外伝03-FASE3@deflag.utina
リッカ,リッカ,塩せんべいコーイガ,リッカ!

[単語帳]

リッカ:行こう

コーイガ:買いに

 沖縄市から那覇に帰還。
 今日はライカム交差点を右折。…の前に開店時間11時までの調整にプラザハウスのA&W(ウチナンチュは「エンダー」と読む)でルートビアに舌鼓。
 う~ん!やっぱこの抹香臭い薬品味はルートビアのもんだネ!沖縄でモ~虜になっちゃって,タイでもシンガでもそのためにわざわざ出向くほど。何でナイチに進出してくれないんだろ?
 このドス黒い液体は,アル・カポネが暗躍した禁酒法時代のアメリカでビールの代替品として作られた,いわばアメリカ版バービカン。それを未だにエンダーで売ってんのは,わしみたいな中毒者が世界中に出来ちゃってるからなんでしょーね。
 そんで11時。ライカム交差点から右手,1本西側の道沿いにある「だるまそば」へ。迷わず牛汁を注文。
 ここの牛汁は,南部の大里村に並ぶ逸品だと思ってます。
 だから何だよ牛汁って?昨日の山羊汁と同じで,ウチナーの「〇〇汁」はその動物とか部位のスープって感じ。
 他に馬汁,ソーキ汁,中味汁(後述),先述の骨汁とかがある。ナイチでも豚汁だけは通じるよね。ただ,なぜか豚足は足テビチ。ややこしいのは「みそ汁」で,確かに味噌味なんだけど野菜の具がてんこ盛りに入った汁物で,これとご飯で1食になっちゃう。――古典的なウチナーギャグだけど,ナイチャーが沖縄の食堂で「ご飯と味噌汁,それにおかずをお願いします」って注文したら,ライスが3椀と汁物が2椀におかず1皿が机を埋め尽くした…ってのがある。(「おかず」ってメニューにも大抵ライスと汁物が付く)
 それはそーと,このだるまそばはウチナーの家庭的な定食屋の典型。今回の沖縄市では胡屋十字路のミッキーとパークアベニューの次男,さらに胡屋バス停裏のビック大ちゃんが無くなってて,衝撃を受けてた。失業率・経済水準とも日本ワーストの沖縄,不景気なんでしょうね。ボロ食堂さんたちに未来あれ!

 普天間の交差点付近でまた脇道に入り,うろつくこと15分。沖縄の路地裏は異常にゴチャゴチャで,すごく探しにくい。ただ住居表示は結構あるんで番地を頼りに該当エリアをしらみつぶしに回れば何とかなる。
 このお店は前回は見つからなかったんだけど,へっ!ついに見つけたぜ「ふたば食堂」!
 やはり20席程度の上質な地域密着店。「そーきにんにく」を注文。にんにくたっぷりの濃厚味なのに凄く後味アッサリ。上州屋の「ソーキの味噌煮」と同じタイプです。ヘルシーな肉食をちゃんと伝承してるお店でした。

