外伝02-4토스트:《第四次中日》インジョルミトストの日

 何と韓国にも万里の長城が存在する。金井山城と呼ばれる全長17万mの城壁がそれで,釜山市と梁山市を囲む。新羅代の原型を文禄慶長の役後に再建したと推定される。
 そんなことはどうでもいいが(すみません,今回コレで行きます),この金井山列の麓に煙る斑尾の霧を右手に見ながら,地下鉄一号線は地下に潜っていきました。現在10時5分前,東莱駅を通過し南行。
 昨日ほど雨は落ちて来ないようだけど,晴れはしないみたいやね。
 今回の3日の旅程中では,中日になる。なお,決してドラゴンズではない。

▲ハルメチブナッチ(凡一)のナッチ+コプチャン+パブ

 今朝は一番で虚心亭へ。
 韓国は平日だから6千Wになった。420円,となると日本の銭湯と同価か,ちょい高いかといった程度でこのウルトラスーパー銭湯に入れるわけです。
 腹がくちたら今日もタコさん。
ハルメチブナッチ(凡一)
ナッチ+コプチャン+パブ7000W
 歩き方には地図に名前だけあって解説はない。ってことはおそらく既に過去の店扱いなわけだけど――改めて感じました。やっぱりここのナクチ+コプチャンは…スゴい。
 ポップなんだと思う。
 東莱の「元祖」より汁っぽいニョンマム。煮え汁が跳ねるから鍋囲いやエプロンを用意してるほど。だから,コプチャンの出汁も出てない最初は,むしろすごく淡白に感じる。
 これが,最後の煮詰まり状態では,素晴らしい滑らかな複合味に変わる。この前後を通じ,バランスを完成させたまま激変してく。ナクチの高貴な香り,コプチャンの木訥な肉汁,ニョンマム,これらのコスモス全体が変化していく。
 こいつらをパブで混ぜ込んで行ったら――もう何も言えない。複雑味の極地。
 ナクチとパブとニョンマムがそれぞれ淡く持つある種の甘味が,渾然一体となって,それでさらに唐辛子辛い。どちらかと言えばこの甘味の複雑さが特徴的かも知れない。
 実は写真を撮るのも忘れて食らいついてて…危うく食い切ってしまう寸前でした。
 10時半頃から始まった給仕のオバチャンたちの朝食会を横目に食す。11時前には客が一階を占めてく。ガイドブックからはともかく,大衆店ハルメチブは未だ健在である。

 あ,今回第一号!地下鉄列車内売り子を発見!
 ラジカセでスゴいボリュームで音楽かけてます。CD売りか?(こういう解釈しにくい事象を禁止しそうなのは,韓国より中国だと思う。)
 釜山駅でCDで10万W出す。日本語表記にしたら「処理中だからしばらくお待ちください」と出た。別に急かしちゃいないのに…何か叱られた気分になるのは被害妄想?
 予定通り,釜山駅界隈で2泊目を探す。第一目的のトップモーテルが立派過ぎてつまらんっぽいから,いかにもモーテルっぽい隣の「シラモーテル」ってとこにした。3万W。熱水も一応出るみたい。
 駅前に泊まるのはかなり久しぶりです。

▲ビョンサノクでスユク+クッス

 折角この駅に来たんだから,正午になったしビョンサノクへ。
スユク8000W
クッス2000W
 キムチの美味さが際立つ。特にオイキムチ。微妙な酸っぱさがたまらない。
 でもやはりメインのスユクです。前回は帰国時間ギリギリで来て,今回はその雪辱という色彩が強い。
 今回はゆっくり味わえた。後味での豚肉の香りの広がりが素晴らしい。アクやクドミが全然なく,あくまで美しく広がる。出汁や肉汁は徹底的に排除されて,その後に残る純粋な豚肉の香りだけを取り出してるわけだけど…どうすりゃこんなことが出来るんだ?
 滷味で加工する中華のチャーシューに比べたら,いわば韓国の刺身とでも言えそうな調理感覚です。ですが,そんな技巧的な調理してる節もないとこが不思議。
 薬味はニンニク醤油と味噌ダレ。キムチはベチュ,オイと例の韮より苦いゴマ油まみれの奴。他にアミの塩辛と,青唐辛子・玉ねぎ・ニンニクの生切りが附く。
 皆さん大体2人連れ。1人なのはわししか見たことがない。まあスユクは2人で食べた方がいい量ではあるわな。
 腹ごなしに中華街辺りを歩いてみる。ここはまた雰囲気が変わってきてる。テレビ報道とかもかなり入ってるみたいで,繁華街としての競争も本格的になってる。釜山の「親不孝通り」化してる…いや,北側の古いロシアン歓楽街が何かエラく活況を呈してきてるから…既に中洲状態?
 西面で2号線乗り換え,初めての駅,金蓮山で下車。広安里の手前の海岸通りへ。

