三伏も未だ隠れて3泊目
度外れた暑さと辛さと毛沢東。長沙という街はこの3本柱で持ってるとされますが,そういうガイドブック的なのは大抵裏切られるのが大陸中国の旅行。
初日から全くの曇り続き,3日目の今日もやっぱりやや肌寒いのでした。
明日の朝には空港へ向かうから,事実上の最終日です。
この街,五一広場近辺以外の面白さがどうも見つからない。人情もえらく馴染むしなかなか好きなんだけど,どうにもエリア的な深みが感じられない。──この老街が面白いから退屈はしないんだけどね。
けれども「度外れた辛さ」については…日本人が思い描く「辛い中華」は,成都へ行っても貴陽で食べても裏切られると想いますが,そういう日本人のステレオタイプに近いのは,意外にもこの湖南料理なのかも?四川系なのに,中原風の味のクッキリさを持ってるというか…。
万達と書いてワンダと読ませるらしい。
先にも書いた老街は五一広場の南側ですが,北側はどうなってるのかな?とうろついてみたら,万達百貨というモールにまずぶつかった。これ自体はありがちな外資だらけの雑居ビルだったんで,ここの前を東進する。
西側の市場はかなりデカかった。風情もそれなりですが,蒸菜の店はなぜかない。蒸菜は長沙名物というより,五一南側の超ローカル食なのかもしれない。
ただ深く入り過ぎた。腹も減ってきたから目についた店に入ってみる。
1000 [シ粛][シ相]第1牛
招牌夢ト牛雑粉(小)10元 250
滋養にいいといった唄い文句がやたらと壁にあるんだけど…要は広東おでんに麺。薄い出汁基調で,出汁はホルモンからだからホルモン鍋に麺が入ってるという感。唐辛子を入れなければまるで食べごたえがないけれど,後味には満腹感が残る。長沙飯としてはちょっと不思議な味です。
なお,「夢ト」(ジャガイモ)はどこへ行ったのか分からんけど…この下味の豊さに芋が溶けてるんでしょうか?
下町をぐるりと回って川べりに出る。対岸の景観は川霧に煙って霞んでます。ボートの訓練中の青少年の一群が行き交うのどかな風景。
五一広場の大通りを渡り,結局老街に分け入る。
裏道を歩き疲れてoppo裏。
oppoは繁華街の雑居モールの一つで,裏手に数軒,誰もいない蒸菜屋が並んでました。まだ初めての客が入ろうとしてるとこだったけど,何となく確信的になって入る。
この裏通りに蒸菜ばかりが不自然に立ち並ぶってのは…初めて見る密度です。少なしどこかが繁盛店だってことじゃないか?
ビンゴ。11時を過ぎると,まず一般客,店舗で働いてる常連らしき方々で席が埋まり始め,程なくわっとばかりに高校生か中学生らしいガキの大群が軒先まで埋め尽くしていきます。
学生の数は嘘をつかない。この2軒,大当たりでした。
▲[月半]子蒸菜館(oppo裏)の「とにかく半分唐辛子な唐辛子炒め」と「豆干の下に唐辛子敷き詰め煮」
辛ければ好いのか半ば唐辛子
11時半,[月半]子蒸菜館へ。oppo裏から勘で選んだ店。
とにかく半分唐辛子な唐辛子炒め
豆干の下に唐辛子敷き詰め煮 500
大正解!いや企画的にはだけど,健康的には大失敗とも言うべきか。
一皿目は,真っ赤なのは…辛さが弱い唐辛子だとか赤バプリカだったとかを予想してた。成都の辣子鶏じゃないんだから,この赤が全部唐辛子なわけがないよな。
違った。
まさに全部が全部,唐辛子だったんですこれが。
確かにやや辛味は薄い種類が主体。とは言え,辛さエネルギーは辣子鶏に劣るものではない。
ただ,辣子鶏に増して根本的に悪魔的なのは―― 残り半分は青梗菜,ネギ,豚脂身などの,どちらかと言えば甘味を引き出す素材。辣子鶏で鶏肉だけなとこをこの複合体に持って来ることで,辛さはひとまずは和らぐ。けれど後味を引くにつれ,最終的にはこいつらが辛さをより一層引き立たせる。
もう一つは,この辛味の薄い唐辛子自体がこの料理のメイン素材だってこと。つまりこの唐辛子がより本格的に強い青唐辛子や大蒜で辛味炒めにされてる。つまりここでも複合味により辛さは,一旦紛らわされてから,後で,しかも波状攻撃で飛来して被害をより根深くしていくのでした。
救いになった(と最初に感じた)のは,最初はナスだと思って頼んだ豆干。これは丁度よい辛さ‥と初めは思った…のだが!!
