外伝06@猫空@(@_33_@) 2日目 (@_33_@)

▲廣[イ子]虱目魚丸(開山路)の魚丸湯35元と肉[長三/松]飯15元

 ほんの出来心で,というか一瞬の閃きというかいい加減に寄った台南。
 いつか痛い目に遭うとは思いますけど,だからこそ思いもしない展開になっていきます。止められまへんなあ,痛い目に遭うまでは。
 翌日も早朝からひと歩きしました。
 まずはこの廣[イ子]虱目魚丸。開山路。
 とんでもない小さな店…というかその軒先で碗を啜る。
 魚丸の団子はほとんど蒲鉾の味。山口宇部の銀〇に似たもの凄く淡白でピュアな味わいですが,噛み締めるほどにジャコ天のような骨っぽい味覚も出て,しかもいずれにもない何か高揚させる華やかさを持つ不思議な美味。スープにも素晴らしいダシを提供して,これが香菜ですっと締まった後味に収まる。
 飯は「肉操飯」と言ったつもりが間違って伝わっただけなんだけど…意外なことに初めて気付いた。この肉髭,つまり肉を粉にしたものは,蛯粉の感じに似てる。つまり肉の味覚をあんな風に,軽やかな香りに昇華させるための形態の一つなんだと思う。魯肉飯にこの肉髭が乗ると,同じ肉が全く別音域の味覚を奏でる。抹茶入りの紅茶みたいな感覚です。これが,もの凄く味の領域を広げてる。初めてなんでココのが美味いとかは申し上げらんないけど,大変気に入りました。
 わしって台湾の根っこをホントに知らなかったんやなあ…。

▲福記肉園(孔子廟南)36元

 これしかない。
 さっきよりもっと小さい店。
 メニューを探したが,ホントにないらしい。オバチャンが「肉園?」と聞いてくるが──そりゃまあそうだ。頷いて席にいたらほどなく来た。
 サツマイモの粉で肉を包んだものと聞いたような記憶があるが,意外に堅実な味わい。柔らかい芋餅で赤身肉をくるんでみました…って造り。
 外の餅も芋味がダイレクトだし,中の豚肉も微かに塩味の付いた茹で豚。脂身はほとんどない。これに例の甘辛酸っぱい赤のソースがかかってる。
 その緩い味わいは,とても中華圏の味とは思えない。発想が完全に東南アジアスイーツ。
 ナチュラルな芋と豚肉の甘味がソースの中でとろけてく。欲を言えば豆乳がほしいけど…朝にぴったし来る味覚でございました。

▲Domutesコーヒー&パンの低脂天使25元と熱黒珈琲45元

 宿の北,再開発エリア。移動前の一息のつもりで腰を下ろす。
 昨日から気になってた角地のお店です。チェーン店にも見えたけど,メニューやセンスから違うと判断。
 低脂天使なるドーナツ。「天使」が何のこっちゃ?ダイエット中のエンジェルか?とツッコミたくなるけれども,食べて納得,まさに天使的な味。
 シナモン,ココナッツ,それから…バニラエッセンスか!?淡い甘味が複数溶け合って,微妙な美しさを見せるお味です。生地は柔らかいスポンジ。これで何kcalか知らんけど,いいもん作るやんけ。
 ショーケースに並ぶケーキ類も…これは侮れなかったかも?
 珈琲にも期待しちゃいなかったんだけど意外や意外!生々しいいい味出してる!いわゆる美味い珈琲じゃないんだが──一瞬,シナモンコーヒーかと思ったほど香りがなまめかしい。まさか幻の台湾珈琲でもないだろけどどうやって淹れてるんだろう?

