外伝06@(@_18_@) 素描・民享市場 (@_18_@)

 最後の項は,今回出会った最も美しい風景についてお話します。

 台湾の市場はいい。
 日本並の金銭を持ち,日本並の衣服をまとった人々が,食材の生産者と対話してる。
 高知の日曜市や京都の錦で学んだ。市場は食生活の健全さを保障する。そこは,ただ単なる売買の場ではなく,食材の由来や旬の情報,調理の方法,そして美味の在処など,食を巡って生産者と消費者が共通の視点を持つ唯一の対話の空間。それが失われることは,食文化の崩壊の最初のドミノです。
 日本と同じ位の経済水準下で,この島ではまだ市場が死んでない。その風景が,帰国した日本の町にそのままあるならと夢想させる。


▲西門街の市場の肉屋

 夜市は,同じ対話の場に祭りの要素をも織り込んでる。
 日々出現するこの祝祭の空間の明かりは,夜に映える宝石のように美しい。


▲晴光夜市


▲晴光市場の灯

 けれど今回出会った最も美しい風景は,西門でも晴光でもなかった。
 隻連駅から北側へ伸びる寺院前の市場。寺の名を取って,以下仮に「民享市場」と呼びます。


▲民享市場1


▲民享市場2

 一つ北の民権西路駅までの間を,帯状に広がる緑茶が埋めてる。その東縁に沿って南北に広がってる市場。観光用の夜市じゃないし,市場の中心にある寺院も名もないものみたい。ただ,市場の中にあるからなのかローカルに霊剣があるのか,祈祷する者の姿は絶えることがない。


▲民享市場3


▲民享市場4(寺院前)

 恐らく,元々ここにあった寺院と市場を掠める形で地下鉄と,これに並行した緑地配置がなされたんでしょう。
 ほんの20年前まで戒厳令下にあった台湾。大陸中国の国連加盟後の国際的孤立の中で,失敗の許されない効率的な都市整備を進めるために,強引な土地収用があまた行われた事は想像に難くない。


▲民享市場5(寺院前)


▲民享市場6(提灯のある風景)

 そんな成り立ちの上で,地元の普通の住民が生き継いできた時間が紡いだ光景が,今のこの市場なんでしょう。


▲民享市場7(提灯と民家と屋台と)

 寺院から連なる赤い提灯が連なる下に,物売りの彩り豊かな品々と怒声,通行人のこすっ辛い選別眼が交錯してく。払暁には早餐と豆ジャンの湯気があちこちに立ち上り,黄昏には提灯の赤い影が通行人の群れに落ちて揺れていく。その巷を見下ろす寺院にて祈る人々の列。緑地の盛り土に日向ぼっこする老人たち,あるいは休憩中の家族連れ。


▲民享市場8(寺院前風景)

 西洋の公園の絵のような,けど絶対的にオリエンタルな,不思議な安らぎの光景です。宿から出かける度,帰る度にフラリと歩いてしまう場所でした。