本伝02章Step14.何に太らされたのか?


 past85days
 Weight:115.5kg
 (△20.5kg)

ってゆー被害妄想な問いかけをあえてしてみます。
 わしの体重の増加ボタンは,わし自身が押したつもりでいる。だから,受動的な意識はないし,悪者を探してやっつけてやる!といった憎悪もない。
 けれども,だからこそドライに原因者を突き止められそうな気がするんです。
 わしは,20歳でA型肝炎で3ヶ月入院しました。その時のウェイト60kgから10年位で倍増できたわけだから,増量にかけては大成功を収めたのじゃ!(大威張りだ!)
 けども,半減を目指す現在のように,明確な戦術を持ってたわけじゃない。普通に生活しただけ。正確に言えば「独身でいたいからダイエットをしないできた」ってだけ。
 つまり,世の食生活の流れに逆らわないで食ってたら自然に太れたわけ。
 考えてみりゃ,これは人間史上驚嘆に値する状況!ほとんどの時代,人間は飢えてガリガリでしたよね。なんでこんなに今の日本,「太りたい人」に好意的なの?
 カロリーノートを携えての初めての海外旅行,それ自体がむしろ奇跡的に思えたのね。
 中国人の家に泊まったら,朝から飲茶がズラリと並んでもう降参,ということはよくあるけど,あれは来客への礼儀作法。
 中華世界の朝の街には,あちこちに湯気が立ちのぼる。アツアツのお粥や豆乳の店が早朝から大回転。
 油条(揚げパン)をつけても300kcal程度だろ。低カロリーで栄養たっぷり。
 中国本土はもっと徹底してる。西安に留学してた頃の朝の学食は,饅頭(マントウ。アンマンの中味抜き)1個か2個を頂戴した後,ヒエなどの雑穀のお粥か,豆腐脳という挽肉抜きの麻婆豆腐みたいなもんを丼に入れてもらって食ってた。腹一杯になってたけど,あれも300kcal行くことはなかったでしょね。
 当時は「やっぱり貧しいよな」と思ってたし,事実ヒエなんてとても食えないと朝飯を抜く留学生もいたけど,今から考えてみりゃ栄養的には最高の朝飯。
 まず,朝飯をこの位のカロリーに抑えとけば,昼と夜に600kcal程度の普通の食事を食っちゃっても今わしがやってる1500kcal以下でも無理なく収まる。
 次に,貧しそうな朝飯だから腹が減るかというと,雑穀や大豆のビタミンやミネラルのおかげで十分持つし,食い応えもバッチリ。げっぷが出るほどよ。
 さらに,ビタミンやミネラルを朝から摂っておけば,今文明人が陥ってる高カロリーだけど栄養失調という状態を免れうる。
 中華の宴会料理を元にした日本の中華料理や祝事の料理だった餃子なんかを常食しちゃえば,そりゃあ太るだろけど,漢人の食生活上の中華は本来そういうもの。
 ちなみに,インドでも南部ではヨーグルト,北部では豆カレー(ダール。スパイスや唐辛子はあまり入ってない)が朝飯の定番みたい。これも中華の朝飯と同じ利点がある。
 そういえば,高カロリーと言われるヨーロッパの食事だって,現地では全く違うみたい。日本のパンは全部お菓子だと幕内秀夫(「粗食のすすめ」など)は言う。現地人が常食してんのは未精製の全粒粉を用いたボロボロの小麦の味がずっしりくるパンで,油入りの甘くて柔らかな日本のパンとは別物。ルーマニアや,フランスの植民地だったベトナムやラオスでは妙にパンが美味かった。
 …考えてみりゃ当たり前じゃん!人体に合わない栄養生活しか編み出せなかった文化集団は,より良い食生活を持つ集団より滅びやすい。医療や衛生環境で食生活の欠陥を補えない前近代,つまり人類史のほとんどの時代にはそーゆー淘汰が繰り返されてきたはず。
 高カロリーの方は,そんな余剰があれば食事以外の経費に回してたろう。人間は多くの時代,金銭的には貧しかったんだから。
 「人間に適切な食生活とは?」という問題に,栄養学は未だ明解な真理を提示できない。そんなら,既に実績を上げてきた──つまり現実にある民族を生き長らえさせてきた──伝統食の知恵の方が信用できる。

 そんなもん,日本にもご飯に納豆と味噌汁ってパターンがあるじゃん!と思いますか?
 確かに,納豆ご飯に味噌汁だけなら300kcal程度。栄養的にも良質でしょね。
 しかし,現代日本の普通の朝飯ではそれだけじゃない。これに魚その他のもう一品がつかないと,さも貧しい朝飯と感じるでしょ?
 そうなると,どうカウントしても400から500kcalにはなる。昼か夜をぐっと抑えない限り1500kcalに収まらない。
 例えば,うち1食を外食でもすれば,考えずに選ぶと700kcalにはなるから,もう1食を300から400kcalに抑えないといけない。抑える気がなければすぐ2000は越える。夕食をストレス食いし,例えば弁当2つ平らげちゃえばアッという間に3000kcal突破おめでとうございますう~!と相成ります。
 さらに,現在流通してる白米は,元々の米=玄米からミネラルなどの豊かな杯芽部分を除いたもので,栄養的には玄米にはるかに劣る。もちろん雑穀に比べりゃ人間の食いもんじゃない。
 ひょっとしたらこういうことじゃないの?ミネラルなどの微量栄養素は満腹中枢を刺激する。体が求めるそれらをわざわざ分離した白米や菓子パンを主食にするから,腹が減る。その分,おかずを増やさざるを得ないから,トータルとしてカロリー過剰になる。

 つまり問題は,なんでわざわざそんなに劣悪な食材って分かってる精製された白米や菓子パンを作ってんのか?コレなんです。
 食品流通上,明快な答えがある。微量栄養素を含む食品は一般に長期保存できないの。
 生産上の理由もある。例えば全粒粉のパンは同じ大きさや形に焼き上がらない。
 結局,安易に美味さを出しやすい油や調味料と同じ。大量生産と大規模流通上の必要性!食べる側の嗜好じゃなくて食べさせる側の効率が優先されてるわけ!
 これは誰かの陰謀じゃない。産業社会は台湾にもありまっせ。言いにくいが──食べる側,つまり現在の日本人に,食品生産・流通システムを暴走させないだけの味覚と知恵とセンスがなかっただけ!
 システムというものはこういうものだ。それ自体は人間にメリットをもたらすために作られた,むしろ善意なもの。ただ,それを管理できる人間がいないと暴走するのです。管理者が少数のエリートだけになると狂いはじめ,管理者がいなくなると予想外の面で人間を攻撃し始める。
 原爆と同じだ。所有者がそれをコントロールできなければ,本来強い味方であるはずのものが所有者を害することになる。
 手塚治虫や新宮恵子は1台の人工知能コンピューターが人間を支配する未来を描いてるけど,そんな分かりやすい管理社会は来ないのです。そういうコンピューター・ネットワークで機能化された社会システムの能力。それを管理できるだけのビジョンとイマジネーションを人間が持てなくなったとき,あらかじめ人間がインプットした善意の運動をシステムが継続し,結果的に人間が望まない事態を招くというシナリオこそが現実の懸念。
 現代人を太らせてる食生活──さらに生産・流通システムとダイエットブームのコングロマリットこそ,まさにそれじゃねーか!

 自分の舌を研ぎ澄ませ。自分の腹の本当の望みを聞け。どんなに手軽でも「コレ不味い!」とハッキリ言えること。それが唯一の対抗手段です。