外伝02-2전라도:《第二次最終日》スンドゥブの日

 最終日前日の夜のお話,も少し続きます。


▲釜山西面 路地裏の雑踏にて

 韓国の街にあるけど日本から消滅しちゃったもの──湯気。
 藤原新也が書いてたな。
 釜山西面のデジクッパブ通り,さらにその南に連なる屋台の列を見てると,改めてその感を強くします。
 盛り場の湯気は,生身の食い物との距離感の証。客席から見えない厨房が増えた日本の風景との,それが違いです。
 居並ぶおでん屋台に混じってハンバーグ売ってる店を見つける。「ボッカルビ」ってハングル表記。客足も多そうだし買ってみた。


▲西面屋台のボッカルビとParisBaggeteeのパン

 台湾以来,すっかり海外の変な日本語マニアです。
 西面の日本語,日本人の多さゆえか表記としては正確。…なんだけど微妙なズレが笑わせてくれます。


▲釜山西面 りんかくせいけいげか
 あえて平仮名?にしても…それ日本語で書いて客は増えるのか?


▲釜山西面 本格焼鳥屋「火の将軍」
 このネーミングで,ガンガンにロッキーのテーマ流してる。このプンプンの臭さ,韓国らしいね!

 食い物なのか?石鹸みたいな白の塊を爺さんがノミで器用に小さく割ってました。
 昼間の釜山大学前で。ハングル表記は「ウルルンド ホバクヨス」。
 W2500でワンパック。…完全に未確認物体だけど,250円だしバックに入る大きさだからとにかく買ってみる。


▲釜山大学前で購入した「ウルルンド ホバクヨス」

 ボッカルビとParisBaggeteeのパン,それにこの白い塊。これが,最終夜のモーテルの机に並びました。
 問題のホバクヨス,やはり食べ物でした。白い水飴。屋外では硬そうだったのに,常温ではすぐ溶けてねっとりゲル状。サイコロ状の塊同士が繋がっちゃったりしてモノスゴく食いにくい!
 でも,甘味はそんなにしつこくないのにふっくらした味で…食い始めると止まらなくなりました。
 PARISのパンはやはりスイーツとして最高!
 そんでボッカルビ!異常に旨い!韓国ロッテリアのカルビバーガーにハマってた時期があるけど,あんな感じのポロポロとがっちりした歯応えと染み出る肉汁の荒っぽさが,ハンバーグとは思えない力強さ。
 韓国もまた…ガイドブックにない隠し技がまだまだ多そう!
 その夜はアームウォーマーで暖ったかく熟睡。釜山大学辺りで2本購入したんよ。W8000で結構いいのがゲットできたけど…どーも韓国,日本以上に女子の衣類…つまり「軟弱な」衣類らしくて,かなりマジマジ見られながらレジを済ませました。


▲釜山国際市場 なぜか「ぽんちゃん」

 てことでやっと最終日のお話です。
 朝一番,ビートルの出る国際港まで歩ける中央洞駅に降り,コインロッカーにリュックを収めてから行動開始。
 日本のとほぼ同じコイン式のと暗唱番号発行式が駅などに相当数ありますけど,韓国は後者の方が目立つ。
 中央洞のはコイン式だったけど,使ってみるとマイナーな理由は明白でした。使用料はW1000。なのにメイン硬貨がW100だから10枚投入しなきゃならん。普通そんなに持ってねーよ!
 南鋪道へ。既に懐かしさを感じる界隈です。
 そー言えば。減量を思い立った旅行で初めて行ったんだよな,国際市場奥手のトルゴレ。
 開店間際で,いつも満席に近い店内にも,流石に客も少ない。
 いつものよにスンドゥブベクバンW3000を注文。──昨日の西面スンドゥブで止まらなくなって,勢いで来ちゃったわけです…。


