小鳥の鳴き声が響く。幾重にも重なり,狭いバンの車内を流れてく。
一列目の席のおばちゃんが,布地に包まれた木の籠を持ち込んでる。籠を3つも。ペットにしては異様な数だし…あれ,何するもんなんだろ?
[サ/全]湾市,福利街を7時ちょうどに発車した。80番川龍村行きのミニバスに再び揺られてる。客5人。
空は曇天。バスが高度を稼ぐにつれ,風景は霧に包まれ,川龍村に着くころにはミルク色の中にたゆたってる気分になりました。
7時15分,川龍村着。バス停から見下ろす朝の下界は,全て霧。
瑞記茶楼,再訪。
肉蒲鉾を蒸したみたいなの
焼売
プーアル茶
計25HK$
前回の苦労もこの行程も,全く損した気にならない。
きっと。ここはチャンラン先生が偶然知ってて紹介しされたってだけだと思う。とすればこういう田舎飲茶は,クオリティは分からんが,おそらく当たり前にあちこちの村にある。
驚くべきことだが…ここはそういう土地なんだと思う。
一度目は気づかなかったが,福利街の一つ南の通りのビルにトイレを借りに迷いこんで呆気に取られた。
ここ公設市場だったんだ。しかも規模はかなりデカいぞ?川龍街の市場とはエリアが別だから,この街の市場規模が窺える。
さらにこの2ヶ所とは別に駅東のモールもきちんとした建物で,朝から賑わってます。マックの他にイタリアントマトとかまで入ってました。今はこの建物のキレイな便器を使いつつ,ケータイに文章を乱打しております…って便所話ばっかしに聞こえるぞ?いや,朝からプーアル茶飲み過ぎたんで…。
ちなみに,やはりアンテナは立ちません。
9時過ぎ,地下鉄で東行。美ポで西鉄線に乗り換えて北の元郎へ,屯門へ行った時は通り過ぎた街です。
乗換表示を見ると,元郎より西の5駅は,郎屏を除いて全て軽鉄が乗り入れてる。この軽鉄ってどーゆー成り立ちだろう?一つの生活圏を作ってるってことなのか?西鉄と同時に設計したのならこんなに併行する路線は変だろう?
Webに当たると――新世紀になって西鉄が伸びるまではこのエリア,軽鉄だけで結ばれた独立路線だったらしい。西鉄は,それまではバス路線しかなかった南のネイザンロードや香港島との連絡のためのラインってことみたい。
9時40分,元郎着。その事情からすると頷けるが,街の規模からすると意外なほどに降車客は少ない。
駅のマップを覗きこんでたら,南邊[口「南」を冠するからには…やっぱり。他にも規模は小さいが「[口 南邊ワイが一番大きくて駅からすぐ,中心部への通り道に出来る位置。
折角だからちょっと立ち寄って…と?すぐ近いはずなんだが,どうもわかりにくい。
少し徘徊して,入り口を見つける。駐車場みたいになった空き地に面し,やはり1ヶ所しかない。祭壇のある幅3m,奥行き10mほどのアーチ型の門で,雰囲気はほとんど城門。
というか…ちょっと物珍しい場所かな,と寄った迂闊さに慌てる。こんな都市のど真ん中に,この物々しい雰囲気はあまりに異様でした。
これは…本当に城門なんじゃないか!?
ただ,城門だったとしてもそれは今ではないらしく,特に管理人のチェックとか通行料とかはない。
入り口はここしかないから,物盗りに襲われたら逃げにくそう。あんまり人の気配もないし,警戒しつつ中へ。
奥に10本,幅2mない細い路地が横に続き,縦道は5本。両脇に3階建ての古めかしい家屋が連なる。薄暗い空間だけど,生活の匂いはあり時々中から音はするし,往来もある。
城壁は5mほどか。高さは10m近い。これに兵がこもれば,攻めるには本格的な攻城用具が必要だろう。地図ではすぐ西に「西―」って同様の方城があり,連携通路があるかと思ったが,そういう装置は見受けられない。完全に独立した要塞を形成してる。
入り口に戻る。アーチ型の中ほどには祭壇がある。関廟らしい。対面の壁面には掲示板がある。祭壇の収支報告(計24,047HK$)や巡回医の休診日などが掲示されてる。ワイの自治体制があるわけです。
で?
