外伝05O蘇州ヰ 星期天下午 ヰ
澳門莉達蛋撻餅消滅之怪

■上牛十一点五十分■
 昼時が近付いて棗子樹の店内も混み合ってまいりましたが,わしは全然席を立つ気なーし。
 メニューがまた面白いのよ。メニューを下げに来た店員に「まだ頼むかも」とかハッタリかけて残してもらったくらい。香港スイーツと同じく吹き出しそーになって困りました!
 ごく一部ですが――
素叉シャオ:(メニューの和訳。以下同じ)精進焼き豚
…その訳じゃ分からんぞ?
生菜紫巻:有機野菜の寿司
…「生」って有機野菜かあ?
宮保海味巻:巻いた精進いかの辛味噌炒め
…巻いたイカって何なんだ?
橙香腰果:ダイダイの実の味のカシューナッツがある
…「がある」で終わられても困る。
[豆支]椒海味巻:スルメイカは巻く,浜納豆と唐辛子のみそ
…もう何が何だか!?
 けど真面目な話,この店のメニューのも一つ使える点は,メニューに量が書いてあるとこ。値段からは読み切れない一品の量が「〇人前」とかちゃんと書いてある。中国では珍しいことで,一人で食事するにはすっごく便利。
 白人のベジタリアンの姿もちらほらある。熱心な仏教徒の中国人も含め,他では見かけなかった一人客がポツポツはいる。だからこその量表示なんだと思う。
 ただね。そーゆー宗教的な動機で考案されたからだろけど,精進肉の料理には通常の料理と同じかそれ以上に油がたっぷり使ってある臭い。ダイエットにいいかってゆーと疑問。
 てことは,そもそもこの「素食」が体に良い食事なのかって言えば首を傾げざるを得ない。例えば今日の肉団子なんか,明らかに何かヤバいもん食ったな…って感じのイヤ~な後味。ノンカロリー甘味料並みに化学物質的にリスクはあると思っといた方がいいね。
 …と,ここまで言うのは乱暴なんじゃない?って思われる方のために。かつてほどじゃなくてもまだまだ世に中国びいきはたくさんいて,例えば教科書の周辺諸国条項なんかを認める力になってんのも事実だからね。――わしはそーゆーのと一線を画してた現実的な中国観を持ちたいけど。
 去年10月から11か月で▲68kgの体重半減を完走したばっかのわし。帰国後,体重計に乗ってビックリ!
 な…76.0kg!?
 8kgもオーバーしたのは完走後初めてだど!!
 一時は慌てたものの,自分のカロリー管理を信じて日本で元の生活を普通にしながら経過を見守ると――
2日目 74.0kg
3日目 72.4kg
4日目 71.2kg
5日目 70.6kg
 6日目 68.0kg
 これは何だッ?たった6日,1週間しないうちに増えた8kgが戻してしまった!?
 ▲68kgの過程でもここまで極端な変化が起こったことはなかった。だってアンタ…1日に▲1kg強,約2%ずつの超高速減量でっせ?てことはカロリーの過小積算によるものでもない…
 どう解釈していいのか今でも分かりません。でもハッキリしてんのは,中国の食い物って何かとんでもない状態らしいってこと!
 減量開始以降,わしは海外旅行もしてる。台湾,タイ,インド,韓国。食生活の違う土地としては沖縄。それぞれ今回の中国以上の期間です。こんなことは起こらなんかったし,大体半減のゴールはインド旅行中だったんだから。
 推測できるのは,一つは今日本で騒がれてるよな安全じゃない何か特異な物質が食料に含有されてるって疑惑。
 次にカロリー。油です。他のアジアの国々に有り得ないほど,大陸中華には油が使用されてるって疑惑。
 も一つは栄養バランス。中国の一般食は,どうもおかずが少なくて主食の割合がスゴく高い。つまりまだ貧困国型の食卓構成なわけ。炭水化物が偏重してるんではって疑惑。
 それぞれぼんやりした疑惑でしかないけど,どれかは図星のはず。簡単に言えば,中国人の食卓は壊れてる。4000年の歴史を持つ世界三大料理の文化がってことはないだろうから…おそらく共産時代に壊れたんでしょう。
 そしてその状態はまだ継続してる。
 上海で今回目についたのは「家常菜」を売りにしてる店。京都風に言えばおばんざい,つまり日常的なおかずってニュアンス。残念ながら入らなかったけど――
 「普通の食事」ってのを大切にする当たり前の感覚。
 食品を巡る危機的状況を察してかどうだか分からんけど…そーゆー感覚が経済発展を続ける中国で芽生え初めてるんだろか?
 いわゆる中国名菜,中国4大料理にカウントされない東北地方の日常食が見直されてんのもそーゆー流れかも?
 そこには,共産時代に失った文化のバランスを必死にリストラクションしようとしてる現代中国の姿が垣間見れると感じたわけでした。

