外伝03-FASE19@deflag.utina
萌ゆる緑 最後のひまわり

▲豊見城 あしびなー周辺

 静謐。早朝。元旦。
 宿のドアを出ると,見たこともないほどキラキラと静まり返った那覇沖映通り。
 ただしごく少数の歩行者は,皆さん明らかに赤ら顔で千鳥足。
 空は昨日と同じく,厚い雲間より陽光のカーテンが気まぐれに長く落ちてる。

 美栄橋より「ゆいレール」乗車。那覇空港へ。そー言えば,帰国時以外で空港へ向かうのって初めてです。
 県庁前。左手,県庁とパレットくもじの巨大聳え立つ。
 旭橋。川の右上方を蛇行。
 壺川。右手川越しに奥武山公園の緑地。左手から住宅群が傾斜して迫る。
 右に折れて奥武山公園へ。渡河。行く手を丘陵が塞ぐ。
 小禄。細かな丘陵がうねる一帯だ。住宅地,それも近代的アパートが主。首里に似た景観。
 赤嶺。ここまで来るとやや平坦になり,視界が開ける。ただし逆に古いアパートも目立つ。
 一転,左手にまず海が広がってくる。米軍基地めいた広々したフェンス内緑地に入る。右手は山野だが,ここも米軍接収地らしい。行く手にも海が見え,民間機が行き来しはじめる。
 那覇空港着。

 バスの時間まで少しあったんで空港内のA&Wへ。いつもは帰国前に寄る店。
モーニングセット(スパイシーハムエッグサンド) 640円
 スーパーフライSなるスパイシーなフライドポテトが付いてきたけど,ここに立ち寄る理由はただ一つ。
 ルートビアです。
 ふう~!いつもながらホッとする味がや!!サンドもフライも大したもんじゃないけど,とにかくこれが飲めりゃいい。この薬っぽい微発泡の液体…初回の石垣島で飲んでから延々ハマってるなあ。
 10時,バスの時間。空港から沖縄アウトレットモールあしびなーへのシャトルバスに乗る。

 1時間に1本しかないこの無料バス。乗客は半分程度,20人といったところ。
 車内アナウンス。「所要時間は20分」…って,ええ~!?そんな遠いの?3km位ちゃうのん?――どーも向かう那覇南郊外エリア,わしは全然土地勘がないッス。なんぶーには何回も行ってるけど,この辺はバイクなら走り抜けてただけ,バスなら寝てたエリア。要はあんま面白さを感じたことがない辺りだったんで…。
 バスはさっきゆいレールから左手に見えた米軍基地の中を進む。やがてゆいレール直下へ。臨席の子供が「あっ戦闘機!」と無邪気に騒いどります。
 元旦の朝だけど交通量は結構多い。
「安次嶺」(あしみね)っていう交差点に出る。続いて赤嶺。整然たる街並み。2年前入った「だいこんの花」前を通る。元旦から営業してるみたい。
 海岸沿い,埋め立て地方向へと右折。右手にゴルフ場,左手に西濃運輸の集積基地。すぐに海沿いに出て高い橋を渡った。
 まだ沼地が残る土地。山田電気,九電工の建物が寂しげに建ってる。
 10時18分,定刻に沖縄アウトレットモールあしびなー着。
 住所表示は豊見城市豊崎。
 Ccocoの「三村エナジー」に登場した地名です。

小禄(うるく) 豊見城(とみぐしく) 垣花(かちぬはな) 三村
三村の婦女達(あがた)が揃って(それとうて)布織り話

▲タコタコスのタコス

 2階フードコート内のタコタコスで,これ以外にないけどタコスを購入。
タコス2ピース 584円
コカコーラS 168円
 実は,タコスを意識して食いに来たのは初めて。とゆー人の舌で感じたとこでは――南インドのプーリーに似た皮です。だけど噛み進むと意外にムチムチ。具は,シャリシャリに水気を帯びたキャベツがベストマッチした上に,南米系独特の脂味の薄いサバサバの唐辛子をタップリ染ませた挽き肉と微量のチーズが食わせる。
 へえ~!!タコスってこんなに絶妙なもんだったのか!?
 重い味覚が全くない。キャベツの青臭さも挽き肉の辛みも,口中をササッと通り過ぎてく。唯一チーズの乳臭さがむーんと後を引くけど,これも何を使ってんのかひどく,淡い。結果,後味が素晴らしく爽やか。
 特に,アジクーターの沖縄料理の中にあっては――この感覚はウチナンチュには斬新な味に映るに違いない。