 9時半チェックアウト。駅へ。
 前回なぜか印象ないんだけど…この台南駅,待合室といいプラットフォームといい,なかなか日本にはないレトロな佇まい。しかも日本の大正建築な空気のレトロ。
 そういう空気は,台南の街全体に漂ってる気がする。戦前日本の空気がそのまま壊されてないと言うか…。それを台湾で味わう,植民地的な歪さと面白さはなかなかです。
 台南。不思議な安らぎを感じさせる街でした。

 10時5分,沙[山/倫-イ](以下「サロン」)線で高鉄台南[立占]へ。
 4車両。サロンまでは保安,中洲,長栄大学の3駅に停車。車内モニターテレビが全ての情報を掲示してる。
 保安駅には椰子の樹が立つ。左手に浄水場。この辺りから周囲は農村風景に変わる。
 台湾新幹線のこの郊外度は,おそらく単に買収の容易さからのものではあるまい。都市圏の副都心を形成して行こうという,つまり国家的野心と自信が成せる選択だったのだと思える。
 中洲の先は,サロン線だと長栄大学だが,分岐する高雄への鉄道では大湖。つまりあの苺の産地はこんなに近郊だったらしい。駅の表示によると距離にして2.5km。
 10時49分,台南発。台北着は12時36分予定。1時間半強,台北研究できる。──例によってまだ何も決めてない。泊まる場所すらどこになるやら。絶対いつか火傷するなこりゃ。
 まあそんな未来のことはともかく,旅のお供はコンビニ買いの
愛之味 寒天冬瓜(黒糖)30元
 寒天系飲料と思ってたが完全に寒天。ストロー貰って来るんだった。味は冬瓜のシブい甘味に黒糖のジワジワっと来る苦みを帯びた甘さがたまらない。ただしカロリー表示では500ccで200kcal位はあるみたい。
 とかこんなこと書いとる場合じゃない。研究せんかい研究!もう着いてまうでえ台北に?
 あーあ。到着しちゃった。

 高鉄台北駅の乗り場は全部地下です。こんな首都のメイン駅って,他の国にあるんかなあ?そんなしてたら憂鬱になるよ?と心配になる。
 高鉄の到着ホームももちろん地下。台北地下鉄MRT駅はもう一つ下層らしい。どんどん鬱屈しそうだけど,勇気を奮って(?)直接降りて行ってみました。
 出れた。この乗り場は何度となく行き来してきた。
 まず2年降りに使うEasyCardの残額チェック。――ラスト33元か?500元ほどチャージしとくか。
 12時45分,台北MRT淡水線ホームから隻(ホントは又の上が2つ)連に向かう。あそこの常宿…名前は忘れたけど,とりあえず思い浮かんだんで。
 で,行ってみたら建て替え中。あーあ。
 路地を一つ北に入ると「新仕Hotel」ってとこを見つけた。
 2180元。台北にしたらまずまずだけど,対前日比では4倍近い。まあおそらく一泊だしプチ贅沢もしといたろか。
 宿の対面に[斤欠][斤欠][火共][火立/口]坊というパン屋あり。8時から18時までオープン。朝飯に使えるかも?

 地下鉄車内で見た路線図に,民権西路を通って忠孝新生を終点にする新[サ/盧]線という新しいラインが加わってました。
 新し物好きで早速乗ってみる。お前は鉄ちゃんか?
 かなりキレイだがやっぱりもの凄く深いとこを走ってるらしい。ただ今までの空白エリア,淡水線と行天宮のラインの間を走る形。利用者はやや少なめ。
 忠孝新生から板南線乗り換えで国父記念館にて下車。あんまり降りた経験のない駅です。

▲四川呉[テヘン+少]手の紅油[テヘン+少]手 60元と小菜 55元

 四川呉[テヘン+少]手という店を目指す。恥ずかしながら歩き方に載ってたんだけど,台湾で四川料理を求めた経験はそう言えばなかったな。
 こりゃあまた…えらい豪勢なお店です。
 四川料理としては本格的。下品な[テヘン+少]手ではない,端正なワンタンに麻辣の香り付けをしたタイプ。
 ただし台北らしいものはない。広東四川みたいな融合の形跡はないな。
 台湾は香港とは食のパワーの有り様が違う。劣っているという意味じゃなく,ただ違う。以前食ったシンジャン料理といい,外地の料理のこの受け入れ方に,そう感じます。
 元の食文化のセンスをそのまま尊重しようとする謙虚さがあるというか?

