外伝11 獨 Took scenic route,got in late.
→ベルリン(3日目午前)

▲Pappa e Ciccaでパニーノとエスプレッソを

 メンデルスゾーン駅からU2でSenefelder plazへ向かう。
 朝8時半,今日の企画上,少し遅い時間にした。
 少なくともドイツとチェコでは,どの宿も暖房はエアコンじゃなくて北部中国の「暖気」,つまりパイプ形式らしい。それだけ冬が冷えるんだろう。昨夜もこれを付けて寝たら,フィヨルドのこの機械はよく働いてくれるらしく,物凄く暖かかく過ごせた。疲れもあろうが完璧な熟睡が取れた。
 本日のスペシャル企画に万全な体調であります。

 地下鉄車内の皆さん,この9月末に既にコート着込んで完全防寒体制。ただ,中にはTシャツ姿も混ざってる。ドイツ人の内でも個体差がかなりあるみたいですね。
 車内での過ごし方としては,イタリアでもそうだったけど――日本みたいに携帯をいじるってのは珍しい。かと言って読書してる方も4人に一人程度。お喋りに興じてんのも2組に一組ほど。後の皆さんは毅然として座ってはる。
 ベルリンに来てずっと気になってるが…壁面にある「Yideo」と表示された目玉の表示が不気味。しかし…カメラ機器の姿は目につかない。どこにあるんだろう?単なる脅しとも思えないが?
 さてベルリン3日目の朝食。Schweiderstr.18のPappa e Ciccaという朝から開いてるとこへお邪魔してみました。やや古風なオーラの漂う住宅街の角地。店名通りイタリアンのお店です。
 入口すぐにガラスケース。その向こうから,イタリア系らしき太ったお母さんがにこやかに出迎える。
 覗いた雰囲気ではとてもイートインできそうになかったけど,入ると左手に広めの部屋がありましたんで,そちらに陣取る。
 部屋ってか…売り場スペースだな。コンクリ剥き出しの方形スペースの片側壁沿いに,パスタの他,あんまり統一感のない売り物が並んでる。ガラスケースから商品が隣部屋に溢れてきてますって雰囲気。
 ただそれが,程良く打ち捨てられた簡素な空間を形成してる。軽い音楽が室内をたゆたう。計算だとしたらスゴいセンスやな。

 イタリアの基本に沿って,パニーノ&エスプレッソとする。
パニーノ 3.90ε
 モッツァレラとトマトとほんの少しのパンチェッタ。絶妙!何も出過ぎてない。
 パニーノ生地はムッチリしつつ適度に固く,小麦の素朴で重厚なインパクトを有す。トマトの分厚い香気が分厚く漂った後,その雲が晴れた先に,パンチェッタの塩辛い芳香が長く尾を引いてく。
エスプレッソ 1.80ε
 本格的!かつ丁度いい!重低音の芳香が唸らせる。苦味もだけど,全てがトゲを持たず,出っ張りがなくて,何もかも丁度いいコントロール!
 色んな角度で絶妙なカフェでした。

 再びやってきましたSeneelderplatzすぐのホテルMeininger。
 10時。自転車レンタルの開始時間です。ゆっくりしたのはこのための時間調整。
 1日12ε。クレジットカードの提示でデポジット50εの代わりになりました。
 借りた自転車はかなりゴツいスポーツタイプ。ペダルが後ろに回らないタイプでいささか戸惑ったけど,慣れたら非常に機能的。見てたらこちらで車道をかっ飛ばしてるのは大抵このタイプらしい。
 日本の道交法も本来そうなんだが,こちらの自転車は車両の一つ。歩道をトロついてる数より堂々と車道を飛ばしてる方が多い。
 マップも購入済。住宅街から旧東独側のカール・マルクス道路にでると,嫌というほど思う存分ペダルを回せました。
 天空は蒼一色。快晴です。

