外伝03-FASE33@Don’t think,FEEL!旨道愉嬉

▲那覇 ある街角

 珈琲。
 同じようで微妙に,かつ結構に異なるのが沖縄の珈琲。お汁粉,沖縄で言うぜんざいみたいな感覚で,おそらく根付いた飲み物なんだろうと思われます。
あぐろ焙煎 珈琲店(久米2)
エチオピアモカ(イリガチェフ)
 やはりややドロついてる。ただし,ここのは何ともクリアな味わい。イリガチェフ※みたいな幽玄な味は,ここのマスターのストイックさにハマる。苦味やコクの深堀りもアロマの華やぎもない,まさにコーヒーという味でぐいぐいと押して来るようなコーヒーです。
 勘定場で奥様らしき女性が「変わったコーヒーですがお口に合いました?」と心配そうに尋ねてきました。もちろん親指を立てましたが,こういうスタンスがある店の味は,やはり落ちないもんである。

※モカ・イリガチェフ
[産地]エチオピアのイルガチェフ地区の高地部
[精製]水洗処理(ウォッシュドコーヒー)
[特徴]甘みの透き通るような爽やかな酸味,柑橘系のフローラルなアロマ

▲高良食堂の中味おかずセット

 中味。
 つまり豚の「中味」の肉,つまり内蔵肉。身もふたもない表現だけど,沖縄の場合,臓物煮といった料理。韓国のスンデクッに当たる味は,両地方の関連も感じさせる。
 11時ジャスト,高良食堂(久茂地)
中味おかずセット 600
 久しぶりに寄った。ここ,こんなにいい雰囲気だったっけ?近所の常連さんばっかりという空気,バイトのお姉ちゃんは片言の日本語ながらしっかり者らしき中国系。何よりこの値段の安さはまさにローカル大衆食堂。
 中味おかずは,ホルモンの他に蒟蒻,椎茸,昆布,もやし,韮の入った炒めもの。中味の匂いがダイレクトに突き上げる汁は,実際口にすれば昆布と椎茸の出汁で極めてまろやかにまとまってます。
 いい味です。
 そして,じゅーしー。この味で前回を思い出しました。内地の炊き込み御飯なら醤油と味醂が占めるべき場所が,ポッカリ空洞になってる。それを前回は「虚ろさ」と捉えてしまってた。
 いや,確かに虚ろなんである。ただ,それとは別の場所に出汁の層がある。ほとんど香りに近い,ごく浅い場所にある。だから和食のつもりで味わってしまうと「虚ろ」としか捉えられない。
 じゅーしーの香りの中に,椎茸や人参,さらには米そのものの木訥な甘さがほのかにトロけて鼻孔に抜ける。
 そういう味覚パターンを知って中味おかずに戻れば,これも同じ構造を持つことに気づかされます。中味の野生味,こんにゃくの個性味,韮のハーブめいた臭い,昆布と椎茸の出汁の香。
 チャンプルーが内地の野菜炒めと異なる点は,おそらくこの微妙な構造の違い。その点がようやく理解できた気がします。
 内地ではつい埋めてしまう味覚の空洞を,ウチナーのチャンプルーでは埋めてない。埋める気がない。いやむしろ,その虚ろさで香りの妙を浮き立たそうとしているのかもしれない。
 今回最後になるであろう「すば」も流石の味。この麺は,山東の刀削麺みたいな荒削りの小麦味。日本で一番中華の「面」感覚に近い麺かもしれない。
 あと,意外に近所の人がタコライスを頼む声を数回聞いた。隠れた狙い目だったか?確かにここがどんなタコスを出すかには,興味があるな。

 カフェ。
 沖縄にも,この一昔前に内地で増えた類の店が増えた。那覇の場合,民家をそのまま改装した,こぢんまりと,通り過ぎてしまいそうな場所が特に多いようです。
 食べログで,大分前にお気に入り登録してたここも,通りがかりで「あれ?この辺に何かあるって情報なかったっけ?」とケータイで確認してやっと見つけた店でした。
 沖映通りの中程を突っ切る小さな川沿い。
trois(牧志 1)
ソイラテ 100
 ものすごく落ち着いたカフェです。程良くフレンドリーで,それでいて好い意味の突き放された感もある,ほんのり暖かな色彩の調度。
 味もいい線行ってます。
 ソイラテ。甘みを抑えた円やかさが生きた味覚感覚,これはなかなかだと。ランチを頂くチョイスもあったかな?
 ご夫婦がひっそり営む,隠れ家的な店らしい。ホント,たゆたう感じというか居心地は最高です。
 注意して見ると──美栄橋のゆいレール高架下に絡んだ半端な筆には,こんな雰囲気のカフェめいた店を幾つか見かけた。内地ナイズと見るべきか,沖縄的カフェ文化と見るべきか,それとも未だそのいずれにも断定し難い「端緒」なのか。

