一寝入りした夕刻,元旦の桜坂劇場。
ここの1階のカフェにはエスプレッソがあるんで以前から利用してる。店名「Cha-gwa」。黒の木質調度,適度に区分けされたフリーなオーラのお店。
いいカフェだ。
オリジナルブレンド 350円
一杯点てはしてないようだし酸味も少し気になるものの,コクで押す正統派沖縄珈琲。ただ,大阪的な渋みをほんわり纏う。
LotusのCaramelised biscuitが付いてきた。松山のスコットマンで出るビスケット。こっちの趣味もなかなかいい。
赤色灯が暗過ぎず明る過ぎず,珈琲にユルく揺れ落ちる。
力が入ってない,でも自分のスタンスは失わない。そのバランスが心地よい場所。
見逃してたアニメRed Lineを見るつもりだったけど,韓国映画「息もできない」に突如として興味を覚えて代えた。
「オールドボーイ」並みにどっぷりハードな映画でした。――町金の取り立てと屋台の打ち壊しを生業とするヤクザな主人公が,なぜか女子高生の尻に敷かれるファンキーな設定下で,主人公も女子高生も過酷な家庭環境に煩悶する。けれど,もう一人の重要な役が女子高生の兄。主人公の生い立ちをなぞるようにヤクザ化して行き,主人公が死んだ後,この兄が屋台の打ち壊しをしてる光景を女子高生が目撃して震撼する最終シーン。
過酷な環境に流されてく人間群。再生産される荒廃。
沖縄の今とダブって見えるのは杞憂だろか?
文化的には昭和30年代に一度滅びたとも言える内地日本の荒廃。おもろまちやあしびなーがその再生産の起点でないことを祈りつつ――。
▲桜坂劇場前の飲み屋にて。「OKINAWA生まれの体に優しい生ビールで安らぐひと時を」……なるほどなるほど。
論理性ゼロだぞ,その文章?
劇場を出ると夜。
思いがけずちらちらと電飾された坂の上の建物は,ムチャクチャいー感じになってます。
考えてみたら,不思議な施設です。玄関入って右手が前掲のカフェだけど,左手には雑品売り場。本当にシマを想ういい品が揃ってます。「ナビイ」の伊江監督の3作目のDVDも初めて知りました。
例によって調べてみたら――70年代まで,この辺りにはいわゆる歓楽街があった。それが海寄りの若狭や辻へ移ると,桜坂地区の飲食店数は一気に激減。
国際通りの名称の由来だったアニーパイル国際劇場を始め,グランドオリオン,シネコン琉映などの映画館も相次いで閉館。
つい最近まで,「桜坂」は「場末」と同義に感じられてきた。わしが沖縄通いを始めた90年代の本には,下手に入り込むとオカマバーとかに引きずり込まれて危険と書いてあった。
2000年代に入って,ゆいレールの牧志駅が開業すると,安い賃料も含め立地条件が再評価されて,カフェやクラブ,ゲストハウスが戻ってきます。
この状況変化の中で,一旦閉鎖された「シネコン琉映」を,株式会社クランクが2005年7月1日に桜坂劇場として新装オープン。
(公式サイトhttp://www.sakura-zaka.com/)
さらに調べ進むと――この株式会社クランクって会社,まさにさっき触れた「ナビィ」の中江裕司,それから「アークエとガッチンポー」や「ガッチンポー」の真喜屋力,両氏が設立したものらしい。
「特徴は何といっても『いろいろなものがある』ということですね」と中江監督。「桜坂劇場は,設立当初から『やれることは何でもやってみよう』というコンセプトの下,運営して参りました。ですから,施設の名前を決める時も『~劇場』と命名したのは,『ここは映画の上映だけではありません。様々なイベントを行うための『箱』なのです。』という意味合いをそこに込めました」
別のところでは「文化の多様性を提起したい」とも中江さんは話してる。セミナーも開催してるみたいで「学びの場というより,講師と参加者が一緒に何か作っていく実践の場にしたい」
