外伝06@猫空@(@_37_@) 3日目 木柵鉄観音(@_37_@)

 朝8時前。少し遅くなってしまいました。
 台北[立占],忠孝復興の2つで乗換え,文湖線にて南京東路へ向かいました。
 今朝のテーマは深刻なものでした。つまり「台北で早茶は可能か?」。
 懸念は,香港からこの近さ,かつ広義の広東料理圏なのに,現代史の位置付けの違いだろう,台湾には意外なほど香港文化がないように思えること。
 兄弟飯店2階,梅花廳へ。
 無人?てゆーか扉クローズで中は真っ暗?
 結論。「台北で早茶は不可能」。

※後日評:飲茶は,中国の料理史上の流れである広義(≒四大料理区分)の広東料理に共通する食習慣ではなく,近代の植民地時代以降に発展した香港ローカルの形態。私見だけど,シンガポールの軽食との類似性を考えると,イギリスのティータイムの感覚と融合したものではないか?事実,八大料理の福州料理圏(四大料理では広東料理)はもちろん,広東にすら庶民的な飲茶は見かけられない。

▲喫茶趣(天仁[サ/名]茶経営)の動感茶早餐組

 お腹がすっかり飲茶になってたので,向かいのこちらで早茶しました。
動感茶早餐組110元
チョイス:(点心)緑茶繊[サ/正流][テヘン+巻]
:(茶)A1 碧[虫累]春緑茶
 ここはしばらくぶりです。相変わらずセレブな空間と客層,さらにお値段もセレブです。
「動感茶早餐組」というのは,「動感」がドカーンという衝撃波を,「組」は上納している非合法組織を意味…しない。「感動的!朝のお茶セット」みたいな語感でしょうね。
 まず粥が来た。前に食ったと思うがキビだと思う。カンビョウと菜っ葉の漬け物が付きました。
 どれもまあまあかなあ。
 遅れて春巻きが来た。「全素」と書いてあったが,キャベツの千切りに,おそらく大豆製のもどきのハム。胡麻だれだが…これだけなのに何とも食える。
 何でだ?香菜めいた香りがもう一味あるのに,何にも類推しがたい味です。
 一つ分かるのは,お茶の葉っぱが混ぜてあるらしいこと。これが一種の香菜として,はっきりと働いている。
 それと肝心の茶だが…大陸中国よりは遥かに日本茶に近い。味が柔らかい。けれど後味に,日本茶にはないいわば下品な華やぎみたいなのかある。
 日本茶の和らいだ丸み,中国茶の端麗な硬さ。時に同種とは思えなくなるほど正反対のベクトルを持つ両者を折衷したような,台湾茶の微妙な位置。
 この日は,それをしたたか知る日になるんでした。

▲偉富麺館の涼麺,味噌湯

 復興新生で乗換えて松江南京路へ。
 長春路,偉富麺館。
涼麺(小)40元
味噌湯25元
 小さな市場を抜けた先,朝飯屋がやたら並んでる伊通路という通り。小さいけれどこざっぱりしたお店でした。
 涼麺は,つかみどころのない味だなあ…というのが第一印象。胡麻だれはしっとりと効かせてあるんだけど,ダシも甘さ辛さもない。
 あるのは麺の小麦とタレの胡麻の香りだけ。
 その香りが──けれど気をつけて味わってくと,残り香に巧みなバランスが作られることに気付かされる。
 初心者にとっては少し調味料を入れることで分かりやすくなるみたい。ラー油を唐辛子多めに入れたら,香りが途端に強く意識できるようになりました。
 いや,かなり絶妙な味だぞこれは!
 味噌湯は思った通りの味噌スープ。つまり,かつお節らしきものは入ってるけどダシを取ってるってほどじゃない。味噌とかつお節と,それに具材の木綿豆腐の香りで食べるタイプ。
 そう思って食うと確かに美味い。
 香り…だと思う。この店の巧みさはそこに開花してるらしいんだが。初めてのタイプの味で理解し切ったとはとても言えない。

 民権西路南の市場(民享市場)はやっぱりいい。この美しい猥雑さは何なんだろう?
 宿で荷物をピックアップする道行き,ぶらぶら歩いてたら,新仕飯店チェックアウトは11時を過ぎてしまう。
 12時前に西門,長虹ホテルにチェックイン。
 顔を覚えてしまった服務台の気のいいオバチャン,こっちの顔も覚えてたらしく「あ,安い部屋が空いたよ!」とのこと。1750元。湯船はないけど冷蔵庫も湯沸かしもある。2泊する部屋になります。
 さてと?
 相変わらずこの後の行き先なんか決めてない。ガイドと地図を眺めて,直感の針が指したのは──。

