外伝05O‥SEC_Range(“福州滞在”).Activate Category:サウスイーストコート編 Phaze:四日目

[前日日計]
支出1500/収入1615
負債 115/
[前日累計]
     /負債 536
§
→9月19日(月)
1006正宗連江大碗鍋辺
鍋辺,油条もどき370
1102石井元宵店
肉燕7元 200
1201星巴克珈琲
エスプレッソ
1324[土云]焼八味東大店
香米飯
開洋蒸蛋
農家[竹/伊-イ]干套餐18元 550×.9=495
1830[土云]焼八味東大店
家油豆腐
香米飯
[土云]焼八味18元 550×.9=495
1900向陽坊
カステラ,ポリ包300
[前日日計]
支出1500/収入1860
負債 360/
[前日累計]
     /負債 276
§
→9月20日(火)

 火車站北広場?
 福新路の,昨日バスを降りた停留所から,同じK2路に乗車。
 朝ぼらけの六一路をバスは北行。まっすぐ駅舎が見えてきた…と思いきや,唐突に西側に左折。ええっ!とたまげるも,電光表示の下[火占](次の駅)は冒頭掲げた「火車站北広場」のまま。というからにはまあ駅には着くんだろ──と開き直ってると,西側に地下をくぐる大がかりなトンネルに入っていきます。北広場と市内は,この地下ハイウェイで結ばれてたんでした。
 何やそれ!鉄道をくぐるのにそんな大がかりなインフラが要るんか?てゆーか,何で市街のある南を正面にしない?
 といきなりハテナモードに突入したまま北広場に降り立った8時34分。そんなとこから4日目の散策をスタートさせます。

 9時1分,票(切符)ゲット!
「福州南站発D2295潮汕站
 2016年09月20日08:13開 07車11B号二等座 127.5元 」
 やや早い時間ですが,どうせ無駄な朝の時間。ただ,K2の始発時間を見とかなきゃな。

 少し駅をぶらついてから,9時26分,K1で市内へ折り返す。
 このバスは労街行きとのことですが…どこで降りるのかは決めてない。今Googleマップも立ち上げたし,まあいい雰囲気のとこで。
 台風の心配をしてたのが愚かしいほどのカンカン照りの青空。

 9時49分,結局鼓楼で下車。
 福州にはまだ地下鉄がありませんが,地鉄建設はもう駅近くまで伸びてる。K1はこのルートにほぼ沿って動いてます。この沿線にはなぜか城の名残はほとんどない。ただ街路樹は豊かに残されてました。
 河岸段丘の名残か,緩やかな傾斜もマニアックウォーカー的には好ましい。この傾斜は鼓楼からも南に下る格好で続いてました。つまり福州旧市街は,テヘランのような緩い面的な傾斜の上にある。

 鼓楼周辺は程よい空気圧のエリアでした。
 古建築まみれというわけでもない。生活感があるけれどセンスのいい店も多い。かと思えば,角を曲がると饅頭屋の蒸し器がもうもうと煙を上げる。
 しばらく時計を忘れて闇雲に歩き回りました。
 そうは言っても腹減ってきたな──何となく駅で食えると期待してたんで──10時6分。正宗連江大碗鍋辺という店を見かけて入ってみることに。
鍋辺,油条もどき370

▲正宗連江大碗鍋辺の鍋辺,油条もどき

「鍋辺」という郷土料理が見過ごせなかった。
 実は知らんかった。この店の看板や掲示を外から見て,物陰に隠れてこそこそっとググッたら──「福建の朝の定番」?おおっ!これだよ!このために神は今日の朝飯をお預けになさりたもう!ハレルヤ!
 などと旅行神を褒め称えるのは旅の精神衛生上,大変宜しいことではありんすが…前日に調べてた[口乞]在上海に書いてあるやん!読めよ,自分が揃えてくれた資料!全くこれだから課長ってば──
 さて日本のフラッシュバックはさて置いて,店内の雰囲気はまるでチェーン店でしたが,注文してたら思いっきり地元密着店ってことは分かりました。だってこのカウンターのオバハン…5種ほどから選べる油条を迷った末に「これ!」と指差せば,「それは不味いよ!」と…まあ正直なご案内で。