■下牛一点半■
 Magpieを再訪して1時間マッサージ。早朝から歩きっ放しで疲れ果ててた。完全熟睡してしまう。
 清算時のカウンターで訪ねられる。「あんた上海で働いてんの?」「いや…今日帰国するんスけど」「あっそう,よく来るから働いてんのかと」「そうしたいけどね」ホントに根付いてしまいそうでヤバいね…。
 静安寺に戻る。JACafeでエスプレッソのダブルを決める。3泊4日,つまみ食いの中国だったけど刺激的だったな…広島から直行できる隣の国だし,定期的にフォローしたい。…ってゆーか,そーゆー名目でまた来るぞ!
 この世界最古にして未完成の文明は,腹も立つし疲れるけど――ヤッパとめどなく面白いんだわ!!!
 地下鉄駅へ階段を降り,空港へ。

■下牛三点四十七分十二秒■
 おおッ♪今この瞬間,時速400kmを超えたのだぞ!!最高速度は431kmまで行ったぜ!!そんでからに,より身に迫る点だけど,相変わらずスゴく不安な振動だ!!
 地下鉄2号線の龍陽路とプー東空港を結ぶリニアモーターカー。正式名称:上海磁浮列車…ってこれ以上なく分かりやすいっしょ?
 この楽しみを,最後に取っといたんだがや!フフっ♪
 切符はなぜか有人窓口だし,荷物はX線透視されるなんて中国らしさも残るし,それより何よりとにかくスリリング!!
 わし的に今んとこ,恐怖の公共交通機関の歴代トップタイです。対抗馬は,五島列島-福岡間の6人乗り小型機ね。そこらのジェットコースターの5倍以上(当社比)怖いよ~!
 真実のスリルが味わえるこの十数分,片道50元(普通席)のリニア体験。コレ絶対お勧め!


▲到着ホームの磁浮列車前。みんなで撮影会♪しかし生きて降りれて良かった…

■下牛四点十分■
 プー東空港Fカウンター,中国東方航空の行列に並ぶ。
 その数約200人。ゲロが出そうです。
 赤いタスキに「サービス向上!」みたいなこと書いた案内のお姉さんがいたので,一応「広島行きはヤッパこの行列だよね?」と確認する。すると一言,怒鳴り声。
 「反対側!」
 一応客なんですけど…文句言いません。言いませんけど…普通その位置に立ってる人が「こちら〇〇行きでございますう~」とか案内してくれないかしら…いや独り言です。有難さんでごぜえます…。

 で,重い眩暈とともに反対側に回ると――良かったア!!こっちの行列は短い!100人位のもんだ…ハハハ…ハ…。
 でもこっちは日本人が多いからか?行列のスピードが反対側より全然早いぞ?わずかな時間,ものの30分ほどでチェックインデスクにたどり着けました!たった30分ですよ!!…ってサービス感覚麻痺してきちゃってますけど。
 さあチェックイン。北の日本に向かうんだから夕日は…「最好左方窓端片的座位!」:左側の窓側がいいんだけど…
 「没有!」:ないわい!って切り捨て御免。ウウッその共産時代の常套句,懐かしいねえ!
 「那,通路端片好」:じゃあ,通路側でいいや。
 するとダメ押し。「没有。都没有!」:無い無い,全部無い!
 怖くなった。もう一言だけ確認させてね。「座位有[ロ馬]?」:座席はあるんだよね?
 その不安げな問いがウケたらしく,兄ちゃん馬鹿笑いして大声で「有!」
 ウーン,そこで「没有」の三段オチが出たら中国的だったのに残念じゃのう!
 イミグレもこんな調子だったんで,ホントにぎりぎりのボーディングになっちゃった!中国では時間に余裕を持って行動しようね。まだまだ何が起こるか分からん社会よ~!!
■下牛六点半■
 機中。あ~あ,明日から仕事だよ~。
 …そー言えばこの旅行,最初は義務教育がどうとか言ってたよね!今思い出したけど。
 まあ,インド人と同じで,中国人が来年日本の前に立ちはだかるってことはないみたい。なにせ中国は,インドはもちろん日本よりはるかに文化的に壊れてる。文化大革命を中心とする共産主義の現代史の中でね。
 けど。壊れてるからこそ,わしは20年前よりはるかにこの13億に脅威を感じました。
 彼らはその壊れてる現実に,ハッキリ気付いてるからです!そんでもって,その自分たちの社会構造を本気でリストラクションし始めてる!!自分らを「中華人民」――世界の真ん中の民だと公言してはばからない誇り高い奴らがです。
 けど。それだけなら,かつての日本人並みでしょ?父ちゃん,俺はヤルぜッの世界だけど,中国人はもっと怖いと思います。今の奴らは,失うものは何もない軽薄パワーで突進してくる!
 留学中イヤでも思い知ったことです。中国人の軽薄な突進力とでも言うべきものは日本人の比じゃない!

