外伝06@(@_14_@) ルー味 (@_14_@)

※繁体字(台湾漢字)で書くと滷味


▲師大夜市でルー味を買い求める客

 何だそりゃ?ここまでのとこでも大概分からんけど,題名からして分からんぜよ!
 う~ん!流石お客さんイイとこ突きなはるわあ!?わしも6日目夜も更けた今,つい10分前に読み方を知らんことに気づいて,ホテルのフロントに聞いたとこ。
 即ち――ホテルのロビーで紙きれを取り出して,おもむろに「滷」の字を書き「[シンニョウ+寸]個字[乍/心][公-ヽ]念?](この字,なんて読むの!?)
 するとフロントのお姉さん,割と微笑ましいく「ル※ーウェイ」と発音しながら,問題の字の右に「味」の字を書き足したのでありました。
 エレベーターを待ってる間,後ろでフロント同士が情報交換に余念がない。「何の字だって?」「へえ~そうなの!?あの味って日本にはない味なの?」
 中国語のピン音的には「ruwei」と濁った「ル」に聞こえたけど,細かくはともかくこの文章では「ルー味」と略しますね。
※ただ,中国語を話す人の語感からすると濁った「r」を濁らないと分からんし,日本語の「ル」に似た中国語音「lu」はリとルとロの中間音。日本語的に「ルーウェイ」と言っても通じないと思うんで念のため。


▲師大 ルー味の店頭

 わしにとって未知のこの味を巡る漂流は,本日6日目,士林夜市から始まりました。
 何度となくフラフラ来てた夜市ですけど,今回はハッキリ目的があった。丸林や阿才でおぼろに感じてきた未知の味覚をなるべくたくさんの種類で口にしてみる。――コレですねん。
 つまりその味覚が,後からすればルー味だったわけね。
 気にして見るとあるはあるは!例えば市場の雑踏に入ってすぐ見つけた店舗――「大渓名産沙茶滷味」。大渓ってどこだ?いずれにせよ…ちょっと話題の茶料理にルー味を組み合わせたこんな店まで出てるわけね。
 こんなのもあった。
猪血[米ソ王/(書けない)]小20元,大35元
 小さいのを買い食いする。歯応えは餅だし,周りにキナコがまぶしてある。このキナコに油断しちゃってガブリと行くと…
 ぬおおおお!!
 一瞬置いて時限爆弾的に…全ての後味をなぎ倒す凄まじい辛味と破壊神的な強い香の核爆発!これぞハード系ルー味の真骨頂…なんだろから半分食べたけど…ゴメンナサイ。私は未熟者です。もー無理です。
 そんでもってすっかり気弱になったわしは…臭豆腐に走ってそれなりの納得を得たわけでありました。


▲忠孝復興で初体験したルー味買食いのアップ

 6日目夜,即ち士林夜市の帰り道。
 宿を取ってました忠孝復興の太平洋そごうの裏を,ちょっと散策してみました。台北で最も日本人崩れしてるこのエリアにひょっとしてと期待を込めたんだけど…あるじゃあないか「ルー味」の屋台!
 大抵この屋台は,詳細不明ながら極めて戦闘状態で売買されてる。これが一番近寄り難い理由だったのね。
 ここは次の客もいない閉店間際っぽい。店番のお姉さんと,先行して買い物してる主婦っぽい客が1人。のんびり会話が進んでるみたい。
 待つふりをしながらその女性客の注文の仕方を必死で聞く。ガラスケースに入った商品を何点か指差して,1つとか2つとか言えばいいみたい。ケースの横に単価が書いてあって,その商品名を言ってるみたいだけど,どれが何を差すのか全然見当がつかんし,それぞれの単位が「1個」だったり「1[イ分]」(大陸中国では2[イ分]が1人前)だったりして頼み方も分からん。でもガッツリ購入して100元は行かないみたいだし…。
 さてわしの番が来た。コレを1つ,アレを1つと指差すと,お姉さん適当に取ってくれた。ホントに1個単位っぽいのは「あ,5個にして」とか言い直したりして,何とかチョイス終了。お姉さん,それらをまな板の上でトントンと適度に刻んでくれた。
 よしッ!買えたぞう!さあ何元だ?と油断させたお姉さんの目がギラリと豹変し最後の試練(そーゆ訳じゃないと思う…)。
「要不要××」(××は入れるの?)
 ええ~まだステップあるの!?精一杯の余裕を保ちつつ,彼の顔は引きつっていたと言われている。
「ヤ…要」(は…はい…下さい…)


