外伝03-FASE7@deflag.utina
ワカランワカランしないでヨンナー食べなさい!

[単語帳]

ワカラン:我先にと争う様

ヨンナー:ゆっくり

 寝不足じゃ。那覇まで来て朝3時までマーカー片手に読書しまくってるわしってどうよ?
 だって面白いんであります!佐野真一「沖縄 誰にも書かれたくなかった戦後史」。まだ前半しかこなしてないけど――終戦から朝鮮戦争までの短期間,国際通り並みの賑わいを見せた密貿易の都・与論島。安価な労働力として沖縄に利用しつくされた挙げ句に段階的復帰時に公職追放され,「おおしま小(ぐわー)」と差別された奄美人たち。米軍物質の横流しと強奪を公然と行ってた「戦果アギヤー」と,ナショナリズムから俄かに興隆した琉球空手。両者を源流に結成された暴力団・コザ派と那覇派,「いくさ世」(戦国時代)とまで呼ばれた両者間,そしてその内部分裂による手榴弾やカービン銃当たり前の5回の抗争。
 ここは「美ら(ちゅら)島」なんぞじゃない。血と怨念の島なわけサア。改めてウチナンチュの背負ったそれらの重さを突き付けられました。
 遠い話じゃない。よく買い物をするダイエーは,オーストラリア種の小牛を沖縄で育てる新ルートで入れた安い牛肉を最大の武器に全国展開した。
 驚いたのは――えッ?初日からハマってる紅芋クッキーのJimmy’sまでが登場しちゃってるぞ!?
 Jimmy’sの「ジミー」ってのは初代社長のニックネームで,基地で働いてた時に米軍兵士につけられた名らしい。
 やがて,1953年,大宜味村で米軍給与の移送車を狙った現金強奪事件が発生。犯人は現在の貨幣で1億円近くを奪った。後日4人の犯人が逮捕され重刑に問われたが,背後関係は佐野氏が探る限り,当時の「戦果」のボスやその後政治家になった者などを含む極めて深い不透明さが残る事件で,その関係者の中にジミーの名も登場。
 ジミーは軍を去り雑貨屋を起業。やがてアップルパイで大当たりし,現在沖縄最大手のブランド化,2008年には全国菓子博覧会で金賞受賞。
 こんなレポが延々織りなされてく。とにかくリアリティがスゴい!ステレオタイプの南国の聖地沖縄って画像が吹っ飛んで,この土地の重さを苦く痛感する1冊。他の数多ある浮わついた沖縄本とは完全に別次元。

 それでも11時には出動しました。ゆいレールで小禄駅へ。
 併設でジャスコ有。上質な住宅街。豆腐屋食堂の山下町から空港手前の赤嶺まで,こーゆー日常風景が続く。
 一度散策してみたかったエリアでした。年中無休を謳うカフェが結構あるのに昨日気付いて来てみたわけサア。
 小禄駅から歩いてすぐ,金城5丁目の「Cafe511」へ。一軒家のオシャレな感じのカフェでした。
 肉料理のランチを頼んでみる。「ポークソテー野菜の和風粒マスタードソース」ってフランス料理臭い表示。1,260円と値は張る。メイン以外はサラダバーなどからのバイキングで,高級店か何だか分からんカテゴリー不明のお店だけど…予約席表示も多くて,まあ沖縄オシャレ的には人気店らしい。
 その雰囲気から予想できたけど,味はそこそこ。ただ唯一,ソテーの隠し味のハーブにぴくんと来た。
 これ…この香ばしい苦味がポークにバッチリ合ってんだけど,何だろ?ニラでも東南アジアのバクチー(コリアンダー)でもない。
 舌のメモリーを検索すると…あ…南山の山羊汁!ふーちばーだ!
 ヤマトグチ(日本語)で言うヨモギ。それをたまらなく美味いと感じてる自分に驚きました。だって…ヨモギだぞ!?

