外伝10 弗 弗the fourth day-photo1弗 The haunted house

▲フレンチクオーターの少し寂れたエリアはアフリカ的な無機質の怖さがある。写真は幽霊屋敷付近。
 この幽霊屋敷の怪談は,日本のような一人の非業の由縁じゃない。背景になってる歴史的事実の方が恐ろしい。

▲星条旗のある軒先
 日本の田舎の祝日並みに,かなりあちこち掲げられてます。

▲フレンチクオーター路地裏
 昨年のボローニャじゃないけど,暑い国の建物の赤は空に映える。

▲植栽の豊かな軒が連なるフレンチクオーターの道

▲フレンチクオーター西端,新市街に続く道

[ニューオーリンズの幽霊屋敷由来]
 昔むかしの1830年代のこと。
 綿花プランテーションから得た巨万の富を注ぎ込んだ荘厳な白人邸宅では,それぞれ住み込みの黒人奴隷が多数,家事に従事した。これはその一軒,ラローリー家でのお話。
 この家では,なぜかどの奴隷が頻繁に交代していきました。前の奴隷がどこへ移ったのかもはっきりせず,すぐに新顔の奴隷がやって来ます。
 白人たちは連日連夜の豪華なパーティに明け暮れていました。その華奢な社交界で,毅然とした高貴な立ち居とゾッとするような氷の美貌で衆目を集めるラローリー夫人。
 しかし邸内に帰ったマダム・ラローリーには,別の顔がありました。
 マダムは,邸の屋根裏に秘密の部屋を持っていました。その部屋に,夫人が男女の奴隷一人を連れて入っていきました。夜を通して微かに響く絶叫。その部屋からマダム・ラローリーが出てくる時も,伴った奴隷の姿はなぜか常に無かったのです。
 ラローリー邸の周囲に幽霊が出るとの噂が,少しずつ広まり始めました。
 犠牲者の幽霊を見た人は,何よりその姿におののきました。お腹から腸管をぶら下げて歩く幽霊。目や口が黒糸で綺麗に縫われた幽霊。
 そうして長い時がたち,ラローリー邸の幽霊を誰もが知るようになったある日。
 ラローリー邸で火災が発生しました。
 駆けつけた消防隊員の前に,一人のアフリカ系が決死の形相で駆け込んできました。
 このラローリー邸の奴隷は,自分が館に火をつけたと告げた後,消防隊員にこう懇願したのです。「屋根裏部屋を開けて見てくれ」
 消防隊が強硬突入した屋根裏から,その時初めて,夫人の趣味だった奴隷の拷問の実態が明らかになりました。
 奴隷使用が合法だったその当時の南部ですら,その残虐さに憤った群集が館を取り囲みました。が,マダム・ラローリーは狡猾に脱出を成功させ,ニューオーリンズには二度とこの女の姿を見かける者はいませんでした。
 屋敷は,10年間空家になった後,イタリア人に購入されましたが,程なく再度主を失います。
 それから屋敷はアパートに改装されますが,その際,剥がされた床板の下から,生き埋めにされたと思われる遺体が75体発見されたと記録されています。
 200年近くたった今も,この付近には怪現象の噂が絶えないと言われます。