外伝01-1ಬೆಂಗಳೂರು【出発前日】フラット化するワシらの身体

頭脳大国──フラット化の総本山

 お久しぶりです,インド先輩!大きくならはりましたねえ。アンタと明日にゃ再会できるんであります。
 もう20年前になりまんな!19歳夏の初海外旅行で先輩にお会いした頃,アンタはホント言うこと聞かんヤンチャ盛り。下痢ピーでフラフラダンスのわしを考えられんほどコレデモカッて翻弄してくらはりました。エラい難儀しましたで,実際!
 それが今は──イッチョマエに経済成長率8~10%,2030年には日本を追い越すBRICsの雄!イヤァ…カッコよろしーわあ!
 おっと…そんなんもう当たり前でしたな。ホントにスゲえのは──ネールさんの頃からガンガンに半世紀やってきた「頭脳大国」政策が実を結んで世界のフラット化の総本山になっちゃったこと!
 そして,いよいよ先輩の世紀が始まるわけッス。この日が来るのをどんだけ待ってたことか!

根源的に確かめたい未来

 さて。大きくならはった先輩に比べ,わしの方は,実にお恥ずかしいことですがこの1年で半分に縮小してしまいましたワ。
 もっとも──20年前と比べたら同じくらい。20年のうち19年かけて体重倍増させて,最後の1年で半減。って言えばそれなりに波瀾万丈っぽくていいッスけど。
 けれども,この縮小の過程で。
 わしらの食生活がさらされてる巨大なリスクって言いますか,現代社会の身近な影と言いますか…そもそもわしが何故体重倍増したのか気付くところがありまして。──え?ハッキリ言えって?いや詳しくはダイエット遊記本編をご覧下さいです。
 とにかく,色々根源的に確かめたい気分なわけっス。そゆときは,国内なら島へ行くんですけど,国外ならやっぱインド!それに今の先輩と来たら,未来──フラットな世界の一番見える場所ですし。
 あ…カレー食いたいだけじゃねえのって?いやあ~それも大っきな本音なんスけど。

恐竜絶滅に匹敵する十の変化

 ところで。フラットな世界ってのは,トーマス・フリードマンが「フラット化する世界」(日本経済新聞出版社,2008〔増補改訂版3.0〕,以下「フラ世界」と略)で言いだした言葉でしたわな。
 1980年代から湧き起こった次の10の力が「『地球に衝突し,すべての恐竜を絶滅させたいん石』と同じくらい衝撃的なものとして語られるであろう変化」(出井ソニー会長談,フラ世界より)を引き起こしつつあるって話。
①ベルリンの壁崩壊
②インターネット普及
③ワークフロー・ソフトウェアの開発
(XMLなど言語・プロトコルのスタンダード化と,それらを基盤とする共同作業用のウィンドウズなどアプリケーションやソフトウェアの成立)
④アップローディング
(LINUXなどパソコンおたくのコミュニティー開発のフリーウェアの市場席巻)
⑤アウトソーシング
(外注化。Y2K対策を通じたインドの知識階級による業務の分割・代替化)
⑥オフショアリング
(中国などへの工場生産のワンセット全体の移転)
⑦サプライチェーン
(ウォルマートなどのコンピューディングされた効率的サプライシステムの稼働)
⑧インソーシング
(UPSなどサプライ機能のみが独立した飛行機・トラック等から成るネットワークの構築)
⑨インフォーミング
(Googleなど高度な検索機能を備えた知識管理技術を個人単位の利活用)
⑩ステロイド
(iPADやIP電話,テレビ電話など共同作業をさらに加速させる新技術の開発)
 …なんだか懐かしの講義ノートみたいになっちゃいましたけど,これらのそれぞれ革命的な変化が一気に発現したのがこの20年。そして今──これら全てが定着し,いよいよ社会を根本的に覆そうとしてる。先輩を中心にね。
 けれど…この11か月減量紀行をブログってきたわしは,このビッグなトレンドに別な意味で震撼するとこがあったわけっスわ。

フラット化を背景とする「高精製低ミネラル高脂質」食

 特にウォルマートについて語られたサプライチェーンの記述。
「ウォルマートの(箱入り商品の)川が流れているあいだに,建物の反対側に向かう箱のバーコードを電子の目が読み取る。そちら側で,川はまた100本の流れに分かれる。それぞれの流れから電子の腕が突き出し──ウォルマートの特定の店舗の指示に従って──箱を誘導して,本流から支流へと流し,そのコンベアベルトが待機しているウォルマートのトラックへと商品を運んでゆく。そのトラックが,その特定の商品を国内のどこかのウォルマート支店の棚へと運ぶ。そこで客がその商品を棚から取り,レジ係がバーコードを読み取ったとたんに信号が送られる。」(フラ世界)
 要はコンビニなどでお馴染みのPOSシステムの進化系。ウォルマートでは,従来のバーコードの代わりに商品パレットにRFID(無線ICタグ)を取り付けて管理するとこまで行ってるそうだけど──これは,商品の質,食品で言えば「美味さ」よりも,「速さ」と「安さ」で売ろうするシステムの究極形。
 「ウォルマートを貧困対策事業と見なすなら,消費者に2000億ドル以上の還元を行なっているわけで,これは連邦政府の数多くの事業に充分に匹敵する」(フラ世界)そういう側面も確かだろう。社会的メリットはスゴくデカいのは間違いない。
 けどよ~。この方向の流通が高精製穀物(杯芽無しの白米など)を要求した結果ミネラル不足になって,穀物が食欲を満たしにくいからおかずを食べ過ぎる。一方で,このシステムから余りに速く口に入る食品が供給されるのに慣れてしまったもんだから,肉と油で速くて適当に食える程度の食事を摂るのが習慣化する。つまり,ペリエの法則で言う豊かな社会特有の「高精製低ミネラル高脂質」食生活のバックボーンそのものじゃんか!
 てことは──世界のフラット化によって,肥満リスクはさらに加速され,わしらの体のフラット(デブ)化もより進むってこと?

現代の食とはトレンドvs知的個人の衝突の現場

 現在までのフラット化ないしIT革命なるものは,残念ながらそういう方向で展開してきたと言わざるを得んわな。
 サプライチェーンだけじゃない。アウトソーシングだってオフショアリングだって,値段の安さと処理のスピードの論理で貫かれてる。
 けどフラット化はまだ始まったばっか。
 企業にとってのフラット化は,値段とスピードだろ。でも,フラット化がホントに意味を持つのは対個人です。アップローディングやインフォーミングの価値を誰が最も享受するか?企業のパワーより個人のそれを遥かに強化し,高度化するのがフラット化。
 ペリエの法則による豊かな社会の食リスクに対応できるのは,個人しかない。個人の意志の強さって言ってんじゃない。個人の知恵です。
 今のメディアに溢れるエセダイエット情報の舞い踊りを越え,キチンと食リスクを管理できるほど,賢い消費者群をわしらは形成できるか?その形成を可能にするほど,フラット化は個人の知恵に革命を起こすことができるか?
 いや,できるか?ではないよね。わしら新世紀の市民の主体的選択なんだから。──フラット化ってのは結局,これまでより徹底的な効率を追うトレンドvs同じく遥かに知的になりうる個人の思考の凄まじい衝突の場になる。
 その戦場のうち最も身近な一つが,食生活ってことになる。

ベンガルールのスパイス使い

 今回のインド,とりあえずベンガルールを目指してみます。
 フラット化の最前線であるこの街で,インド人がどう暮らしてんのか?家庭の数だけスパイスのブレンドがあったはずのインド人が。