▲釜山国際市場奥 トルゴレのスンドゥブベクバン

 初めて撮影可能な状態だったから配膳解説します。
① ② ③
 ④ ⑤
①ベチュキムチ
②ハンペンみたいなののキムチ。これここでしか食ったことないな。
③ワカメと人参のほの甘いスープ
④スンドゥブ
⑤金盥に大盛パブ
 昨日の西面もそーだったけど,この金盥の無闇な大きさは…?クッバブじゃなくスンドゥブの方をかけるの?
「ベクバン」ってのはぶっかけ飯みたいな語感か?今までスンドゥブの小さな土鍋にパブ入れて得意気に食ってたけど…「またチョッパリがあんな小鍋にご飯詰め込んじゃって…」的な光景だった?
 まあそんなことは忘れて…スンドゥブじゃ!
 西面のも確かに旨かった。しかしこれ…豆腐の香りが尋常じゃない!それも,むせかえるって感じじゃなく,抵抗感なしにパーッと広がって所構わず浸透してくよな無敵なふくよかさ。とろみは西面ほどじゃなく,割とシッカリ歯応えがある。味覚としても豆臭さがズッシリ来る。つまり──西面のは杏仁豆腐的なスイーツ。日本で流行りのスンドゥブと言われるものも同じで,吹けば飛ぶよな軽い味。それがウケのいー理由だろけど,トルゴレのはチャンとメシで,唐辛子もよくキイてて…。
 と考えてるうちに気付いた。このコチュジャンも…辛みがスゴく深い?後味がジャミングするとゆーか口の中で乱反射して来るぞ?──この店のもう一つの品はナクチボックム。なるほど!このコチュジャンあってこそのナクチであり,スンドゥブなんだな。
 しかしチョングッチャンといいこのスンドゥブといい…軽い食材の料理をガッツリした食後感に仕立てる技術には,コリアン料理,目を見張るものがある。ってことは,要はダイエット向けってこと?
 トルゴレを知った直後から体重半減を始めたって経緯,結構因果関係あったりして。


▲釜山トルゴレのスンドゥブベクバンどアップ

 韓国,割と朝からやってる店多くて助かります。
 結局この最終日,午前中に3軒回りました。2軒目は国際市場西側,ヨジョンサムゲタン。参鶏湯の専門店です。
 定番グルメ。今の舌がどう味わえるか?
 サムゲタンW11000。


▲釜山国際市場 ヨジョンサムゲタン

 他にメクジュ,ソジュ各W3000,ウムリョスW1000,ダルトゥリタン小W2000,大W25000ってメニューがありました。訳分からんけど…「ジュ」ってのは中国語読みで「酒」か?
 にしてもオッサン!ポケットに手を入れたまま配膳するのはちょっとどーかと思うぞ!!
 でも美味けりゃいい!この湯…何て清らかな味覚!!
 鶏の出汁が相当脂ギッシュではあるんだけど。漢方味がそれをうまく中和させて豚骨並みのコクを残しつつもスッキリと透き通ったスープを完成させてる。この後味の透明感!!わしの少ないサムゲタン体験中では間違いなくベスト!
 棗と牛蒡みたいの…恐らく朝鮮人参がホールで入ってる。これと鶏肉の白湯が味を構成してるらしいけど,とても元の味を想像できん複合味。
 白酒みたいなスピリット酒が白磁の徳利で付いて来る。前に参鶏湯食った時も出て来たと思う。なぜか外せないセットらしい。


▲参鶏湯つながりで──釜山西面 状況キノコのサムゲタン
 …どゆこと?推測すらできません…。

 流石に…CD屋は早朝には開いてません。
 韓国のポップスにハマったことがあってCDをわんさか買い込んで帰ってた時期がある。Boaにノメッた翌年,日本で聞いてビックリした。「あれ!?この人なんで日本語で歌ってんの?」
 南鋪道はCD屋多いんでドバッと買おと思ってましたが…今回は全く買えなかった。釜山は…完全に食い倒れに終始してしまいました。
 もっともネット化が進展しつくしたこの国,既にCD屋なんて半分は観光客土産にしかなってない感じはあります。


▲定番アングルですが…懐かしき釜山チャガルチ市場の小景

 地下鉄車内販売,そんなに売れるの?
 東莱への地下鉄車内,今度はCDらしい。Golden Pop collection,W10000也。
 スピーカー付きのカートを引きずって乗り込んできて,口上なしでいきなり車内でガンガン鳴らし始めた。値段を書いた赤札を掲げて客席を見回して無言でクルクル回ってます。
 流石に誰も買わん。
 3曲流した後,激しい口上を5分ほど炸裂。
 やっぱり誰も買わない。
 また鳴らし始めた。今度は曲付きで歩き回ってます。
 誰も買わない。
 曲を鳴らしながらカートを引きずって,他の車両へと移って行きました。
 ええ~!!入れ替わりで二人目!?今度は万年筆売り。W2000で黒赤2本セットらしいけど…何で買うんだ対面のオバサン?しかも…今度はやたら売れ行き良いぞ?3人位連続購入?
 ひょっとして釜山っ子──「いやあ!これ地下鉄でたまたま売ってたボールペンだけどお,結構いーの!」または「全然ダメ!3日で書けなくなっちゃった!!」みたいなギャンブルチックな感覚が好きなの?


