外伝09♪~θ(^7^ )第九日日_元郎川龍を再訪す@第7次香港

[前日日計]
支出1500/収入1320
     /利益 4
     /負債 176
[前日累計]
     /負債 176
§
5月7日(土)
0730大栄華酒楼
春風得意腸
鳳爪排骨飯
[女乃]黄馬拉カオ 250
1000瑞記茶庄
山水のおいしいソーメイ茶
こんなところに艇仔粥
いずこもおなじ蒸し牛筋 250
1215[火丙]記西餐館
午餐D 咖喱牛[月利]47HK$ 550
1915香港[イ子]魚蚤粉(王子)
西式番線 D 咖喱牛[月南][火局]飯65HK$ 650
[前日日計]
支出1500/収入1700
負債 176/
利益 24/
[前日累計]
利益 24/
§

 朝の地下鉄に揺られながら,ふと,おとついレジで貰ったカードを見返す。

大栄華酒楼
([ロ>偉-イ]村菜専門店)
Tai Wing Wah Restaurant(Village Cuisine)
(新界元朗安寧路2-6号2楼)

「ワイ村菜」とここでも「ワイ」が出てきた。英語名との並びで考えると,この菜の名はカテゴリーと言うよりも,ただ単に「家郷菜」,伝統的な村の料理という意味なんだろうか?
 だとすれば,香港,あるいはこの北辺地域では,「故郷」のような語彙で「ワイ村」の語が使われている。それほど「ワイ」というのを懐かしみ愛おしく思う心情というものが一般にある,またはあったということだろうか?
 6時40分。佐敦から全湾線で美[浮-シ],西鉄線に乗り換えて元朗へ。
 再訪です。
 もちろん本日も2部構成となってしまいます。

▲大栄華酒楼の鳳爪排骨飯と店内

 二階入口から大栄華酒楼の座席に戻ってきたのは7時半。
春風得意腸
鳳爪排骨飯
[女乃]黄馬拉カオ
 え?この時間,蓮華なら阿鼻叫喚のお喋り声に飲み込まれてる早茶の時間に,割と空いてるもんなんですね。これは早茶の普及度ゆえかもしれませんが,ここの場合,朝一番と昼の2時以降,つまり割安タイムの初めが混むということなんでしょう。ということは,一番いいのはその後一時間ほど経った辺りと思われる。

 鳳爪排骨飯。
 言語道断です。
 何だこれは!インディカ米が美味すぎるぞ!
 いや,いきなり叫んで恐縮ですが──蒸し過ぎてない。米が立った直後,粉粉しさが僅かに残った状態で供されてる。
 結果,甘みは硬質にして噛むほどに粘りながら勿体ぶるように米本来の香ばしさを滲ませる。
 滲むといえば──この米に滲み入ったソースと排骨の焦げ味のようなものの見事さはどうだろう。特に碗の底になるとこの味わいがより確かになり,米・ソース・排骨の香の結晶体のようなものに酔わされる。今回,目的としていた陸記に行けなかったから不明瞭だけど──ここまでだったろうか?
 もう一つ。このインディカの味わい方に関しては,どうやら広東全域であまり差がないみたいです。大栄華のをほぼ究極の完成と見るならば,それでも方向はあまり変わらないのはそういう証明だと思いました。インディカという品種による制限なのかもしれないが。

▲大栄華酒楼の春風得意腸
 春風得意腸。
 字面からは何のことか見当がつかない。だからあえて頼んでみたわけですが。
 食べてビックリ!そんなんありか?
 腸の中に揚げ春巻き???──さらにその中には,蝦とセロリのような香菜が端麗な味覚の核を作ってる。ヌルッときてサクッときてジワ~とくる。旨い!旨いけど,まず笑ってしまう。こんな設計,よく考えつくもんだな。
 腸は,コントラストを意識してなのか,プヨプヨ感を強調してる感じです。春巻きの皮も同じくなのか,カリカリにしてあるけど,アクセントに止める目的か非常に薄い。中のあんは同じく非常に淡白で調味料も控え目。
 やはり計算し尽くしたヌルッサクッジワ~なんである。
 この店,こんな風に遊んでもくれるらしい。
 だってこれを称するに「春風得意」とは…。和訳すれば「春の風に吹かれてルンルンルン餃子」みたいな恥ずかしい語感だろうか?

▲大栄華酒楼の[女乃]黄馬拉カオ

 [女乃]黄馬拉カオ。
 皆さんが口々に頼んでる一品。次来るまで我慢できるかどうか自問した挙げ句,「出来まへん…」という答えが出たんで追加注文してしまった品です。
 来たけど──え?
 全然正統派ではない。臭みもないし,黒っぽい色もない。黒糖の香り自体がかなり薄いんである。カステラと思った方がいい。
 しかし──その先入観の先に味わいが進めば,とにかくこんな美味い生地は食ったことがない。それがすぐに確認された。
 黒糖以前に,カステラとして至高なんである。
 縦3層に分かれてる。層の間には黄色い層が挟まってる。けど,これごいくら味わっても分からない。バターか,あるいは黄身の濃いクリームみたいなものだろうか?ひょっとしたらそういうものを元々は挟んでたけれど生地が吸ってしまった状態なんだろか?
 生地の歯応え自体は淡白なのに,香りの中の卵とミルクが酔うほどに強いんである。
 これがまた,嫌みな強さには何故かなってない。甘さやクドミを抑えたままに香りを作ってるところが,この品の本当のスゴさだと思われます。
 と文字を使ってきたけれど。結局,何がどうなってる味なんか皆目分からんでしょ?そーなんですよ。やっぱり出直すしかないな,この途方もない飲茶屋は。

