外伝02-7서울:《第七次最終日in Seoul》景福宮deエスプレッソの日

※ 後日聞くところでは,この景福宮界隈はA級のみならずBC級でもグルメタウンらしい。初回,何も調べずに行ったこの回は,その点見事に空振りしたことになります。

[前日累計]
支出1650/収入1850
負債 200/
[前日累計]
    /負債 290
§
11月3日(火)
0840 Cafe MANO(ソウル駅空港カウンター前)
エスプレッソ W4000
1030 孟家
スンデクッパブ W6000 500
1140 タクチンミ(南大門)
タッコムタン W7000 500
1330 Queen Shebd
エスプレッソ W6000
1800機内食500
[前日累計]
支出1650/収入1500
    /負債 150
[前日累計]
    /負債 440
§
→11月4日(火)
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 朝イチ,時に7時45分。 シングンサン・モーテルを出立いたしまして,まずはソウル駅へ向かいます。
 本日は帰国日。ソウル駅の空港カウンターでの出国手続きというのが出来ると歩き方でご教示賜りましたので,これを一度試してみよう,という企画であります。仁川空港はいつの記憶もえらく混むこともありまして。
 さてそのソウル駅への道行きから。ラッシュ前にと勢いこんだつもりだったんだけど,どうやら既にラッシュ時らしい。考えてみれば,オフィス街を南北に突っ切る行程だからね。
 鐘路三街で3号から1号乗換。8時。
 おそらくこれがラッシュのピークに近くはなくても遠からじ,という状態でしょう。メイン路線でビジネスマン姿も多い。でしょうけれども,まあコレ位の混雑なら…東京や広州の朝ほどじゃないわな。日本なら広島程度の混み具合か?
 してみると,ソウルは東京や広州よりは集中度の緩和に成功してる交通システムを作れてるらしい。確かにこの位各路線をオフィス街にクロスしてあれば,ある路線に人数が押し寄せることは緩和できるだろう。なんせ中心部の駅では2/3以上がジャンクションなんだから。
 最初からこうじゃなかったんだろから,行政側の工夫の成功でしょう。いつかソウル交通網の統廃合史を見てみたいな。

 ソウル駅ではそう難もなくソウル駅空港カウンターを発見できました。フロアのコインロッカーに荷を押し込んでさあ出発…という8時40分,駅空港カウンターの真ん前にあるCafe MANOという店が気になってしまい──
エスプレッソ W4000
 時間掛かったし高いけど…これは!これは本格的なエスプレッソです。
 そんなにガッチリした機械があるとかエスプレッソ系に特化したメニューだったりとは見えないのだが…。いや大したもんです。
 苦味の底に渋い甘味がぽっと灯る。

 地下の地下鉄乗り場は,行きに混乱してしまった二重カウンター。最初は設置者の意図をくみかねましたが…どうも国鉄の改札内に改めて地下鉄の改札を作るという発想だとこうなるみたい。ただまあ,地下5階位まで降りてまた3階分上がって更に下る構造ってのは,利用効率的には最低ですけど。

 何となく本日は縁起が良さそうなので,新しいエリア,「祭基洞」(京東市場)に向かってみます。ハングル読みは「チェキドン」みたいな音。
 地図を見るとソウル駅近辺,特に正面(南東面)山手の道のごちゃごちゃさもなかなか面白そうです。
 1号線ってのはソウル駅から次の南営で既に地上に出る。南行きはほとんど普通の列車です。──って既に本日2回目の乗り間違いをしてしまってます。
 ジャンクション駅で流れるチャルメラか新喜劇のオープニングみたいなこの浮かれたメロディー,これ釜山と同じ曲だと思うけど,これじゃなきゃいかんのか?韓国人のガッツリしたイメージとかけ離れてて腰が砕けそうになる。
 ──だからって,一部の列車が着く時にホームに流れる「突撃ラッパ音」もどうかと思う。何がか分からんが,韓国人の感性なのか?

▲京東市場の朝鮮人参売。
 買って帰るのも考えたけど…相場も分からんし,これ買って帰ってどーすりゃいーんだ?
※ 後日評:これでニンジンシリシリー(沖縄風スライス)とかしたら最高だったろうな……。

 京東市場はなかなかにコアでした。
 これまで見たコリア市場では最も濃いんじゃないか?土臭いという雰囲気で,ここで飯食うには私めでは実力不足かと。(後で調べると,ここでしか買えないような韓国薬などもあるらしい。研究してから再訪したいエリアでした。)
 と腰が砕けた格好で,観光客然として広蔵市場へ。恥ずかしながら初訪です。大体東大門自体が最初の頃に一度横切っただけだから。