▲釜山東莱 ナクチポックム

 帰りのビートルは1時半発なのです。
 初めて降りた東莱駅から結構迷ってウォンジョ(元祖)チョバンナクチにたどり着いた頃,時計の針は11時に近づいてした。
 迷うことなくナクチポックムW6000。やはり釜山でナクチを外すと辛いでしょ!
 右隣は日本人のご夫婦でした。
奥様「どーしたの!?辛かった?」
旦那「うん…オレ…これもうダメ」
 いーなあやっぱ!!釜山やソウルに多い,こーゆー初めて韓国に来ましたッ!的な観光客。
 いや…かなり辛さは控え目だと思う。凡一洞のあの人気店は辛かったし,ソウルはもっと直接的な辛さ。
 そーゆー意味ではここのはまさに釜山のナクチ。
奥様「この微妙な甘辛さが出せないのよね~」
 奥様の味覚は正しそうね。この甘味は,いくらか砂糖やミリンは使ってあるにしても,基本的にはタコから出てるみたい。つけ合わせのチャンジャもそうだったけど…タコの身を噛み締めてくと生臭さと紙一重なスゴい甘味が出てる。
 この甘味,タコに絡まってる春雨に吸い込まれて…この春雨だけでご飯が進む。タコ本体より強い甘味が凝縮してる。
奥様「コチュジャンって甘いじゃん。豆板醤みたいに辛いだけじゃないでしょ?」
旦那「…」(頷きかねてる)
 …別れるなこりゃ。舌の切れ目は縁の切れ目みたいな。
奥様「南鋪道より先にこっちへ来るべきだよお!あそこのは甘過ぎるんだもん」
旦那「…」
 危ない!首を振りかけてるけど…ダメだ首降っちゃ!博多港離婚しちゃうぞ!!

 次の駅の車内放送が自然に聞き取れるようになってきました。
 地下鉄・中央洞駅の改札を出た時──ゲゲッ!!既に12時回ってる!?
 リュックを引きずり出して港へ早足。
 徒歩10分でした。
 カウンターはあんまり慌てた雰囲気じゃないし,イミグレ入場開始も1時間前みたいだから…単に通過だけなら1時間前でも何とかなった雰囲気?あと20分は遅れても良かった…残念!

 しっかし──改めて今回思ったのは。
 この半島南部,イタリア並みに食文化の元気な土地やなあ。
 震撼したと言ってもいい。いわゆるコリアン・フードの領域の広さもこれほどと思わなんだ。
 チョングッチャンからナクチポックムまでのコリアンの広がりが,野菜の焚合せからすき焼きまでの純和食の広がりと比べてどの位広大か?
 確かに,トンカツやカレーライスなんかの和製ジャンクは,日本食の発達度はスゴい。でもその類いまで含めるなら,韓国はプテチゲからボッカルビまであるぞ?
 今回さらに驚いたのは,伝統食が元気な一方でポップ食も独自の進化を遂げてる点。特に入れ込んだのはカフェ。エスプレソでは旨さはもちろん韓国テイストと呼べる独自なものになってるし,快適さと店内空間の多彩さには圧倒された。
 独自のチェーンがいっぱいあんの。日本のチェーンは大抵外国のだよね?それに「本場と違って何が悪い?旨けりゃいーじゃん!」みたいな開き直りがない。近畿の一部にはあるけど…。
 典型的なのがパン屋。平均的には旨くないんだけど,Parisみたいな独自テイスト店にガンガン客が入ってる。
 その背景にひしひしと感じるのは──今,日本人は韓国人ほど自分たちの舌に自信を持ててないんだと思う。だからカロリーやら無農薬やらと別の物差しの世界で騒いでるんだと感じます。
 美味に対する貪欲さ。食生活を健全にする鍵って,それだけの事だと思います。