システムを信じ切るという罪@ことばぐすい

 結局はシステムを信じ切っていたことが全ての原因なのだ,と思った。潰れたメーカーの社長も,破綻寸前の銀行の頭取も,年金や公共事業に国債を乱発する政治家も,そして住宅ローンを組んだアキの両親も,ほとんどの人間が,戦後何十年も続いてきた右肩上がりの社会を信じていた。バブル前夜にはとっくに破綻寸前だったそのシステムに,何の疑問も持たずに乗っかってきた。
 そのこと自体が,罪なのだと感じた。知らなかったから仕方がないだろうと言う人もいる。しかし気づいていなかったことが,罪なのだ。そういう意味では,自分たちも含め,国民のほとんどがまるっきりの脳無しだったのだ。無能な人間が揃いもそろって,この国を動かしている。
(垣根涼介「ヒートアイランド」文藝春秋,2001)