 共産時代,ロープウェイの列に5時間位並んだり,24時間かけて近所の山に登ったり平気でする奴らを見てきた。とても今の文明崩れした日本人じゃ太刀打ちできない俗物的な猪突猛進を笑いながらやってのけるのよ!!
 その証拠が,シンガポールであり台湾であり香港であり,今や奇跡的な変貌を遂げた北京や上海なわけじゃん!
 捨て身のリストラクションと旧来の軽薄突進力が掛け合わされた現代中国の状況――それが13億人の人類史上最大規模で爆発しようとしてる。それも,バブルと平成不況で身も心も弱体し切った我が日本の隣でです。しかも,時まさにフラット化で全ての障壁が霧散して,地球の裏の企業がコールセンターを落札していく時代にです。
 さあ。この爆発力に耐えれるだけのガキどもを,わしらの社会は育てていけてるのか?
 中国のリストラクションで日本はリストラなんて洒落にもならんことになって,かの弱きガキどもは路頭に迷ってオロオロ――って図は,来年にはないとしても,今のガキが大人になるころにはそんなに想像力の必要な未来だろか?
 中国の未来だってバラ色じゃない。それどころかお先真っ暗です。
章を改めて後述する一人っ子政策は確実に超高齢化社会を招くだろし,近代国家としちゃ民法が出来たばかりで判例の蓄積もまだない初期のフェーズにある。何よりまだ本質的に共産主義の独裁国家で,古い歴史にも尾をひく官僚主義とそれによる形式主義が横行してる。
 けど,このリストラクションと軽薄突進は,何とかクリアしそうな勢いです。
 さあ。この13億の隣で生活してくわしらは,子どもに何がしてやれると思いますか?
 実は,わしは完全には絶望してない。例えば今の京都の底力なら中国人と渡り合える。リストラクションなら伊右衛門や西陣織マグカップでの革新は凄まじい。軽薄突進力では真っ向勝負なら劣るけど,あのイケズな狡っ辛さで十分対抗できる。リソースで負けるとは思えない。
 もちろん,わしら日本人一般はそうじゃない。京都人じゃないわしらは,ゼロ思考とクレバーなスピード感を新たに子どもに用意しなきゃならん。けど,京都は日本人の普遍でもある。そのものじゃなくても,京都人が持つあれらの気質,少なしその亜流か変形版を同じ文化圏に育ったわしらも持てないはずはないのよ。
 だから,今後の義務教育では徹底してアタマを強くすべき!記憶力なんか問題じゃない,ゼロからヴィジョンを構想して企画に組み上げる奔放なイマジネーション。ヴィジョンの種となり,企画を実現してみせるクレバーな実行力。いわゆる課題解決力を集中的に鍛え上げなければ,食われる!!
 この「食われる!」って危機感を,どうか教育現場にまず共有してほしい。
 間に合うのか?今すぐ始めなきゃ明らかに手遅れになるぞ!!

■下牛二十一点半■
 自宅にリュックを降ろす。
 次にわしの手はリュックのジッパーに。エッグタルトの紙袋を掴む。
 いや,もちろん年度末のクソ忙しいのにご迷惑をおかけした職場の皆様への土産ですよ。けど…1個位いいじゃん!買ってきた本人が味見しないのは逆に不誠実だろ?そうだそうだ!!
 葛藤に打ち勝った意志の強いわしは,タルトを口に運ぶ。
 …!!


▲澳門莉達蛋撻餅アップ。外皮はサクサクと柔らかで…


▲同餅の断面。卵の豊かな甘味がホロホロ…

 …関係ないけど,プー東空港で花の開くジャスミン茶を買ったよな。あれって,職場土産にピッタリじゃないかしら?エッグタルトより中国らしいよね?そうだよな~ヤッパ!!…って整理はどうよ!?そーゆー強引な,もとい。自分勝手な,もとい。TPOにマッチしたお洒落な整理ならば…
 この馬鹿旨エッグタルト1ダース,わし一人で食えるぜ!
 それから2日,なぜか幸せに満ち溢れた夕食の一時を送ったわしなのでした…職場の皆さん,ジャスミン茶はとっても美味しいでしょ!?
澳門莉達蛋撻餅12個
      1200kcal