▲Cafe SibylleのApfel SfrenBeltorte&Tasse

 だだっ広い道幅,両脇の建物の閑散さ。不安になるような共産主義臭ぷんぷんの界隈で,まず自転車をロックします。
 Cafe Sibylle。ガイドブックによく出てくる有名なカフェです。
 共産圏で一昔前によく見た低技術臭い方形の鉄筋構造。壁面はいかにも安っぽい,のっぺりした白色。
 注文取りにやってきた白シャツに黒の蝶ネクタイ,何人か殺してそうなドスのきいた眼力のいかついオヤジ。
Apfel SfrenBeltorte 1.90
Tasse
 注文を伝えると,一々オーダーを繰り返す。それも,いかにもロボット的な抑揚のない口調で読み上げる。――共産的…ってゆーか,オーウェル的。本気なのか,店のイメージ戦略なのか?
 団体客の席を回ってるオヤジ有。聞き耳たててると,どうも「東ドイツを一日体験」ツアーの営業活動らしい。
 つまり。ここベルリン観光業界では,「共産主義」が観光資源化されてるらしい。あの史上まれな全体主義臭,軍民一体臭が「一昔前にあったチョット面白いもの」扱いされてる。我が東アジアの距離感だと未だ暴政に喘いでる人間がある現実の政治体制なんだけど,ヨーロッパでは既に過去の一エポックなわけです。
 レーニンさんとかゲバラさんとかが聞いたら憤死しそうな(死んでるけど)このブラックなユーモア感覚には,あんまり赤くないわしとしては…なかなかに惹かれる企画なんだよなあ。
 さて,そんな観光地ジビレですが――お味の方も,なかなかどーして捨てたもんじゃない。
 Apfel SfrenBeltorte…ってのがどうしても検索しきれないんだが,アップルパイに似て非なるものでした。普通のパイみたいに,生地にリンゴが載ってるんじゃなく,リンゴと生地とがほぼ一体化してる。この辺りがドイツ菓子感覚の「タルト」らしいんだけど,ここのはさらにそれがクッキー化してる。焼き方が強いんだろか?でもって,その焼き具合でなおかつリンゴが生々しい果汁と芳香を保ってる。てことは焼きの過程を経て元のリンゴの状態が再構成されてるわけです。老舗の技を感じる。
 タッセはドロリ感濃厚なコーヒー。大阪コーヒー的な渋みが強い。
 空虚感を誘うBGM。独自の完成度を持つカフェでした。

 西へ快走。
 蒼天。
 カールマルクス通りからリンデン通りへ,ベルリン・ミッテを横断する。
 繰り返しになるけど,この国はホントに自転車に市民権がある。走ってみてよく分かった。日本みたいな歩行者準拠で歩道をタラタラ走る想定じゃない。完全に車両の一種として走れる。車両レーンと並行して自転車用レーンがかっちり取られてて,右側通行の左折でも二段階なんて必要ない。――当然その分日本とは桁違いに危険だけど,そこは自己責任。自転車の交通マナーを云々してるよりずっとマシ。
 ぐんぐん距離を稼ぐ。整然たる市街が風のように流れ飛ぶ。
 ローマや東京みたいに丘ってほどじゃないけど,ごく緩やかなアップダウンを繰り返す路面。ってどこかで書いたと思ったら,初日に列車からみた農村風景。地勢的には同じ状況のまま,それを壊さずに道作りがなされてる。(眠気防止テクかもしれない)
 秋口のドイツは既に涼しい。有酸素運動が心地よく熱を体の芯にもたらして来る。
 程なくリンデン通りの突き当たり,ブランデンブルク門に至る(写真)。門本体は,まあ古いやね,ってくらいのもんだけど,ここは原爆ドームと同じく表象的場所。観光バスとツアー客でごった返してます。土産物や軽食の屋台まで出てます。パフォーマンス屋さんも出てまして,この時はダースベイダーが闊歩してました(写真2参照)。――表象との整合性上,ダースベイダーはダメじゃね?原爆の碑の前にギレン総帥のコスチュームで「ソーラレイ発射!」とか,クシャナが「巨神兵よ,焼き尽くせ!」とかやったら命の保証はないと思うが…ドイツ人って大らかですね。

▲zwolf apostelのビジネスランチ(Gnocchi croccanti alla salvia)

