人生は積み重ねだと誰でも思っているようだ。ぼくは逆に,積み減らすべきだと思う。財産も知識も,蓄えれば蓄えるほど,かえって人間は自在さを失ってしまう。過去の蓄積にこだわると,いつの間にか堆積物に埋もれて身動きができなくなる。
人生に挑み,ほんとうに生きるには,瞬間瞬間に新しく生まれかわって運命をひらくのだ。それには心身とも無一物,無条件でなければならない。捨てれば捨てるほど,いのちは分厚く,純粋にふくらんでくる。
今までの自分なんか,蹴トバシてやる。そのつもりで,ちょうどいい。
(岡本太郎「自分の中に毒を持て」青春出版社,2002)