 猫空。
 発音は「ニャオコン」。漢字も不思議なら,読みもまた浮き世離れしてます。→地名の由来
 これまでまだ,足を向けたことがなかった地区です。
 決定打になった情報は,茶畑とこれに付随する茶館が多いらしいこと。
 場所は文湖線の南終点。雨が降ったり止んだりだし,街を歩きまくるよりは郊外を新規開拓してみる気になりました。週末で混んでる懸念はあるが,大々的な観光地でもないんじゃないかな?
 西門から板南線で再び復興へ,文湖線乗換で終点の動物園まで。さらに猫空[糸覧]車(ロープウェイ,英訳「Maokong Gondola」)というもので終点まで,という道行きになりました。ちなみにロープウェーも含め全行程EasyCardが使えるらしい。
 12時半。文湖線の客層を見る限り,観光じみた身なりの方は少なそう。…どころか,既に車内はガラガラです。
 4人がけ席の対面にやんちゃそうなスリッパ履きの姉弟。忘れ物の傘を巡って激論中。結局,置いていくことになったみたいです。
「燐光」という幽霊でも出そうな駅では,既に周囲に緑が増えて来た。線路がやたら蛇行する。「辛亥」という政策的っぽい駅の前では長いトンネルあり。大・台北もここまで来ると木訥な土地になって来るらしい。
 雨が本気で降り出しました。観光客は減りそうだから,むしろラッキーか?さっき姉妹会議で置いてくことになったらしい忘れ物の傘もあるし,いやそんなん持ってっちゃダメだけど道具は使われてこそ喜ぶと思うし,ちょうど動物園に着いたし,あれ?左手が偶然何か傘みたいなものを掴んだぞ?
 さてと。傘を片手にロープウェイに乗る。

 そこから30分は,色々あって記憶がない。
 そう言えば昔から,ロープウェーには何度か乗ったことはあるけど,記憶が全くない。
 この話には全く関係ありませんが,わしはほんの少しだけ高所恐怖症気味です。気味と言っても大したことはなく,20mも下を見ると頭の芯が痺れて歯がガチガチ鳴ってしまう程度のことです。どーってこたあない。たかがロープウェーです。
 猫空で充実の一時を過ごした後,予定通りバス停へ。
 もちろん帰りもロープウェーに乗るのは全く問題ないし,平気だし,怖くもなんともないから,二度と乗りたくないなんて全く思っちゃいない。ただ単に行きとは違うルートの方が面白いと思っただけですけど。
 帰りのバスが…出たばっかじゃないか!?
 全く問題ないんだけどね。しばらく呆然としたというか絶望にひしがれたというか,立ち直る時間が必要だったのは,自分でもなぜだか分からない。
 仕方ない。再び30分ほど気を失おう。
 しかも帰りは引き上げるには少し早いからか,ガラガラに空いてました。これは大サービス!カーゴを独占だ!──行きは,そうは言っても台湾人3人と白人1人が一緒だったから,気を紛れさせれたし,平気を装わないとという空気も…いや全くもって平気なんですけどね。
 このロープウェー,急勾配に続く3つほどの峰を結ぶ空中を移動してる乗り物でして…静寂の車内と霧だらけの車外と,びゅんびゅんうなってる風の音と,時々意味もなく「ミシッ」とか「ギュギュッ」とか軋みの金属音,唐突に訪れる激しい揺れと…いや全然何ともなく,心穏やかな時間をエンジョイした…に違いない。記憶がないから確証はないけど。
 下車した頃には全身汗でびっしょりだったけど,この真冬に不思議なこともあるものだ。きっと雨に濡れたんだろう。

