なぜか今回の朝の一食目,日々全く違う風景になりました。
今朝は。
7時45分,壺屋一丁目。
住所を頼りに訪ねると常宿の一つ三和荘のすぐそば?観光気分で浮つける国際市場までと違い,かつてのドヤ街の空気が残る。漢人らしき仕草の往来者も目につき,気のせいか雰囲気が台湾に似る界隈。三和荘より一本アーケード側にある裏道の小さい店。とゆーか…あれ?ここ何度か入ろうとしたことがある店だぞ?魅力はあるけど,いつも抵抗感があって入れずにいたような?
わざわざ訪ねてきた今日ですら…小さく看板が出てるだけの,とても食堂とは思えない,かと言って何とも類推し難い不可思議な風情。ガラスの引き戸を開けて入る小さい店舗で逃げ隠れしようのない感じだし。一度去りかけて――。
でもとにかく入ってみよう,金壺食堂。
一旦脇道に入って食べログで情報確認。500円の朝食バイキングを16時までやってる精進料理の店?
――え?
それってつまり…台湾素食なんじゃない?
入る。
席につく。確かに今見ても…カウンターの向こうに立ち働いてる方はいるし,客もいるみたいだから開店してるには違いないんだが…う~ん,どーすんだ?
奥手にえらく楽しそうな満面笑みの仏様方の像が数体並んでて,カウンター脇には少ないけどバイキングのトレイがざっと配置されてて,奥にはご飯とお粥をつぐ場所がある。つまり,台湾素食の要素は一応どれも揃ってる。
500円硬貨を渡すと,おばあがトレイをくれる。卵焼きとハム2切れを乗せてくれて,別の器に汁を一杯。後は好きに取れってことらしいんで,おかず2品とお粥を取りまして席につく。
結果,お粥と汁の碗,おかずのトレイが目の前に並びました。
食う。
やはり素食だ。
しかも,失礼ながらいかにも雑っぽいこの店内風景からは思いもよらぬ…良質の素食だ!
卵焼きとお粥はシンプルそのもの。塩っ気も出汁もない。特に工夫はない,ただのスクランブルエッグと白粥。その潔さに,けれどしばらく食ってなかった新鮮さを感じた。
驚きは汁を口にした時から。軽い滷味?シナモンのわずかに効いた,中華的だけどちょっと食べたことのない味覚。肉団子が入ってる?…と思って食うと,よく噛まないと判別できんほどの,例のガンモドキ崩れの大豆製の奴でした。美味い!今まで食ったガンモドキ崩れの素食団子の中ではダントツで美味い!
おかず2品は,ピーマンと人参の炒めもの,それに白菜と人参の煮物。見栄えは全然パッとしないんだが…これもイケるんだ!淡くだけど中華スパイスがきっちり使ってある。広東系のふわりとした浮遊感のある味わいで,ピーマンも白菜も素材の味がギンギンに生きてる。ピーマンの方は,皿に残った油にプチプチと気泡が弾けてたけど何か変わった油なんだろか?
極めつけはハム。これもよく味わわないと分かりにくいほどの…強いコクを帯びた魚肉ハム。日本製の市販ハムでは絶対にない味。確実に獣肉じゃないのに,これだけで十分におかずになる,充実の味わい。
予期しない衝撃に途方にくれてた。
何だ…この完成度の高さは!?
厨房に立つおばちゃんと兄ちゃんの会話が耳に入る。最初はウチナーグチかと思ってた。けど,奇妙にナイチャーじみてる。さらに聞き取れたのは,はっきりとした北京語。
何だ?この人たち!?
確認は出来てない。平成ナイチャーには,する資格もなかろうし,きっと理解も出来まい。沖縄戦ばかり語られるシマの歴史だが,戦後の10年ほどの混沌期も,勝るとも劣らぬ地獄絵図だったらしい。喜納昌吉の「ハイサイおじさん」の時代です。
その頃,香港や中国福州辺りから奄美辺りまでは,密貿易に群がる海賊とマフィアの支配する無法地帯,見方を変えれば国家権力の及ばない自由商業圏が生まれた。時代と地政学的な空隙状態が作った,現代史の空白。後にタリバンの温床となった,90年代のパキスタン-アフガン国境地帯のような――。
壺屋のこの一帯は,そんな時代の匂いが今に留める場所に感じられてならんのだが,違うんだろか?