▲広蔵市場の青唐辛子売り場。
 これも…買って帰って「辛え~」と一人自爆するのは目に見えてる…。

▲孟家のスンデクッパブ

 広蔵市場では観光客があちこちで飯食っとります。という雰囲気は大体は嫌うタチですが,京東市場の後だと安心してしまった10時半。お店は選びに選んで孟家というとこに。
スンデクッパブ W6000 500
 うむ。可もなく不可もなくという所ですね。
 スンデはきっちり野菜で縛ってあるし,その他の臓物肉もキチンと柔らかに深みあるのに,そうは言っても釜山ほどのインパクトには欠ける。
 いや?どうも言葉を聞いてると…ここは中国人の店らしい。途中気付いてから,ふとした拍子に店員に漢語を使ってみますとほぼ完全に通じました。韓国中華ってわけじゃないだろうに。それともソウルでは外来食という位置にあるんでしょか,この料理?

▲タクチンミ(南大門)のタッコムタン

 時間を見定めて南大門へ。満を持してお伺いしました本日最終日のメインターゲット。11時40分,タクチンミ。
タッコムタン W7000 500
 入った雰囲気も街食堂(しかも外見より広い)っぽいし期待はしたんだけど…。
 これ,要は水炊きじゃん?
 しかも出汁もないから(いくら好みでニンニクや辛味を操作できても)これなら断然博多の勝ちです。確かに鶏肉自体はかなり良さそうでしたが…。
 それとも釜山のデジと同じで,一つ下の香りの層を味わわないと分からない味なんだろうか?

 4号で忠武路──ちなみにこの南には「東大入口」という駅がある。受験生には御利益があるかもしれぬ。
 とか馬鹿なこと考えつつ──乗換にて3号,景福宮へ。ここに降りるのは,昨夜と今朝に続いて3回目ですが,地上に出るのは初めてです。
 この日は市場運がべらぼうでした。この景福宮,北村の庶民版みたいな風情が,という記述を見たんで最終日の最後の隙間時間を投じたんですが…。
 市場自体は大当たり。アップダウンの激しい道がこれでもかという複雑さで絡まりあいながら延びては絶え,絶えては交わりしながら,しかもテライも上品さもない下町風情で続いていきます。途中で迷いこんだ市場は,そんなに大きくはなかったけど庶民的な雰囲気は最高でした。
 ただまあ,要するにほとんど迷子になってたんで──もう一度その市場へ行ってみろと言われても,自信がないどころか,もうどこから入ったらいいのかも見当つきません。
 韓国人の間では何かホットになってるらしく,意外にマップやスマホを片手に,やっぱり同じように迷いまくってる人たちをたくさん見かけました。お互いの手元を付き合わせつつ,「こっちが…東じゃね?」みたいな会話を不安げに交わしては別れるというなかなか旅行っぽいことを何度か繰り返してました。
 問題は──ちょっと小腹に,という状況じゃとてもなかったこと。それどころか飲み物さえ手に入れる余裕もありません。

▲ Queen Shebaのエスプレッソ

 とりあえず大きめの街に出まして,ここからなら帰れるかな,というとこで,繋がりよくエラく感じのいいカフェを通りかかりました。
 13時半。店名Queen Sheba。──どーゆー意味かもその時は考える元気なかったけど,よく見たら「シヴァの女王」ですねこりゃ。
エスプレッソ W6000
 この日はエスプレッソ運もまた驚天動地でございました。
 木目調の角ばった,しかし座り心地も居心地もさりげなく最善の調度に程好い採光が舞い込む。音楽も微かでいつまでも居続けたくなる空間。
 コトリと置かれたカップの中もまた,高いだけあって相当な優れもの。酸味の深さと苦味のくすぶり具合──決してどれも強くない。充電のために少し長くいたのに,驚いたことに,酸味は刻々変化するのに時間を経てもそのバランスが崩れない──の妙は,ちょっと有り得ないクオリティでした。
 こういうセンスのいいカフェのオーナーの人柄が,得てして韓国人のステレオタイプを逸した,いわば「ひ弱な韓国人」ばかりに見えるのは気のせいだろうか?何となくあんまりやる気のない「まあ気に入ったら入ってよ」的なカフェが,実はガイドに乗ってる店を遥かに凌ぐクオリティのことが多い。一時期のチェーン店が凌ぎを削る状況から,段々こういう,いわば投げやりな個人店みたいなとこがジワジワと増えてるように感じる。
 それは韓国人のパーソナリティの地殻変動のようなものを匂わせてるような予感を,この一時は一層強めていったのでした。

