1日目の第一食目,丸林魯肉飯にて。
この店,菜はビッフェ形式だけど,ご飯と湯(スープ)は注文制。ご飯は白ご飯と魯肉飯からだけど,湯は8つ位からセレクトできる。
その湯のメニューの中に,「清苦瓜湯」ってメニューがありました。
店の人に聴くと「ニガウリ,ニガウリ」って言う。ゴーヤのスープなの?沖縄フリークとして興味があったんで頼んでみた。
来た。――透明なスープに,見た目は大根みたいな白い塊が浮かぶ。
▲丸林魯肉飯(1日目)。左手が清苦瓜湯。
塊をつまむと,確かにゴーヤで確かにぴりりと苦い。でもそこにまとわりつく汁は,魚の出汁と油をたっぷり含んでる。白身魚系らしい。これが,ゴーヤの苦味と共鳴してる。苦味を抑えてるんじゃない,ゴーヤは苦いままなのよ!苦味とマッチするほど濃厚な汁なんだば。
逆に汁の方にもゴーヤの苦味は微かに溶け出してる。これもベストマッチ。魚のハラワタの苦さは美味と理解されるよね。あんな感じの苦みをゴーヤの味が担ってる感じ。
このマッチング自体は,沖縄のゴーヤチャンプルと同じ原理です。日本風の野菜炒めに馴染まないゴーヤが,沖縄のチャンプルになりうる理由は,チャンプルが持つ豚と昆布の味クーター(出汁の濃い)な下地にありますよね。
ただ,そーゆー汁モノは沖縄にはない。明らかに台湾中華が食文化として先んじてる。
日本国内じゃゴーヤって言えば沖縄だけど,実は沖縄のゴーヤ食文化って,台湾中華の苦瓜料理をちょっと真似てみました…っつー感じの,要は外来食だったんじゃないの?
外来っても少なくとも近代だろけど…中華における苦瓜の場所ってのに興味が出てきたわけです。
1日目,大安路の一流清粥小菜。
大安路はお粥街として名高い。この店はその中でもお粥で有名な店です。
お粥の方は正直大したことなかった。湯のことである。
ビッフェ形式になってる中から,適当に3品選んで席につく。5分後。簡易コンロが3つ卓上に並んだ。
簡易コンロっても,小型の植木鉢ほどの大きさ。その上にアルミの皿がどっかり載ってるタイプ。
ええ~!!わし,こんなに頼んだことになってんの?言ってくれりゃーいいのに!
ガイジンが訳の分からん注文しちゃった!ってパターンかと青くなってたら,どーもそんなに珍しいことしたわけじゃなかったみたい。みんな1人が2つか3つコンロを前にしてて,カップルになるとテーブルを埋め尽くす5~6台のコンロの上で忙しく箸を動かしてる。
少し前に「紅衛兵」ってゆー,コミュニストが聞いたら瞬間沸騰しそうなモジリの鍋物チェーン店がヒットしてた台湾。鍋物好きは分かるけど,みんなそんなに食うのか!?ってゆーか,わしの前にも似たよな台数が並んでんだけど…日本の宴席のコンロ物ってお膳に1つが普通で,複数並べてる奴っていないよね。
でも食ってみると。コンロ上のアルミの皿は意外に底浅。そりゃ汁物だから腹にはクルけど,まあ食えない量じゃないし,カロリー的にはむしろ低いくらい。これは日本にも輸入したい良い食の形態やとですよ。
さてこの3種。その中にたまたま苦瓜を頼んでました。皮が剥かれてるからとてもゴーヤには見えんかったとです。大根か何かかと思ってたんだけど,実はゴーヤ。
うーん…ゴーヤをそのまま水で煮込んで食えるのかあ!?苦々にならないの?
恐る恐る口にしてみる。丸林のように魚の出汁には浸かってない。代わりに,中華スパイスを溶かしたスープになってる。このスープは基本的に,少なしわしの前にある3つにはどの鍋にも共通して使われてるみたいでした。
このスープに,当選ゴーヤの苦味はしっかり溶け出してる。啜ってみても…確かに苦い。でも,食えたもんじゃないかって言えば…そんなことはない。食える。ってゆーか,美味い!何でだ?苦いんだぞ??
