外伝02-4토스트:《第四次初日》AMANTEの日

※ 토스트:トースト

▲今年も山笠追い山!

 福岡市博多区沖浜町,博多港国際ターミナル。平成5年4月開業後,旅客数年間65万人以上が乗降する日本最大の旅客港である。
 そんなことはどうでもいいけど,その1階にあるCoffee bar Vallで,恒例の朝ご飯を食っておるわけです。
トースト250円
コーヒー250円
 大したもんじゃない。ないんだけど,最初に味わえる微妙な韓国なのです,これが。
 噛み進むと,モチモチ感じゃなくて小麦がもろに粉っぽく出て来る。おそらく粉の目が粗いままなんだろう。甘味が強く残るのも砂糖だけじゃなく,小麦が餅状になってないために香ってるんだと思える。
 コーヒーは,お茶的なスムーズな味覚にまとまってる。渋みとかコクとかがごく薄く,いい塩梅にパンチがない味わい。韓国茶の味覚感覚に通じてる気がする。
 一昔前には日本にもあった喫茶店の猥雑さを留めるチープ感。店外では乗船客の賑わいが刻々と高まっている。
 ちなみに今回は,山笠追い山直後の旅立ち。さっきまでのこの街のオーラが未だ引かない筑前の天地。

 船内映画はアマルフィでした。
 波間に3時間。行く手,真っ黒な雲に覆われた釜山が姿を現しました。天気予報は3日とも雨。
 ターミナルを出たらいきなり豪雨。合間を見て歩いてたら,比喩じゃなくて…まさに滝のような雨になりました。ここ何年か見たことのないナイアガラ級の凄まじさ。
 インフォメの親切ながら日本人観光客を舐め切った駅員に,ほとんど操作して貰ってハナロカードを買い換える。
 ソウル式のキーホルダー形態になってました。6千Wがカード代。えーと,400円位か?チャージを一万W。これが700円位?――金銭感覚をまだチューニングできてない。
 地下鉄内は日本と錯覚するほど。服装のセンスも一層類似してきたみたい。1割ほどの純プロレタリアート的な方々と迷彩服の軍人の出で立ちがかつての田舎臭さを留めるのみ。
 釜山名物と勝手に呼んでる車内売り子も…まだ来ない。どうした?
 路線図を確認。沙上からの軽鉄線のラインが増えてました。オレンジ色の1号線で…東莱まで,雨宿り代わりに行っちゃおう。
 西面のモーテル街は韓国では珍しいエッチ専門と思われるし高いと実感できて来たから,正しいモーテル街のありそうな東莱と釜山駅を,今回は宿地にイメージしてます。
 釜山の地下鉄は…前からこうだったっけか?ケータイのアンテナが立ったまんま。
 しかし…どうなってる!?車内物売りが来んぞ!まさか駆逐されたのか?

▲元祖チョバンナクチのナクチポックム(何度目だ?)

 東莱駅でコインロッカーに荷物を入れる。コンピューター管理でちょっと複雑になってる。
 しかし正午になってしまったぞ。善は急げ(何が善だ?)と街へ駆け出…そうとしたらまた土砂降り。これまたイグアスの滝クラス。
 全く関係ないのだが,私は日頃からその清らかな所業が名を馳せており,日頃の行いは良いとしか思えない。誰か別の韓国人,例えば今隣で騒いでるケバい姉ちゃん2人組とか。そうか,やっぱりこいつらか!
 といった最新韓国情勢に思いを馳せてたら小振りになってきた。考えようによっては客が少なくて狙い目かもしれんぞ。
 いつもにも増して大混雑の元祖チョバンナクチ。座敷側が比較的空いてたから靴を脱いで上がる。港以来の雨にベチャベチャの靴下が板張りに足跡を残し,店員のオバチャンがキレかかった眼で注文を取りに来られました。
 そんなことは大事の前の些事なので(…なのか?)ナクチポックム7000W。――この人(人か!?)やっぱりスゴいのだ!
 煮え立ての端正な段階の味わいも絶品。タコの味わいそのものがニョンマムの中でくねるよう。
 でもやっぱり,煮詰まってからが天上天下唯我独尊に素晴らしい!ニョンマムがタコの出汁を吸いきって,水気を失い,濃縮されてきた段階のをパブにかけたあの美味さ!筆舌に尽くし難き仏教世界である!(意味不明)
 しかしこれ,出汁と言うんだろうか?そもそもタコってそんなに出汁は出ないだろ!?刺身の時の歯応えでもなく…一番近いのは,茹でタコのあの端正な顔立ちのヨン様みたいな香りか?だけどあんな淡白な味が,このニョンマムのくどくどしくて彼女に嫌われそうな101回目のプロポーズ的な辛さと何で両立しうるんだ?
 でも現に,目の前の鍋の中でそれらが共存し得てる。ヨン様と鉄矢のまさかの共演である。唐辛子だけでこの味は出ない。味覚の層が違うってことか?
 そもそもニョンマムって調味料自体が,唐辛子の強いけれど単層的な味を,ニンニクと発酵物の酸味で福層化する効果なわけで。
 トッパブってのはかけるだけかと思ってたけど,隣の3人連れが混ぜくってたから真似てみた。
 …美味い!
 調子に乗ってビビンバ的に本格的に混ぜこんでみた。
 …凄まじく美味いい!
 パブがニョンマムの酸味を吸いきって,まるで別の食い物になってしまう!
 ヨン様と鉄矢を仰拝しつつ,再び板間に足跡を記してレジへ。噴火寸前のオバチャンの鬼面も涼やかにぞ見える美食でございました。また来るよ,オバチャン!