豆干の下を開くと…ぎょぎょっ?泡辣子(粒唐辛子)がぎっしり…!?嘘だろう?
日本のコンビニで厚揚げ買ったら中にアンが入ってて,それが一味唐辛子の小瓶半分ほどだったら,何かの罰ゲームかロシアンルーレットだとしか思えないが…ここでは当たり前のお料理らしい。
てゆーか,唐辛子の姿焼きとそのまま粒唐辛子の違う辛さに交互に襲われるこのセレクトは,一種の拷問に近くね?お好きな方には堪らないかもです。
満足感とともに…何か敗北感が残る。こてこての庶民派蒸菜は,ガイドブック通りの,こてこての激辛長沙メシだったんでした。
辛さにはチャイというインド的スタンダードな手で巻き返しを図る。昨日の抹茶ドリンク屋台の近所の店で時間を潰す…というか舌を休ませてもらう。ここの抹茶はやっぱなかなかよろしいなあ。でも舌の痺れがなかなか引かないなあ。
▲淵陽新一佳蒸菜館(同)の「固ゼラチンの唐辛子だらけ和え」と「タタキみたいな魚の泡辣子どっぷり漬」
猛辛も立ち直るなりoppo裏
というか立ち直りに小1時間を要しましたが…あのスポットを一店で済ませるのはちょっと口惜し過ぎる!
12時半を回って再度,今度は淵陽新一佳蒸菜館なる店へ。同じくらいに学生で賑わってた店ですが,もう大分奴らは引き上げた後の時間です。
固ゼラチンの唐辛子だらけ和え
タタキみたいな魚の泡辣子どっぷり漬 500
ゼラチンものは,これは…[竹/伊-イ]なのか?この湖南は泡菜の種類がかなり豊富らしく,[竹/伊-イ]もその中のバリエーションに数えられてると事前情報にはありました。──市場での観察では,この泡菜と唐辛子の種類が理解し難いほど多いみたいで,専門店には十数種類の瓶が並んでます。
よく分からん食べ物ながら,とにかくこれは美味かった。コリコリしてるのにちゃんと穀物めいた太い味があって,肉を激辛にしたの以上に辛味が生きてます。…となると肉は全く使ってないみたいなのですが,それでこれだけ図太い味で食べさせるってのは…大したもんです。
分からんと言えばもう一つも,またこれ全く分からない物体でした。土佐のカツオの醤油煮が似たものとして思いつくんですが,魚は例のスズキみたいなのと少し違う。干物かもしれない。
とにかくこれが,泡辣子を敷き詰めた底なし沼に浮かんでる,という「食えるもんなら食ってみろ」的な一品。最初の一瞬美味がパッと開花…するところが悪魔的です。その直後の怒涛の如く味覚の津波,すぐに「辛ッ!」と口中で悲鳴をあげてしまう。でも一口目の美味に思わず箸が動き出し…この連続があらかじめ構造化されてるとこが…ヤバい!
「[口乞]天下」でも言ってたけど,この土地のライス,それだけだと冷や飯の温め直しみたいなもんなのに,おかずの友としてはものすごくピタリとハマる。
演繹的な筋道は分からんけど,帰納的にはこの感覚は,日本の労働者の街,呉や福山,北九州や大阪みなみに共通する。そう言えば,蒸菜というスタイルも,西日本の古い一杯飯屋にあるショーケースから好きなおかずを取って食うのに似通う。あれが汁物になったのが,東南アジアのパダン料理屋台形式,いわゆるぶっかけ飯屋です。
若い食文化は,まずファーストフード形式をとる。そんなとこなんだろか?
