外伝06@(@_04_@) 麺 (@_04_@)

 台湾の牛肉麺と言えば,最近はかなり名物として定着してきたね。
 「台北国際牛肉麺節」(台北国際牛肉麺フェスティバル)なんてのまで開催されちゃってわしに黙って大変なことになってきとるみたいなんで,一応かじったろかい!ってことで。
 正直――舌が変わった今回はあんま,牛肉麺には意気込みナッシング…だったんだけど…コレはコレで色々あったのよん。

 2日目,隻連駅近くの老薫牛肉細粉麺店へ。件のフェスで優勝した店らしい。
牛肝油豆腐細粉(130元)
 あえて麺は北方系の小麦粉麺じゃなく,南方系の米粉(ビーフン)にした。店名からこっちが得手かな…と推測したわけ。
 ちなみに写真入りメニューでは最上段に,通常の小麦粉麺がトマトと牛肉入りで掲載されてる。ただし客が書く形式の注文シートでは米粉が最上段。
 来た。
 う~ん…かつて通った今は亡き小北門西の牛肉麺ストリートでハシゴした味が脳裏に走馬灯のように蘇るのじゃ…(死ぬのか?)少なし肉汁の凶暴さは同レベルだな!やっぱイイ線行ってるじゃん!
 しかしこの味は…漢方スパイス?ソボロ玉子のようにかかってる針生姜?とにかく凶暴な一方で,整然とコスモスを構成してる。美しい味覚です。


▲老薫牛肉細麺店(隻連店)の牛肉細麺

 どっちもは食ってないんで比較は出来んけども,結果的にビーフンはイケた。ビーフンそのものがプリプリのムチムチだし,これに先ほどの牛のスープが吸い込まれて…こりゃ不味いわきゃないわな!
 牛肝(「干」の字はホントは逆さまの「土」)は内蔵の薄切りみたいな肉で,油豆腐は油揚げ。この2つがビーフンの上にたっぷり載っかってて,これがまた美味い!
 全体のカロリーは,ただ凶暴なだけの牛肉麺より低いはず。なのに食い応えはあるし,コスモスに酔える。これは確かにお値打ちな一品!

 2日目,忠孝敦化北の160巷を少し入ったとこにある「新ジャン野宴」へ。
 照明をあえて暗くした座敷と言うより土間が,かなり広々と取ってある。昼間は土日しか営業してないから,基本的に夜の店らしい。
 涼[シ半]皮牙子という肉サラダと[テヘン+爪]飯という炊き込みご飯めいたものを頼んでみる。…ラー椒(クミン)はよくキイてるし,羊肉が美味かったけど,料理として目を見はるよなもんじゃない。
 酒を飲むなら雰囲気はいい。テーブルに肉を焼く設備はあるし,雑誌でもかなり取り上げられてる。
 ただ,台湾人が今やたら好きな「野趣」ブームに乗っかってるのは否めない。ヨーロッパでゴーギャンが南の島に憧れたアレです。
 牛肉麺は元々は西域の料理で,大陸では蘭州名物。台湾で牛肉麺が流行ってんなら西域料理もイケるかも…と期待してみたんだけど。
 民族主義者が何度となく共産党に反乱してる新ジャンから,ひょっとしたら相当数のウイグル系の人たちが台湾に逃げ延びてきてて,それが台湾で牛肉麺が勃興してる背景かなとも夢想してたのね…でもどーも,台湾の牛肉麺は西域とは別の血脈で生成された料理みたいです。
 純粋に,西域の文化に触れたいならやっぱ西安以西へ行くしかないみたいのかなあ…とか次の旅行の口実を無意識に探ってる危険なボク。