 あ…中途半端だけど,今回使ってる文献紹介しときます。是非これ読んでくれた方にも食べていただきたいし。
1)㈱ジャニスほか「メディアパルムック 新・沖縄のそばと食堂」㈱メディアパル,2007
2)加藤美明ほか「うまいね!沖縄 うちなーの美味500選」㈱誠文堂新光社,2003
3)北村嘉規ほか「おきなわJOHO別冊 ランチRikka」,2008
4)沖縄・奄美スローフード協会「沖縄スローフード」[木世](エイ)出版社,2004
 ――いわゆる旅行ガイドは全くないのに,こーゆー本でリュックはパンパン!重くてたまりましぇん…
 一つだけ触れとくと,4)は食の思想上とても面白かった。長寿県沖縄が2003年に全国中位ランクまで一気に落ちたのを,ウチナンチュはスゴく深刻に受け止めてるらしく,こういう運動が盛り上がったようだ。
 この雑誌でも,基調としてはウチナーの食文化の素晴らしさを強調すると同時に,節々で危機意識が記されてる。
 「スローフードの発信地として注目されている沖縄だが,実はファーストフードの浸透ぶりも国内ではトップクラスである。
 その原因は,やはり27年間のアメリカ統治にある。戦後,国内でいち早くファーストフード店ができたのも沖縄。」
 古いウチナーグチ(沖縄方言)では,ナイチの「御馳走様」の代わりに「クスイナタン」と言うという。「薬になりました」って意味。
 沖縄の食文化状況は,決して全て良しの天国ってわけじゃない。それどころか,ある意味日本一地獄なんだろと思います。あえて刺激的に書くけど――第二次世界大戦と同じ。ナイチでの食の問題がより増幅された形と規模で戦われている激戦地が,ここ沖縄だと思うんですね。
 中国の浙江省の肉の塩漬けやイタリアのバンチェッタに類似したものを,ウチナーでは「スーチカ」と呼び,韓国のキムチみたく各家庭で作ってたらしい。けれど,この食品は現在の沖縄にはない。米軍が持ち込んだ「ポーク」(スパムなどのポークランチョンミート)缶詰めに完全に置き換えられてます。
 この島では,存廃を賭けた文化の衝突が行われといる。まさにその激突の現場にあるわけ。
 これまでに挙げた食堂でも,若い層や肉体労働系の人はルビーのAランチ的なギトギトのファーストフードを頼むことが多いみたい。客観的に厳しく評価すれば――わしが日本一味にウルサいと見てる博多っ子と比べたら,ウチナンチュはまだまだ味覚にこだわりがないと思う。経済水準もあるから責任論は語りにくいけど「手っとり早く食えればいいや」って感覚,つまり現代食文化の最大の病状と言える「ファーストフード感覚」が,ナイチャー並みかそれ以上に染み付いてると感じます。
 そんで。ウチナーホリッカーとして一番書きたくない事だけど…日本一の長寿県時代,ウチナンチュは祖先の優れた食文化に甘えられた。あんなにアメリカナイズが進んでも長寿県たりえたほど,それは優れてたんでしょう。けど,伝統食の崩壊は既に数字に現れてきた。ウチナンチュには,もう新生するしか道がないんです。
 その事を身に染みて理解してるからこその,スローフード運動です。食の領域以外でも,例えば音楽活動でも構図は一緒と思う。
 新世紀のウチナンチュは,優れて典型的なナイチャーとも言える。

 夜は公設市場付近の「花笠食堂」を目指すも,また見つからず。国際通りから市場へのアーケード街は,奥の方が妙に入り組んでて未だに迷ってしまう。常宿の三和荘から壺屋から開南に出る辺りね。なもんで,割と有名なこのお店にはフラれっ放しでまだ入ったことがない。
 結局,常連のお店にしました。三越の南側の裏通りの奥にある「むつみ」って店。場所が場所だけにご存知の方も多いのでは?特に昼はウチナンチュの買い物客で埋まる店です。
 わしもここは初めての沖縄旅行の頃からほぼ毎回お世話になってます。なぜか最近は中味汁定食にハマってまして,今回もつい頼んでしまいました。
 中味ってのは,露骨に内蔵肉のこと。おそらく,他と同じく昆布ダシのベースだけどショウガをたっぷり入れ,椎茸と内蔵肉の煮汁を際だたせてる。古い中華料理や回族料理(清真料理),長崎とか八幡浜のチャンポンにも通じる内蔵肉の煮込み文化の流れを汲んでるものと思う。
 具は内蔵肉と椎茸のほか,コンニャクが入ってる。…やっぱり美味い。染み渡る。
 亭主と馴染みっぽい客が「正月の宴会で中味汁たくさん作ってさー」とか打ち合わせてた。牛汁と同様,この中味汁も元々祝いの席の料理みたい。