城門を出て,ワイを振り返りつつ,思いいたる。
ここは一体…何だ?
中央に内城も御殿もないから,政治権力の防衛装置じゃない。
するとこれは――自身の生命財産を守るために,ワイの住民が自ら企図して自ら構築した――純粋な民間軍事施設?
ウェブに情報はないが,恐らく対海賊の防御施設だろう。
中国本土の四合院にも防衛装置の色彩はあり,客家土楼になるとより強まるけど,このワイは遥かに本格的な軍事色です。
それだけこの土地,かつては弱肉強食の無法地帯だったってわけだ。
それが香港人の気質の出自なんだろう。西欧が来ようと共産勢力が来ようと,自分の身は自力で守り,生き抜いてやる。そのオーラは,今も街の隅々まで浸透してる。
即ち,殺伐とすら感じられるギラギラとリアルな生存力。
元郎中心街に入る。
住宅地が目立つ屯門に比べて,ここはかなり広い繁華街が形成されてる。大ポみたいなのどかさよりも,チャキチャキした商売気が感じられる。もちろんネイザンロード辺りの怒涛の盛り場じゃないが,地方の中心街の程よい活気がありました。
富麗餅屋というパン屋が賑わってたんで購入。
鶏尾包 3HK$
芝麻肉鬚包 5HK$
Vitasoy麦精豆[女乃]
裏町に入ると途端に落ち着いた空気になる。パティオの緑地があり,賭け中国将棋に興ずる人だかりが数カ所。元郎[火包][イ丈]坊という場所らしい。英語名はYuen Long Pau Cheung Square。砲兵の練兵場か何かの跡か?
心地よい木陰のベンチでバンを貪る。
さて…昼飯の前菜を食い終わったから,次はメインディッシュ…広場周辺をうろつき,ガイドに載ってた国記粥品を発見。
馳名及第粥 17HK$
蝦米腸 7HK$
典型的な大衆食堂を満喫。なかなかの昼飯でした。
軽鉄で元郎を後にする。
西の天逸行き。天水ワイまで乗換えで戻ることになるが,その辺はあんまり考えずに適当に乗りました。
太[堂-土+木]路駅。さっきの繁華街付近にあたる。
康楽路。まだ繁華街の空気。
豊年路。西鉄のもう一つの駅がここから近いらしい表示有。車窓に「元郎天主教中学」なる学校が見える。ミッション系学校?
風景が郊外に変わった辺りで「坑尾村」って見覚えのある駅名が見えたんで下車。閑散とした道路脇,まるっきりホームしかない駅。同じ天逸行きだが天水ワイを通る便は…路線図を見ると751番っぽい。数分待ってやって来た列車に乗り換えて西鉄駅へ。
路線図を見て気づいたが…この辺りの地名は〇〇ワイばっかみたい。軽鉄駅名だけでも天水,水辺,泥,銀と4つもある。駅名になるほど大きなワイだけでこれだけの数あった,と見るべきでしょう。
ワイが機能してた時代。このエリアを通った外来者,例えばウチナンチュ貿易商の目には何が映ったろう?――いくらか畑地にを交えただだっ広い荒野に,幾つもの方形のいかめしい城が連なって続く。商取引の商人がポツポツと行き交う。昼間は多少悪どいけれどワイの住民たちの生計に欠かせない彼らは,夜になると北の海から海賊と化して跋扈する。イタリアみたいな小領主の戦国じゃない,ガバナンスのない無法地帯。ひたすら自主防衛のために自治会が運営する砦には,毎夜,当番の歩哨がおどおどと闇を見透かしながら立つ。
殺伐とした緊張と自由。中国人の「バン」はそういう空間に生まれた組織なんだろう。そして,そのリズムを今も纏った土地が,香港なんじゃないだろか?
