安里交差点近く,栄町市場の細道に迷い込んでます。
沖縄通いを初めた頃には歩いてよく来てたよなあ,ここ。
昨日の胡屋アーケードの印象を引きずってました。未だに割と活況を保ってるこのアジア的なゴテゴテ市場が,奇跡のように感じられます。那覇とコザの気風の違いもあるのかも?
残り一泊はやはり那覇ってことで朝イチで南へとって返して――宿にも入らずに一路,平和通りが「おもろまち」に入る手前へバイクを停める。いつもつい通り過ぎてしまう界隈。高架の交差脇で,道沿いは整備されて殺風景なほどなのに,一歩裏に入ると細道の迷路。城内各所の地図の看板を頼りに,何とかたどり着きました目的の店は「potohotn」。
後で見つけたHPに2.5畳の店を売り(?)にしてるだけあって…ムッチャ狭い!よくうっかり通り過ぎなかったもんだ。店と言うより売り場ですが…客足はひっきりなし。人気店らしく,通路向かい(の店が閉まってるので)に椅子が3つほど出てます。
ご夫婦で経営されてるみたい。謎めいた店の名前は――「potohoto=ポトホト=ポトホトポトホト♪=珈琲を淹れる音です。」ええっ!?分かんねえよ!!「『どこかの国の言葉ですか?』『何か写真「photo」と関係あるの~?』などと聞かれますが,『音』からきました。 単純な名前ですが慣れてしまうとなんだか心地いい名前で気に入っています。」ってか,なぜアルファベット?「ポト」と「ホト」の違いを100文字以内で説明せよ!とか幾らでもツッコミたくなるのをこらえて注文に専念。
ホットコーヒー(エルサドルバドル ミラルバジェ農園 エルサポテ)200円
痺れるコーヒーでした。
渋みはほとんどなく,苦味もクリアでキレイな味。独特のフルーティーな甘味がほのかに香る。豆も違うんだろけど…ポイントは,淹れ方の繊細さが徹底してて,このクリアな持ち味にキュキュッと磨きをかけてるとこでしょう。
しかしこうして座って見てると。
この栄町市場って,ほとんど滅びたものと思ってた。実際,胡屋アーケードよろしくシャッター街化してた時期もあるんじゃないだろか?
けれど今見ると――結構ぽつぽつ買い出しらしき客も歩いてる。その吸引力は,何よりこういう新しく出店してきてる店らしい。恐らく,前の既設店の閉店後のスペースを受け継いでるんだと思うが…。
つまり,新陳代謝してるのです。言っちゃあ悪いけど…この場末感の充満した,内地の感覚なら間違いなく取り壊し対象になりそうなアジアンな市場が!!
このポルポト…じゃなくてポトホトの経営者ご夫婦も,言葉から察するに,若いナイチャー転入者だと思う。からかいに来る市場の隣近所や,やや難儀なテイクアウト注文をしてる近所客にも,馴染もうとして必死っぽい。ウチナーの世間は濃ゆいだろから大変そうだなあ。
市場の元気な町は生きている。沖縄は,もちろんまだまだギンギンに生きてる邦なんである。
こんな潮流もまた,流れ初めてる――と感じたもう一つの場所は,続けて立ち寄った那覇メインプレイス。安里交差点からは「ゆいレール」で一駅,天久の丘に登ったという距離。
今これ書きながらこの地理関係にひっかかりを覚えてネットで調べてみたら,この天久って場所――ヒットするヒットする!色んな意味で…なかんずくウチナー的な意味で,まさしくディープな土地!!!とそれは後述するとして。
実は時間調整しようと思ってたポトホトが2.5畳で通りの椅子で飲む店だったから,代わりになる店を…と思って入っただけだった「KEN BLEND 1972」。
ホットコーヒー
UCC表示が出てる。申し訳ないが,こんな店が美味いわけないだろけど…。
カップを持って来られた白髪白顎髭のオジサン,「うちはアイスが専門でホットは得意じゃないんだけど」とポツリ。「あ,そうなんですか?残念」と社交辞令として答えてたら…この辺が極めてウチナーなんだが,アイスもサービスで出してくれました。
こうして,机上にはコーヒーのホットとアイスが並ぶことに。自分が端から見たら,いかにもアホな注文した奴やがな…。まあこのハチャメチャさはウチナーらしいと言えばウチナーらしいんだけど。
ホットは予想通りか。アイスの方一口含む。
確かに!甘さのすぐ後をふくよかなコーヒー香が追いかけて来る感じ。苦味の射程が短くシュッと収まってくるというか,ミルクと見事にまとまるバランスの良さというか…。
アメリカンでもコクのコーヒーでもないのに,ミルクコーヒーとしていい!!