 すっ?すいとん?
 汁にワンタン状の塊が浮き沈みしてる。
 汁上に揺れてるものを箸でつつく。柔らかくはないけどボロボロ。壊れなかった部分だけを口に運ぶ。あ,違うんだ,小麦じゃない。香りより甘みが先に立つ,これは米粉です。つまり,米すいとん──というか要はきりたんぽか!
 明確な違いは食感です。きりたんぽが棒に巻き付けた,つまり竹輪の要領で作られるのに対し,鍋辺は文字通り鍋の縁に擦り付けた状態で炊く。何だか安易な製法ですけど,ちょうどお焦げが剥がれたような形状は,ボロボロ感を楽しむにはこれ以上のものはない…のか?ただ確かにこれを食べなれたら離れにくいかもです。
 さて,ここでも問題は汁です。
 殻ごと入ったあさり。ここから出た出汁をベースにイカ,タコ,鶏の臓物肉,白菜を煮て作られたとおぼしき白濁した汁
 これ,発想がまさに長崎ちゃんぽんです。
 この白濁はやはりすいとんの茹で汁でしょう。長崎ちゃんぽんとここも同じ,つまりちゃんぽんに練りこんだ唐アクがライスミルクで置き換わってる。ライスミルクをアクと捉えていいのかどうか疑問ですが,確かにこの味覚は米の単なる甘さではなくて苦みとか渋みを有効に生かしてる。
 出汁は麺そのものから出ずる。
 これは油条要らんかったな。汁だけで十分に不思議です。
 それにしても──この,本来人間の味覚に不快感を与えるようなものを,硬質に味の軸にしていく発想って…ライスミルク,唐アク,滷味,腐乳,唐辛子。

※鍋辺(鍋の縁)という変わった名前は、その作り方に由来している。まず、挽いた米に水を加えてどろどろにした米浆を熱した鍋の縁になすりつける。そして、熱せられた米浆が固まってカリカリペラペラになったところに、エビや魚でダシをとったスープを注ぎ込む 。

 10時31分,大碗鍋辺を出たとこの粛威路を概ね南へ。概ねというのは下りながら,東へ西へと気の向くままに渡り歩いたからですが,まあ概ね南下。
 鼓屏路の東側だったと思います。どこか分からん団地の中に入りました。何かやたらガキだらけだな…と思ったら。この路地の奥が学校で,昼休みの送り迎えの親と迎えられてるガキが群れてる,というとこらしい。
 この賑やかな路地に4卓しかない小さな店を見つけました。11時2分,石井元宵店。
肉燕7元 200

▲石井元宵店の肉燕

 賑やかだからか人気店なのかが釈然としないままですが,とにかくこの時間にしては人の出入りは多い。
 そうなると。福建名物とされる肉燕をちょっと摘まんどこうかな,という下心が芽生えて軒をくぐった訳でした。
 程なく置かれた碗は…肉かまぼこ。
 ほほう!噛めば噛むほど赤身肉!
 分厚い皮と重厚ながら脂身を取り去った肉かまぼこの取り合わせ。味はあっさりというか端正にまとまってる。
 博多餃子を思い起こしました。あれって,ひょっとしたら福建に源流ごあるの?
 汁はゆで汁のまま。ただ肉かまぼこからでてるのだろうか?それだけでも結構飲めます。この辺りも鍋辺や長崎ちゃんぽん的です。
 なお,店名の元宵というのもメニューです。というかこの店はほぼこの元宵と肉燕しか出してない。隣のオヤジが頼んだのを見ると,どうも寧波(見つからなかったけど)の湯園みたいなものらしい。ネットではヒットしない。