 赤嶺駅方向へ少し歩いて発見したのは「自然回帰健康バイキングわだや菜」。
 ランチバイキング1,050円也。30種類の謳い。さて行ってみよう!
 全体的にハイレベル。豚肉と根菜の煮物は三枚肉ゴロゴロでなかなかイケてたし,さつまいものレモン煮も刮目の新味。
 スイーツも良し。「田芋りんがく」ってゆー芋の練り物はネットリした渋い甘味が最高。紅芋プリンは抹茶ソースがかかってて絶妙だし,初めて飲んだ月桃茶って沖縄特産のハーブティーの誇り高い漢方臭は――帰りに国際通りでモノを探し回ったほど。夜は宿でこればっかガバガバ飲んでました。
 沖縄フードって工夫すればまだまだ射程距離は広がると思う。パパイヤの和えものがあったけど,これならもう一ひねりしてソムタム作ればいいのに…とか「惜しい!」と叫びたくなることしきり。――ってくらい,逆に言えばこの店はイイ線行ってます!
 ただし!何だかんだ言っておかわりまでしてたのは,フーチバーとうっちん飯。――なんでヨモギなんかがこんなに美味くて美味くてたまらんのだ!?一切調理してないただのヨモギの葉っぱだぞ!?わしの舌,どうかしちゃったんじゃないか?ってくらい,ふーちばーとうっちん飯(これもただの黄色いご飯なのに!)がとろけるようなんです!!
 日本の空き地で,一心不乱にヨモギを摘み取る奴を見かけたら,それはわしかもしれません…温かい目で見守りつつ,そっと窓を閉めてあげましょう。

 すぐ南の「健康食彩レストランだいこんの花」へ。
 腹がはちきれそう…満席でホッとした。後日にしよう。
 赤嶺駅からおもろまち駅へ移動。メインプレイスの北側エリアは,若干の企業も入ってるけど主には住宅街になってるみたい。
 「誰にも…」によると,この新都心エリアはかつての米軍住宅地跡を20年かけて整地したものらしい。東アジアの緊張緩和による今後の返還が,一朝一夕に沖縄経済の足腰強化に繋がるわけじゃない。歴史の負債は重い。
 ほどなく目当ての沖縄食堂「島菜」を発見。元旦のみ休みで営業してる使える店でした。3時だってのに店内はかなりの混雑振り。これは…期待できるゾオ!
 なかなか注文取りに来ないんで壁のメニューをメモってみる。沖縄そば,中味汁,煮付け,みそ汁,いなむるち,豆腐ちゃんぷる,ゆしどうふ,ちゃんぽん,野菜炒め,ふーちゃんぷる,くふぁじゅーしー,てびち。うーん。見事にナイチャーには意味不明の立派なウチナー食堂でありますな!
 「ふーちばーじゅーしー」をオーダーする。煮付け付。じゅーしーは初めてだったし,実はそれって何か理解してなかったんだけど,とにかくふーちばーが入ってるってだけで条件反射的に飛び付いちゃう。完全なジャンキーだな。
 しばし待ってから。
 店員「お待たせしました!ふーちばーじゅーしーですね」
 おッ,来た来た…蓋付きの大振りの鍋と煮付けの小皿。あれれ?
 わし「あの,これご飯付かないんですか」
 店員「…」
 にこやかだった店員さんのチャーミングな笑顔が,一瞬にして嘲りにひきつっちゃう。
 店員「こ…これがご飯ですが」
 そうだ…じゅーしーって確か雑炊のことだったっけ。
 わし「あ…ああ,そうでした…」
 だ…誰にだって初めてはあるものさ。あははは…
 周囲のウチナンチュが激しいツッコミの心の声を意識しつつ食した,初体験のふーちばーじゅーしー。
 粥に溶け出したヨモギのエキスが,無性にほろ苦くて,それが濃厚な昆布出汁と肉汁に絡み合って…これは…これは最高だぎゃあ!
 も~ヨモギさえありゃ何も要らんぞ~!!…って,やっぱわしの舌は病気なんでしょーか!?どうなんでしょうか,先生?


▲おまけ:名護の謎の看板「卓球ショップ」。覗いてみたらただの雑貨店。対面の学校の卓球部への声援なんだって。