外伝09♪~θ(^2^ )HK-File16:其他西式

 本章は,ちょっと失敗企画です。
 腐っても東アジアの国際都市。ここではほっといても世界中が交錯してる。それもニューヨークみたいな,一定グレード以上だけのじゃない,有象無象の交錯です。
 何が西洋(漢語:西式)かという古い議論は,香港の食創造の場では陳腐に見えます。滑稽ですらある。食い物のみならず,全ての事象に東と西が交錯してると言っていい。「〇国オリジナルでござい!!」と取り澄ましたストイックさなんかこの街では相手にされない。それ以上に刺激に満ちた再構築がそこら中に溢れてるから。
 以下では,中で西洋的に見えた幾つかを,やや無理めにピックアップしてみました。
※後日評:この見方は,半ば真実で半ば誤認です。「西欧化」は正確に西欧のコピーではなく,あくまで映し鏡。各・非西欧文化によって,当然に異なる。そして茶餐廳や冰室で庶民化して独自進化を遂げてきた香港における「西欧」は,他のそれより誠に豊かです。この段階でも,戸惑いながらそれを予感していたんだと思います。
▲東宝小館の炒辣意粉と例湯

[3日目]東宝小館(北角)
 5時半,開店時間定刻。熟食中心2楼のベンチに一番のりで座る。
 市場の3階。香港の城市(公設市場)は大抵この構造を取ってるみたいだけど――2階フロアが小店が一面を占める市場。4時過ぎにはかなりの一般客の姿が見えました。
 ここはイタリアン的なものが食えると聞いてたんで,パスタを食う頭になってました。
炒辣意粉(小辣) 68HK$
無銭買味精之是日例湯(一碗) 20HK$
 これにサービスで「糖水」が付いて来た。
 まず例湯が出る。一口含んで仰天!
 何だこれ…欧米のスープで類似を思いつかない。でも,中華スープでもないぞ?
 何が入ってる?人参と…おそらく牛テール。ここまではフレンチだ。でももう一つ浮かんでるのは…大根?それに,小さな破片は…ピーナッツだろ,おい?この2つは香港の,いわゆる例湯の材料だぞ?
 で。この2つの材料群,2つの思想が,なぜか完璧な結合を見せてる。ブイヤベースであって中華スープでもある,でも厳密にはどちらでもない。さらに言えば,野菜も肉も素材の味が立ってる。ミネストローネとかテールスープみたいな立ち方です。この素材の盛り立て方は,おそらく薄い中華スープが寄与してる。
 ――絶対的なレベルとバランス!こんなん飲んだない!
 続けて出た意粉――「意」がイタリアの意味で,つまりパスタってことだろう――は,漢字名から読めた通り,やはりペペロンチーニ。パスタはカッペリーニ位の細麺だけど味はまあ普通。けれどニンニクと,この唐辛子の尖った辛さがスゴい!油もちゃんとオリーブだし,キレイに麺に絡んでて…かなりイケる!
 この辛味も…しかしどこかヘンだ。イタリアンのオイル系の外見を纏いつつ,微妙に四川風の滷味の香りが流れてる気がした。
 ただ,量がちょい多過ぎ。やはり複数で来る仕様みたいです。300g近く,2人分はたっぷりある。辛みとニンニクの強さもあって…もー喰えんです!
 なんとか食い終えて見回せば,フロアの中でこの店のスペースだけ超満員。従業員全員がイヤホンとマイクで注文連絡を取りあってる状況になってきてます。間違いなく超人気店!
 追い出されるように出ていきましたが…サービスに糖水(黒々した台湾の仙草ゼリー入り漢方スープでした)付けてくれたりとか,客足を気にして立つと「不好意思」と何回も謝るおばちゃんの仕草とか…サービスも漢人らしからぬ誠実さ!
 そこら中に貼り出された他のメニューを見ると――テールスープとかの洋食から,もちろん中華,これも四川から北京まで幅広いし,中には東南アジア系の名前まで物凄い多彩な品揃え!こういう店は大抵「もどき」が食えるだけってのがオチだけど…確かにこの店のも本格派じゃない。本格派どころじゃないって意味です。この融合の妙は,まさしく魔術めいてるぞ!!?
 酒はカールスバーグだけみたいだが,数人で来て宴会やったら最高なメニューとクオリティやなこりゃ!
 香港の多文化再創造力に改めて驚嘆しつつ,さらに賑わいを増すフロアを後にしたんでした。

