外伝08〓’Ⅳquattro’Ragu!! 肉

 朝5時20分起床。
 つーか…ちゃんと寝て疲れを取らないとアカンと思い,昨夜10時には床についたんだけど…興奮して目覚まし時計の出番なし。6時前には宿を出てテルミニ駅に入っちゃいました。
 何てったって!
 とうとうフィレンツェ入りなんですわ!


▲ES(ユーロスター)に乗車する客

 イタリア国内ではなぜか手に入らない,フリーレイルパスは入手してない。御想像通り…旅程真っ白なんで…。
 初めての鉄道切符購入を,無謀にも自販機でやってみました。…何とかなりました。トーマスクックで調べてきてた6:50のESのチケットがちゃんと出てきました。ε42と随分値は張りましたけど…ヨーロッパの誇る新幹線だから…まあ最初だから楽にね…。


▲ES(ユーロスター)車内

 座席指定の数字が下半分切れて読みにくかった──コーチがイタリア語でcarrozaらしい。座席がbositなのは覚えた記憶がうっすらある(それ覚えてねえよ)。
 でもさすが新幹線!
 乗り込むと車内はかなりガッチリしてる。日本の新幹線と違い,窓が自家用車みたく押しボタンで開閉される。コンセントは全席にある。前後のモニターに飛行機みたいなマップと現在地,現在地名と次の停車駅が表示されてる。これがわしの座席の真上にあるから,まあ間違えようがない…はずだけど,やっぱまだ不安。
 とかアタフタしてるうちにESはテルミニ駅を発車。なぜか座席の後ろ向きに走ってるから感じ悪いけど…窓外の朝焼けが美しいぞよ。
 ふーん。飛行機から見ても思ったけど,何てゆー山並みの形なんだろ。日本で言えば東北に似てるか?雄大にうねる起伏。でも東北より起伏は細かでのっぺりしてて…それを牧草地や畑,果樹園が様々に覆ってて千変万化する。見飽きることがない。
 イタリアの大地ってマジにスゴいんやね…。

 「ビリエット!」
 見とれてるうちにウトウトしてたら,車掌の声に起こされる。寝ぼけ眼で切符を差し出すと当たり前に検札してくれました。
 どーやら間違いはないみたい。
 しかしまー。座席ガラガラ…。
 フィレンツェまで3時間,6千円ってのはやはり高いのか?それともイタリア人が単に朝弱いだけ?
 トイレの位置や喫煙場所の表示はない。アナウンスも日本に比べ非常に少ない(これは日本が特別なんだけど)。音楽聞けそうな設備はあるけどイヤホンは自前みたい。車掌も売り子も来ない。トイレのガラスが壊れて,便座の上にのしかかってる。…などなど日本人感覚での課題は多いけど,機能的には十分過ぎる充実度です。
 あれれ?
 今気付いたけど――モニター表示によると,8時27分にはフィレンツェに着いちゃうみたい。速い!さすがイタリアン新幹線!…ってゆーか…頼むから所要時間くらいはちゃんと調べて乗れよ~。
 てことはだぞ?…1時間半で6千円か!!完璧に日本並みかそれ以上だな…。やっぱりESはこれっきりかな…?


▲フィレンツェのツェントラルの街角

 ホントにテレビの通りだったんだ…。
 朝のフィレンツェ中央駅,サンタマリア・ノヴェッラ駅に降りて,街に出た第一印象。
 観光用の駅じゃなくて街の生活のど真ん中のエリアのはずだぞ?それでもう既にこんなにバリバリ中世チックなの?こりゃもーテレビのイタリア並みじゃん!(それ,ちょっと違う…)
 当たり前に不揃いの石畳の道。当たり前に不整形のピアッツァ。当たり前に古びたレンガ造りの教会。そこから流れる重い鐘の音!
 後日,駅地下に潜って分かったけど。駅なんかも景観壊さないよに近代設備的なものはちゃんと地下に収容してあるみたい。
 興奮しつつ宿まで10分歩く。
 ホテル・ジャポネって宿に荷を下ろす。名前はともかく日本人の溜まり場じゃなくて安心。
 ちなみに。ジャポネは客が出入りする時は必ずカウンター前を通る構造。どこでもだけど…この時「Ciao!」って声を掛け合う。初対面じゃない人同士の一般的挨拶。だけど…これが何とも照れくさい。頼むから,四十過ぎのオッサンに「チャオ」とか言わさんでくれ!