 美[浮-シ]で西鉄線から全湾線に戻って今度は西へ。
 9時3分。既に川龍村行きバス停には長蛇の列。 だけど,これ便が増えたんだろうか?10分ほどで車上の人となる。席は最後部の真ん中で,揺れる度に左右の肩に当たるし,足を突っ張ってなきゃならんけど。
 さて山上だ! 瑞記です!

▲瑞記茶庄の「山水のおいしいソーメイ茶」,「こんなところに艇仔粥」,「いずこもおなじ蒸し牛筋 」

 10時を回るか回らないかで瑞記茶庄の階段を上がる。
山水のおいしいソーメイ茶
こんなところに艇仔粥
いずこもおなじ蒸し牛筋 250 35HK$
 込み合う時間帯の,ぎりぎり前だったらしい。バルコニー脇の良い席が取れましたが,直後から一階の駐車場脇のテーブルまで物凄い勢いで埋まっていきました。
 人気は健在,というよりさらに加速ぎみです。
 さてお味は?

 とかやや斜に構えておりますのは,ここは一度,ちょっと見限り気味になってたからです。からですが──。
 ソーメイ茶。
 え?
 美味い…。こんなに美味かったか?
 美味いと言っても,美味さの質が違う。香りのコシが強いとでも言うんだろか?しみじみと,深い地層から押し上げて来るような美味。
 以前書いたけど,一煎目,二煎目と湯を加えるにつれての味の変化も素晴らしい。さらりと香りを主体にした味覚から,苦味を増し,臭みに転じていく様がドラマチックと言っていいほど鮮やかに展開していく。
 おそらくこれは,単純な要因による。それを素直に祝福してる場所がこの瑞記という田舎飲茶の核心だと思われるわけです。
 水が旨い。おそらくそれだけ。

「こんなところに艇仔粥」。
 いや,ふざけてるわけじゃなくて,当時のわしがそう記録してるんだから仕方ない。ここのセルフ飲茶にメニュー名なんか書いてないですから。てことは,ここで「艇仔粥」と言い切ってるのも,まあその場の勢いであって作り手が艇仔粥のつもりで料理したことを何ら保証しない。
 前置きが長いぞ?いいから味は?
 はいはい。
 ところで?ここで粥を食べたことあったっけ?と一度手にした仔を返しておばあちゃんに怒られながら(ってこれ前にもあったな?)ようようゲット。
 え?艇仔?
 正確には違った。魚やピーナッツは入ってない,鶏単品の粥です。
 ええ?じゃあ違うじゃん!
 いや,よく聞いてほしい。しかしこれが好い!出汁が重いというのか…街中の専門店みたいな高尚さはないんですが,シンプルなのに深みを持ってる。
 これなら艇仔にしても食べれそうです。ということは…街中の店と,何か本質的に違う美味さなのではないか?
 という風な感慨を込めて,あえて艇仔粥の名はそのままとしたんである。いやあ,深いなあ!──だから違うじゃん!

「いずこもおなじ蒸し牛筋」。
 いやいや繰り返しですがふざけちゃいませんぜ?「こんなところに」と対句になってるとご理解頂きたい。
 好かった。ブツブツした正体不明の臓物ですが,唐辛子(どちらかと言えば辣油)と胡椒のアクセントが効いてます。
 総括として──今回,ここの飲茶がここにしかない理由,そして道脇にある他2軒の飲茶屋でもほぼ同様に美味い理由が,何となく判ったように思います。
 水だ。
 街中を中心に香港の水は一般に,悪い。つまりミネラル豊かな味わえる水じゃない。沸かさないと飲めないが,沸かしただけでは飲もうと思えないほど不味い。だから茶にして飲む。しかも水の味を一番気にしなくていい発酵茶で。ミネラルが少ないから多量に。そして飲茶が生まれた。…という説もあるほどです。
 だけどそれにしたって,美味い水の方がいいに決まってる。
 つまり。悪い水ゆえに育まれた飲茶が,美味い水のある場所へ帰ってきたんである。
 粥の場合,香港の米の味覚が深いのは,出汁や米の本来の甘みを受け止めてくれるミネラル分がないからだと思う。それがあるこの川龍村のような場所では,広州と同じ出汁に近い米使いがあり,つまり艇仔粥も成立しうる。
 要するに,この瑞記を含む3軒ほどのセルフ飲茶で出されている茶と菜というのは,水が美味い土地での──ただ普通の御飯なのではないか?
 ──ということを全湾の公園で考えた後,下界の街を歩いていきますと。徳記という以前入った粥専門店の看板メニューが艇仔粥でした。あああ,もあ何かわかんねー。広東食文化事情ってどうにもこうにも複雑怪奇です。

▲ ますます盛況!瑞記茶荘の賑わい