外伝02-2전라도:《第二次5日目》チョングッチャンの日

 深夜の麗水はまばらな赤色灯のみが灯る闇。
 5時にモーテルを出た。釜山を実質1日半に切り詰めたから,今日は時間を最大活用したかった。6時麗水発なら9時過ぎには釜山のはず。
 停留所に来たバスの運ちゃんに「トミノル・ロ?」と聞くと,ちゃんと通じて頷いてくれた。値段は分からんから,適当にW1000札を投函して座席へ。バスターミナルって発音は正しいらしいから,後は車内放送に全力集中。
 …何とか降りれた。
 昨日からやたら頻尿気味。大減量の後遺症の一つです。トイレで最後の一滴まで絞り出してから乗車。…やっぱり車内にトイレがねー!ソファ席のかなり上等なバスなのに…。
 6時ジャストの便で麗水を発つ。
 International Exposion Yeosu 2012って英語の表示があちこちにある。やっぱ…ここで真面目にエキスポなんじゃのー。
 あと,教会が結構電飾してて夜の街ではギンギンに目立ってました。
 麗水の次の街,明け方見ると一層煙だらけ。真っ赤な灯りに映えてて火事がと思った程。この街,全体が工場で埋め尽くされてるらしい。


▲釜山老鋪道BTで朝からおでんを食う人々

 うおお~!死ぬかと思ったずら!
 8時29分プサン長距離バスターミナル着。って2時間半かからんかった?歩き方にゃ3時間10分って書かれてんのに?
 麗水BTで緑色と赤色の時刻表に分かれてた。赤色のにはDirectと書かれてて便が多いからそちらに乗った。W18700とかなり値は張った──ってことで,つまり速いバスだったらしい。
 そんで何が死にそーだったかってーと…。
 朝早かったんで,大人しく眠ってましたところ──突然パッチリ目が覚めたのは7時半。何で起きたのか,自分でもしばし理解不能。
 しょ…ションベンしてえ…。
 バスは真面目にダイレクト。途中休憩もなし…あ~もー止まってくれりゃプサンでもどこでも良かったね!!
 永遠のよに長~い1時間──
 釜山着。バスを飛び出し便所へダッシュ!!
 …してたら,突如!お姉ちゃんが日本語で呼びとめる。
 「こんにちは!」「あなたの幸福についてお話を…」
 悪いけど──当方,現在ちょ~っとスクランブルかかってまして…シューキョーに構ってる余裕なしッ!
 脱力~。
 放心状態のまま西面へ移動。ロッテ百貨店裏通りのモーテル街に荷を下ろす。コリアナモーテル,W40000。ちょい高いけど基地としては場所最高。
 今回の韓国,5泊全部モーテルでした。


▲釜山 ハナバンの五味茶

 さ~あ。朝10時前,いきなりヘナヘナです。
 気力の立て直しじゃ!モーテル街すぐの韓国伝統茶専門店,ハナバンへ。
 五味茶W4500を頼んでみました。
 メニューを指差すと店のおばちゃん物静かに「ゴミチャ?」と確認。日本読みそのまんまの発音らしい。「ホット?」って聞くから頷く。
 薄紫と薄茶の全席ソファ席。窓際に植木がずらり並ぶ。雰囲気よい。落ち着ける。
 五味茶は色は紅茶そっくり。でも味は意外に濃く,棗が主体で酸味がかった甘酸っぱさ。後味にはもう少し幅が広い爽やかさが残ってくる。酸味も棗のシングルよりやや複雑にジャミングする。あと4つが何かはわしの韓国茶経験値の低さじゃ探り当てにくい。けど,柑橘系の何か,この少し痺れるような感じはおそらく…ゆずだろうか?
 棗とこの柑橘が最初舌を刺す強さなのに,最後には漢方味めいた複雑なまろやかさに落ち着く感じは──面白い!
 店を出てから,後味の良さに気づく。胃からこみ上げて来るとゆーより,舌と喉から味覚のエコーが返ってくるような感覚。複雑な華やかな香り。この段ではどっちかってゆーと柑橘系の方がメインで棗は引き立て役に回ってる。
 柔らかな土臭さ!
 ハナバンおばさんの人あたりの「薄さ」といい…こんな感覚が,港町チャキチャキ,生き馬の目を抜く釜山っ子たち,しかもその中でも一番騒々しい西面のド真ん中に──ぽつねんと在る。
 これまでの釜山イメージと,酷くシンメトリックな手触りから,今回の短い釜山滞在は始まりました。


▲釜山大学前 「おきなわのゆめ」略して「おきゆめ」
 その略は誰のため?

