本伝07章[Step68]豚さんとダイエッターの意外な関係

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▲58.6kg(半減+9.4kg)
残り10kgライン通過

ってご存知でしょか?
 ダイエッターが「脱豚」しよとしてるって意味じゃないのよ。緑の革命後の豚さん族の進化にちょうど逆行して,ダイエッターの食生活が昔の豚さん化してるって小話。
 「豚の進化」って何?そりゃあんた,豚さん牛さん鶏さんほど,この半世紀で進化した動物は地球上にいないのよ!
 昔の豚さんは豚小屋にいたし,牛さんは牧場に,鶏さんは庭には二羽,裏庭には二羽いたわいな。──今でもそんなして育った動物の肉を食べてると,まさか思ってないですよね?
 今の彼らのお家は工場です──工場で生まれ工場で育ち,そのまんま食肉処理…

 「家畜人ヤプー」って小説は沼正三という作家の作品で,奇作中の奇作。読むだけで吐きそうになる。
 …あ,この章はこんなグロいタッチで行くから,食事中の方は読まないでね。
 さて,この小説の設定──23世紀かそこらの未来の日本民族が,地球上のいかなる種族より大繁栄してるというメデタいお話。人口にして1兆人!21世紀現在の1万倍!少子化なんて目じゃねえぜ!
 ただ…何でそんなに増えたかってえと,家畜として繁殖させられてるからなんだけどね。
 この時代の地球人は,イース帝国という身分制社会を構成してる。英国王室を頂点とする白人種が支配階級。アフリカ系種族が被支配階級。アジア系は日本人しか生き残ってなくて,ヤプーと呼ばれる家畜人として使役される。
 現在の家畜と同様に食肉にも供されるけど,その用途は実に多様。変形して番犬に,さらに加工して椅子や足置きに,訓練して便器兼ウォシュレットに,機械を埋めこんで自動車に,縮小してミニチュアの剣闘士に,さらに極小化して白人の内蔵内の掃除役に…イース文明を支える物質的基盤としてとっても重宝されちゃってるわけ。
 20世紀末に核戦争と新種ウイルスの蔓延で荒廃した地球に,他の惑星に脱出して新文明を築いた英国人が戻ってくる。無政府状態のアフリカ系と被爆で退化した日本人しかいない。
 だもんで,アフリカ系は奴隷に。日本人については,元々白人とは別の種でホモ・サピエンスじゃないんだって学説が定説化してしまう。動物は奴隷にもされないから,家畜として扱われてるってわけ。
 ね?吐き気がしてくるでしょ?
 20世紀のドイツに不時着したイースの時間旅行船に捕らえられた日本人の青年がヤプーにされていくまでを,微に入り細に入り記述するこの小説は,また長いんだ!文庫本も出てるからお好きな方はどうぞ。
 さて,本題に戻ろう。緑の革命後の豚さんたちは,大体ヤプーと似た立場で,これまでにない大繁栄をしてるよね?って話です。食肉工場の一部としてだけど。

 それが何でダイエッターに関係するの?
 まずは何で現代までの豚さんが工場に住んでなかったのか?という理由を考えてみましょ。工場で管理した方が食肉生産が経済的に行えるのは当たり前。なぜ現代以前はそれができなかったのか?
 「草を食べている場合よりも大豆や穀物を食べているほうが,家畜は三倍早く体重がつく。放牧によって家畜を育てるのは限度があることはいまみたとおりだが,穀物で飼育すればとりあえず限度がない。建物のなかで工場生産的にいくらでも家畜が飼えるのだ。」
 (丸元淑生「何を食べるべきか──栄養学は警告する」講談社+α文庫,1999)
 緑の革命で激増した穀物を貧困国の人間じゃなく家畜の餌に回す。それで初めて,家畜は「食べて太るための機械」として工場に入居できたわけ。
 さあお待たせしました!ダイエッターの登場だ!そもそも何で先進国で肥満が問題か?過度の肉食が最大の理由。工場生産の豚さんの繁栄のためにわしらはせっせと太ってる。
 でもってダイエッターは何してる?肉は減らせないから,普通は高カロリーな穀物──日本人ならご飯の量を減らす。わしも含めてね。
 つまり,かつてわしら人間の食物だった穀物は工場の豚さんに奪われちゃった!で,豚さんが食べるのを止めた草を,サラダとして嬉しそに食べてるのがダイエッター。
 もっと言っていい?豚さんの繁栄のため,人間はかなり身を犠牲にしてる。緑の革命で救えたはずの貧困国は飢え続け,先進国には工場生産の肉で肥満者が激増!

 最後に,工場在住の乳牛で米国最高を誇る牛さんの紹介だ!その名もエレンちゃん!1日に穀物27kg,水240リットルを摂取,一般牛の6倍のミルクを出す。当然,1日中食べることしかしないエレンちゃんは幸せの絶頂だ!