外伝03-FASE26@全て知ってた それでも触れた 他には何も見えなかった

▲「島菜」のバイキング(朝食)

 最終日の今朝も,朝イチから「おもろまち」。
 昨日の朝カフェと同系列らしい「島菜」へ。
バイキング(朝食)600(平日500)
 有名らしき「じゅーしー」は昼からのサーブらしい。
 おかずにはクーブイリチー,ヒジキの煮物,筍の煮物,卵焼きの4種類が出てた。少量ずつ,全品確保。
 汁は中味汁と味噌汁。これもおかわりでどちらも頂きました。
 この店自体は昔一度来てた。ただ,バイキングに変わってから侮って近寄らずにいたわけだけど…意外や意外,ここの味覚の健全さは健在でした。
 特に,クーブイリチーと中味汁の上質さには絶句。素材で食わせるタイプながら,全体をまとめているのは底の底の方に流れるかつお節の清流。
 ただ,初めてはっきり気付いたのは――その他の料理にも,このかつお節らしき清らか味は,共通する底流として流れるらしきこと。そしてこれこそが,ウチナーフードをヤマトの和食とは微妙に似て非なるものにしてるってことです。
 ヒジキはヤマトのよりはるかに元気のいい味になってるし,筍もストイックさのない奔放な味。卵焼きも,あれはニラハーブ焼きとでも言ったほうがいい野菜使いだと思う。
 決定的なのは味噌汁。最初,大豆スープに「ダシがない」と感じてたのは,正確には「ヤマトのダシの層よりもう一つ深い層にウチナーのダシはある」ってことだった…とゆーことをハッキリ自覚できた。
 このダシの層の違い。これは何だ?ヤマトだってかつお節は常用するわけで,それじゃあ何が深度の差になってんだろ!?

 おもろまちも,駅から離れたこの辺りはまた独自の空漠感。何となく,コザ辺りの雑然と素っ気ない一昔前の沖縄が滞留してる気がする。
秀のぱん工房 窯
サーモンとクリームチーズのサンド 315円
クルミのスコーン 115円
 ここのサンドイッチはやっぱ…美しい。この味の薄さ,というか素材重視のスタンス,パン生地の細やかさ。松山のガロパンの芸術的サンドイッチを想起せしめる姿勢,そして味わいです。
 スコーンは,チョコと,前回買った岩っころと並んでた。スコーン生地自体にも透明感がある上に豆の香りも美しい。
 いつものように,隣の美ら豆珈琲の紙コップコーヒー(250円)をとともに,軒先にて頂きます。

 こんなことでもなきゃ思い出しもしないけど,本日は勤労感謝の日。連日赴いております泊「いゆまち」は勤労感謝祭をやっとります。
ビンチョウまぐろ 0円(無料)
 さすがに小指の先みたいな大きさが赤白2切れだけど…それだけでハッキリ分かる。間違いなく,鉄板で――無茶苦茶ウメエ!
 島醤油の味もあろうが,「どす深い甘さ」というか…生々しい味覚がある。脂の乗ってないぶよぶよした食感だけど,味わいの豊さがそれを補って余りある。半減後,サカナ食いはかなり経験値を積んだつもりだけれど…ちょっとわしの経験レベルを超えてます。
 昨日とは打って変わった人の数。奥の方の店まで大盛況!
 帰り際に掲示を見ると,既に次のイベント表示が出てました。次回はクリスマスらしい。広報マインドを心得てる。

▲泊交差点に翻る「ルビー」の看板

 最後の一食のつもりで,泊交差点そばの軽食の店ルビーへ。
 もう何度目になるか覚えてないけれど,良かった…潰れてなかった!――昨日,角を間違えて,沖縄大学前店の撤去のイメージも重なり,てっきり閉店したものと思い込んでたんだが…良かった!
 4月から全面禁煙になったり,また色々変わってきたみたいだけど,店内のユルい雰囲気は健在。アイスティーと,なぜかお玉ですくわせる氷のセルフも変わらず。沖縄の大衆食堂です。
 窓外の道路際には新たに「DFSギャラリア沖縄」の表示が出来てました。
なす味噌煮 560円
 昨日のパックの味に驚いて,どうしても確かめたくなった味。文字にすると完全に和食の典型だから,ここで頼んだことのない筋の品なんだが…。
 やはり間違いない!これ,「味噌煮」じゃない――いやつまり,味噌の香りを素材に纏わせるヤマトの味噌煮ではない!
 味噌スープのシチューみたいな感覚で調理されてて,大豆の味わいが素材にからまりついてブヨブヨに仕上がってる。味噌の焦げ味を微かにコクに持ちながら,深く長く味の尾を引き続ける。
 ふと,何か舌にデジャヴを感じる。え!?どこの国の記憶だっけ?あるいはどこの町?
 あ…。
 どこの国も町もない。広島です。牡蛎のドテ煮!?あれの味噌の使い方に似てるんだ。鍋の底で焦げかけた味噌だまり,牡蛎のダシを吸ってはいるけど,本来の味噌の香りを飛ばし切ってしまってる,京都和食的にはあまりに下品で,典型的に下手な味噌使い。
 とは言え,これは九州にはあまり類似例を思いつかないよな。なぜだろう?なぜ広島と沖縄が共通点を持ち得るんだ!?
「あい,いー天気になってきたさあ」
 店内に響くおばあの声が,いやに耳に残る。なぜかここのおばあ,常にみんなコテコテにウチナーグチ全開。