沖縄の闇の底から光の水面へ急浮上。
那覇メインプレイスは9時から開いてた。屋内をしばし,まったり歩くも…やっぱここに居る限り沖縄に在る実感ねえな。どーしょーもなくニッポン。
メインプレイスから北へ。年末年始のおもろまち,気温も風景も肌寒い。
おもろまち四丁目,目的のdetox soup cafe Soup Onを見つける。新造アパート群の一つの1階入居店舗。
明るい山吹色の壁紙に暖色の机椅子が一列。カウンター注文の典型的なファーストフードの造りながら…どこか手作りっぽい空気を宿す。
Cセット 500円
を注文。パンとスープのチョイスはベーグル(プレーン),畑人(はたけんちゅ)スープにしました。
待ちながら見てると,テイクアウトとイートインの客が半々くらい。テイクアウトは家族の人数分を求めてくのもある。界隈では便利視されてる店みたい。
来た。
袋入りだったから心配したベーグルだったけど――十分だった。いや十分どころか…表面が柔らかいから最初は日本風の「蒸しパン」みたいに感じたんだが,ちゃんとした低発酵独特の臭みを宿してる。しかもそれがごく薄く,かつクリアに…ニューヨーク標準の臭みを抑えたタイプの食べやすさと,ジューク本来の香ばしい臭みを合わせ持つ,体験のないベーグルです。
店内に琉球酢の効用と,これを各料理に使ってるとの表示があるから,ベーグルにも何かの形で作用させてるのかもしれん。
スープが…これがまた考えられん味覚を持ってた。出汁は認められない。ベーコンの痕跡すらない。ただただ野菜から溶け出た味だけど,にしては奇妙なトロみがある。加えてこの微妙な,透明な複雑みは!?
これもおそらく酢だ。沖縄だからかどなのーか…酢ってこんな万能な使用に耐えるもんなのか?しかしどうやって?こんな堂々たる白人飯に,どう酢を組み入れてるんだ?バルサミコだってソースには入れてもスープに混ぜないだろ?
壁の表示を改めて見直す。曰く「県内産塩使用で天然ミネラルたっぷり,健康酢FFCパイロゲン入り」って何のこっちゃだし,こーゆーのは調べる気には全くならんが…とにかく塩と酢ってな基本調味料にとことんこだわってやっとる店みたい。
いい店だ。思想的にいい。それを受け入れてるおもろまちの市民の食感覚も刮目に値する。
「元旦なので…」とぜんざいをサービスしてくれました。
後味の最高の清澄感を口に宿し,店を出る。
Tacos-ya 新都心店。
他に北谷店,国際通り店有。
タコスヤセット 650円
おそらく沖縄では一番メジャーなタコス屋だと思う。何度か見てたけど,初めて食った。
味としてはまずまずか?沖縄タコスは地元密着の店の本格度が圧倒的らしい。
旭橋へ戻って燕〇房って店を訪ねてみるが,少なし元旦は夜しかやってないらしい。
んで流れで,気になってた久米の高良食堂を急遽訪問。
名前は聞いてたんだが…まさかこんなとこに?って感じで,アパートの真っ只中に完全に溶けて開店してる,つーかアパートの1階に入居しとる店でした。そこだけ車が乗り付けて来てて遠目にも分かる盛況ぶり。
横戸をガラリと開けると,まさに街の食堂屋さん。とりあえず
ソーキ汁 600円
を注文。ご飯は白かジューシーかを選べたんで,今回一食目で参ったジューシーにした。
壁に張り出されたメニュー数はルビー並みに多彩。自販機式は取ってないとこはあやぐにも似る。「焼肉そば定食」という謎のメニューにも惹かれたけど,沖縄だから一度はソーキ…って観光客気分に引きずられちゃいました。
しかし――○○汁なる沖縄メシは何度となく食ってきた。
牛汁,骨汁,山羊汁,中味汁。でも素直にソーキ汁は初めてかもしれん。
ソーキは予想に違わず美味かったんだが,まあソーキはソーキ,分かりやすいあの味でそれ自体驚きはなかった。けどこの汁,他の点でも考えさせられた。
味噌味なんである。なんだけど,日本の味噌汁とは全くもって似て非なるもの。
内地の,出汁をきかした「お味噌汁」じゃない。味噌スープなんである。悪く言えば味噌を溶いただけ,出汁と言えばソーキの粗い肉汁だけって味。和食の味噌汁よりインドのダールを想うような感性。
石垣島で一度飲んだ時はシケた安物としか感じられなかった。それ以降も,今でもそう美味いとは味覚できはしない。美味くはないんだけど…。 味噌って,この味噌スープとして食うのが,世界的にはむしろメジャーなんちゃうか?