 ブランデンブルク門を過ぎてさらに西へ。
 昨日のバスでは東行したけど,この道も走り甲斐がありました。
 市街中心部とは到底思えない鬱蒼とした森。その中を,交通量のほとんどない太い道路がドドーンと貫く。身の危険を感じそうになるくらいのこの空気。あのダースベイダーのブランデンブルク門からチャリで10分しない距離とはとても思えない。
 そんなわけで,さらにぐんぐんスピードアップ。目指すサヴィング広場Savingplaz駅は昨日のツォー駅よりさらに西だったわけだけど,ランチタイムに余裕で間に合っちゃって,時間を潰さなきゃならんほどでした。
 駅前に自転車をロック。ツォー駅とは違い,下町の風情が漂う駅前です。線路は高架。緑の多い,程よく雑然とした,落ち着いた佇まい。
 その駅前,線路沿いに飲食街みたいな通りがあって,目的のお店,Restaurant die zwolf apostelはその並びにありました。まだ時間があったから通り過ぎながら窺うと,通り側にオープンになった店内は広い。暗めの照明下に木目の調度が,100席はあるんじゃないか,予想以上の奥行きで広がってる。
 少し散策した後で入店。外からは分かりにくかったけど,この室内空間から繋がる,右手側にテラスみたいな場所が目についた。足を向けると完全に屋外じゃなくて天井にビニールシートみたいなカラーの雨避けをかぶせてる。Sバーンの高架が見え,時々列車が行きかう。陽光が程よく注ぐ開放的な空気。このスペースのやや奥まった席に陣取る。
 注文取りのスタッフも,スタイリッシュかつフレンドリー。流行るわけだ。
 さて!?押し広げましたるメニューには英語表記も付してあった。
 オーダーしたのは
Business Lunch 19 until 23 September 2011
Gnocchi croccanti alla salvia
Sauteed crisp gnocchi in sage butter,served with a small salad ε6.95
 エスプレッソと合わせて8.75ε。ベルリンでも有名なイタリア料理の店ながら,このリーズナブルさは貴重です。
 他のビジネスランチを見ると
Insalata piccola di rucola
Spagetti con tonno e piselli
Bollito di manzo
Salmone al limone
 半パティオと室内,道脇まで合わせると200席近いか?正午を回ってテーブルはほぼ埋まったけど席は半分ほど空いた位でゆったりとくつろげました。
 インサラータ(イタリアンサラダと訳したい)に久しぶりに酔った気がする。正統派のバルサミコ使い,よく攪拌されてる。ルッコラ,パプリカ,トマト,モッツァレラ。オリーブオイルはごく少量の香り付け。シンプルで繊細な味わい。
 これが出るってことは,やはりここは本物のイタリアンです。
 高まる期待の中で少し遅れて登場したニョッキは――え!?これだけ?
 モロのニョッキ。パセリがちょっとパラついてるだけで,皿の上にはニョッキしかない。ソースとか何かが後から来るかと思ったほどだけど,来ない。
 よもやのハズレ?…と疑念に呑まれつつ食う。――いやいやハズレなし!なるほど,姿はあらねどセージらしき香草が効いてて素晴らしい後味のアクセントになってる。パセリは色彩上隠してないけど,他にも複数のハーブが使ってありそうです。
 ニョッキそのものも程良く焼き目が付いてて,焼き芋の香りに似た薫りさえする。ってことは自家製なのか?
 面白い。高密度にイタリアンなのに,同時に極めてドイツ的。前者は形式だけで中身は後者,なんてもんじゃない。食の思想の両義性。
 沖縄のアメリカンフードが連想されます。――二つの土地の食が排他的とは限らない。むしろ文化の側面として,食は非常に両義性を帯びやすいんでないかい?
 他にもイタリアンはベルリン各所で食える。ドイツでもちょっと美味しい外来食として歓迎されてるみたい。ただ日本でみたいに,高級な異食として崇め奉られてない。ブロートラントの小麦素材そのものを味わい尽くす食として,思想の部分でごく深くシンクロしてる。
 その結果として,おそらくドイツは,本国や日本よりむしろ安くいいものを食わせてるんじゃない?とゆー気配を感じたベルリンのイタリアンでした。
 なお,「zwolf apostel」は十二使徒の意味。店内を見る限り,エヴァの影響は見受けられない。

 しかしまあ――いい駅前です。アポステルから通りに出た辺りのCafe ZillemarktなるカフェでTasseeを飲みながら,しばらく昼下がりの陽気を感じる。
 Sバーン高架下。列車の車輪音。差しては陰る陽光の波にたゆたう気分。ベルリン昼下がり,1時半過ぎ。
 ここのコーヒー,ドロリとした粉っぽさはあるのに苦味のまろやかな,日本人的には何とも不思議な味です。ちょっと間違えばインスタントコーヒーの味なんだが,明らかにそれとは一線を画す。
 ドイツのタッセの標準がどうも分からなくなる。

▲Mamsellのショコラーテ Trink Schokolade
※・・・では明らかにない。移行時の破損か失敗らしい。

 南部に回り込むルートで徐々に東へ戻る。
 30分ほど走ってColtzstr.に至る。
 店名Mamsell。
Tages Tarte(値段忘れました…。)
Trink Schokolade 3.40ε
 濃厚なのに後味が割とスッキリ来る,おそらくカカオの甘味そのもののホットチョコでほっと一息。
 オバチャン曰く,スパイス10種以上のトッピングを選択できるそうだが…インド人か?そんなに入れてどーする?
 何より――ピンク基調の可愛過ぎる色彩で…いやいい店なんですけどね。

▲今回最高峰のカフェ,WohnzimmerのTages TarteとMilchkaffee。次章を待て!

§SixWord:景色のいい道を通って,遅刻した。