混乱してきた。整理してみろ。つまり――苦味が美味いんです!
日本のお茶のCMに松嶋菜々子が「甘いは美味い」って言うのがあったけど,生物学的には甘味って体が欲する食い物に示す味覚っちゅうサインのはずだから,まあそれは当たり前だわな。
逆に苦味ってのは,有害な食い物に示す味覚のサイン。だから,それを嗜好するっていうのは生物学的には不自然だよね。
日本料理もヨーロピアンも,基調的には前者だと思う。歴史的にも古いパターン。けど,後者の苦味嗜好は珍しいわけじゃない。唐辛子の辛さに対する嗜好が今のとこ最もメジャーだよね。
苦味嗜好のバリエーションは,しかし唐辛子辛さだけじゃない。唐辛子が新大陸から伝わる以前から,ユーラシア大陸に存在してた。それが中華ではルー味。日本にも西日本には山椒や鮒寿司,東日本にもクサヤがある。もっと言えば,ぬか漬けや梅干しなんかも基本的にはその類いに入る。ヨーロッパでもブルーチーズ,東南アジアのドリアンなんかも。
主に中世以降,人間の食文化はこうした生物学的に逸脱した嗜好性の中に深められていったと言ってもいい。
ゴーヤへの嗜好もその一つなんでしょう。
世界三大料理の中では,中華は最もこの分野の応用力を持ってる。つまり――苦味の制御技術において世界一の料理体系。それが中華料理の最大の特徴なんじゃないか?そう思えてきたわけですばい。
1日目は,偶然にも3食ともゴーヤを食ったことになる。夜,南京東路の新光三越横手の阿宗麺線本店。苦瓜清湯。
阿宗麺線は,西門で台湾に来る度に何度となく食ってきた。西門の繁華街中を歩けば,ここの行列は嫌でも目につく。
メイン商品は店名通りの阿宗麺線。トロトロの汁の中に泳ぐシコシコのビーフンがたまらない。特に冬には暖を取るに最高の一品。
▲西門街の阿宗麺線の店先。夜は常にこんな感じで路上で汁を啜る人々が群れてる。
でもこの南京東路の本店に入ったのは初めてでした。
固定客が多い感じ。大衆食堂的な店内。メニューはセットの定食が数種類あって,仕事帰りの晩飯にありつく人々で20席ほどの座席は一杯でした。
さて苦瓜の湯です。
これも戦略は清粥小菜と同じだけど,やや漢方臭いのと,骨付き鶏肉の塊が入ってる。大根と鶏肉の煮込みと同じで,大根をゴーヤに置き換えた感じ。
沖縄のゴーヤチャンプルーは豚肉と鰹節をコラボらせてるけど,鶏肉にゴーヤかあ。鶏肉のあっさりさが負けるように思うんだけど,下拵えで臭みを抜いてんのか,ルー味の効果なのか?そこの仕組みは十分理解出来なかったけど,大根と鶏肉以上にうまくジョイントした味ができてました。どーなってんだ?
阿宗麺線。ここの湯の技術はホント魔術的な凄みがある!!その魔術にかかると,あの調理しにくいゴーヤがここまで穏やかな素材になってしまうんだな…
▲阿宗麺線の定食
7日目,羅福路の金峰魯肉飯。
▲羅新路 金峰魯肉飯
魯肉飯(小)25
苦瓜排骨湯45
ここの湯は排骨で取ってた。肉の脂だけだとあんなに凶暴な湯が,ゴーヤの芳しい苦味が寄り添うことで,別人のように穏やかな顔に変わってる。
けれどゴーヤの苦味は苦味で生きてる。それどころかゴーヤの側からすれば,独特の青臭さを排骨の強い肉汁に消され,ピュアな苦味だけが味わえる状態になってるみたい。
つまり。強烈な個性を,別の個性と敢えてぶつけた競合状態て柔らかく味わわせる戦略。まあ,豚肉でなら沖縄がチャンプルーでやってることと同じだけど,当然のごとく台湾はそれもやって見せる。
苦味の演出。この方面で,台湾はわしに近しいゴーヤっていう素材で,その実力を見せつけてくれました。でも家でやると,きっと大失敗しそうでまだ試す勇気がありまへん…