「泡笑」(パオシャオ)とシュークリームを書くらしい
かなり安いし,つまみ食いすると独特に美味い!一つが小さいので皆さんナイロン袋に詰めて持って行きます。
さて,見つけてたはずのスタバが見当たらないな…。カフェ気分になってしまってるところで,ふいにcaffe beneを発見。へえ~このチェーンって韓国ドメスティックじゃないんだ,さすがに海外に顔向けてる国民だな…と唸ってるうち,つい代わりに入ってしまってました。
アメリカン 24元
恐ろしく高い。いや為替的には同じですが,蒸菜の倍かよ…と中国センスだとべらぼうに感じます。ただその分中はガラガラ。経営は危うそうですが,これは狙い目です。中庭ではタバコも吸えた。
中国人にしては画期的にニコニコした娘さんがカウンターで受け応え。──中国語の後でハングルで説明するから「韓国人?」と尋ねると,やはり「No,チャイニーズ」だとのこと。「日本語で『どうぞ』でいいのか?」と一単語でも学ぼうとしてくる辺り,かなりの語学マニアっぽい。
正直,胃腸の疲れ方が尋常じゃない。この湖南,唐辛子,大蒜もだけどとにかく油や脂身をかなり多用してる。そこに今朝の2食は…少しだけ自殺行為。
あと,例によって扁桃腺をヤラレてきた。空気の汚さはやはり大陸共通に変わらないみたいで…。
だからひ弱な外国人には休み所がどうしても必要なわけですが…そういう場所として最適なベネだったわけでした。
激辛の締めまでキツい湖南かな
できるだけ胃腸に負担がかからなさそうな…という方向性で選んだつもりだったんですけど。
このまさに「老店であるぞ」めいたお店,日本のガイドにはまるで載ってないのに常に,そして明らかに昼時を過ぎた今も客足が絶えない。最後に一度入っとくか?
15時ちょうど,楊裕興(三王街)。
山椒牛肉 500
店のシステムも規律もまずまずでした。が!ムチャクチャだ!(いや,讃辞です)
一口目は「こんなもんかな…?」といった辛さ。
だけど,妙に,いや悪霊的に後から辛さの余震が来る。というのは,どうやら野菜がことごとく泡菜らしいんですね。辛いのは香辛料ではなくて素材,しかも辛さの種類の中でも実は最も魔術的な漬け唐辛子の辛さだから,噛めば噛むほどに揺り戻す辛味。酸味の中からズルズルと酸っぱ辛さが染みだして来て,最後の2割ほどはもう…心象イメージ:弾幕に向かって匍匐前進状態。
長沙の辛さの根底はやはり貴陽に通じてます。酸味,それも発酵。ここが辛さのバラエティーに絡まることで,他にはない奥行きを出してる。
ただその方向が,貴陽とはかなり違う。簡単に言えば,長沙の発酵は漢民族の,貴陽のはそれ以前の苗族本来形態を残し,かつそれを幹に伸び拡がりつつある食文化なんでしょう。つまり,貴陽は再構築(リストラクション)なのに対して長沙は復興(ルネサンス)。
同じなのは――恐らくどちらも若い食文化だってこと。辺境的な地歴位置にある貴陽に対し,なぜ長沙でそれが実現できてるのかはよく分からないんですが。
りくろーの店よ何気にバッタもん
王府井百貨。瑞可爺爺的店RIKUROというどこかで見た絵柄を見かけた。
起司蛋[米ソ/王/心]
明らかに「りくろーおじさんの店」なんだが…。店員に「大阪にもある?」と聴くと「何それ?どこ?」と不審がられた。
一応大阪のHPを確認してみる。曰く「リクロー株式会社が運営しております『りくろーおじさんの店』は関西で9店舗のみ出店しております。海外等への出店は行っておりませんので,ご注意くださいますようお願い致します。」と,海賊版の存在は察してる書き方。
にしてもなぜ「ろくろー」をかたりたがるのじゃ?
お味は,広州のと同じく焼きたてなのがなかなか良い。卵黄の滋味が染みてます。ただし大阪「ろくろー」のふんわり感とは似ても似つかない…のは分かってましたけどね。
[前期繰越]
/負債 942
1000 [シ粛][シ相]第1牛
招牌夢ト牛雑粉(小)10元 250
1130[月半]子蒸菜館(oppo裏)
とにかく半分唐辛子な唐辛子炒め
豆干の下に唐辛子敷き詰め煮 500
1230 淵陽新一佳蒸菜館(同)
固ゼラチンの唐辛子だらけ和え
タタキみたいな魚の泡辣子どっぷり漬 500
1500楊裕興(三王街)
山椒牛肉500
1600瑞可爺爺的店RIKURO
起司蛋[米ソ/王/心]200
[今期累計]
消費1800/収入1950
負債 150/
[今期累計]
/負債 792
髪落ちて歯疎らにして
幻形の彫識に任せ
髪は抜け落ち 歯はまばらになったら
肉体の衰えにまかせよ