 5日目,南京東路の四平街市場内の富覇王。
 豚足が美味い!と聞いて,牛肉麺の凶暴な肉に勝るのが食えるかと期待しちゃって立ち寄ってみましたんです。
 市場の中のゴチャゴチャな場所。だけど台北の住所がどーにか理解できてきたんで何とかなった。
 要は――京都式の道路視点の表示みたいね。〇〇路□段△△号って場合,段までが道を意味し,後は番号順。同じ側には偶数か奇数が並ぶことが多いようだ。道沿い以外は〇〇路□段▲▲巷△△号と表示するけど,これは〇〇路□段▲▲号から入る路地って位置関係になるらしい。
 長くなったけど,この店は豚足煮込みの店。店頭の鍋からバンバン豚足が出て行く様は壮観。
 でも長くなったわりに…大したもんじゃなかったなあ。
 あッ…もちろん九州以北のナイチャーの町には有り得ないほど美味いのよ。けども…那覇港の嶺吉食堂のテビチやグランド食堂の骨汁とか,沖縄を超える域には達してないってこと。
 ちなみに。ここの「魯肉飯」は,豚足の煮汁をぶっかけただけ。言っちゃ悪いけど…もう努力をせずに昔の有名を食いつぶしてるタイプの典型的な店ね。


▲好記担[イ子]麺の好[口乞]豆腐と担子麺

 8日目,吉林路の好記担[イ子]麺。
 歩き方には食堂紹介のトップに挙がってる超有名店。まあ牛肉麺以外の麺も一回食うたろかいってことで。
好記担[イ子]麺 35元
好記豆腐 120元
 まあ日本人好みの味ではある。あるけど,そんなに感動的なもんじゅなかった。ふにゃっととろける麺は,コシでは大陸のもんだし,薄い琥珀色のダシは,それなら日本のラーメン屋の方が秀でてる。台湾駐在員が日本の味を懐かしむならいいのかもね。
 ただ,これが日に何千杯も出るってんだから…台湾人の味覚もこーゆー嗜好もあんだなあ…とちょっと驚きはした。味干ラーメンとか日本のラーメン屋が流行るのも分かる気がしました。


▲西門街の老薫牛肉細麺本店の紅焼半筋半肉油豆腐細粉

 9日目,最終日。再び老薫牛肉細粉麺店。こんどは西門の総店へ行ってみました。
紅焼半筋半肉油豆腐細粉 210元
 ルー味を知った後なんで,味の再確認をしたかったわけ。
 !
 1日目と似たよな味かどーかはもう判断つかない。それだけ舌が変わってしまったからです。具体的にはルー味を覚えてしまったから。
 この牛肉麺って…実はルー味そのものだったんだ。何で気付かなかったのか,分厚い漢方スパイスの香りがこの料理の味覚の核心にある。牛肉の肉汁に拮抗するほど強いルー味のコラボレーションで,この台湾独自の味は構成されてる。大陸蘭州の元々の牛肉麺が,元々そうだったのかどうかは不明だけど。
 と言うより――この旅行の後半に買い込んだ料理本によるとルー味の種類には確かに「紅焼滷味」っていうのがある。正確には,肉汁にルー味を混ぜてるわけではない。牛肉で作ったルー味なのよ。狭義のルー味は,つまり屋台でルー味として売ってる味は鴨肉か何かで取ってるらしいから,牛肉で取るのはルー味としてはマイナーなんでしょう。ただ,本当は紅焼滷味を使った料理は牛肉麺以外にも,わしが出会えてないだけで,おそらく存在するはずです。
 例えば,富覇王の豚足も思い起こせば紅焼滷味の煮込みだったと思う。沖縄のテビチと違うのは当たり前。全く異なる調理の世界の食い物だったんだから。
 今回,牛肉麺そのものは老薫でしか食ってない。牛肉麺について,新たに学んだのはこの一点だけでした。
 でも長年の謎が解けた気がしてます。日本であの味を再現しようと,どんな牛肉をいくら煮込んでもダメだった理由が。どんなコッテリ牛肉スープも,それはルー味じゃなかったんだから再現できるはずがなかったのね。