外伝06@再訪@(@_22_@) 湯 おかわり (@_22_@)

▲阿輝麺線の香腸蛎[イ子]麺線

 士林夜市が,こんなに旨い湯(スープ)でいっぱいだったなんて…。
 夜市の奥の方,ランタンが百も並んだ妖気漂う寺院がある。
 この辺と,少し北の三日月型の広場みたいなとこが,この夜市の中心になってる感じ。
 どちらも,夜と思えぬ熱気が支配する場所です。屋台も客足もよくぞここまでって程集結しとります。
 阿輝麺線もその中の一つ。
香腸蛎[イ子]麺線 35元
 注文すると,作り置きの湯を碗に湛えた後,2つの品を混ぜ入れる。
 ホルモンと牡蠣です。つまり香腸と蛎[イ子]。麺線は春雨ですから,ホルモンと牡蠣入り春雨スープってゆー至極分かりやすいメニュー名。
 「ファン・イー・ファン」碗の渡しぎわに兄ちゃんの注意有。
 そのまま一口飲んでみると,食感も味も濃厚ながら出汁の味覚はごくうっすら。
 混ぜてみる。
 え!?──味が激変した。
 混ぜてるうちに,熱い出汁にホルモンと牡蠣の味が染み出してくるらしい。加えられたのは素朴なお馴染みの味だけど,元のスープの濃厚味と見事に溶け合って,スンバラシク高貴な汁を構成してく。
 この湯,サーブの形態としても明らかにファーストフードですよね?でも味は,ファーストフードの中じゃ旨いってレベルじゃない!逆にファーストフード的にザザッと作るから出せた味?
 例えば,コンビニのセルフコーナーにあってもこの味になるはず。
 こんなレベルのファーストフードがあり得るとは!

▲海友十全排骨の十全排骨湯と魯肉飯

 やはり師大夜市,こちらは駅前の集合店舗群の中。
 元々は市内の屋台だったらしいけど,今は一番奥手に追いやられて開店しとられた海友十全排骨。
十全排骨湯 70元
魯肉飯(小) 20元
 臭豆腐も自信ありって感じの表示だったけど,回りの注文から魯肉飯にしときました。
 入り口近くにドデカい壺が5つほど火にかけてある。注文を聞いた爺様が,そこから碗にすくって汁を出す。1分かからん。完全に作り置きです。
 なのに!これが何とも神奇な味わい!
 具は骨汁みたいな肉が入ってる。それだけ。野菜は少量,ほとんど溶けてる。
 味覚の基調は中華スパイスってゆーより漢方薬。思いっきり薬臭い!しかも真っ黒!でもどこかまろやかで食える。
 何だコレ?ワケの分からん味だぞ?そんでまた…不気味に旨いぞ!?
 魯肉飯も同じ感じ,滷味プラスアルファのレベル。
 中華薬膳の食経験は少ないけど,あれらとも違う。漢方プラスアルファでもある。しかも,調味料からだけじゃなくて肉汁も出してる。とにかく何がどーなってんのか分からんほど技を合わせまくった味覚らしい。
 ムチャクチャ流行ってるわけじゃない。駅側の店に比べて閑古鳥が鳴いたり鳴かなかったりですけど,常連客,もしくは口コミで聞いて来ましたみたいな客が多いみたい。幼稚園位のお嬢ちゃんに注文取りの練習させてんのを,みんなで微笑ましく見守りながら汁を啜る。
 好い店だ。

