本伝09章[Step86]四十にして出汁を知る

 311日目 
▲62.8kg(半減+5.2kg)
着陸まで5kg!

ていうかまだ三十路だけどね。
 こんな瀬戸内の真っ只中に住んでて知らなかったんだな。いや,知らんねならまだいい。理解できなかったっんだから…つくづく現代食文化って怖い!──減量が進むほどに背筋が寒くなってます。
 今体重は60落ちたとすれば,食感は600変わった。けれどさらに大きいのは思想。これは6000以上変わったんである(当社比)。

 最初のきっかけはぞうすい作り。
 何度も工夫してると,コチュジャンとか豆板醤とか味の強いのは満足できる味になった。
 けど…中洲のお通へ行く度に愕然!全然別の次元。何だ?このドーンと深い味の奥行きは??
 店を出かけに入口の唄い文句が目に止まる。曰く──鹿児島産の本枯かつお節使用。
 ダシ?
 今までこだわったことがない。遥かな太古,大学で自炊を始めた時分に料理の本通りにダシ取ってみた記憶はある。けど,手がかかる割に味が変わらんって感じなんで,手早い粉末ダシに変え,そのうちコンソメや唐辛子モノしか使わなくなっちゃった。っていう料理史を辿ってた。
 ところが。今回のぞうすい作りはまさにその逆。
 まず,唐辛子モノを減らして粉末ダシを使ったら格段に味に深みが。けど,それでもお通と別レベル。
 諦めてた頃。松山のマイナーグルメに鍋焼きうどんってのがあるのを知る。うどんったら讃岐のぶっかけと名古屋の味噌煮込みだろ~?あんま期待せずに,湊町三丁目北通りっていう隠れスポットにある「ことり」と「アサヒ」に行ってみる。
 町の食堂そのもの。20席ほどの空間は魚臭い。なのに鍋焼きの他はイナリくらいしかメニュー無し。これで客来んの?と思ってたら…失礼しました!開店10分で満席。皆常連臭い。
 何で?やって来たアルミの器のうどんも質素極まりない。食べてみる。…普通のうどんじゃないの?
 ──その時。恐らく,ダシを知覚する味蕾が始めて機能し始めたんだろうと思う。
 白けた気分で1/3ほど食べ進めた辺りです。
 ありゃ?何か知らない味しないか?微妙だけど深い味?しかも──こりゃ何だか絶妙やど?
 店に入った時から漂ってた魚臭さを,その時やっと理解する。…イリコのダシを濃厚に取ってるんだ!──後で勉強してみると,カツオや椎茸のダシに比べてイリコや昆布のは遥かにアッサリした弱い味覚。
 松山の鍋焼きうどんの特徴は,この淡い味でストレートに勝負してること。
 同じく昆布ダシでストレートな沖縄の「味くーたー」な味覚,うちなーすば(そーきそばなど)もわしは知覚できんかった。沖縄には10回以上行ってるのにです!
 松山のイリコダシで始めて知覚できたわけ。
 知覚できてしまうと…美味いじゃないのコレ!染み渡るぜよ!「ことり」のイリコのソロ演奏もいい。「アサヒ」の醤油で甘辛く煮た肉汁を交えた重奏も最高。


▲ことりの鍋焼きうどん

 料亭「はまさく」の料理(ランチ1600円也)でそれは十分理解した。
 肉や野菜とかの食材が組織の意志を決定する社長なら,醤油や唐辛子など調味料はその意志を具現化する部課長級。けど彼らだけ元気に頑張ってもダメだよね。実際の事業の機動力は係長以下から生まれる。美味の構成上ダシはまさにそういう存在。
 ダシ入れても味は変わらん!
 昔のわしのそーゆー感覚も,浅い味覚のレベルじゃ間違っちゃいない。ダシは調味料の引き立て役で,それ自体の味が目的じゃないんだから。

 てことで──早速ダシ取りにチャレンジ。
 始め訳分からずにグツグツに煮てたけど…沸騰させちゃいかんらしいね。カレー作りの感覚しか持ってなかった…。弱火でコトコトやったら大分いい味出てきた。
 カレーじゃ「アクも味のうち!」がモットーだったんで,アク取りってのも全くしたことなかったけど,ダシ取りの場合これが必須だったんじゃね…。
 こんな感じにまさに初心者的に,よちよち歩きの悪戦苦闘しちょります。ちょっとづつですが「お通」の足元に近づいてる今日この頃ですわ。

 ダシの味,ダシの取り方なんて知ってるよ!って方へ。
 わしはアナタが羨ましい。
 そういう味覚を持ってるアナタは多分デブってない。その舌はカラアゲより味噌汁を美味いと感じるはずだから。──わしはホントにこの年まで分からんかったんよ。
 そして,そういう味の表層しか知覚できない現代人は,今やそう珍しくないはず。彼らはデブってるか,やたらダイエットを繰り返す隠れ肥満かのどちらかだろう。
 さてアナタはホントはどっち?