▲フィレンツェ バイクのある路地裏

 身軽になってさらに徘徊する。
 宿のある路地は既に本格的なテレビ級!
 ドゥオーモ(大聖堂)の見える辺りはもー…テレビの画像では感じれないインパクト!オーラさえ感じるほど!
 ローマとはまた違って,フィレンツェの中世的街並みは生活臭がまだプンプンに鼻を刺す。何一つ現代風に整形されてない不揃いな街路と建築が奇妙な調和を奏でていく。


▲街角の水酌み場

 地形を無視して無機質に突っ切ってく沖縄の基地周辺の土地利用と正反対。でも京都や中国の街並みとはまるで違う。個性がぶつかり合ってゴツゴツした調和。ある意味インド的か?一番似てるのはイランとかトルコとかの中東の迷路状の街だな。
 迷路って言えば,ホント同じ道を歩いてても微妙に方向が変わってきて,左右に曲がったりしてるうち訳分かんなくなることがよくありました。迷子を楽しめる街並み,最高!


▲フィレンツェ 街角の祠


▲同じく街角の祠2

 あと。市街南側へ渡る橋がアーケード状になってる。橋上に無理やり家屋を建てて増築し続けてたら覆いになっちゃいましたって雰囲気で,建築法上どーよとは思うけど旅行者としては感じ良し。釜石で見たのと似てる。
 ちなみに後で知ったとこでは。イタリアの建築法ってみんなが無秩序に増改築しまくるもんだから,もーいいや!判りましたよ,現に建ててる建築物はいつまでに申告すりゃ税金はかけるけど後付けで認めますよ,認めりゃいーんでしょ?ってヤケクソな体系になってんだって。
 手放しでイタリア賛美する気は毛頭ない。それは近代国家としても市民生活的にもどっちかって言えば困ったことなんだろけど…几帳面な日本人にゃ考えらんないたくましい超法規的法規…この腐敗に近い妥協性も,どーもイタリアの一面ではあるみたい。


▲市街南側への橋上の風景とカップル

 と…すっかり,民俗マニアのツーリストの目に戻ってますけど,本稿のテーマは食い物です。
 3時間ほどかけて一通り市内をうろつき回り,さすがに疲れてきた。ε10の定食を出す店を見かけてた,足を運んでみました。街中のvia Porcellanaって路地にある「Centopoveri」なるトラットリア。歩き方にも載ってる店でした。
 イタリアの名店紹介って,歩き方を始めガイド本にはε20~50の料亭的な店がほとんどです。この店での体験までは,それがなぜなのか分からなかった。だって,いくら日本が不況でEUがインフレでイタリア人がグルメだからって彼らの食生活の経費水準が日本人の倍以上ってわけないじゃん?
 実際見たとこでも,観光地ローマの観光客多発地域はともかく,普通のイタリアにはε7~10程度の定食屋は探せば結構ある。当然と言えば当然だけど…日常的に食える定食は千円前後でなきゃ計算が合わん。わしが食いたいのはその水準。経験上,それ以上を無理に求めても値段に見合った美味は得られない。結果的にイタリアでも同じでした。それはステイタスやレッテルに払う金なんだから。
 それじゃ…なんでイタリアの日本語ガイド本は馬鹿高い店ばかりを紹介するの?その悲しい答えを,この店では見ることになりました。
 とにかくまずはチェントポーヴェリのε10定食の中身。プリモ,セコンドとも手書きの4メニュー位からの選択制。
ニョッキ・アル・ラグ
アリスカ・アル・フォルノ
トスカーナパン,カッフェ付き
 ってことで,まるで分からんけど注文してみました。セコンドは一応お姉様お薦め。(「コンシリア?」と聞いたら指差されたってだけだけど…)


▲チェントポーヴェリのニョッキ

 メニュー読める人はお分かりの通り…この時点のわしは注文時に全然理解してへんかったけど,どっちも肉料理。
 肉って言っても,アメリカ系のボリュームでドンッでも日本の脂身で肉汁がジワッでもありませんでした。
 何とも…土臭いの!
 ニョッキはそれ自体小麦臭ぷんぷんの香り高いものなのに,これを浮かべてる肉のスープが!…知らない味わい。京都のイタリアンのラグに僅かに共通してたけど,肉汁で攻めてないの。
 肉のペーストが液化してるってゆうか,具材そのものとして肉が自己主張してる。汁自体は肉の個性を邪魔しない程度のごく淡白な塩味。
 アレスカ…後で知ったけどフィレンツェ名物のステーキね。これも思想自体が違う。赤身で食わせるとこはアメリカ系と同じでも,胡椒やソースの助けをまるで借りようとしてない。赤身肉そのものだけで十分最高!…それとも何かに漬けこんであんの?