ホットの一杯としてはやや力不足なのに。おもろまちの店には,得てしてこういう面白いとこがある。伝統の根を失ってフッキレてる,とまで見るのは読み過ぎだろうか?
那覇の新港まで再北上。時間通りに海岸沿いのプレハブみたいなとこの扉を開く。
座敷に付いてメニューに目を走らせる。ここはいつも旬の魚メニューが出没するから選別には苦労するんだよな。
と!?漢字2文字のメニューが目を引く。これ,昨日のパヤオで聞いたぞ?確か,そう,前後が頼んでる伊勢エビに惑いも見せずに注文した地元のおじいが,わしの隣席で目を細めて陶酔してたアレ。
あまりに素っ気ないネーミングからは考えにくいほどいい値段だけど――思い切って頼んでみました。
魚汁 1200円
結局これ,何だったのか?今検索してみると以下の類ばかりがヒットする。――アイテム/武器/矢・弾その他/獣の餌 魚汁(うおじる/Fish Broth) アイテムの一つ。12個スタック可。『陸ガニのしもべ』を呼び寄せます。 Lv23~ 獣 獣使いが「よびだす」で使用する「汁」の一種。クラブ族のペット「Crab Familiar」をよびだすことが出来る。HQ品である「魚油汁」は,「運び屋のキャリー」を呼び出すことができ,数ある汁の中でおそらく最も需要が高い。
大変な呪力を持つ食べ物らしい。ってゆーか『陸ガニのしもべ』は誰だ?
まあ,黙って食え?はいはい。
美味い!美味い以上に,面白い!
グレーのと赤身の2種類が入ってるらしい。どちらもヤマトで食いなれない淡白さで,白身ではあるけど脂が全然乗ってない。悪い意味ではない。ヤマト的な感性では確かに美味くはないんだけど,軽い白味噌汁に溶け出した味わいは深く,刮目に値する。
和食のチリ鍋みたいに出汁をひねくってある味じゃなく,極めてシンプル。思想的には韓国のアグチム(あんこう鍋)に近いけど,香辛料が少なく素材そのものを味わう意味では和食に近い。台湾の白身魚の汁とか魚頭粥の味わいにも通ずる面白い位置関係の料理です。
だから黙って食えって?はいはいはい,美味しかったですってば。
それから那覇市街を横切りまして,大里村まで原チャのエンジンは唸りを上げる。
唸りを上げたはいーんだが,「汁」つながりで食べたかった牛汁の「まんぶく食堂」は定休日。――玉砕!
ならばと引き返し,古波藏の「にーちぇ」へ。同じく定休日。――玉砕!
うーむ。仏滅じゃ。さてどうするか!?
やけくそになってるうちに,そう言えば長らく行ってない大学前を再訪する気になった。
国場,沖縄大学正門前。
やんばる食堂,一軒。…えっ!?ルビーは撤退したんか!?
やんばるだけが,旧日の栄光を今も残して営業中。中途半端な時間帯ながら数人は客がある。無料のレモンティーの入ったウォータークーラーも健在だし,アルファベットランチのスープも昔通り!
中味いりちゃー 520円
フーチキナーをイメージしつつ何を間違ったのか頼んでしまった感じだけど,結果的に…大正解!
中味と一口に言ってもモツだけじゃなく,3種類ほどは入ってる。そこにコンニャク,人参。それが分厚い香りのカツオとあっさりした醤油で渾然一体にまとまってて――噛めば噛むほどとめどなく複雑な風味を醸す。塩気もハーブもほとんどないのに食わせる。沖縄フードの面目ここにあり!
それと…今さら気づいてるのが恥ずかしいけど,ここのそば,美味い!カツオの濃厚さがポイントの下品な味だけど,沖縄らしいそばです。「やんばるそば」と一言注文する客もあるから,ここも,あやぐそばと同じく,昔はウチナーでいう「すば屋」からスタートした気配…って何度目で気付いてるんだ?
とにかく…美味い!
▲上原パーラー(大平通り商店街)の油かすともずく(てんぷら)
那覇の夕暮れは,大平通り商店街。
国際通りの路地裏に潜る度,気付けばこの猥雑な小径まで沈み入っている。そんな引力を,回を重ねるほどに感じてます。
上原パーラー。平和通り側の出口の店だったか?