 釜山名物なのか?地下鉄車内の物売り。
 さっき老鋪道からの車内にも出没したぞ?いつの間にか乗り込んできて,大声で口上をまくしたてたかと思ったら数分で別車両に移ってく。
 今度のオッサンは,手袋みたい。黒いのを一種類だけ。「…そんなん誰が買うねん!!」と思ってたら…なぜか結構みんな買ってます。この手袋も車両内の50人位の中で3人お買い上げ。
 何で?
 釜山市庁で降りる。ここ,釜山市役所の総合庁舎みたいなとこらしいです。20階位の高層ビルで,地下鉄改札から地下に直接繋がってました。
 南へ徒歩5分。市場めいたドヤドヤの区画の角地に,ちょっと入り辛い香ばしい居酒屋って感じの店を発見。
 チャンスヨンヤンタン。看板メニューのヨンヤンタンはW7000。
 ところで──行きのビートル船内で映画をやってました。「犬と私の10の約束」って少女とワンちゃんの愛情を描いたほのぼの話で,最後に犬のソックスが死ぬ段はなかなかホロリとしちゃいます。やっぱワンちゃんって人間の友達だよね。
 さて話は戻りますけど。ヨンヤンタンってのは,つまり犬肉スープです。


▲釜山 チャンスヨンヤンタンのヨンヤンタン

 沖縄のやぎ肉に似た独特の臭みがあります。でもやぎほど強くない。その代わり全体的に豚耳のよな脂っこさがあります。ただし肉の味自体は鶏肉に似た淡白さ。
 沖縄やぎ料理と同じく薬味に生姜が添えてある。韓国風の薬味に味噌とコチュジャンが付いてるけど,まず生姜だけ入れてみるとますますやぎそっくりに。
 やぎの場合,ここにフーチバー(よもぎ)を入れるけど,この犬にも何かの香草がたっぷりついてきた。よもぎほどの苦味はない。しそほど香りは強くないし,葉っぱの大きさが違う。バクチーみたいな刺激もあるけど,あれほど独特じゃない。
 これを入れると…さらにやぎ汁に似てきた。
 そんなん──冷静に分析するか!?…すみません愛犬家の皆様方!もっと,サラッと言いましょう。
 かなり美味かったです。
 この店の界隈って安い飲み屋街になってるみたい。市庁舎から徒歩5分かからん距離。つまり役人の飲み屋街と推定できる。
 沖縄のやぎと同じで,犬は韓国人の感覚では強精料理らしい。確か…以前はたくさんあったのに外国向けにイメージ悪いから駆逐されたんじゃなかった?
 想像されるのは…役人を常連に付けてたがゆえに,かつての掃討を逃れて存続できた。だから未だに,堂々とワンちゃん頂ける。そーゆー構造か?
 いや…そんなはずない!また食いに来ますので,いつまでも小役人のえこひいきの傘の中,もとい!地道な営業努力で存続して下さるよう切に願ってます。
 市庁から地下鉄に入る階段に「Busan Biennale」って表示がわんさかありました。ワールドカップに次いで,またイベントらしいぞ釜山。
 頑張れ小役人たち!


▲釜山大学駅前の雑踏

 チョングッチャンと聞いてピンと来る日本人は,韓国通ってより映画ファンかも。
 映画HEROでキムタクがやなら食いたがる料理です。やや無理矢理に釜山へ渡ったキムタク,チョングッチャン食おうとしたら松たか子が暴漢にさらわれて…ってシーンでチラッと料理も映ります。
 あのシーンの食堂,いかにも大衆食堂で相席だらけの満席御礼状態。
 本日の目的店・チョングッチャン専門店「民家」(ミンガ)は釜山大学そば。
 完全に昼時朝鮮半島になっちゃったし,さぞかし学生だらけのドワ~って状態…を覚悟してました。
 グルメ本には「釜山大学正門を右手に進んで突き当たり」と書いてあるだけでマップに記述がない。
 で行く。あれ?ないぞ!?別の店に建て替わってる?
 諦めかけてたら,道端に移転表示を発見。でも…もちろん全てハングル!?
 30分は歩き回った。
 あ?…ここ?全くの普通の家じゃん!わしの韓国経験でよく見つかったもんだ。奇跡的…。
 靴を脱いで上がり込む。狭い戸口でまず出くわしたのは──お坊様?
 中の客は,学生が多いみたいだけど…皆さんスゴく礼儀正しい。全員が「チャル・モッケスムニダ」(頂きます)と箸をつける場所なんて…初めて来たぞ?
 要するにここ,単に学生街の人気店なんかじゃない。仏教的なノンヴェジの店だろな。日本の精進料理ってより中国や台湾の粗食に近い。
 そしてこの料理も,韓国のヴェジメニューらしい。
 韓国にもちゃんとあるんだな。