▲蘭香茶餐廳の早餐

[5日目]蘭香茶餐廳([サ/全]湾)
 バスが見つからず失意の中で,川龍街近くの古めかしい雰囲気の冷室のドアを押しました。
早餐 23HK$
(鶏蛋三文治
 火[月退]通心粉
 [女乃]茶)
 卵サンドとハム入りマカロニスープ,ミルクティー。未だになじめない香港の朝食セットの中では…これは珍しく違和感のない組合せ。これに出前一丁とかザーサイ炒めとか混ざって来ちゃうと,一気に食欲が盛り下がってしまうんですが。
 そういえば,四国に多いけど,日本の古い喫茶店モーニングにも,どうしてもトーストとサラダに味噌汁を付けて来るとこがある。独自の進化というのは恐ろしいもので…。
 香港の早餐は,全般,日本どころじゃなく独自の展開をしちゃってる気がする。
 実はその典型が,今回も付いて来てる火[月退]通心粉。
 サンドイッチも味はまあまあだし,もちろん[女乃]茶も古典的なお味で取合せも最高なんだけど…未だにこのマカロニスープだけは,何が美味いのか分からん。ダシは化学調味料そのものだし,ハムも当たり前のボンレスの薄切りで特にアクセントになってるわけでもないように思えるんだが――早餐ではどの店でもこれが付いて来るとこを見ると,間違いなく香港人にはお気に入りの一品らしい。
 分からん!
 やっぱり理解不能ではあるんだけど…疲れたアタマには,とりあえず熱い汁なんで。生き返りました。

▲おまけ「耶蘇是主」――曰く「キリストこそ神なり!」
 九龍駅から佐敦の交差点に向かうと,ビルにどどーんと掲げてある。香港人はどうも…どの派にしても信仰心をギラギラ見せつけないと気が済まない体質みたい。

[7日目]Barista Caffe(尖沙[ロ且])
特濃珈琲 17HK$
西多士(kaya) 23HK$
 世界の香港!
 スタバとかシアトル系外資は乱立してんだから,チャンとした地元の珈琲屋はないことはねーだろ…と,尖沙[ロ且]の観光エリアで探しまくってたら見つけた店。楽道より海側の通り,3階辺りにさりげなく入ってた店だったと記憶する。
 一階入口で確認してたんで,とりあえずエスプレッソ。まあまあ…チャンとしたエスプレッソだ。他の客のオーダー聞いてたらそう出てはいないみたいで,使い込まれた機械の味はないが,スタバのレベル以上ではある。
 かなり喫茶店に近い緩い空間。香港の街中で初めて見つけた!こーゆーゆっくりスペースがあるってこと自体が――尖沙[ロ且]だねえ。ってゆーか,これだけの国際都市にこのタイプのカフェを他には意地でも作らないってとここそ…香港らしいねえ!!
 さてついでに頼んだつもりの西多士。「多士」はトーストの漢訳だけど「西」は?とやってきたのを見たら,フレンチトーストでした。かなりどぷどぷに卵ソースに浸けてふやかしてある。京都のスマート並みです。しかも,上に塗ってあるのはバターのみだったんで「カヤ」はどこ?と思って食いついたら,どうやら…パッと見は分からないが,薄いパン2枚を重ねてあってその間に塗りたくってあるのがソレらしい。
 で,こりゃ何じゃ?ココナッツ味で,どろりとバターじみてて!?――北海道にミルクジャムってのがあるけど,そのココナッツ版か?
 後日調べると,ココナッツミルクと卵黄と砂糖を煮込んだジャムみたいなもんらしい。荒く言って,ココナッツ・ジャムというところか?
 佐敦のToast boxも含め,シンガポール風のカフェスタイルってのがあって,香港では新しいと受け入れられてるんだろか?このカヤ・トーストというのはシンガポールの代表的おやつなんだって。この店のが標準形なのかどうかは知らないが。
 にしても!
 トーストに吸わせた卵ソースにバター,加えてパンの間のココナッツジャム…一体何カロリーあんだ?

▲喜喜[ニスイ+水]室の香[サ/焦]克○,鶏批浮台(青豆青忌廉湯)と[女乃]茶のセット

[9日目]喜喜[ニスイ+水]室(銅鑼湾加寧街)
香[サ/焦]克○
鶏批浮台(青豆青忌廉湯)
[女乃]茶 42HK$
 銅鑼湾の海側のひなびた道路脇に,落ち着いたたたずまいで営業する老舗。そんな雰囲気のくせに,この研究ぶり!
 浮台は,グリーンピースのスープの海中にしっとり目のクッキーの島。その下には芋泥と肉の混ざった土台がある。グリーンピースだけでもいい甘味だが,クッキーが混ざるとクリスピーな食事に。さらに芋泥が入ると甘さの複雑さが磨きを増す。何でこんなん思いつくんだ?
 焼きバナナの方は,パンケーキにカシューナッツの飴煮と一緒に載ってた。これもウマウマだが,まあ他にもあるかもしれん。
 [女乃]茶は濃い目。一体感は十分でよく出来てる。
 売れてる店らしい。最近新築とか…この上さらに快進撃を目論むか!?

陳誠記(尖沙[ロ且])
精美早餐(→[女乃]茶之二に詳述)
A西冷猪[テヘン+八]配[月退]蛋
[女乃]茶付