これらの状況を全く知らなかったわしが惹き寄せられるほど,聞いただけではロマンチストの机上プランに見えるかの構想が現実化してるのが,この桜坂劇場だったわけです。
沖縄の新潮流は,おもろまちやあしびなーだけじゃない。そりゃ資金投入規模は全く違うけど,したたかな新文化も創造されつつある。
日本で最もチャンプルーなバイタリティを湛えた土地は,破壊も変化も恐れはしない。
▲「OCOSITE」Tシャツ。これを一回見ちゃうと,正規のワニさんまでもが「起こして~」とバタついてるようにしか見えなくなる魔力を宿すパクりである。
沖縄Tシャツ,今や土産物の域を超えてサブカルチャーの一角を占めた感があります。
既にノスタルジックな海人Tシャツを始め,エイサー,しーさー,アクビちゃん,きじむなーと止まるところを知らない暴走振り。
今回見つけたのはコレ。一目で笑けてしまってどーしても欲しくなっちゃって。
あっちこっちの土産物屋にあって,購入したコレなんかは値下げで店頭売りしてたから発売からはかなり経つんだと思う。
製造元はTingara。
Tシャツは,どこかのロゴに偶然にもそっくりのワニが,逆さになってジタバタしとる柄。ロゴの文字は「OCOSITE」。これまた偶然にも「起こして」と読める。どうせなんでピンクを選んでしまいました。
これ…普通の会社組織の中じゃ通らん企画じゃないか?
「起こして」のギャグだけでも絵柄だけでもパンチ不足だし,著作権上のリスクも計算しにくい。カリスマなデザイナーなら「とにかく作らせろ」って話が通るかもしれんが,そんな御仁はこんなヘンなもん作らんだろう。この絶妙なファンキーさは,「面白いかもしれんから試しに作っちゃえ!」ってなユルい経営からしか出て来ないんじゃない?
この辺りが,沖縄Tシャツが沖縄でしか生まれなかった所以だろな。沖縄インディーズの実験的な面白さと同じ構造。
ちなみに一緒に買ったブリーフは,花柄リボンのシーサー柄。
宿への帰り道に,沖映通りのジュンク堂に寄る。ついでに地下に降りてみたら…え!?ここ食品売り場になってんの?
Aコープマルシェなは店って店舗。早速見てくと,意外に広いし,どうやら品も突っ込んだもの,こだわったものが置いてあるっぽいんで…しこたま買ってしまった。以下購入品。
宮台牛乳 178円
(473ml,成分無調整・生乳100%使用・低温殺菌,㈱宮平乳業(Add:糸満市西崎町))
トマト 158円
(ちゅらとまと,JAおきなわ豊見城支店)
沖縄県産紅茶ティーバック 650円
(奥茶業組合・奥共同店(Add:国頭村字奥),販売者:ミヤギ(Add:中頭郡西原町))
黒米 780円
(250g,沖縄食糧㈱,国内産複数原料米)
ゴボーちぎり 89円
(㈲糸満カマボコ,Add:糸満市西崎)
島とうがらし 178円
たまぐすく村のさとうきび酢 315円
(70ml,㈱たまぐすく,原材料:さとうきび(沖縄県産100%,アルコール(泡盛),酸度:4.0%以上))
――と文字面だけでも沖縄色満載。ですが,これ食ってみると言葉以上で…。
まず,全く考えに登ってなかったミルク。――最近,地方製造の乳製品の旨さに驚いてて,沖縄じゃあね…と思いつつ一応買ってみたら。
沖縄の牛乳だ!
…いやそれは分かってる。言いたいのは,コクで押しまくる味ってこと。内地のミルク,これは阿蘇とか木次とか蒜山の美味い牛乳でもだけど,最初の乳臭さで押すタイプと発想が違う。それは滑らかで薄くて,初めは物足りなさを覚えるほどなんだけど,奥に芳醇さを持つ。ネットに「アイスクリームを溶かしたような味」と書いてる人がいました,まさにそんな味。すーと入って澄んだコクに落ち着いてく味覚。
つまり沖縄料理と同じアジクーターな旨味なんである!!