▲トックカフェシルでインジョルミトストとエスプレッソ

 ビーチの南西部に入った洒落た新興店の多い界隈がありました。
 店頭からの印象で選んでみたのがトックカフェシル。
 カフェなんだけど気取りがなく,調度も凝り凝りじゃないのにセンスがいい。程良い居心地よさが韓国らしくない。
 最近の釜山には徐々に増えてきたタイプだと思う。
 たまたまカウンター近くの席に座ってたら,マスターらしいお姉ちゃんがかなり流暢な日本語を投げてきたからしばし話し込む。5年前に東京に留学してた人らしい。下北沢で広島風お好み焼き食ったそうです。
 なるほど,このセンスは日本カフェの輸入版なのか。
 けれどもその外見に似合わず,メニューは全く分からん。カウンターで売ってるのも,どうもこれが店の売りらしいけど,韓国伝統菓子のフュージョン版だという。
 伝統菓子(どこに売ってんだろ?)そのものを知らんのに,その変化球をハングルで言われて分かる方がおかしい。こういう時は,逆に一番意味不明なのを頼むべし!
インジョルミトスト3500
エスプレッソ2700
「トスト」は「トースト」だろけど…?
「インジョルミ」とはキナコでした。しかも…キナコをまぶしたトーストに水餅が挟んである?――可愛い顔して何ちゅう危険なことすんねんお姉ちゃん!!?
 という確かに珍妙な味覚なんだけど,これが意外や意外,フュージョン的にかなり美味い。何にも例え難いんだけど…キナコの重量感ある甘さが,韓国トーストの独特の甘みにかぶさって,さらに水餅の軽快な甘味と歯応えが追い打ちをかける。小麦というより菓子パンとしてのトースト,そんな韓国パンの不思議な捉えを生かした独特な食感覚です。
 エスプレッソはほどほどだけど,それを補って余りあるのが無料のお茶!美味い!冷やしてるんだけど味が固くて絶妙!
 韓国でも茶葉は産するけど,この固さゆえに余り評価されてない。けど冷茶としては面白いみたい。お姉ちゃんは「やっぱり日本の柔らかいお茶の方が…」と言ってたけど。
 そうなのだ,韓国の食の面白さは,根本的にはこの若さです。本格的なアメリカンテイストと隣国直輸入の日本食文化。韓国独特の食のロケーションに発する他に見ない創造性。しかも韓国の伝統食からも足をつけたままに。

 この通りと広安里ビーチ沿いには,こういう面白そうな小店が散在してる。
 ビーチ東北側でもう一店入ってみる。縦長の3階建て位のビルにあるCafe TOKIWA。
カフェラテ 3500W
フルーツタルト 3500W
 ここは正統派な意味でのハイセンスなカフェでした。日本名ながら北部欧風のテイストです。
 白にくすんだ内装。階段脇に不規則に入れ込んだ感のあるシンプルな調度。心地よい粗雑さというか,絶妙の居心地。
 窓外には今や鄙びた色彩を帯びつつあるこのビーチの湾岸の街中,海,海雲台がわへ伸びる巨大な橋。
 カフェラテもタルトもきちんと本格的。どちらかと言えばアメリカ風だろうか?あまり技巧的に作り込んだ風はない。
 つまりコピーとしての観点からは,相当に成功してるのがトキワだとすれば,「大失敗」してるのがトックカフェシル。――大進化は常に大失敗から生まれてくる。
 来る度に益々エキサイティングを感じてしまう韓国カフェ事情。好いとか悪いじゃない,韓国の食の面白さとはこういうとこなんだと思う。