▲ルビーのなす味噌煮

 おもろまち,「kabira-ya」へ。昨年末にフラれてた店です。
 広く,それでいて物陰の多い店内。確かにシチュエーションはいい店です。
チーズケーキ 340円
ドリンクバー(レギュラーコーヒー)200円
 きめ細かい生地とまったり濃厚なチーズの匂い。上手い。タルトとしてら上質なんだろうが…。
 違和感が残る。
 新興のこの団地に住むウキナンチュには,このニューヨークチーズケーキみたいなメジャーな味がウケるんだろか?「なす味噌」の味覚とのタイムトラベル的な断絶を感じたんでした。

▲kabira-yaのチーズケーキ

 松山交差点に取って返す。二度目の「みかど」で駄目押しの最終食。
なすと牛肉のみそ煮 650円
「人気No.3」と表示あり。ちなみにNo.1は「ちゃんぽん(沖縄風)」,No.2は「ゆしどぅふ(さかな,玉子焼き,サラダ付き)」。意外なトップ3です。
 さて,最後まで来て俄然興味の中心になってしまった「なす味噌」。ここのには牛肉と豆腐が入ってる。この2つの味噌煮もそれぞれメニューになってる位だけど,牛肉はあくまで赤身に徹してハードな味。対してなすと島豆腐が,程よい固さでプルプルと口にほどけて,その中から味噌醤みたいな重振動の味覚が轟いて来る。
 混乱した。
 これは――ルビーの「ドテ煮」とも違う!
 もっと細やかで香りを潜めてて,かつ,重い。
 牡蛎以外のドテ煮に類似を探すなら…大阪でいういわゆるドテ焼のドテ?あのスッキリと濃い味に似た音域だが,関西のより近いのは福山の稲田屋で出す関東煮のほとんど液体のような味噌使いか?あるいは,中華で最後に絡める上湯の代わりに味噌ソースを使ったような…?
 中華か…?そうだ。これは――ティエンメン醤とか,中華の調理用の醤の味わいに近くないか!?
 沖縄料理の基本フレームは中華であることが多い。けれど,素材には大陸と異なるものしかない。だから,上湯の代わりにカツオスープを使う。あれは,主観的にはカツオ出汁じゃないのだ。これは,恐らくは中国世以前からあった魚汁を原形にした現代,さかのぼっても江戸期の変形版だと思う。
 味噌も同じなんではないか?
 元々定着してた中華のレシピ中,醤の出番で味噌を使う。味噌は恐らくヤマト伝来,手に入れやすい代替品だったんでしょう。こうして,中国から伝わったプロセスの中に,ヤマトから伝わった調味料が入り込む。
 使ってるうちにプロセスも調味料もこなれてく。沖縄独自の「味噌煮」あるいは「沖縄味噌」なる新造食が出来てく。それが観光用タームとしてメジャーだろうとそうでなかろうと。
「ちゃんぷるー」や「ふー」系統ほど,地域的な独自性を自覚されてはない。ないけれど,既に嗜好としては確固たる地位を築いてる沖縄料理。それが「味噌煮」の一群なんじゃないか!?
 そして,こういう目で見てくと――観光用のステレオタイプの「沖縄」よりはるかに広範囲で,「沖縄錬金術」みたいなものが働いてることが分かってくるのじゃないか?ひょっとしたらこんな形で味噌煮以外にも。
 この一握りの「てーげー」な民が,何でここまで?と改めて驚かされる。凄まじい創造力です。

▲「みかど」のなすと牛肉のみそ煮

 13時半前,サンキョウに荷を取りに帰る。
 カウンターが閉まってて誰もいない。カウンターだけじゃなくて,入り口の自動扉そのものが閉まって動かない。パックパックはゲートの向こうにあるのに…!
 慌てて,ゲート脇に表示された緊急連絡用の電話番号にケータイでコール。「あ,それでしたらすぐ」と返事。すると5分もせずに,何と中からおじいが出て来る。
「いつもカウンターにいるの,わしの息子よ。わったー5階に住んでいるの」とゲートの中へ招き入れる。
「内地の人?駅は分かる?」と今さらながらエラく親切に教えて頂き,最後は手まで振って送り出して頂きました。
 何なんだろな,この体温の高さ。

 そして14時10分。
 38Cボーディングゲートより搭乗。
 福岡行き1455発ANA488機は島の大地を離れる。
 いつもこうだったっけ?沖縄本島弧に沿って北へ,舐めるように飛行機は飛んだ。国際通り界隈,新港と泊を結ぶ橋,天久新都心の未だ空漠たる広がり,浦添から宜野湾へ連なる家並みに覆われた丘陵,嘉手納飛行場,泡瀬の半島部,本部半島と古宇利島のまん丸海岸線…そして島が雲の霞に隠れていきました。
 たったこの位の,ちっちゃい島なんだよなあ…。何でこんな島に,何度となく訪れてしまうんだろなあ…。
「沖縄のうわさ話」の,丁度「ちょっといい話」を昨夜読んでまして,不覚にも目頭を熱くしてしまってました。
 この島の体温。それは,知れば知るほどジンワリと,不可思議に熱い。
 ここ3回ほどで感じてる「沖縄」は,何て言うか――「怖い」イメージに変容してきてます。癒しっぽい沖縄ステレオタイプと,それは対局ではなくむしろダブルメージなんだけど…同じ曲が変調した感じと言うか――離れ難い漆黒,あるいはアフリカめいた虚漠。地理的にはバリのあの「騒がしい闇」とも微妙かつ本質的に異なり,沖縄の闇はむしろアフリカやアメリカのような「怖い無機質」の匂いをもまとってる。
 灼けた闇――
 17時ちょうど,そんな語をケータイに叩きこんだ福岡空港発筑前前原行き地下鉄車内だったんでした。