慌てて調べてみたら,沖縄の畜産って意外に盛んみたいで――特に宮古や八重山では肉用牛飼養の伝統があるとされる。江戸時代のこの地域,とてつもなく悲惨だったって伝承のみで記録が少なくて,よくは分からない。
はっきりしてるのはこの伝統の上に,復帰後の畜産基地建設事業など国の大規模開発が進んだ事。サトウキビ栽培の衰退で余った土地と労力を畜産に転用する構想から始まったらしいが,畜産基地建設事業は八重山第二区域の平成4年までの事業で終了,その後は草地の有効活用と流通のルートと形態の模索にステージが移ってる。
あと紅茶だ!
もっとタップリ買いこめば良かった…と後日しきりに後悔しました。
味の細やかさというより勢いが凄い!それでいて艶めかしい味の柔らかさも備えてる。産直の味なんだと思う。
土佐や高梨の紅茶ほど発酵臭のくどさがない,普通に紅茶としていい茶葉です。
産地は奥。ヤンバルの,本島最北端の集落。ここだけが産地かどうかは不詳だけど,奥のある国頭村では日本一早い新茶「奥みどり」を産する。つまり沖縄の茶どころ的な土地らしく,紅茶はサブ商品。
ただ,沖縄紅茶の歴史は明治時代にまで遡れる。政府が国内で従来産地に環境が一番近い生産地として,亜熱帯で高温多湿の沖縄を選んで着手。――アッサム種は北緯30度以北の非赤土質の土地では良質な栽培は困難とされる。紅茶の風味の核になるタンニンの生成に,太陽の紫外線の強烈さと赤土の強酸性土壌が必要なためらしい。つまり普通の農業に不向きな土地の方がいいわけ。北緯26度で赤土の多い沖縄は,日本国内で唯一その条件を満たしている。
もっともしばらくは国内の他の産地と同様に,あまりいいものは出来なかったらしい。紅茶の生産・販売が軌道に乗ったのはごく最近のようです。
大量消費地の内地と,今後は中国も大きくなるだろが,距離的に近い沖縄の紅茶。台湾コーヒーと同じく,希少商品として名をあげるってのもあり?
もう一点だけ触れておく。たまぐすく村のさとうきび酢――最近,じわりじわりと人口にのぼるようになってきた。
香りは,普通の酢の鼻を刺す感じが薄く,黒酢に似てまろやか。けれど黒酢ほどのまったり感はなく極めてクリア。ミネラルの味わいがあって,明らかに酢なのに甘味も感じてしまう。
さとうきび酢は,黒糖(クルザーター)を作った鍋に空気中の酢酸菌が作用してできたのが由来。加計呂間島が有名だけど,玉城のはこれに習って最近醸造を開始したもの。
加計呂間島のさとうきび酢の最大の特徴は,この島独特の大気中の成分と浮遊菌に頼って自然醸造する点だけど,玉城のは流石にそうではないようだ。さとうきびのまろやかさと泡盛の残り香が売り。
玉城村商工会が中心となり平成13年会社を設立,14年商品化,15年製造開始。銀座わしたショップでボトル,ラベル,包装箱のデザインが評価され,同年11月の「第二十七回沖縄の産業まつり」で県知事賞・最優勝賞受賞。
原料は,サトウキビ,泡盛,酢酸菌だけ。現在の種類は2つ,ルビー(赤)とトパーズ(黄色)。製法は同じだけど使用サトウキビの品種が違い,ルビーは農林10号,トパーズはオガサワラ。
ちゅらとまとやゴボーちぎりも名の売れたものらしい。ネット販売もしてました。この日に買ったものには,驚くほどハズレがなかった。
にしても沖縄。農業の方面までもまだまだ可能性を煌めかせてます。一般的には農業には不向きなこの土地で,です。
劇場,Tシャツ,牛乳,紅茶,酢と見て来ました。
世界中にいわゆるラテン系の匂いの人々はいる。飲んで笑って賭けて交わって…を中心に生活する余り経済ボロボロで高い失業率とハイパーインフレ,それが快楽的生活にさらに拍車をかけてって悪循環のスパイラル社会。けれど沖縄は,そうはならない。笑って踊りながら上昇のスパイラルを何とか作ってく。
つくづく感じる底力。ウチナンチュって絶望を知らない。
▲元旦の静まり返った国際市場にオリオンビールのネオンの輝く