 その北の路地裏。
騒豆花
同名(熱) 35元
 公園前の角地にある,手作りっぽい花々に彩られた雰囲気のいい店。
 コンクリートの打ちっ放しが剥き出しになったような廃屋めいた狭いスペースに,木目の小窓がさりげなく開いてる。
 いかにも女子が好みそうな空間です。壁のあちこちに誰かのサインが残る。
 すぐに品は来た。かなり清楚な豆花。程よく生姜が効いた汁に,茹でピーナッツが十数粒浮いてる。豆花はほんのり豆味を漂わせる広東タイプ。ただし,広東よりは汁の生姜と混ぜもののピーナッツが強いから,豆味をストレートに味わうタイプじゃなくなってる。
 この辺が実に面白い店です。
 つまり新興店なわけで,それがこういう日本的な可愛さをコピーしたような「カフェ」であることに台湾のトレンドの方向がはっきり現れてるわけで,よく考えたらこのタイプの可愛さを理解してしまう国民性なんて台湾にしか有り得ないわけで。
 当然ですがオーナーは若い,ややナイーブな感じの夫婦です。

 何か懐かしさに流されるように西門へ向かってしまう。
 長虹飯店に明日の空室があったんで2泊を予約。やや高い,今日と同じ位のクラスの部屋になってしまったけど,西門ど真ん中のこの立地は捨てがたいわな。
 鴨肉[偏-イ]へ。有名店だけど実は初めて。
同名150元
 高いなあ。高いけど…よく分からんなあ。この肉が何でこんなに人気なんだろう?確かにサバサバと食べれて上品だけど…。
 佳佳唱片でCD2枚購入。

▲Astria明星珈琲店の単層点心盤 180元

 Astria明星珈琲店。
 まず1階でお買い物。
俄羅斯軟糖(白いマシュマロみたいなの)
鳳梨[酉ノ/木](パイナップルケーキ)
桃棗泥蛋[米ソ/王/心](種入りケーキ)
225元
 んでもっておもむろに2階へ上がる。
[漫-シ]巴珈琲 185元
「点心盤」は充実したお茶うけでした。クッキー2種が各2つ,ロールケーキ3種が各一切れずつ,そしてマシュマロのようなものが3切れ。満喫であります。
 ありますが,要するに一階で売ってるお菓子の詰め合わせを皿に並べただけ。
 生クリームとかホームメイドのジャムを一盛と品のいいペイバーナイフとが,ちょっと気がきくなら例えばそっと添えられてたりすんだろけど。もうどうしようもなく並べただけ。
 ただ。それでやっぱり美味い…ってのがニクいです。
 コーヒーも台湾産らしき生々しくも独特なヌメリを持つ旨さだけど,ロールケーキとクッキーの一番シンプルな奴は,ちょっと日本でも見つけにくい直球の,肩に力の入らない甘さ。ケーキは卵の使い方が注目で煌めくような後味だし,クッキーはシナモンの他に何か感知できない甘味が単純ながら実に美しく尾を引く。
 前回目をつけてたメニューでしたが,なかなかよろしい。よろしいんですが,これなら1階でお買い物しなくてよかったんでは?という後悔も残ったんでした。

 うーん。やっぱり士林夜市は行っとくかなあ。
 まずは辛発亭へ。どのガイドにも載ってるこの店も,実は初訪問でした。
紅豆雪片 60元
 真冬に誰がカキ氷食ってんねん!?という予測から,穴場狙いで行ってみる気になったんだけど,結構気に入った。
 氷質がパラパラ。絹のようなこの歯触りはなかなかないと思う。
 詳しい作り方は理解してないけど,雪片自体は確か日本でも「台湾のあの味!」みたいな看板を見たことがある。それでもブレイクしないのは,日本人は氷質の粗い方に納得してるんだろうか?