▲民家 チョングッチャン

 チョングッチャンはW4500とかなり良心的。
 だって…350円で12皿だぞ!?
 ① ② ③ ④
⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨
 ⑩  ⑪ ⑫
①大根浅漬け
②ワカメの酢のもの
③ベチュキムチ
④コチュジャン
⑤オレンジ色のポテトサラダみたいな雰囲気の,恐らくおから
⑥キノコ煮物
⑦人参浅漬け
⑧アミ塩辛
⑨サンチュとワカメ。ザルに大盛
⑩ご飯。玄米で,ここのは全羅道的な香ばしい韓国米でした。
 そして──
⑪チョングッチャン。
 最初の一口の印象は薄かった。納豆にちょっとコチュジャン味ってだけ?大したもんじゃないじゃん?
 けど?確かに,確実に納豆なんだけど…?納豆ってこんなサラサラの汁になるもんなの?
 ただサラサラなだけじゃなく,サラッと重い。何か…この奇妙なサラサラ感に段々魅了されていきました。そんで,このサラサラがうっすらと纏う納豆のピュアな臭み…。
 前に納豆カレー作った時には,もっとドロドロのネチャネチャになったど?下拵えで粘りを取ってるの?
 いずれにせよ,納豆本来の香りと臭いだけで食わそうとしてるわけです。
 直球勝負。単純と言えばこんな単純な味覚ない。
 旨いヴェジ料理ってこーゆーのなんだよな~!雑味も強さもない柔らかな逞しさ。台湾素食や南インドのヴェジカリーが無性に思い出される。
⑫米のおも湯。これも単純さに唸る!
 きっとこーゆーのが韓国の味覚の原点なんだと思い起こさせてくれる一食でした…。


▲西面の道端屋台前

 にしてもやりまくってます釜山大学。
 左手には出店の行列。「ジュース&トスト」ってセットとかワッフルとかの昼食屋。右手にはGOOD PLASなるバカデッカい複合店舗が出来てて,バーガー屋,ケンタッキー,コンビニからシネコンまで収まってる。
 日本の大学,ここまでやるか?
 カフェも面白い。AESOP COFFEE,エスプレソW2200。
 かなりいい!苦味のくせこそないけどストッと深みに収まってくる。苦味の幅が広い感じ。
 帰りの地下鉄…今度は座ってる客の膝の上にチラシを配りまくって回収してくデブ女出現。チラシは手書きの文字だけで内容は全然分かんねーけど…インドで恒例の,恐らく募金だろな。
 こーゆー地下鉄車内販売(又は活動),光州でも大田でも見かけたことがない。
 今回つくづく感じる,韓国の地域性,どこがどんなとか論じ得るには余りに経験不足だけど。
 かなり違いがあるんだってことはハッキリ分かりました。


▲凡一洞 カンチャンケジャン

 あ~ナクチポックム満席だよ!
 凡一洞の駅前ロータリーを北へ向かうと,前行ったタコチゲ炒めの店。あの真っ赤なスープがチラッと見えて,ふらり入っちゃいそーになったけど…1時間尿意に耐えた忍耐力だ!我慢してさらに北へ。ほとんど次の駅に近い辺りで目的の赤と黄色の看板を発見。
 カンチャンケジャン。カニの醤油漬けです。
 ヨンナムケジャンもあるけど値段は同じ,パブが付いてW7000。パブのレベルを上げるとW8000やW9000になるらしいけど,ただ単に「カンジャンケジャン,ジュセヨ」と頼んだらW7000。
 カニ身がゼリーみたいにプルプル!ジワッと広がる魔性の磯臭い甘味。──カニ嫌いのわしが,これ一発で転向してしまった品。
 そんな初心者談だからもう書かんけど…凄いのよ,きっと…。


▲西面 ハヨンジョンスンドゥブ

 もはや釜山定例の虚心亭の温泉で1時間放心…。やっぱ韓国の温泉いーわあ~!!
 西面でも名物デジクッパブ通りを再訪。でも何か活気が失せてたんで…前から狙ってたハヨンジョンスンドゥブへ。
 日本人もかなりいる有名店みたい。
 スンドゥブW3800。
 ① ②
③ ④ ⑤
 ⑥ ⑦
①ベチュキムチ
②大根細切り浅漬け
③コンナムル
④小海老のキムチ
⑤韮のナムル
⑥金だらいに入ったご飯。目玉焼きのせ
⑦スンドゥブ…!?
 このトロッと感覚,こんなだったけ?
 ほとんどプリンか杏仁豆腐やぞ!?でも辛さもちゃんとあるし,豆臭さも生きてる。このバランスは確かに素晴らしいわな。
 ただ,同じ日本人が言うんだから世話ないけど──観光客に迎合し過ぎ!裏メニューの「白スンドゥブ」なるものが壁に掲示してあって…全然裏じゃねーし!
 しかもよ~。この位の辛さで騒ぐなよお!


▲西面スンドゥブどアップ