 鼓屏路は途中から八一七路という名に変わってるらしい。この道の西に大きく迷い混みながら南へ歩いてると,別の南北の道路に出た。
 南後街という道。11時45分。どうやらこの辺りが三坊七巷と呼ばれる観光地のようです。まあ一度は歩いとくか。
 と一通り歩き回ったんですが,まあ,観光地です。そうは言っても何かないのか,そういえば今回は茶葉も買ってないし…と商店は細かく回ったんですが,中国の場合,観光地で買えるものはホントにクオリティ低い。
 人混みゆえかとにかく腰を下ろしたくなりました。
 正午をちょうど回った星巴克珈琲へ入る。あ,STARBUCKSの漢訳です。
エスプレッソ
 ほお!いーです。スタバって時々驚くようなシチュエーションを作ってきます。
 二階建ての古い家屋を使ってます。二階席にも惹かれたけど,中庭の吹き抜けが喫煙可で気兼ねもなかったんでお席を頂きました。うたた寝を誘う心地よさ。というかそのうち本気でこっくりこっくりしてきました。
 ただ,昨日ほどじゃないけど肩が抜けるよう。前を歩いてる日本人の肩がいきなり抜けたら福州人もびっくりだ。とかしょーもないこと考えながら,ううっと痺れに襲われつつ船を漕ぎ,カップを啜ってはスマホ打ち。なかなか忙しい福州の真昼のひとときでした。
 デビューから半年,だいぶ慣れてきたスマホ打ち,深層意識下にも指使いが浸透してでしょうか?うたた寝してハッと顔を上げたら宇宙語のような知らない文面が画面一杯打たれております。
 おおっ!ここに「宝は南後街の木箱の下」とか「3時に鼓楼で待て」とか「鍋辺の真の由来は」とか表示されてたらスゴいぞ!まさに恐怖新聞だ!
 今の子どもはコックリさんやらんのかな?スマホでやるべきだと御提案したい。

 とゆーよな福州と何の関係もない白昼夢に心身を癒した後,12時46分, 27路で一度帰る。
 ああっ疲れとる。乗ったバスは327路だったらしい。宿に一番近いのは東水路口,そこで下車。ワンブロック分を歩いて帰る。
 どうせなんで東水路を南へ歩く。この緩~く 湾曲した街路樹の道,良かったです。良かったんですが,どうも都市計画的な人為は感じられない,となるとどういう状況でこの湾曲は出来上がったのか,想定を思いつけません。ありうるとしたら小川を暗渠にした上の道だけど。

▲[土云]焼八味東大店の農家[竹/伊-イ]干套餐

 東水路口をゆっくりぶらついてんで,宿辺りに着くのが昼を少し回って13時半が近い。となると[土云]焼八味の福新路の方の店に入っとく?店は違えど二回目の八味です。
香米飯
開洋蒸蛋
農家[竹/伊-イ]干套餐18元 550×.9=495
 間違えた!これスープじゃねーじゃん!
 [竹/伊-イ]干は干しタケノコを戻したものらしい。要はタケノコの炒め物!汁はなし!ひーん。
 しかし,である。
 タケノコに漢方エキスが実にしっとりと,しかし嫌味なく染み透ってる。戻す時に染ませたんだろうか?にしても生のタケノコとは違う渋い旨みがよく生かされてます。
 たまご豆腐も凄い!何かと思えば,最後の歯触りに微かに小エビのジャリジャリ感がある。
 福建はスープだけじゃない。どうも調味の構想そのものが違う。
 これは…スープをもう一食頂いてみるしかあるまい。どのセットが湯だったんだろう?と見ていくと,もうこれしかなかろう,というメニューがある。これだけがえらく高い「[土云]焼八味」。壁の表示を見ても店名そのままの名称からしても,これがこの店の最高峰のスープでしょう。

 さてせっかく温泉が出る中国でも珍しい町に来てるんである。16時16分。 17路で3駅,市按摩医院。
 温泉へ。 これは地名です。通りとしては温泉支路という道があるので,これに沿って西へと歩いてみる。
 ない。全然それっぽいとこがない。
 16時53分。楽仙居温泉という建物を見つける。何となく日本の温泉旅館みたいなひなびた賑わいも感じる。しかし…何か雰囲気がおかしい。何かヤバイ,と頭の中にアラームが鳴る。人の出入りを見ても,少なし大衆浴場でないことは確かっぽいので退去。
 では何だったのか…酷い温泉か,あるいは風俗だったんだと予想するが,いずれにせよ人民の皆さんが毎日通うとこじゃない。
 かくして折角朝から持ち歩いてるお風呂セットは無駄となりました。ま,普通の中国暮らしなんでガッカリはしないことにする。
 にしても歩くには雰囲気がいい。そのまま飽くまで西行してみることにする。 「田」の字の旧城の,真ん中横棒の右半分,その上側の平行する小路といった場所です。