▲「みかど」の「かつどん」

 カツ丼。
「ちゃんぽん」の沖縄形態に以前驚いたこの店「みかど」で,同じく最終日に,今度はいかにも和食名の「かつどん」に驚かされることになりました。12時50分。
 これも侮ってたなあ。
 カツに黒故障がガツンと効かせてある。しかもここにキャベツと人参(おそらく湯がいたもの)が乗っかって,自然な甘みを醸す。──確か昔食った那覇旧港の「波布」のもこんなだった記憶。ただ,デカ盛りにばかり目が行ってたが──あたかも洋食風カツ丼みたいな風情で,内地のカツ丼とは微妙なれども決定的に別モノなんですね。
 いや…そういう「別モノ」視をしてしまうと,むしろ最も決定的な違いは,出汁ではないでしょうか?あまり強くは使ってないけど,カツオや昆布の気配はむしろ濃厚で,卵の甘みの方が表に出て「地」になってる。つまり問題は思想で,出汁に和風みたいなおしとやかさがなく,中華の投げ槍がちな荒々しさがある。
 卵使いは「ふーいりちー」,出汁のスタンスは「ちゃんぷる」に共通する。
 最近とみに思うんですが,和食に対するウチナー料理の革新性って,こういうビミョーな違いの中にこそあるような気がしてきてます。

▲「むつみ」の「てびち汁」

 豚足。
 英語で「Pig’s trotters」,中国語で「猪脚」と大抵「足」と見るこの部位を(ハングルの「チョッパル」も日本人の侮蔑に使うのは足のニュアンスだろう),なぜ沖縄だけでは「手」と見るんだろう?
 と思ってたら,うちなーぐちの「てびち」とは本来は煮付け料理一般を意味し,豚足そのものを指す言葉ではないようです。「手引き」の転訛とされる琉球方言。
 国際通りの「さくら」で眼精疲労60分のマッサージを受けた後,つい隣の「むつみ」に入ってもう一食してしまう。15時ちょうど。
てびち汁 600
 嶺吉閉店という大異変に見まわれた沖縄本島で──噂の一つとして,お店は閉店するけれど,息子さんが戻ってきてどこかで再開の意思もある──次のてびちの名店を探してるんだが。
 なかなかいい。箸で突くと,ほろりと骨から離れるほどよく煮込まれてる。
 それと,ここのてびちの特徴として,大根,蒟蒻,ほうれん草,人参がたっぷり入った汁です。てびちのコラーゲンをあるいは纏い,あるいは吸い取って,いい汁物になってはいる。
 けど,それでも嶺吉のあの芸術性には,なあ。
 奥の席では,常連客らしいおじいにおばあたちがテレビに釘づけ。ブラウン管の中のソチに一喜一憂してます。客層には観光客も多いのにこういう町食堂臭さをそこはかとなくですが充満させてるところが,この店の何とも言えない魅力です。
 そんなむつみも,今となってはこの界隈の貴重な空間です。三越脇のここの通りの入口にはイタリアントマトがオープンし,古い沖映通りのたたずまいをまた一歩突き崩しつつありました。

 帰途。
 そろそろ本格的にタイムアップです。
 今日火曜はインシャラーの定休日だったらしい。結局,今回はここのコーヒーは飲めなかかった。
 16時10分,COZY。
ブレンド
 今回はまだ飲んでなかったここのコーヒー。
 相変わらず…不味いなあ。ドロドロしてるのは沖縄的なんだけど,それだけなんだけどなあ。表には「ハンドドリップのうまい店」と掲示までしてあるのに。それに,なぜか店内には客の姿が絶えることがないのが不思議なんだが。場所と値段なのか?
 名残惜しさの余りドドッとハシゴしちゃいましたが,ホントにもうヤバい時間だぞ?大丈夫か?とか頭の隅のニッポン時間が姦しく急かすのですが,まだ体の芯はウチナー時間。ゆったり啜るマズいコーヒー。
 はいはい,そろそろ行きますよ。

▲帰路の機内より