▲チェントポーヴェリのアレスカ

 とまあ料理はかなり楽しめたわけ。
 この早めの昼時,チェントポーヴェリ店中の客は4人。わしも含めて皆オッサンの独り客。自分を含むからやや偏見は否めんけど…谷口ジローの「孤高のグルメ」よろしく,こーゆー客層の店は真の実力店。
 さてここへ登場しましたのが…日本人カップルお一組様。
 このシチュエーションは何度かあったけど──この時は,わしから通路を隔てた席に座ったんで嫌ってゆうほど様子が見て取れたわけです。
 同朋として何か…目を覆いたくなる状況でありました…。
 他は独り客ばっかの中,入ってくるなりイチャイチャモードだからそもそも目立ちまくり。これが注文の段になると,やたらイタリア語の片言で交渉し始めるから店中の注視の的に。女の方が言葉は得意みたいだけど,男がいかにもカッコ良く「ヴィーノ・ロッソ…ふっ」(赤ワイン)とキメたんで(いやタダのイタリア単語でキマっちゃないけど),女が銘柄まで選ばされてた。わ~…折角ε10の格安店なのに…高くつきそ…。
 イタリア人にとって「賢い」と「狡い」は同義。なるほど…だから観光客の中でも日本人って格好の獲物なわけだ…。
 とか同朋の心配をよそに彼と彼女「チャオ」とか言って乾杯しちゃうから…さらに好奇の的。乾杯は「チンチン」だし…日本語的に言えば「こんにちはッ」って乾杯してるよなもんだし…。
 その上さらに何かぐだぐだぐだぐだくっちゃべり始める。なんとかチャンのお土産をどうするだの,料理の写真はポジ・フィルムに限るだの…もー分かった!!分かったから日本人として止めてくれよ~!
 イタリア人は陽気と言われるけど,実際見るとスゴく物静かでした。アメリカ人やアジア系みたく空騒ぎしないみたい。だから…料理店でも電車の中とかでも日本人スゴい目立ってました。
 とにかくこの見聞以来──ガイド本に書いてある店は極力避けるよになりました。
 日本人観光客がどーこーって言うより,日本のイタリアンがあんまりにも有り難がられ過ぎてるのが事の元凶。そしてこの国の料理の実際は,まさにこの店のトスカーナのごとくスゴく土臭いもの。それが最大の魅力なんだけど…両者があまりにかけ離れ過ぎてんだと思う。
 だから,ガイド本の店に他の日本人に混じって訪れるのは──あまりに危険すぎる!ぼったくってくれ!!って言ってるよなもんだ。その危険を冒すメリットも期待し難い。
 某歩き方を参考にしよう。参考にっても,書いてある店には行かないよにって意味。
 も少し後でε20以下の店のガイド本を見つけたけど,イタリア語だしマップは付いてないし,何とか行ってみてもどー注文すりゃいーのか分からんほどシステムの個性的な店で,初心者のわしには難易度高過ぎ…。
 某ガイドに書いてない店で,客の入りのいい店を探すのが正解だろな…。
 でも早速この日やってみたら…そーゆー店には,店先のイタリア語のメニューと価格を理解して入ることになる。特に本日日曜日。地元相手にやってる店はほとんど閉まってる。
 ひええ,これは…既に実力不足だぞ!?実質2日目のサル並み旅行者には…。

 結局。今日もパスタの持ち帰りになっちゃいました…。
 宿そばの適当な店だったんだけど,ホワイトソースのマカロニみたいなので,香草が見事に香ってて旨い!一緒に買ったパイみたいなのもグッド!中の生ハムが…あんまりハムのファンでもないんだけど…生地にすんごくフィット!


▲フィレンツェ ホワイトソースのショートバスタ


▲フィレンツェ パイ生地で生ハム挟んだパン

 にしても…セルフやスーパーは時々見かけるが数が少ない。何よりコンビニがないのが痛い。
 1人客の飯の食い方をもっと研究せにゃならん。ピッツェリアで1枚食ってる客は多いけど,地元料理はどー食えばいーの?
 韓国に初めて行った時の感じ。通りがかりの店に店先情報だけではなかなか入る決断が出来ん。どーすりゃいーの?