外伝02-4토스트:《第四次末日》ネジャンクッパブの日

 昨年(2012年)6月,アメリカ食品医薬品局(FDA)見解に基づき,米国は韓国製海産物の輸入停止を決定。FDAは,同国製海産物の中にヒトの糞便の痕跡が見つかり,ノロウイルスの存在可能性有と報告。主に問題となっている産品はカキなどの貝類。
 なお,日本の厚生労働省は,抜取り検査を強化したが検出無として輸入は閉ざさなかった。
 そんなことはどうでもいいんだが,ご紹介いたします最終日の朝ご飯は,美味しい美味しいクルクッパブ。
 クルクルパーにちょっと似てるけど全く違いまして,「クル」とは牡蛎なので,牡蛎雑炊というところですね。
 そう言えば昨年(2012年)6月と言えば大体この旅行のころだなあ。おお,偶然偶然。

▲クルジャンチのクルクッパブ

 中央駅でリュックをコインロッカーへ。これ大分定番になってきたな。
 ここから歩いてすぐのクルジャンチ。店に入ると「朝一番から客が来るじゃんち!」とは言われなかった。
クルクッパブ 5000W
 と注文したけど…ん?メニューにはクルトゥペギしかないけど行けるのか?でもオバチャンは一応作り始めた雰囲気。
 無事に来た。
 ノリとワカメがたっぷり。でもクル(牡蛎)はものすごく小粒で味わいが薄い。流石にFDAご指定の品…とは知らず,こんなもんかと思って食べ進むと――お?ノリの香り?ワカメの磯臭い味覚?その上にかぶさってくるのが牡蛎か?
 最後頃にはかなりはっきり味覚できてきた。この香りの複合味は…これはこれで豊かな味わいです。いや素晴らしいぞ!!さすが人糞!
 牡蛎も力になってるんだろけど,これは…ノリです。韓国でこれが珍重されるわけがよく分かる気がしました。
 そうなのだ。ここは香りの食文化の国なんだ。
 ――とその時は感動してますけど,ノロウイルスの香り豊かな一腕だったかもです。

▲ミリャンチブのネジャンクッパブ

 そういう流れで,なぜかこの最終日は非衛生なとこを梯子してます。
 国際市場奥,ミリャンチブ。
 まさに市場の場末という汚い…もとい,生活臭あふれる一帯の角地。市場の皆さんのための食堂らしいが,なぜかわしの入った時には日本人の2人連れがいた。歩き方にチラッと載ってる店だからか?
ネジャンクッパブ 6000W
 ネジャンが何か分からんまま入ったけど…てびち?あるいは豚の皮か何か,とにかくコラーゲンたっぷし部位。
 味が最後までしない!
 と思った。確かに日本的に言う味はしない。あるのは臭みと脂っこさ。これだけがパブの甘味の上に漂う。
 これは,アクとか臭みとか言われる部分です。
 日本人が豚肉を扱う時に,あれほど細心の気を使って除去する味覚を,むしろ純粋にそれだけ取り出してる。そういう感じの料理。その分,日本人が残そうとする旨味や出汁の部分は逆に徹底的に除去してる。
 そう言えば…大阪とかで本場的な韓国豚足を買うほど「味がしない」という気がしてた理由は,おそらくこの辺りにある。
 味がしないのではない。コウモリには聞こえる音がヒトには聞こえないのと同じように…可聴域ならぬ「可味域」みたいなものが違うわけです。
 フランスの誰かが,舌は使えば使うほど鋭くなる唯一の機関である,みたいなことを言ってた。ヒトの味覚の多様性に改めて驚いたところでした。

▲トルゴレのスンドゥブベクバン

 国際市場の奥に入れば忘れるわけにはいかない味がある。
 釜山のトルゴレ。
 日本語の看板「ドルゴレ」が掛かった今も,わしにとってはもうこんな感じです。
 実は帰り道にたまたま看板を見てしまったんである。この場所,未だに確実に行き着く自信がない。でも見てしまうと…入らないわけにいかんだろ?
 胃袋的に今回はここが締めです。
 T字路の狭い階段を二階にとことこ上がる。懐かしい!正午前だからまだ満席じゃなかったけど,給仕のオバチャンたちは既に戦争状態。日本人もかなり混ざってるみたいだけど,ここの共産主義っぽい長机の前では皆同じく飯喰う人。
スンドゥブベクバン 4000W
 やはり…大豆の香りが素晴らしい。パブの甘味と合わさるとえもいわれない。ここの深みあるのにアッサリとした不思議なニョンマムと共に来ると,これはやっぱり感激するしかない。
 この辺りを深く味わおうとすればするほど化調の味覚が気になってしまいはするんだけど,その辺も含めて大衆食らしい安定感と安心感にはやはり惚れ惚れします。

