
 具体の情景は写真集にて。

 歩き疲れた宿への帰り際。夕刻,追い山出走36時間前。
 亜都蛋餅。
チーズケーキ,プリン,達蛋400kcal
 宿から解放路の出口対面に2軒出てた店。売れたから隣に増築しましたパターンと見た。イートインも有。
 チーズケーキが最高。淡い甘さと卵の香りは,かつての泥甘い中国洋菓子と全く次元を異にしてます。近いのはドイツ菓子だけど,卵味使いの巧みさは中国由来の要素だと感じました。
 ローカルスーパーらしい浙江供[金肖]という大型店にも立ち寄ってみる。英語名でHypermarketを冠する店で,ちょうど日本のシューズや酒の量販店っぽいとこ。
特級鉄観音
中国ハム(シェン肉と表示)
鎮江香酢(プラスチックケース入り)
 生鮮食品は売り場に控えてる服務員が重さを量ってパッケージングし値札を貼る仕組み。これはヨーロッパなら自己測定なんだけど,確かに中国でそれしたらバンバン不正するだろう。
 とうとう香酢(正確な漢語表記は「香[酉昔]」)を購入。ガラス製が多かったけど,破損を恐れて硬そうなプラスチック製を選択。ただし正規に植物検疫を通るかどうかは知らない。
 あと試しに買ってみた中国ハム…これこそ植物検疫は通らないはずだけど,帰国後,青梗菜と炒めるといい味出しました。中華風ミネストローネみたいな煮物に入れてベーコンめいた使い方にしても旨かった。

 うーん。いい街なんだけど,食い歩きって意味ではやっぱ不完全燃焼だなあ。
 と部屋に帰りかけて…恥ずかしながら如家のロビーに書いてあった広告に目が止まる。
「夕食セットを作ってますよ」といった掲示です。普通はこういうの利用せんのだが…他にアテがない。試しに行ってみるか…!?
 入ってみたら,店も給仕も割と気持ちいい。けっこう人気店らしい。けど他は大人数客ばかりだし「寿司」とか提灯出してる店だし,普段は絶対入らない店ですけど…。
「如家で聞いたんだけど客套あるんじゃないの?」と正直に言ってみたら,25元で手を打ってくれました。
 うーん。他のプログにもあったビニールで包んだ皿とグラスと小杯・大杯のセットには「紹興市永[シ吉]餐具消毒服務部」「専業洗消 無菌包装」と書いてある。保健サイドの恐らく肝炎対策だと思われますが…徹底しとるとゆーか,これで防げるんかいなとゆーか。
 あと,給仕の姉さま方がハッピ姿。それも町火消しみたいな短パン姿で何かエロいぞ?しかも…そのエロさにどうも本人たちは気付いてないぞ?
 とまあ,色々と細かい話題は尽きない中青坊となっておりますが──
 どーでもいーが…そろそろ30分は経つなあ?7時になったら流石に帰ろうと思ってたけど,もう1分で7時だなあ?これは何か,一人で来て安いのを頼む客への牛歩戦術みたいなもんかなあ?
 という我慢の限界で,来た。さすが中国,テレパスがいるらしい。

▲中青坊の魚香肉[糸糸/一]客套25元650kcal(2200)

 いやビックリした!
 浙江名菜とされる魚香肉[糸糸/一]だけど,決して初めてじゃない。ただこの位に本気で魚の香りがして,かつ肉汁と,打ち消し合わず,くどくもならずに絶妙に合体してまったりと構成されてる美味は…初めてでした。
 こういうものなのか,魚香(ユーシャン)って!
 弁当形式,ってのも日式なんだろうか?長崎の卓袱を食ってるみたい。副菜も,ほうれん草の炒めのほか,巻き寿司とキムチと多彩。中韓日というコンセプトは本当らしい。しかも,それぞれちゃんとした味です。
 400円とは思えぬ一膳でした。ごちそうさま。
 ちなみにこの中青坊,Webで検索したらかなりヒットする。新興チェーンらしい。

仙芋世家
という店名を通りすがりに見過ごせず,引き返して買ってしまった。
 注文後に品名と店内の注釈で確認。やはりあの台湾の店でした。
仙草4号
(芋頭+紅豆+珍珠)15元300kcal
 仙草のQQなプニュプニュ感。タロ芋の自然な甘味。やはり何とも言い難い。
 割と客は入ってる。大陸中国もすんなり受け入れてるらしい。そういえば,紹興では県茶の飲み物屋台も見た。既にかなり台湾創作甘味の進出は著しい。
日計2500kcal
累計▲316kcal

 浙江は,あと寧波にも行きたかった。杭甬高速鉄道が開通しており,確かにちょっと覗いて来るのは不可能ではないけど,今回は既にかなり消化不良。午前中,紹興をもう少し深堀りして帰ろうと思う。
 てことは明日は早起きさんである。寝よう。追い山出走まで残るところ30時間弱。