 17時。温泉支路が五四路を渡ると慶城路と名を変えて続く。 この蛇行は,おそらく古い一本道。
 17時8分,バス停名にもなってた省立医院。デカい!25階建くらいのが数棟,今面前にある門には5号門と表記あり。
 すぐに慶城農貿市場と看板を出した,おそらく公設市場を通る。かなり大きな規模。トイレも借りれました。
 17時16分。さっきトイレ前に身和香[酉+ノギヘン]餅というもんの小店にスゴい人だかりが出来てるのを見てた。放尿後に見ると瞬間的に客なし状態になってたんで,瞬発的に購入。
  井大路を跨いだとこで衛前街と名を変えてさらに西へと道は続く。この雰囲気,温泉からの連続という位置,これはどうも名もなき古道なんではないか?それを裏付けるかのように,西への道は都市計画で作られた道のように直線的ではなく,無秩序に緩くくねって続きます。あ,今度は北へぐぐっと湾曲。
 17時半が近づいた。八一七北路を渡って4つ目の名・省府路となる。今度はまた…えらくコミニスティックなネーミングだこと。
 とか書いてて気づいた。あらら?ここ,今朝歩き始めた辺りだね。
 17時40分,超大永[光軍]超市の前に至る。かなり繁華街らしくなってきた。鼓楼が旧城の中心だったとすれば,ここは古くからの紛れもなき市街のコア。
 この辺りまでにするか。
 旧城の右半分を歩ききったことになる。左京,つまり西半分は手付かずで残ったことになる。そこにこんな路と街区がどれだけ隠されてるか,とこのまま城域を突っ切って歩を進めたくもなるが──体力と体調の許容というのは如何とも。

 17時52分。双[テヘン+九力]橋から帰路のバスに乗る。 今度こそ27路で間違いない。
 でも途中で降りるけどね。
 東大路を東へ,五一路を横切ったところ,昨夜歩き覚えのある繁華街で下車。
 そう,二泊の滞在中,本気で三度目の訪問です。わしが言う「福州の味」って過半はここの味覚なんじゃない?──と言われても,ま,笑って誤魔化すしかないやね。人生そんな細かい事

 18時30分,満を持して(持してるか?)福州滞在のトリとなる[土云]焼八味東大店へ再入店。
家油豆腐
香米飯
[土云]焼八味18元 550×.9=495
 店名にもある八味に合わせてか,定食メニューは8種。うち7番と5番を頂き,今回は8つの外に特出しされてる,その名も「特」を頂くことになります。
 今度こそ最後のご賞味になります。店の名を冠したというかこの味から店が始まったらしいこのスープ。嫌が応にも高まる期待の中,湯が今,鎮座したしました。