▲阿桐阿宝四神湯 四神湯

 士林夜市の帰り,民生西路と承徳路の交差点北東角へ寄り道。阿桐阿宝四神湯へ。
 ってことは,この夜は3軒のスープ屋をハシゴしたことになる…と今気づいた。なんか,腹が張り裂けそーになったと思ったら,なる程そーゆー秘密があったのかあ。
四神湯 50元
菜包 15元
 前回最も震撼したお湯です。
 あえて前回と同じ注文。ってゆーか,この店にゃ湯はコレと肉湯って奴だけだし,あんまり選択の余地はないけど。
 あえて前回と同じ席。ってゆーか,路地を隔てた2箇所の客席,やっぱりどっちも混んでて,一人客はカウンター席のある厨房のない側しか座れない。けどこの席,テーブルの上50cm辺りに荷物置きらしい棚がせり出してて,もんのスゴく食いにくい。恐らく元々棚があったとこに,客が増えたから無理やりカウンター作ったんだろけど,なら棚を撤去しろ!
 とか諸々の問題を抱えるボロ店舗なんですが…この一杯!コレ頂けるなら,何だってイイッス…。
 あれからあちこちで四神湯って名前のメニューは飲んで来た。中でも京都の美齢のは素晴らしかった。
 だけどやはり,この店のはスゲえ!
 気取りがない。何の味にも角がない。どの素材もクドくない。どんな突出もない。するりと滑らかに飲める。
 では薄味なのかと言えば──とんでもない!どこまでもガッチリとして,凄まじい存在感。
 四神湯の構成は,豚腸,意仁(ハトムギ),蓮の実,茯苓(ブクリョウ),オニバスの種子,干し山芋。臓物系の肉のアクのある出汁,蓮や芋のエグミ,意仁の重み,どれも強烈な個性を殺すことなく,バランスある複合味に仕立ててる。この絶妙なコントロール力とゆーか構成力とゆーか,見えない力業を絶賛したい。
 それに,こんな一碗を頂きながら,ダンプの行き交う夜の民生西路端で過ごす一時。何とも印象的なんだわな。

▲師大夜市 生炒花枝羹

 最後の漢字「羹」は,イントネーションは分からんが「ゲン」と読む。羊羹の「かん」ですけど,どーやら…とろみスープの意味みたいです。
 花枝は,モンゴウイカ何だって。文字からはとても想像できんが…イカの足がパーッと広がってるイメージ?
生炒花枝羹 55元
は,つまりモンゴウイカのそのまま炒めをトロミスープにしたものってことらしい。
 食ってみると。日本のイカ焼きとも韓国のオジンオともシチリア風イタリアンとも全く違う。同じイカだし,素材がってより扱い方が完全に違う。やっぱり中華のイカ身使いなんだけど,黒酢っぽい酸っぱさが染みて絡まって,普通コリコリしてるイカの食感が何かホクホクした,独特の具に仕立て上げられてる。
 全体として──酸っぱいとろみスープに和やかに漂うイカの臭みが奇妙な充実感を作り出してて…。
 寒い冬の夜には最高の甘露!!
 実はこの店。お目当てだったドデカ・クレープの店の対面。買えないほどじゃなかったけど,スゴい人だかりを注文受付カウンターと受け渡し口の2箇所で捌いてる事務的さにちょっとヒイてしまった。そのすぐ右手,路上に雪みたいな光を灯す不思議なイルミネーションの機械を売ってる店。
 対して生炒花枝羹の店。売り場横手にあるテーブルに座れる客はせいぜい5人てとこ。
 夜が深まるにつれ増えてく往来の人影を前に,啜る熱々の酸っぱいスープ一碗。わしはやっぱ,こーゆー美味が好きやなあ。

 海友十全排骨の配膳の素早さを見て,フォルモサにも入ってみる気になった。
 台湾を訪れた人には記憶に残ってるかもしれない。街角で不気味に微笑んでる黄色の地に赤で描かれた,髭面オヤジの絵。前回よりさらに増殖してる感じで,最早台湾のカーネルサンダース状態のオヤジです。
 「FORUMOSA」ってガソリンスタンドもよく見かけるから,同系列だとしたらかなり大資本なのか?飯屋としてのフォルモサには,歴史の古い魯肉飯みたいな説明書きがあるけど?
 まあその辺はともかく,飯屋のフォルモサは台湾の典型的なファーストフードのチェーン食堂なんである。
 ある事情でどの店も閉まりまくってた最終日,さすがにここは開いてたんで入ってみた。
 とにかく…湯と飯かな?
苦瓜排骨湯 65元
魯肉飯 30元
 3分で出てきましたけど。大丈夫か?
 とっても危ぶみながら一口。
 …かなりいい。
 苦瓜湯は苦みが程よいハードさで決まってるし。魯肉飯はがっつり滷味が響くし。
 配膳を見てると。魯肉飯は白ご飯にバサッと汁をかけてるだけ。苦瓜湯は作り置きのをすくってるだけ。そう言えば,苦瓜の煮詰まったエグミが残る感じは微かにあるな。
 でも!ファーストフード的にこの味が出せるのはなかなか。自分の街にあったらランチには最適っしょ。
 台湾スープのこの広がりと…加えてこの手軽さ!以前は見向きもしなかった世界だけど,まだまだ奥は深~く続いてそうです。