 あと,ここでは…沖縄離島共同市場「島人(しまんちゅ)ぬ宝」という店があったんで,例によって物色しまくった挙げ句,
薫餅(くんぺん)5個 600円
だけ買い物しました。
 すごく慎ましいお菓子。ゴマとピーナッツという奇妙な取り合わせの豆系の香りを仄かに楽しむ味覚でした。あまりの地味さが,西洋ドルチェ系のスイーツの感覚に慣れたわしには呆気に取られるほど新鮮でした。
 首里城に島唄にシーミー(晴明祭)の重箱,およそ「沖縄伝統」とされるものに,これだけ沖縄にハマっといてあんまりピンと来た試しがない。でもそれは,沖縄の現代面――アメリカナイズじゃないモロなアメリカ文化や,その原色の刺激の咀嚼としてのチャンプルー文化とは,あまりにかけ離れてるから。
 本来の――と言っても複合文化の渦のように生成されたこのウチナーって土地にはナンセンスかも知れんが,ヤマト世(薩摩侵略以後)の沖縄より前には――こんな木訥な,質実剛健とも言える味覚があったんだろうか?今の沖縄の賑やかな文化からは想像もつかないが…そんな空想に引き込まれた一味でした。
 くんぺんの製法を付記すると。皮は普通に卵・小麦粉・砂糖で作るけど,固焼きしてあるために長崎の一口香に似たサックリ感を出す。さらに変わってるのは中のごま・砂糖・落花生などから成るごまあん。これが香ばしさと舌ざわりのなめらかさに繋がってる。
 由緒ある伝統菓で,現在も冠婚葬祭などハレの場のお膳の必出品。古くは琉球王室で食された高級菓子。

▲薫餅(くんぺん)

 中央部の野外喫煙コーナーでタバコを吹かしながら,モール全体を見回す。
 ファッションブランドのブランチ。内地か外資系のカフェ。おもろまち駅前にダックスフリーの大規模店舗があるけど,まさにあれをモール化させた場所らしい。
 パティオ奥にはあしびなーの独自ラジオ放送局があり,そこからの放送が全館に流れてる。帰りのシャトルバス車内でも延々鳴ってる。
 今日はモールの副支配人のインタビュー。
 ナイチャーらしい。後で調べると,モールの施設管理者は大和情報サービス株式会社。1986年,つまりバブルのただ中に大和ハウス工業の100%出資で設立されてる。本社所在地は大阪市西区阿波座。
 副支配人曰く――観光客に加え,海外の客も増えて来てます。それをさも有り難そうに語る所を見ると,シンガポールや香港の対外向けショッピングモールを志向しとるんだろう。
 予想以上やな,この殺菌消毒度。
 ウチナーの匂いが,見事にしない。ナイチャーにも海外客にも,何の抵抗もない場所になっちまってる。
 新市街はいずれもこーゆー内地以上に無機質な町として形成されようとしてるわけで…しかも,後から出来たあしびなーは,おもろまちよりさらに徹底的な無機質度に出来上がってるわけで。
 つまり,これが沖縄が現実に辿りつつある街づくりのベクトル。まあそこまでは分かってることだわな。今の沖縄は,日本国に編入されちゃってるんだから。
 けれど,かつて沖縄で感じたことのないほど…心底ゾッとしたのは。
 このモールのコンセプトは「ヨーロピアンブランドを中心にしたアウトレットモール」。そんなのを沖縄に作る企画側も企画側だが。
 このコンセプトに沿って,世界的な建築デザイナー様であらせられるジョン・ローって方に設計した古代ギリシャ建築の現代風アレンジ版モールが誕生するのですッ!…とかって東京の会議室でパワーポイントのプレゼンしとる光景が目に浮かぶようですね。
「あしびなー」というネーミングも,そう。
 一般に「遊び庭」と表記される。沖縄の集落に,かつて必ずあった「うがんじゅ」(御拝所)の前のパティオ。太鼓を鳴らし,謡や踊りで五穀豊穣を祈願するとともに,神酒や御馳走で騒ぐ。内地の祭りより開催の頻度は高いけど,同じく男女の艶めかしい逸話も多い。
 現在にも残る例は少ないが,沖縄本島の数カ所や八重山群島に点在する。琉球芸能の生まれた場所でもあるらしい。内地の河原みたいな面もあるわけです。
 北のおもろまち,南のあしびなー。実質は沖縄色がこんな脱色された場所に,こんなバリバリにウチナー的な語感の名称を使ってしまう。そして見るからに,沖縄って土地のベクトルは明らかにそちらを指してる。
 つまり,現代ウチナンチュは,このベクトルに批判的ではない。それどころか,むしろ求めてるように見えるんだが。
 壺川まで来て,やっとほっと息をつく。
 相変わらずゴチャゴチャとオモチャ箱みたいな国際通りに,こんなノスタルジックな安心感を感じたのは初めての感覚でした。
 元旦の午前中,人出はまだ少ないんで,いつも恥ずかしくて入りにくかったフローズンヨーグルトの店に入ってみる。いかにも女子高生がタムロしそうな小綺麗な店「ヨーグルトランド」。
 まあ…フローズンヨーグルトやな。イタリアほどの匂いとコクもなく,韓国のRed mangoほどの独自性もなく。ただ,トッピングのタネは豊富で楽しい。アメリカからなぜかまず沖縄に進出したチェーンで,今の日本本社は那覇。2012年には東京進出予定。