 景福宮駅はハイセンスな地下構造物と位置付けられてるようでした。
 造りそのものが他の駅とは違う。ホームから地上に導く以外に,少し長く地下をぐるりと回るような導線になってます。
 地下一階にはソウルメトロアートセンターというものが入るべく改修中との表示がありました。どういうコンセプトなのか,新しいソウルが作られてる現場と映ります。
 今回の韓国にはどうにも「アート」を感じることが多かった。仁寺洞にこれまで寄り付いてこなかった理由なのだけれど,今回はとにかくこのエリアに惚れてしまった。オフィス街歩きと今日の景福宮で確信しましたが,この人たちには衣食足りたその次には,居する場をアートにしてしまう習いがあるみたいです。──ちょうど,日本人が衣食足りた後にバブルを欲したように。
 アートを纏った仁寺洞は,美しかった。とりあえず端的に美しかったのです。
 明らかに観光地なんですが,それ以上の 何物か,あるいは現れてくる何物かの影がちらりと見えていたような残響を感じた滞在となりました。

 ソウル駅地下2階。15時ジャスト。
 帰国便のチェックインは確かにすんなりできました。
 でも手続き後になって「荷物のチェックがあります。後ろで待ってください」とのこと。何なのか不明だけど,列車は1531だから少し時間はある。…ただ,同じシステムを通ったことのある香港での経験に比べると,あんまりコナれたシステムにはなってないみたい。
 少しして音沙汰ないから覗きに行くと「あっ荷物の検査終わりました」とのこと。あ,そうですか。待てと言った以上,待機解除の一声が欲しかったな。
 で,特に案内もないからうろついてると,「出国審査」という部屋から出てくる人がいる。ではと試しに入ってパスポートを出せば,ポンとハンコついてくれました。えっ!?そんな簡単な…。だってまだこのエリアって,そのまま街に出ていけるんですけど?
 ──ただ,確かに空港特許券がないとボーディングパスはもらえないし,パスがないと出国のハンコは座らない。これで街に出たとしても,当人が危険なだけで(旅券法の庇護下にないわけだから)国家運営上問題はないか。…映画的には出国後に誰か狙撃してそのまま国外に逃れるとかの完全犯罪は可能だけど,日本の小市民にはあんまり活用しにくいシナリオです。
 直通列車の発車階はB7?なんでそんなに深いとこから出すんだ?ソウル駅って地上より地下が倍ほどになってんじゃないの?
 そう言えばこの駅も北側に東京駅そっくりのレンガ造りの駅舎があった。
 東京駅と違うのは,今の駅舎をその隣に全く新しく作ってしまったこと。古い駅舎はちょっと世論が緩くなったら,いつでもちょちょっと壊しちゃうのかも?

 ソウル駅の地下深くに発した列車はそのまま仁川空港へ。出たところは普通の空港スペースで,出国済になってるパスポートを見せると「あのゲートから入れ」と言われ,後はチェックのみでボーディングゲートまで導かれました。どっかでトラブると怖い扱いみたいな気がするので,あんまり多用する気にはなれまへん。
 ということで久しぶりのソウル行は終演しました。何とも不思議な奏効に満ちた道行きで,その影響なのか,帰りにこんなメモを残してます。
「旅行と謎:他者論を旅行に置き直し」
 内田樹のレヴィナス論です。あそこで「他者」──一方的で絶対的に理解不能なのに私の全ての外部への意志を決定づけるもの,そういうものが「旅行」あるいは「異国」の本質なんじゃないか?そして今回のソウルは,まさにそういう相貌を呈してわしの前に現れたのではないか?
「味覚の現象学:味覚と出会うとはどういうことか?」
 そのような異国で,知らない感覚としての「異味」と出会うということ。そもそも知らない味覚を,我々はなぜ味覚することができるのか?何かの鏡像ですらない単なる感覚は,それが全く未知のものである場合に,我々をしていかに顕在化しうるのか?
 そうした未知の空間,未知の感覚を,未知のまま,未知であるがゆえにこそより激しければ受容しようとする旅行者のマインドというのは,そもそも何物なのか?

 例えば今回──ソウル駅のKorailと地下鉄の二重改札で既に大弱りに弱った後,地下鉄を乗り継いでようやくたどり着いたインサドンは,以前のうっすらした記憶が邪魔になるほどの変わりよう。よく見つけたなと思うほど,ふと首を向けた路地の暗がりににサランバン・モテルという小さなハングル。到着2時間
ほどでハングル文字にも順化してない脳を絞って何とかチェックイン。
 でも1時間後には何となく馴染んだ気色でシンチャン・ソルロンタンに舌鼓を打ってた。
 最近とみにこんなです。初めての街に何か妙な土地勘が1時間ほどで出来てしまってる。
「一寸先は闇」というけれど,一寸で闇があるからこそ前に進める,むしろ闇に手を取られて進んでる,こういう歓喜の感覚って単に旅慣れたとか向こう見ずとかじゃなく,むしろ何かの次元で根源的な交歓に観ぜられるのですが?
 好い旅でした。