▲[土云]焼八味東大店の[土云]焼八味

 けれど?
 スープを一口含んで落胆。
 何だ?あんまり新味がないな。漢方味を穏やかに宿す黒色肉スープです。感動が込み上げない。これなら他にあるだろ,例えば──
 あれ?わしは何でこの味を「新しくない味」に感じてるんだろう?
 少し脳内を検索して見ましたが,それは思わぬ場所でした。確かに,これは何度も飲んだ味にそっくり。
 沖縄の牛汁,特にまんぷく食堂の牛汁に生き写しです。
 いや?牛汁だと思って味わってしまうと,何か腑に落ちない味じゃないか?牛汁っぽいのに,どこかで牛汁とずれてる。
 まただ。福建にはなぜかこの「微妙なズレ」で幻惑させられる。
 両者の関連性を頭に入れた上で改めて味わってく。
 具には肉がゴロゴロ。豚肉,ソーキか?それだけを食うとソーキ汁のそれです。いや,次にすくったこの肉は鶏肉?手羽先,豚とは違ってえらく骨骨しい。こっちがベースか?と思えば?次のはこれは牛肉,モツみたいです。
 壷の底にはさらに魚介類,イカとタコと思われる肉片があるほか,茸類も複数。
 これじゃあ,既存の何と思って味わってもズレるはずです。スープの重ね塗り。しかも徹底的な,執拗と言っていい重ね方です。和食の発想からは味覚の「濁り」として言下に否定される,いわば闇鍋的な設計。が,福建的にはこれが正統なのでしょう。ちゃんぽんもまさにそうだ。となるといわゆるぶっ飛びスープも,この方向をさらに極限まで行ったものでしょう。
 問題は──確かに濁って来るであろうこの複合味が,現に今,自分が酔いしれてしまってるようなクリアさをなぜ持ってしまえるのか?言い換えると,これだけ多彩な素材が打ち消しあいも不協和音を作りもせずに展開できる,こんな包容力あるセッティングは如何にして可能なのか?
 八角を強く感じるこの漢方スープがセッティングであろうことは疑いを容れません。しかしなぜそんなことが可能なのか?ある意味,和食では諦めた「闇鍋」の効果をなぜ福建は可能にしてるのか?
 旨さもブッ飛びでしたが…素材が織り成すその不思議な構造性に圧倒されていた一碗です。

 18時57分。帰路のバスが六一路から福新路を東ではなく西に折れ,普安河を渡るコースだったんで,一駅乗り過ごしてみる。省彩印厰というバス停で下車。
 この普安路という,おそらく用水路は,幅20mほどの小さな川。両岸の歩道には散歩する人,佇む人の姿の絶えることがない。風情的にはそれほど特筆するものじゃないけど,こういう河川利用が割と一般的になってるんだなあ,という驚きはありました。
 福新路が東へ河を渡ったエリアは,福州旧城の東城外。南北の河から東へ,T字が左に傾げた格好でさらに小さな水路が分岐する場所。
 もう夜だけど賑やかです。繁華街というほどじゃないが生活感がある。行き交う人の波は絶えないし飯屋や商店の灯りは途絶えず続く。
 ただ軽く立ち寄るには…うーん,この福州はこだわりが強いのか,かなり色んな土地の色んな名菜を出してくるから迷うんだよなあ。
 見残しの多いことを自覚しつつ帰路につく。
 おおっと!六一を横断しようとしてバイクがすれすれを走り抜ける。なぜか福州,横断歩道も一般歩道もところ構わずバイクが走ってる。これは何とかしてほしい。走るというのもかなりのスピードでのことなので,それなりに怪我する人はいそうな気がするんだけど?

▲ 向陽坊のカステラ,ポリ包

 19時,宿で向陽坊の袋を解く。
カステラ,ポリ包300
 いーです。記憶通り。このカステラは言語を絶するふくよかな味覚です。
 広州の現[火考]の香りに通ずるところがありますが,大阪のろくろーおじさんなども想起される滑らかさ。これを製品化してるというのは功績だと思います。
 かと言って,もう一方のポリ包みも捨てがたい。極めて普通のパンなんですが…。
 カステラから味わい始めると分かりやすい。何ということはないのに小麦の味が実にクリアで実直なのです。リトルマーメイドの味に似てるところもあるけれど,そこは中国,卵の味わいの跳躍力がちょっと違う。この中国の卵使いには節々で驚かじるをえない。
 しかし,福建パンとでも言うべきこの向陽坊とアンデルセン,いずれもが広島の味に通じてるというこの事態を何と捉えるべきなんでしょう?
 福建の味覚って──何を食べても「あ,これは日本の〇〇の味だ」という連想を惹起する。しかもその「〇〇」は,思いもよらず沖縄も含めた日本各地に渡る。そして,それでいてどこかで,決定的にズレてる。中国の他の地方と違う,「近くて遠い」印象をどうしても受けてしまう料理体系です。
 どうも…今回は偵察,ということになりそうです。この土地自体が,懐かしくて遥かなる一個の謎として意識に刻印された,というところまでで。