 かくも善行を重ねていく美少年(アラフォーだけど)に,神様が微笑まない道理はない。
 駅に帰ってコインロッカーを開けようとしたら…開かない!!?
 慌てて駅員を連れて来る。丁寧にご説明をして頂きました。ありがとう!駅員さん!でも,一言も分からない。
 ヤケクソでもう一回ロックの手順を踏んでみる…つまり1200W投入したら,なぜか開きました。
 開きましたけど…え!?倍額?何で?
 親切な駅員の兄ちゃんにお礼というか,苦情というかご挨拶に伺うと,どうもこう言って慰めてくれたらしい。「2回回したアンタが悪い」
 ありがとう!親切な駅員さん!…ってそれはないじゃないか…!?ええっ!
 こうして国際社会の厳しさにまた一歩成長した私は温泉場へ移動する。
 港で買った歩き方の地図が大きくなってた。それによると行き慣れた農心や虚心亭の界隈よりさらに奥寺の山際にモーテル街があるように見えたので,その辺りを狙ってみることに。
 その辺りに至ると…確かにある。予想以上の数と規模。ただそれより,虚心亭すぐ隣のホテルが気になった。
「コンチョタン」と読めるハングルを掲げてあるのは…おそらく公共温泉。それと同じ建物のホテルなんである。
 古びたフロントのオバチャンにきくと,一泊45000Wと高いけどオンドル部屋で,予想通り温泉場は無料使用可。決めた。
 部屋に入ると8畳はありそうな部屋に室内風呂付き。確かに条件はいい。だけどこれは…無駄に広過ぎるだろ!?…とは思ったけど,常宿としてはちょっとモニターしときたいレトロさで気に入りました。
 備え付けのドライヤーがあったんで,チョングッチャン…じゃなくてグッショリになった靴と靴下に突っ込んだ後,持参の洗濯鋏で扇風機にセットして強制乾燥。
 その間ちょっと…と思って横になる。と,忘れてた疲れが怒濤の如く――。
 そういえばそうだった。今朝は4時起きで追山見て,国境の海を越えた上に,雨に降られてチョングッチャン――という因果応報の理により,起きたら6時近く…既に夜の帳が降りかかってます。
 あちゃ~。

▲ビブンシッタンのデジクッパブ

 釜山大学エリアは既に単なる学生街ではない。今や西面,南浦洞と並ぶ釜山の三大商店街と呼ばれる一大商圏に発展している。
 それはどうでもいいのだが,その手前のデジクッパプ通りに急いだのであります。
 少し悩んで,3店ほど開いてる店からチョイスしてみる。前に入ったトジュッシブの隣のビブンシッタンという小店へ。
デジクッパブ4000W
 かなり客足はある。全10席ちょっとだろうか?まさにシッタンという感じの汚い…いや古式ゆかしい学生御用達店。
 すぐに来た。
 うん!
 豚汁の豚肉の出汁みたいな力を当てにしてない。むしろ削ぎ落としてる。豚肉に対する感覚が違うんである。そう思って味わえば,豚肉の香と赤身のふくよかさが汁に染み渡ってる。――ここまでが基本のチューニングです。
 たっぷり載ったニョンマムともいつも付け合わせてある謎の味噌とも違う層で染み渡ってくる軽やかな肉味。
 唐辛子以前の所で韓国料理のベースになってる味覚がコレです。出汁じゃない,肉とかモヤシとかお焦げ米の香りみたいなものの原初的味覚感覚。そう言えば今日のナクチの感覚もその類だと思えてきた。
 テレビではプールに渡したビーチ板の橋を芸能人らしきグループが女性をおぶって走ってる。エンタメのセンスは…これはもうムチャクチャ日本的なんだがなあ。