▲猫空の茶餐館で頂きました木柵鉄観音と蒸饅頭

 さてそんな充実の猫空だったんでしたが,少し話を遡って…猫空では茶店の一つに入りました。
 少し腹立たしかったからか茶餐館の店名は記録してません。
木柵鉄観音 300元
蒸饅頭 150元
 いつもの一食より一桁違う。えらく高いがな…とか思ってはいけない。台北の茶芸というものは大変に価値のあるものとされ,500元位の出費は覚悟すべきなのである…のだろうか?
 お茶は一袋丸々と,やかん,コンロ,急須までワンセット。もちろん茶葉は持ち帰りOKとのこと。なかなかリッチだ…ろうか?
 蒸饅頭は,さすがに何かお茶受けになるお菓子を予想して注文したんだが,いわゆるマントウ。つまりアンなしのアンマン。これが10個も入ったデッカい蒸篭が湯気モンモンでやって来た。もちろん半分以上は持ち帰り。物凄く優雅…なのか?本当にそうか!?
 うーん。とっても初めての台湾っぽい行動なんじゃないの?というか,これはもっと言えば,まさにカモになった観光客の図なんじゃないの?
 …。
 台湾の茶館というのは,現地の金持ち向けと言うより,日本人向け臭い。猫空に並んでる茶館というのは,日本人向けに特化されちゃいない気配ながら,観光客向けの集金装置としか思えない。明らかにそういう価格設定とメニューです。
 広い中華圏でも,庶民的なお茶遊びって,意外に香港にしかないのかも。
 いや,お味はと言えば満足でした。蒸したての饅頭は美味かった。特に黒糖のはかなりのもんだった。さらにお茶は――絶句。
 紅茶か,あるいは何かハーブティーの類いかと思ったほどの香り。クッキリした張りと勢いのある香気です。
 一煎目で,淹れ時間を間違えてほとんど色が着かない状態で出してしまったが,それでも十分に飲めるほど目鼻立ちの強い味覚なんである。
 後味には,ジャスミンかと思わせるような爽やかな甘さを残してく。
 もちろん鉄観音は初めてじゃない。が…こんな華やいだ鉄観音ってあるのか!?
 二煎,三煎と淹れると,この強さはかすれていきます。けれど,単に薄まるだけじゃない。四煎目くらいでは,シブミを帯びた幽玄な味がはっきり立ち現れてきた。この辺りで,経験の中の鉄観音とようやく共通してくるのだけど,それでもなお後味の凄みは失われない。
 これはもう中国茶じゃない!…日本の柔でも大陸の硬さでもない。思い出したのは,突飛なことにニューオーリンズのコーヒーでした。味の技術的な整形以前の,農作物としての生々しさみたいなものがある。
※後日談:次の回で行った日月澤の紅茶がまさにその路線でした。この共通性は台湾の味覚と言っていいのかもしれぬ。
 といった具合で,味覚体験としては最高に魂を揺さぶるものがあったんだけど──何せ怖かったし,高かった。再訪する気になるかなあ,というと,うーん。
 ちなみに社会実験中らしい企画として「猫空[糸覧]車網路預約搭乗」というのをやってました。曰く「100年12月28日開始試[辛力辛]6個月網路預約搭乗」。6か月限定のロープウェー予約システムだろうけど…予約してまで乗るもんなのか,アレ?

 夜は師大夜市に足を向けました。
 足を向けたんだけど,昨日の士林に引き続き降りる駅を勘違いしてしまいました。
 公館まで行ってから「しまった古亭だった!」と焦ったけど,正解はその間の台電大楼だったという…やはり覚えてるつもりで全然忘れてます。
 結局えらい歩いて…歩いて…!?
 3年前の臭豆腐の店がどうしても見つからない。「200の店」のすぐ手前だったはずなんだが…結局,どうやら移転したみたいです。
 で,いつもの一之軒へ。

▲師大・一之軒の[女乃]酪,地中海抹茶,緑豆[ン水][米ソ/王/心],麻[米署]

 計125元。台湾のパン屋,意外に高いんだよなあ。
 というのも本日はこちらで夜のスイーツを購入したからですけど。ジャンルが広くて結局4点も。
 やはりここは,なかなか堅実なお味。
 西洋スイーツから中華菓子までをこの位の安定感で供出するとこは,やはりお値うちだと思います。
 せっかく夜市に来たんだけど,なぜか屋台ものに手をつける気にならず,これもいつものお店に寄って帰りました。猫空のマントウが旨かったのがなお尾をひいてまして。

▲永豊盛の手工雑糧饅頭と手工鮮[女乃]饅頭 各15元
※後日談:この時,猫空繋がりだったか!師大夜市に行く度に必ず求めるここのマントウの買い初めは!

 夜の西門を闊歩。
 この町のどこかノスタルジックな賑わい,酔わせてくれます。
 好口杯鮮茶選で一休み。
阿薩[女母]紅茶(中)20元
 何だろう?と注文する。「あ…さ…む…ほんちゃ?らいいーべい!!」と発音してから気付く。アッサムやんけ!
 萬国滷味も元気に営業中。
豆干,海帯,肉もどき
計110元
 この老舗の滷味ももはや安定しまくってます。一時のクレージー・フォー・滷味な症状も大分改善されてきた今日,端正にすうっと尾を引いて来るこういう滷味に惹かれるようになりました。
 うーん美味なり!!