その痕跡がこのエリアにだけ残り,ネイザンロードや香港島にないのは,後者が植民地時代以降の新興地だからなんでしょう。ただ,両者の底流は同じ。もっと言えば,大陸中国にもともすれば垣間見せる中国的無秩序のバイタリティとも通じてると思う。王朝交代の度に当たり前にジェノサイドが繰り返されたあの巨大な国と。
佐敦に戻ってきた。
まだギリギリ昼時だったんで…本日も定食を探してみた。
何や,えらいあちこちにあるやんか!?
ネイザンロードの西側に多いようだ。佐敦は観光客エリアと市民の繁華街との境界線に位置すると思うが,香港市民のちょっとお買い物に繰り出して疲れたわねえ客,プラスこの辺りの労働者,どちらもの客層狙いの食堂らしい。
「順徳人 魚米至尊」なる店を選ぶ。客足も多いが,おそらく「順徳」は地名だろうからその誇らし気な名乗りと,食文化哲学的なサブタイトルに惹かれました。――この時もまだ,順徳なる地名は香港のどこかだろうと思ってました。
英語名はFaithful Restaruant(ママ)。注文は
午市速○套餐
A 梅菜或[木覚]角蒸[魚完]魚,木桶飯 36HK$
例湯無し,[女乃]茶付
いい!やっぱり香港定食…って意外にこれまで全然見逃してたなあ。
バックバックをまとめて3つ目の宿,尖沙[ロ且]の美士都大厦,美都賓館へ入る。
フロントは5階だが鴻○と同じ6階の別室になった。エレベーターが大抵コミコミなのがちょっとマイナスポイントだけど,一泊250HK$。まあまあか。
部屋は,面積の2/3以上がベッド,窓付きだが開くとビルの中を縦に続く空気穴みたいな空間。まあこの料金なら…こんなもんでんな。少なし洗濯物の乾く環境では到底ない。
独房にも似たこの空間,文句を言い出せばキリがないんだけど…不思議な,外地でしか味わえない安心感がある。
打ち捨てられ,健全なモノに還った充実感というか…。
この雑居ビル,重慶よりさらに沢山,普通の香港人の方々も当たり前に暮らしてはります。こんな環境が,恐らく香港のごく一般的な暮らしの形。
▲地下鉄車内。何度も書くけど,スリが多いのでこんな写真撮ってちゃいけません。
記憶では確か…尖沙[ロ且]の界隈にもあちこちにランドリーを見かけた気がしたが…どーも見当たらない。今は佐敦の方が生活臭のあるエリアなんだろか?
しかし!!生活臭よりも当面は雑菌臭が問題だ。せめて帰国時の着衣だけでも洗っとかんと,入国させてもらえん恐れすらあろう。明日,佐敦で出そう。
そう言えば,今回は初手からひねくれた香港歩きだったんで,尖沙[ロ且]をまともにうろつくのは初めて。勢いに乗って路地から路地を回ってたら少々疲れた。
ネイザンロードの西側でBarista Caffeってカフェを見つけて一息つく。
特濃珈琲 1.7HK$
西多士(kaya) 23HK$
香港にもこんな店あるんだ…ってゆーよりあまりにも香港離れしたセンスのカフェから出たら,なんか香港コテコテな店に行きたくなった。
今度はネイザンロード東側にさっき見つけてた阿四快餐という店に入る。
日替わり定食
星期四 干炒猪[テヘン+八]炒公[イ子] 34HK$
これだけ食い歩いてやっと実感してるのも迂闊ではありますが…香港の味覚って,ガイドブックはもちろん,わしが感じてるのよりも遥かに,いわゆる中華料理を越えるバリエーションに富んだ料理群なんじゃないか!?
何なんだココは!?剥いても剥いてもドンドン新しい顔が出てくるぞ?