▲AMANTEcafeでエスプレッソとケーキ

 駅前2・3階に渡って営業してる落ち着いてそうなカフェを見つけた。店名:AMANTEcafe。
 覗いてみる。
 え!?
 全席がカーテン付き個室。しかもやたらとお姫様っぽい装飾じゃないか!?そして韓国ドラマめいたドラマチックなバラードのBGM…?
 これは…ちょっとしたラブホじゃないか?絶対みんなチュッチュするぞ?
 一人でいるのが虚しくなってきたけども,一人室もちゃんとカーテン付なんで隠れていれば恥ずかしくはない。って何で隠れにゃならんのだ?ちなみに一人室はテレビと向かい合わせになってるお部屋。全然淋しくなんかない。給仕のフリフリドレスのお姉さんの視線が痛いけど,間違えて入った外人観光客のふりをしてごまかそう。って全然ふりじゃないけど。
エスプレッソ4000W
テスト(?のケーキ)4000W
 ではお味は捨てたもんかと思えば…いやいや全然!
 いや,美味くて感動と言うより…エスプレッソはクドミがなくさらっと喉を過ぎる。ケーキは大味ながらココアケーキと生クリーム層がシンプルに存在感を主張する正統派のアメリカンテイスト。どちらも日本にはあまりないタイプ。
 そうか,韓国のケーキ類が日本的にはあんまり美味くないのは…少なしそう思えたのは…アメリカンだからか?あの大味な,おおらかな美味さが分かからないと,これは味わいにくい味かもしれんな。
 この味わいと合わせてくと,このエスプレッソのアッサリさもまた不思議にいい取り合わせに感じられる。
 ところで今(校正段階),検索してちょっと顔が赤くなった。わしはまだスペイン語圏に行ったことがない。アマンテとは――愛人あるいは「~を愛する」意味。
 間違いない!あそこはいわば簡易ラブホみたいなとこで…お安くチュッチュする専用カフェであったらしい。ケーキを味わってる場合じゃないぞ!

 と今になっては思うわけですが,この足で向かった南浦のバリス(Paris Baguette。南浦の店はCafe付)では,いつものパン系一つ
Red bbans,white cream and green bread 1700W
に加えて,ケーキ3つを購入。
Custard cheu 1200W
ガナシュセンタリンショート 3600W
ガマンベルチスショート 3500W
 最後の2つは英語表記をメモり切れず,レシートのハングル表記による。読めてしまえば何とか意味が想像できるのがハングルのいいとこですが…男のケーキ買いは日本以上に目立つみたいなので…つまり店員のお姉さんたちから冷ややかな視線を浴びるので,初心者の皆様にはあんまりお勧めしません。(上級者にもですが)
 ともあれこれだけ苦労した甲斐あって(してないけど),確かにウマかった。アメリカンだ。さすがにアメリカに12店舗を展開するチェーンである(韓国国内1700店舗)。今や韓国のヤマザキと言っていい…みたいな店であんまりこだわるのもみっともないからもう止めるけど,なぜか日本には支店がないんだよな,ここ。
 まあ韓国に行ったら一度は…というとこでしょうか。

▲Caffe’ beneでエスプレッソとマフィン

 日本でも半端に賑やかな駅では駅構内でバーゲンやってるとこがあるけど,温泉場駅ではいつも何かしら安売りしてる。釜大もそうだし,南浦にも少し歩くとそういうゾーンがある。
 ちょうど腕時計がイカレかけてたんで購入しとく。5900Wだからまあお得でしょう。
 もう大概遅くなっちゃったけど,駅前ビルのCaffe’ beneにちょっと寄る。
エスプレッソ(R)3500W
マフィン(チーズ)2500W
 ここも韓国のスタバと言っていい。今や韓国最大の店舗数のカフェチェーン。ただあんまりあちこちにあるから入る気にならず,実は今回初入店。
 喫煙席は外だけというスタバ形式で,シチュエーションは気楽でいい。ただこの夜は風がびゅんびゅん吹く中で…。
 でも。逆の意味で驚いた。
 マフィンがちゃんと粘っこい。粉々しくない。大味なアメリカンタイプじゃなくて日本的なんである。
 本場アメリカンテイストが薄いだけかと言えば…しかしそうじゃあない。最後まで口中に留めると,意外にゲル状にならない。粉は粗いままらしい。これがついにほどけてゲル化する時,何とも言えない複雑な甘味をもたらす。小麦の素朴な香り――これが酸味の複雑なエスプレッソとピッタシ合う。
 単純にアメリカンでもなく,韓国的な味覚を作り出してる。そう思えたんですが,微妙すぎてちょっと自信がないなあ。
 と,こんな寄り道しまくった結果,ホテルに帰った時には折角の大浴場は「もう閉まってるよ。ちなみに朝はやってないよ」(カウンターの兄ちゃん談)とのこと。
 仕方ないから,例の馬鹿でかい部屋風呂にどっかり浸かる。年期は入ってますけど石造りの豪勢なお風呂を独り占め――考えようによってはこっちの方が贅沢やんか?いや間違いない!ええ湯やないか!!
 よくよく考えたら…それならすぐ近場の嘘心亭に行けば良かったわけだけど,とりあえず満足して眠りについた初日の温泉場なのでした。