猪血[米ツ/王/心] 25元
 豚の血液ゼリーにキナコにバクチー,そして味は麻辣。三拍子揃った刺激物の王である。
 でも?美味い!前回は絶対食えないで捨てたのに…。
 豚の血の苦辛いあの強烈な個性が,バクチーとキナコで…中和されてるわけじゃない。いわば醜悪な味覚と端正な味覚のコントラストの美学というのか…。

阿輝麺線(士林廟口)
同(小)30元
 麻辣も胡椒もない,甘辛酸っぱいソースと魚醤もギリギリの量だと思う。ひたすらダシで攻めていく。ホルモンと牡蛎と魚団子。主役に間違いないのに,どれもがしつこくも強くもない。それでいてバランスを取れたハーモニーを保っていく。
 ここの麺線はレベルが違う。阿宗とすら段違いだと思う。

[フ了く/一]祖胡椒餅 40元
 以前偶然食って驚いたこの食べ物。歩き方にも少なし一度は載った(見てないから未確認)らしい店頭表示を見て,どうも気になって,駅へ帰りながらかじってみた。
 なるほどね。これは2年前には分からんわな,当然。
 もちろん,ダイレクトな味覚は豚肉と胡椒。対して唐辛子や醤油がゼロってシンプルさが特色の食べ物なんだが,途中から舌が痺れて来るんである。この感じが理解できずにいた。
 答えはもちろん――麻。つまり花椒。
 今味わうと,五香粉もはっきりとサブの味覚として登場してる。これが豚肉の甘味を引き出す形で旨味の核を構成してると言っていい。
 花椒と五香粉。この正月の四川で気付いてやっと理解しかけてる味覚です。
 つまりこの胡椒餅ってのは,痺れるけど辛くなく,むしろ甘いのに砂糖甘さはゼロという,おそらく日本人に一番分かりにくい味なんだと思います。

 大概夜もふけてまいりました帰りがけ,やはりフラッシュバックに突き動かされて南京東路。
阿桐阿宝四神湯50元
を一杯。やはりこの汁は珠玉のお味です。もう言う言葉はない。
 ないんだけど,宿の手前で雰囲気いいケーキ屋を見つけてしまう。台湾には意外に少ない西洋ケーキ屋,試さずに通り過ぐ能うや?(いやそんなことは出来ない:反語)
Gold Corner
今日限定 35元
香草迷林 60元
「今日限定」とは「本日のおすすめケーキ」というほどの意味でしょう。
 どうもケーキ生地の使い方がヨーロッパ的じゃない。どうしてもパサパサと焼餅みたいな中華感覚を抜け出していけないらしい。クリームそのものはいい落ち着きを出してるが,これも中華スイーツ的。泥の感覚なんである。
 いや,でもマズいわけじゃない。むしろ誉めてんのよ。最近思うけど──本場の味は本場に行って食べればいい。本場でもないのに無理に物まねするよりは,その土地の食センスで咀嚼した変異種を食わせた方が発展するし,何よりナチュラルでノビノビしてる。と最近思うわけですが。

 西洋スイーツを買ったのに,直後に中華菓子の良さげな店を見つけてしまった。「2011台北市政府鳳梨[酉ノ/木]文化節伝統組 冠軍」との表示あり。豈に試さずして(以下略)?
順成蛋[米ソ/王/心]
鳳梨[酉ノ/木] 15元
冠軍鳳梨[酉ノ/木] 35元
 パイナップルケーキうめえ~!!「冠軍」(優勝)が付くと倍以上になる辺りが中国人らしいけど,とりあえずうめ~!!
 というわけで記憶の中の美味に押し流されて食いまくったのでした。いつか太ると思います。