本伝03STEP29:惑星史上初?太る生物出現!

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▲33.5kg(100+2.5kg)
▲1/4寸前

という定義をこの時代のデブ──つまりわしらに当てることもできそうです。
 それほどまでに,この惑星の上にはいつの時代も飢えが満ちてました。現代人とは,惑星史上初めて太ることが可能になった生物。そして,その有り難いチャンスをモノにしてるのが我らデブ族なんであります!(種族なのか!?)
 そういう意味では,デブってのは優れてエポックメイキングな存在なんじゃ。
 この章では人類史の目から肥満を捉え直してみます。下世話なダイエット論議のチンケさを,ちょっと達観してみるのも面白いっしょ?
 あ,でも最後は減量の話に戻るから心配しないでね!
 (参考文献:「飢[食我]」と「飽食」,講談社,1994)

 マルサスの「人口論」っての,高校で覚えさせられた記憶がない?
 「人口は等比級数的に増加するが食料は等差級数的にしか増加しない」ってやつ。だから食料の欠乏が必ず起こるという絶望的な未来予想ね。
 18世紀の末に書かれたこの本の予想は,基本的には外れた。けどもっとイヤらしい形で現実化してる。
 世界人口は確かに等比級数的に増えた。西暦300年頃に2億人しかいなかった人類は,マルサスの生きてた1800年までに7億人増えた。それが1900年までの100年でさらに7億人増えた。さらに2000年までの100年はそんなもんじゃなく,40億人増加。1900年までの1800年分の増加数の2.5倍も増えちゃった!
 そんなに増えちゃった僕らが何で食えてるかってえと,食料生産もとんでもなく増えたから。1960年から90年までの30年で穀物生産量は倍増(米農務省)。1500年からの500年で同じ面積の土地からの穀物収穫は10倍になりました(イングランドの小麦の統計)。
 じゃあマルサスの予言は丸外れだったのかってえと…悲しいことにそーじゃない。栄養不足の人口は1969年にやっと10億人を切ってその後減り続けてたけれど,2010年推計でも6億人を超えている。人類の10人に1人は飢えてるわけです。
 うち3億人はアフリカ,2億人は南アジアに住む人々。
 食料は劇的に量産されたけど偏在の状況は解消されないでるってこと。食料生産量だけ見ると,先進国が減反を止めればすぐにでも充足するらしい。けどそのためには,例えば日本の農家はアフリカの人々が買える程度の安値で売る必要がある。そんなことしたら農家の現金収入は激減するわな。
 高所得の国が低所得の国に穀物を売れる程度に世界の経済格差がなくならない限り,飢えは撲滅できない
 その偏在状況の中で世界の片隅に食いもんが吹き溜まっている。それを食いまくって太ってるのがわしらです。いわば食料分配の歪みの中で肥満ってものも発生してきてることは記憶しておくべきです。

 さて,「栄養不足人口」とさらっと書いてしまったけど,それはどういう定義なのか?
 こんな話をしてるのは,実は自分が減量の主要ツールにしてる1500kcalて水準が,人間の食生活の中でどの程度の水準なのか知りたくなったからです。つまり──1500kcalの食卓ってどの程度飢えてる状態なのか?
 BMR(基礎代謝率)という概念がある。「温かい環境下で食事もとらない完全な休止状態にある個人のエネルギー消費率」と定義される。
 もちろん通常の人間は生活してるのでこれだけじゃ足りない。FAOが栄養不足の境界値として用いてるのは1.54BMR,つまりBMRの1.54倍です。
 さてBMRだけど,次のカロリー量とされてる。Wは体重です。
10~18歳 男17.5W+651
     女12.2W+746
18~30歳 男15.3W+679
     女14.7W+496
30~60歳 男11.6W+879
     女 8.7W+829
60歳以上 男13.5W+487
     女10.5W+596
 30歳代のわしが目標体重の70kgとして計算すると,1695kcal。1.54BMRだと2500kcalを超える。──アナタの場合でも凄く高い数字になるはずです。
 つまり,FAOの統計上は1500kcalのわしはBMRが1未満の超栄養不足の状態ってことになる。こりゃいかん!すぐピザハットへ電話じゃ!
 …てことにはならんのであって,この辺がカロリーって尺度の頼りなさです。これは世界平均だから人種による違いはあるけど,それより食事の質の違いだと思う。
 先進国の人々は,とは言えないでしょね。でも,日本人の食生活はやはり世界的に稀なほど効率が良いのです。つまり,同じカロリーなら断然日本食の方がカラダが求める栄養素をふんだんに含んでる。
 ユーラシア大陸の主な文化圏の中では,東アジアから南アジアの食生活は日本並に栄養重視の食事が食える。それが欠けてくるのは中国西域,イラン,アフガンより西,つまり中国・インド文化圏以外。
 食い応えはあっても何とも貧しいのです。例えばわし,イラン旅行中は,豪快に焼いた羊肉の串をライスに乗っけたのを毎食と繰り返し食べました。何でこんなに同じ料理ばかりなの,と他の料理を探すと…ないのです!もちろんかなり豊かな国だから中華とかを食べさせる店はあるけど,どうも庶民の一般的な食事がコレらしい。
 19世紀半ば,アイルランドで飢きんのため百万人が死に,百万人がアメリカなどへ移住した。新大陸から伝わったジャガイモがほとんど唯一の食べ物になっていたこの国で,ジャガイモが伝染病で全滅したのが原因。
 じゃあそれまでは何を食べてたんだろう?
 ベルギーの主食はフリッツ,オランダ語でフリテンと呼ばれる。フライドポテトです。
 一体,中国・インド文化圏の食の何がそんなに特異なのか?考えると答えは1つしかない。
 米文化圏です。
 同じモンゴロイドでも南米やモンゴルの食文化は獣肉系の副食中心。肌の色は違っても東南アジアや南インドは米の主食中心です。
 ではこの米文化圏の中での栄養不足の水準は?実は――史上最大の餓死者が出た飢きんの例がある。
 大躍進から文化大革命の時期の中国。
 こいつは明らかに共産主義の大失政によるもので,この中の何割かは実は粛清かもしれんけど,1958~61年に1500万から3000万の間の人口が餓死。完全な計画経済に移行したにも関わらず,知識人を迫害して統計システムを破壊し人民公社の水増し報告を鵜呑みにして過度に食料輸出したのが原因らしい。
 1958年の中国の人口は6億5千万。多く見ると4年で20人に1人が餓死しました。
 この時期のエネルギー供給量が1453kcalを切ったという記録がある。供給側だからロスはあるし流通もスムーズと思えないから偏りもあったろう。消費側では1200以下の地方もあったのでは?
 てことは日本食で1500kcalって…かなり瀬戸際のカロリー量。これ以下だと5%位の確率で死んじゃう!?…ぶるるっ…質と量の確保は万全にしなきゃ!