台湾の「味噌湯」,あれも中華スパイスはごくわずか,純粋に大豆の味を楽しむ味噌のスープです。
そういえば…沖縄のスーパーには意外に味噌のコーナーが充実してる。しかもこれが県産品だらけなんである。「沖縄味噌」とでも言うべき異質なジャンルの調味料が確固としてあって,それはナイチャーにはかなりの確率で貶めるし,ウチナンチュも決して自慢の味とは自覚してないけど,でも実は列記とした「ふるさとの味」。
讃岐うどんもブーム前,つまりごく最近までそんな食べ物だった。
そういう位置の食文化ってあるんじゃないかと想う。とゆーより,自覚されてないそーゆー食感覚こそが実は本当の意味での食文化では?
その土地の食のかたちが全て,情報社会にメジャー扱いされてる訳はないし,郷土の自慢にすらなってもいないからです。
あと,じゅーしー。
最初に来る魚臭さみたいなのは,痛んでるからじゃないらしい。台湾系の,昔の和人が言う「小便米」から来るのか,薬味から来るのか?
思想的に出汁じゃないと思うが…。
とか気付かされることの多かった高良食堂だったんですが――こういう住宅街や下町の普通の店に驚くことが,最近とみに増えてきました。ガイドブックやグルメサイトに載ってる有名店じゃなく,もっと庶民的で当たり前の店に。
そーゆう店を,わし,今までの食探索では数限りなく通り過ぎちゃってるんじゃないか?
初めての沖縄で入った那覇の食堂。石垣島で最初に入った味噌汁の店。今一度訪れたい。
帰りかけて,すぐ南にいい雰囲気のコーヒーハウスを見つける。
ログハウス風の落ち着いた,広い店だ。店名,琉球珈琲館。
扉を開ける。靴を脱いで,スリッパ履いて上がり込む。
沖縄スピリッツ割りのコーヒーが売りらしい。泡盛コーヒーを注文。泡盛は3種類,暖流を選択。
後から国際通り店も発見した。あ…福福珈琲で有名なあの店の本店だったわけね。もっとも,そうと知ってたら入らんかったんだが…。
昼間からアルコール入れて大丈夫か,わし?…とゆー怯えが,いつも思い止まってた理由だったんだが…味は完全に意表を突いてた。
珈琲だ。
いや,それは分かってるんだが…カクテル的な要素がない。どこが泡盛?って第一印象。少なしずっとわしが誤解してたような,泡盛のコーヒー割りとは全く違う。
不思議に思って,今度はコーヒーとして,つまり今回毎日味わってきてるコク剥き出しの沖縄珈琲――って感覚で,もう一度味覚を精査してくと。
そのコクなのだ!
珈琲のコクの限界を破って,コクがグイッと強い跳躍を見せる。その後にサーッと爽やかな感覚が舌に広がって,その時に初めて,気づかされる。これがスピリッツ系の酒の口どけで,より強化されてる!
あくまで珈琲の引き立て役として泡盛を使ってる。そして,泡盛の量を,コーヒーを殺さず,逆にコクを補強する,というより触媒になるような感覚で調整してる。
つまり,沖縄コーヒーだからこそ泡盛によって旨みが増幅されてる。
いや,むしろ――あのアジクーターの味覚に同じく立脚する沖縄コーヒーと沖縄スピリッツが,同じ思想で発達してきたからこそ,そのマッチングが成立してる…ってのが正確かもしれん。
面白い!このコントロールがきくかどうかは分からんが,コクが生きたコーヒーなら家でも手作りも出来るかも?
「こんにちは」いきなりマイクの声。見回すと,屋内のピアノにいつの間にか座ってる女性らしい。「わたしは,この店でアルバイトをやりながら演奏をさせて頂いてます」
こんなんもあるの?コーヒー一杯で…!
しばらくしてレジで支払う。ホントにさっきの歌手がレジに立ってて,おつりを渡してきた。ユタのような,闇に続くよな瞳の歌い手でした。
なかなか深いカフェです。那覇の闇はまだまだ奥行きあるんやね。
てことで,今回は章を代えてさらに続いて参ります。