▲まきし食堂のコンビーフの野菜炒め

 昨日偵察しといた,まきし食堂の暗がりに腰を据える。
 やはりいい空間です。既に酒の入った地元の若い集団がどんより騒いでる。ある程度広い空間が植え込みや仕切りで緩く区切られてて,臨席のざわめきがこだまのように穏やか。
コンビーフの野菜炒め 530円
 もやしが立ってる。
 島豆腐もちゃんと美味いし,カツオ出汁に馴染んでる。コンビーフもほどけて醤油味を吸い,いいウチナーの味を出してる。
 でもそれらを脇役にして,もやし本来のツンと鼻を指すよな辛みがピーンと立ってる。
 こんな勢いのもやしは…品種が違うのか,それとももやしを生煮え状態で薬味とする使い方が沖縄的で際立ってるのか?――おそらく後者だと思う。
 昨日のあやぐでも,野菜炒めは結構出てた。サンエイスーパーでチェックしたとこでも,ホーレンソウともやしはかなり地元で作ってるようだ。聞き慣れた名前だから見逃してたが…沖縄の野菜炒めって一味違うんじゃないか?
 帰りにふと目に入ったが,この上の4階は?「女性無料マンガ喫茶」?…って明らかに怪しい企画なんですけど!?しかもここ,国際通りと沖映通りの三差路すぐ,要は那覇の繁華街ド真ん中なんですけど!?

▲横道より赤とんぼの店頭

 開南近くの赤とんぼへ寄る。
 コーナーの小さな店。沖縄に来始めた最初の頃に,タコライスにゾッコンになった場所です。でも今日は,おそらく本来の売れ筋だったと思われる
タコス1本 200円
を初めて買ってみた。今朝のタコタコスでハマっしまった流れです。3本500円ってサービス価格が設けられてる。ってことはコレ目立てに来る固定客がいるってことでしょう。
 路地裏で立ち食い。
 いい!
 外皮はポテチみたいなパリパリでコシはなかったけど,タコライスと同じく,シャキシャキキャベツと挽き肉のコラボした歯応えと後を引く肉の香り,チリの鋭い辛み――いい!
 南米の本来の味をわしは知らない。でもこの肉味の尾の引き方,これはウチナー一般の肉使いに通じるところがある。いやむしろ,肉の旨味を純粋に味わえる度合いは高いように思える。
 太洋を隔てた場所で,食い物の形式ってのはこんな風に再解釈されるもんなんだろか。
 全く。沖縄,入るほどに不思議な土地です。

 開南出口のそば屋「いなか」,ここも初回辺りから行きつけてるとこ。正月無休らしい。ただもう食えん!
 元旦の朝から動いたんで疲れがどっと出た。一度宿に帰って昼寝でもしましょう。