▲Coffee Gong Jangのエスプレッソとブラウニーチーズケーキ

 完全に通りがかりでした。
 ABCマートの三叉路から路地裏に迷い込んだ。この辺りも奇妙に三角地の多いエリアで,も一度行けるかどうか自信ない。
 やはり二階にひっそり出来てた店。釜山のカフェはこのロケーションが狙い目なんだろか?
 店名,Coffee Gong Jang。「珈琲工事」ってことでしょう。
エスプレッソ 3500W
ブラウニーチーズケーキ 4500W
 窓際。丸太を切り出したようなカウンターテーブルの外に簡素な植木と階下の往来。
 いいスペースです。
 エスプレッソのレベルはやはり高い。苦味の深さは本場並みだし,酸味が出て来ないこの感じは豆の選定も徹底してるっぽい。――韓国はアジアで唯一,エスプレッソの味に安心できる国だと思う。それもコーヒー全般ではないとこが面白い。ハンドドリップはもちろんサイフォンも美味いのに当たったことはないのに,機械で淹れるエスプレッソだけは安心感がある。
 ただこのケーキは――ケーキと言うよりチーズパンだろ!?下層に隠れてるブラウニーは胡桃入りの固いパンケーキ。これはまあよく作ってある。けどその上に乗っかったチーズも固い。こちらは口に溶けずにまさにチーズ。
 故に固くてフォークが立たない上に,食べるとチーズパン。あんまりコーヒーとは合わんなあ。
 合わんけど…頑張りは買いたくなる。何年かしてまた立ち寄りたい誠実なスタンスのお店。そう感じたんでした。

 アロマスポーツマッサージで30分。23000W。
 高いが腕は確か。ただし,やっぱり日本人しかいない。韓国人ってマッサージしないんか!?
 14時ジャスト,中央駅へ。ロッカーから荷を出して港へ。
 14時40分,国際沿岸旅客フェリーターミナル2階ベランダの喫煙場所で,半島での最後の喫煙。既にいつものお土産,朝鮮人参アンプルも購入済。――毎回買うから値切り交渉もますますハードさを増しております。
 それはともかく――今回もこの国の食には翻弄されました。されましたが――幾つか,おぼろげに見えて来た手応えを感じられたものがあります。
 一つ――広東後だから言える,香り基調の食感覚。
 二つ――アメリカ後だから言える,大味なスイーツの独自進化。
 三つ――停滞した日本の民びとだから言える,韓国の若い味覚人たちの逞しさ。
 今の味覚能と経験値の自分にして,ようやく実感し得た諸点だったような気がします。韓国の文化――というと国際感情がウルサいかもしれんので食文化に限定しても,程良く若々しくて可変性に富んでます。故にかなり多様な次元で発展途上にあって,それぞれの最先端は非常に面白いのに加え,もろ発展途上の「出来損ない」めいたのも何とも愛おしい姿です。
 伝統色の強い料理も,日本の純和食ほどには硬直してなくて,悪く言えば化調まみれだけど良く言えば大衆的で消費者本位。貪欲に美味いものを作り出すベクトルを絶やしてない。
 というわけで,この国には引き続き定点訪問をさせて頂きたく,末永~く宜しくお願いいたしたく候。

◇◇ おまけ ◇◇
 あるトランジット時に釜山で頂いた超ジョートウな一食

▲シゴルパッサン(西面)のサンパッ定食7000W

 入り口に掲げられた写真を見てまさかこの値段でこんな満漢全席なのは…と思ってたら――まさにソレでした。
 テーブルを埋め尽くす皿,皿,皿!
 その数20!
 お味もかなりのもの!大満足です!
「もう今日は食って食って食いまくるぜよ!」みたいな時には是非!

①②③④⑤
⑥⑦⑧⑨⑩⑪⑫
⑬⑭⑮⑯⑰
⑱⑲⑳
①ホーレンソウのキムチ
②チャプチェ
③キノコのクリームシチュー
④オイキムチ
⑤お焦げ湯
⑥ゴマだれのサラダ
⑦土鍋の豚肉辛煮
⑧サバの辛味噌煮
⑨カニと豆腐入り味噌汁
⑩味噌ディップ
⑪コチュジャンディップ
⑫野菜(白菜,ワカメ,キャベツ水煮)
⑬ベチュキムチ
⑭チヂミ
⑮ニンニクキムチ
⑯チャンジャミムチ
⑰茎めいた緑野菜のキムチ
⑱糖水
⑲赤飯
⑳味噌汁