▲忠孝復興でのルー味買食い初体験における収穫品アップ

 その日の宿には台所用品が充実してたんで,お皿にルー味を並べてみた。
 かなりの量だな…。
 でも食材は野菜中心。豆腐各種に菜っぱ。肉も内臓系みたい。油を使ってない煮物です。
 さて問題のお味は!?マイ箸をおもむろに突き刺す。
 ん?んんんん!…うん!!
 いい感じだぞ。いい感じの苦味に,素材の味が生き生きと際立ってる。しかも意外に色んな味わいがある。豆腐は素材と,おそらくルー味の漬け込み方で多彩に仕上がってる。肉もこれまで食ったことのない上品な渋さ。何よりこの野菜の,本来の甘さを際立たせるルー味の苦味のコーディネート力はスゴい!
 あっさり完食。そしてマイ箸を置いた時には,完全なルー味中毒者がまた一人誕生。
 その夜の風呂に浸かりたがら,台湾のグルメ本のルー味ページに片っ端から付箋を貼りまくったわしでした。

 7日目,忠孝東路四段から南に入った美力[其斤]ルー味・油飯とゆールー味の小店へ。屋台じゃなく店舗で,朝早くから開けてました。
 3種類の豆腐系ルー味を購入…したつもりでしたが。
 1つは餅か羊羹のような,でも豆腐の味がします。妙だけど何か美味い…。
 も一つはハンペンみたいやな~と思って買ったらまさにハンペン。でもルー味だからやっぱり未知の味覚。
 最後の厚揚げみたいな黒っぽいのが,やっと豆腐の食感でした。けどこれも日本の木綿豆腐とは異質な,ねっとりとした発酵臭を内蔵してました。


▲忠孝敦 美力のルー味アップ

 その足で大安路の名豊臭豆腐。
麻辣臭豆腐(60元)
 これについては先述のとおりですが,この時ついでに棚から取った
コンニャクの煮物(30元)
です。
 黒ずんだこんにゃくを捻った形状で小皿に盛ってる。後はごま油と葱がかかってるだけ。シンプルな見かけなんで,何気なく口にしました。
 何で?たったこれだけのモノが…かなりイケる!
 こんにゃくそのものは普通っぽい。けど…やはり漬け込んだルー味がウマ~くこんにゃくの生臭さを捉えて絶妙な深い味を醸す。その地味な味覚に,葱とごま油がこれまた素晴らしいアクセント。
 ルー味のこんにゃくが日本にない旨さなのは素食で勘づいてはいたけど,名豊のこれは群を抜いてた。しかし――ただのこんにゃくをここまで宝石に出来るとは!!
 それだけなら苦いだけのルー味が引き出す素材の旨味。苦味にピュアな調料だからこそ真に旨味を演出できる。――そーゆーことなのか!?

 その7日目の夜,完全にルー味に取り憑かれた頭でコンビニ(Hi-Life)をうろついてると。
 …そりゃそーだ。こーゆーのも当然あるわなあ!
 「真好家滷味香」(頂記食品股[イ分]有限公司)って商品。どーもルー味のダシパックみたいなもんらしい。28元。即決で購入したけど。
 これ買って…わしどーすんだろ!?
 とにかく開封してみる。お茶のパックみたいのが3袋セットで,1袋8グラム入り。保存期間は2年。カロリー表示は何とゼロでした。
 成分は?――大[サ/回],小[サ/回],丁香,桂皮,天然香料。英語表示では,Anise,Cumin,Clove,Cinamon,Spicy seasoningだって。
 へえ~。意外に結構聞き慣れたスパイスが多いのね。つまりアニスに,カレーの主なスパイスのクミンに,西洋料理でハーブとして使うグローブに,それにケーキでお馴染みのシナモン。
 唯一知らない大[サ/回](アニス)をケータイの英語辞典で当たると――Pimpinella anisum《植物》〔学名〕//anise《植物》セリ科の香草。夏には多くの白い花をつける。葉は食用,果実は香辛料として使われる。
 どーしても現物が見たくて,1パックを切り裂いてみました。中味はこんな感じ。割と見慣れた雰囲気だけど…もー部屋中スゴい臭い!こりゃ隣から苦情来ないか!?