油かす 200円
もずく(てんぷら)40円×2
天ぷらはまさに油まみれ。どうも沖縄のには和食の「サクサク」で「カラッと」みたいな価値観が欠けてて,べっちょり,ぶじゅぶじゅ。この下品な食感がハマるんである。これが「油かす」になると…語り尽くせない。別稿ね。
次に頻度が高まってるのは,公設市場の東裏界隈。この辺りには庶民的…ってか率直に言えば場末感を漂わせる惣菜屋台が軒を連ねてます。
この店「はまや」は,そのさらに一つ筋違いの…これもムチャな言い方だけど「誰が来んねんこんな場所?」みたいなロケーション。
黒糖島のじーまみー豆腐 130円
これがまた下品でいい!!こんなんに豆腐を語らしちゃいかんぜよ,って感じにねとねとと舌にまとわりついて来る。ただこちらは甘味自体は極めて上品な軽やかさ。沖縄伝統食のアジクーターと現代食の濃味の間にある,似て非なる微妙な一線。面白い。
後から見たらよく回ったなあと感心するが――この夜,さらに若狭の新店を開拓に行ってます。
店名「みかど」。三笠の並び,すぐ西隣辺りでした。そして同じく24時間営業。こんなとこにあったのか,こんな店が!って?…思い出した!初回の三笠の時に,似たような発音の店だから間違えて入りそうになった店だ!「紛らわしいんだよっ」と舌打ちしたのを思い出した!
店内はまさに内地の居酒屋めいてます。
ふーちきなー 650円
壁に書いてある人気トップ3は
1ちゃんぽん
2ゆしどぅふ
3なすと牛肉のみそ煮
なんだって。あと季節ものとして「へちまのみそ煮」とある。
しかし――食いながら不思議になってきました。
ここの味は…どこにある味なんだ?
ふーちきなーは,ストイックと言ってもいい正統派。ポークも控えめで沖縄麩とチキナー(からし菜)の結合をモロに表に出している潔さ。
味噌汁にダシを感じる。和風としても十分旨い。家庭的な旨さです。けれど具には沖縄豆腐がでんと居座って,沖縄味噌の大豆スープの強さもちゃんとある。
ご飯も,三笠の沖縄流通米とは違ってやや甘い内地風。いや,パサパサ感は控え目だが,ヤマトのご飯よりはボロボロしてるか?
ここは「沖縄ちゃんぽん」の名で内地の全国波で報じられたらしい。テレビ出演の画像が壁に貼られてる。観光客の目を意識してるのは否めない。店内には沖縄絣の布が吊される。
いつもならこの辺りでゲンナリと醒めて店を出るんだけれど…いや!?これは単にそれだけじゃなさそうです。
平日の今日,客層はウチナンチュだけだし,ちゃんと人数も入ってるっぽい。オヤジたちもちゃんと「ゆしどぅふ」頼んでるし,その小さな意味のない「ぅ」が沖縄っぽいし。
つまり,決してヤマトに媚びてはいない。ヤマトを取り入れて昇華したウチナー飯。そう解釈した方がいいみたい。タコスをタコライスにするような真の「ウチナーらしさ」が,ヤマト飯をも飲み込んで突き進みつつある。そんな激しさをも有する味作りを,漠然とながら感じたんでした。
懐かしさを覚える国際通りの夜の雑踏を背に,地下へ降りる。
インシャラー。もう何度目になるんだろう?
モカ(今日のコーヒー)470円
決して上質ではない。ここは国際通りの喧騒と地下の隠れ家的な空間のギャップを売ってる店であって,この抽出は決して誠実でもなければ巧緻でもない。
ただ,無性に香ばしい。
モカが本来持ってる…と先日の松山で習ったばかりの妖しい華のようなフラグランスを,何とも独特の解釈で現出させてる。
ここは本当に異次元なのかも知れない。無闇にゴチャゴチャしたカウンターの中で立ち働く爺さんと婆さんが,ふと――魔術の媚薬を調合してるような妖しさを帯びて見えてくる。
あるいは。本当に異次元なのはこの島自体なのかも知れない。
沖縄の闇が,ますます内地に似た見かけを保ちつつ,ここのような生きた化石めいた間隙から,ずるずると,その面妖にして官能的な姿を滲み出させてる。