本伝03STEP28:ダイエットは絶対に失敗する?

 129日目 
▲32.0kg(100+4.0kg)
▲1/4目前

って文章に出会ってしまった!
 「体重のセットポイント説」に関して勉強し直してみたら──満腹・空腹中枢やこれらの機能としてのセットポイントという言葉は何度となく書籍に登場したから知ってはいた。けど「ダイエットを医学する」(蒲原聖可,中公新書,2001)で本格的な医学界の論述を読むと,一般に言われてるよりはるかに決定的な意味を持つ説なんだと分かったのです。
 基本的には遊びのつもりだったのに…減量ってのは現在の人間にはまだまだ未知の旅路みたい。
 てのはね…この本はいわゆるダイエットをこんな挑発的な言葉で批判してる。
 「ダイエットによって体重を減らすことができる,という考えは,次の三つの誤った前提条件に基づいている。
 まず最初は,①どれだけの脂肪があるかについてからだはモニターしておらず,単純に過剰となった摂取カロリーが脂肪として蓄えられる,という誤解だ。次に,②体重の増減には,食べ物をとるという行為が決定的な役割を果たしている,したがって,太った人々は標準体重の人と比べて明らかにたくさん食べている,という考えも正しくない。最後に,③食べ物を摂取する行為やエネルギーを消費する行動が,我々の意志でコントロールできる,というのも誤りである。」(丸付数字は引用者が追加)
 え~!じゃあどう痩せろっつーんだよ!
 だって簡単に言えばこういうことでしょ?──アンタがどう食事を変えようと,痩せることはありえませんぜ。
 わしはここまで4ヵ月カラダと付き合って,その通りだと感じる。ここまでハッキリ言われると衝撃的だけど。──歩いて痩せるのがあり得ないのと本質は同じ!
 あなたはこの3つを誤りとして受け入れられる?受け入れた上で減量の戦略が立てられますか?

 体重のセットポイント説ってのは──「体重は,体脂肪量を調節することによって,常に一定値(セットポイント)になるように脳でコントロールされている」(前掲書)というメカニズムのこと。
 この場合の「脳」とは,視床下部にある満腹中枢と摂食中枢。これをまとめて食欲中枢とも言い,前者が食欲のブレーキ役,後者がアクセル役──とここまでは結構メジャーな知識だと思う。
 問題は,このアクセルとブレーキがどうコントロールされてるかです。
 レプチンというホルモンの量に反応しているらしいという説が出たのが1995年。つまりレプチンが多ければ満腹中枢が刺激されて食べる量が経るんだって。
 満腹中枢を刺激する──つまり満腹を感じさせるというのは,胃壁が伸びたりよく噛むといったことでもできるし,ブドウ糖や遊離脂肪酸などの物質やインシュリンなどのホルモンの増加によってもなされる。でもレプチンの機能はこれらと根本的に違う。短期的な調節現象ではなくて,長期的に体脂肪量を復元する働きをレプチンは持っているのです。

 レプチンが作られる場所は脂肪細胞。体脂肪量が多ければレプチンの量も増える。実際,肥満の人ほど体内のレプチン量は多いらしい。
 さらに,レプチンの機能は,満腹中枢に働くだけじゃなくて体内のエネルギー消費にも作用してることが分かってきた。レプチンが増えると消費はアップ。同じ体重と体脂肪量でもです。
具体的には,どうやらレプチンが減少すると筋肉などの活性細胞が減るようになってるらしい。
 まとめると,カラダが体脂肪量を維持しようとするメカニズムはこういうことになります。──体脂肪量が多いとレプチンが増えて,満腹中枢を刺激して食べ物の摂取を抑えると同時にエネルギー消費を増やす。収入を絞って支出を増やすんだから,体重は落ち,体脂肪量も減る。体脂肪量が少ない時はその逆で,体脂肪量を増やすように働く。
 そんならレプチン摂れば痩せれるじゃん!ヤッターマン!…てことには残念ながらならないんだって。レプチンの発見当時,世界中が「肥満の特効薬か?」と注目したけど,レプチンの欠損症の人以外,つまり普通のデブにはあまり効果がなかったという。
 なぜなの?現在までに分かっている答えは──

 ひとつには,レプチンの作用への抵抗性もあるらしい。既に書いたように体脂肪量が多ければレプチンは多いけども,肥満の人はレプチンが効きにくくなってるそうだ。
 しかし本格的に長期の調節機能に関わるのはこっち!レプチンの量で食欲中枢は満腹とか空腹とか感じると書いたけど,それじゃ食欲中枢はレプチンがどれだけなら十分とか不足とか判定してるの?
 引きが長かったけどお待たせしました!この判定ラインがセットポイントなんであります。
 ここでレプチンは,世のダイエッターを振り返り,悪夢のような本性を露わにするのであった!セットポイントにレプチン量が達しない限り,食欲中枢は「腹減ったヨー…」という信号を何年でも出し続けるのじゃ!!いつまで?体脂肪量が増えてセットポイントに達するだけのレプチンを生産できるようになるまでだ!!!
 「そんなにしつこいと嫌われちゃうよ」と忠告したくなるようなレプチン君のストーカー癖の前には,並み居る我がダイエット戦士たちがいかに勇猛果敢であろうとも無力なのだ。なにせ相手は,門の前でいつまでも待っているんだからなーもうやんなっちゃうよ。
 …などとヤケになってる場合じゃないぞ和也!(誰?)体重136kg・体脂肪率40.4%(そ…そんなにあったのか!?)からスタートしたわしは,もしかすると,体脂肪量50kg以上にセットポイントされちまってることになるの?現在体脂肪量は30kgを切ろうとしてるけど,レプチン野郎は50kgライン復帰を虎視眈々と狙い続けてやがるのかチクショウ男なら姿を表せ!かかってきやがれ!…とキレそうになりますよね。
 言うまでもなく,レプチン君の悪夢の逆襲こそがいわゆるリバウンド。
 つまりレプチン君,ダイエット戦士たちを二段構えで粉砕する!1つは戦士たちが食物減らしてもエネルギー消費を落として体脂肪を守ることで。もう1つは,減る前の体脂肪量を忘れず空腹シグナルを出し続けることによって。
 ワシントンポストの数字で言うと,前者の防衛ラインの突破確率は5%。さらに後者の逆襲阻止の成功確率はわずか0.5%!
 お気づきと思う。減量成功の可能性は,セットポイントの下方修正しかない。──でもこの可否は医学的にまだ未解明。つまり!我ら減量者の行く手にまだ地図はない!

 このまま終わると救いが無いので3点付記。
 まず,セットポイントは不変じゃない。不変なら痩せた人が太ることもあり得ない。そして,変えられるなら大規模減量の方が可能性はむしろ大きいはず。
 次に,セットポイント説は食物の物理面の説明。美味しさによる満足には,何か別の作用があるはず。
 最後に,減量の主役は意志ではなくレプチンを始めとするカラダだってこと。意志の側にできるのは時間をかけてのカラダの支援のみ。
 目標体重到達後1年位は警戒を解くべきじゃないなこりゃ。