▲台北のコンビニで売ってたルー味パックの中味

 7日目と8日目,中国語の料理書を計3冊買った。
 台湾人の間でも,ルー味というカテゴリーがはっきり共有されてる訳じゃないみたいで,あんまり本の数はなかった。大体,自分で料理を作る本自体が少ない。料理書関係が100冊あれば,健康書が60冊,名店紹介が20冊で,クッキング本は2割以下。大書店でもルー味本はほんの数冊でした。


▲一番基礎情報に詳しかった滷味料理本「滷味一級棒」

 で,それらを読み漁ったところ――ルー味に必要な漢方スパイスは,4種類どころじゃない。代表的なものでも20はある。
 当然,それらで作られるルー味の種類も,大別しても7種類。
①牛肉や豚肉を長時間煮込む焼煮滷
②海鮮や葉野菜中心に酸っぱ辛く煮る[湯/火]煮滷
③鴨肉や内臓肉などを短時間煮込む浸泡滷
④醤を入れる醤滷
⑤鶏肉やキノコなどの食材をまず揚げてから漬ける油[火悶]滷
⑥凝まった滷味の汁に浸す凍滷
⑦豆腐などを滷味の汁に漬けてから揚げる[火乍]滷
 基本になる滷汁は,紅滷汁と白滷汁。製法もぬおおってほど書いてあるけど,そう難しくてたまらんほどでもなさそうです。
 けど細かくはそれこそ料理毎に異なったスパイス使いを求められる。事実,後日日本でコンビニ買いの例のパックを鍋に投入して煮込んでも全く台湾のアレにはならなかったです…。
 結果得られるルー味も,素滷,藍水滷,[ニスイ+水]糖滷,五香滷,[米曹]滷,梅滷,酒滷,茶滷の8つの風味に分けられるんだと。このうちいわゆる五香粉主体に出来るのが五香滷らしいけど,それ以外は見当もつかんたい。
 何か…無意識にフラフラしてるうち,迂闊にも凄まじい大海に出てしまったわけだけど…素人の講釈ほど意味ないもんもないしとにかく今回の体験に話を戻します。


▲滷味料理本の滷味原料についての記載

 8日目,最後の夜はかなり遅い時間に寧夏路夜市へ出向いた。ここで見つけたのが「李家郷滷味」の屋台。
 通り抜ける度,常に20人以上5の行列が出来てるもんで,ついにわしも並んでしまいました。
 皆さんガンガン頼んで袋一杯お買い求めなんで,列は進まない。他の屋台はそろそろ畳み始めてる。通りに舞い降りつつある祭の後の寂寥を,しばし満喫。
 順番が来た。3回ほど上手く買えたんで,調子に乗ってやはり適当に頼んでたら,袋一杯に頂いてしまう。
 …こんなに食えるかッ!一部にはボラれたという意見もある。やっぱルー味買いは難易度高いのね。素人は,やっぱ空いたとこで良く練習しましょう。
 宿に帰って品を並べる。改めて…その量に呆然。


▲寧夏路夜市 家郷ルー味の収穫品

 有名な鴨の手もちょっとあったけど(本人も何注文したか分かってない),これは大したことなかった。
 豆干や米血[食ソ/王]は他並みに美味い。これは予想通り。
 大したことあったのは,やや押し付けられた感じ(完全にボラれたとも言う)の野菜類。単なる素の野菜に見えたカリフラワー,蓮根,エリンギ。最初の一口は「おでんじゃんか…」って感じたんだけど,食べ進むうちに気づきました。
 これら全て,ちゃんとルー味が薄く,でもシッカリと効かせてある!
 野菜の淡い旨味を殺さない程度に,でも確実にその旨味を追いかけてくるルー味の鮮やかさよ…。
 素材を引き立てるこのサポート振りは,日本のダシ以上じゃない?
 肉と豆腐だけじゃない,野菜にもルー味はコラボれる味覚なわけか!
 ちょっと待て…このエリンギなんか,ルー味でこんな凄い味だけど。カロリー的には素材も調味料もほとんどゼロだぞ!?凄いノンカロリーメニューじゃないのか?
 台湾旅行で痩せるなら,とにかくルー味は最高!痩せる必要なくなった状態でも,こんなこと考えてしまってるわしもわしですが…とにかく今回最高の食体験だったのじゃ!!


▲寧夏路夜市 家郷ルー味屋台の列にて