▲Cafe TOKIWAのカフェラテ,フルーツタルト

 チープリゾートと侮ってたのは誤りで,広安は町もなかなかの味わい。
 広安市場。かなりの規模と庶民度。
 オジンオと小魚のキムチ購入。2千Wでどっさり。
 魚屋店頭にCD多数がぶら下がる。確かに効果はありそう。
 市場を抜け,新市街らしい景色になる。地下鉄のラインに出たらしい。
 Rowach patisserieという広いイートインスペースのカフェ有。でもこの時間に無人か?
 あと,昨日の釜山大学から思ってるんだが,チキンの店がムチャクチャ多くなってね?
 少し道を間違ってたらしい。途中で気づいて助かったけど,結局,水営の駅まで歩き着く。海水浴場経由で2駅分歩いたことになる。疲れるわけだ。
 5時を回ったが,ここまで来ておって海雲台へ行かないのも何ですので行っときましょう。さらに北西へ5駅。

▲カマソックッパブのソコギタロクッパブ

 この店だったっけ?
 土地勘の指し示すままに海雲台の裏町をうろつく。店の造りに何か覚えがなくてうろたえてたけど,膳が来た途端に安心。
 間違いない。クッパにヤクルトが付いて来てる。
 壁にいっぱいのサイン群を見ると…こちらが一号店で,いつも入ってた店は飛び石で出店した二号店だったらしい。
 馬鹿でかいオバハンの絵(創始者だろう)を掲げた店,カマソックッパブ。
ソコギタロクッパブ4000W
 ソコギにプラスしてモヤシと芋が入ってる。そしてこの…じわじわ効いてくる胡椒の強さ!
 ソルロンタンの淡白さとは打って変わった牛肉の強い出汁が効いてる。そう,これは香りと言うより出汁に近い。けれど出汁よりはもっと素朴な味わいで――。
 しかも,この料理には唐辛子がほとんど使われてない。おそらく味覚の層が同じで殺し合うからだろう。
 けれどこれはかなり新しい時代に加わった要素だろう。これを差し引いて考えると――。
 おそらくこの料理は,かつて肉の中では最下級だった牛肉を使った貧民層の食法だろう。野菜に安っぽいものが多いのも,そう考えると頷ける。コンクッパブの発展形みたいな位置関係だろう。
 それだからこそ,こんな韓国香り食と全く別系統の料理に展開して行った。
 韓国の食文化は,若い。これだけの多様性をまだまだ宿してる。
 キムチはオイ,ベチュのほかニンニクとニンニクの芽のキムチ。そうだ思い出した,これがものすごく美味いんだった。今回もお代わりしてしまう。
 ついでに海雲台駅前に出来てたAngel in us Coffeeの雰囲気いいカフェに寄る。
エスプレッソ3270W
 やはりここのは深みあるエスプレッソ。韓国的な粉々しさを微かに留めるも,かなり本場的な苦味の深淵さ。

 西面へ戻る。
 ハンボクハンチブという韓国緑茶の店を探すもどうしても発見できず。
 前を歩いてた女性二人連れをストーカーするみたいなノリで「サルル」という小さなケーキ屋へ。Coffee & cake studioを掲げてる。コンセプトはこんな感じ狙いだけど――。
ココアのロールケーキみたいなの5000W
カフェラテ4500W
 後で落ち着いてメニューを見てたらエスプレッソも売り物っぽい。
 ただし!!このカフェラテの衝撃波もスゴいもんがあった!
 香港の[女乃]茶のミルク感に似てる。
 ミルクの乳臭さが全くない。加えてエスプレッソ側のクドミもエグミも,恐らく酸味も非常にわずか。この2つが合わさった結果,コーヒー牛乳とは完全に別相の何者かが出来上がってる。
 ケーキの生地はカカオ味で,中はチーズクリーム。昨日パリズで食べたクリームチーズケーキと同じクドめのチーズだけど,クドいのに吹っ切れてる。後味を引かない。
 対するカカオの生地側も,これはアメリカンタイプなんだろう,大味で最後まで甘味を拡散しないから,最初と最後の波の間に意外なほど淡白な味覚がすうっと続いて伸びてく感じ。いい意味でのアメリカンテイストにまとまってる。
 研究された,丹念に造りこまれた味覚。
 改めて店内を見渡す。2階への素っ気ないほどシンプルな階段を上がった空間には,テーブルが2人掛け4つ,カウンター3席。それだけ。
 クリーム色の部屋壁に片面一面のガラス窓から差し込む残照。
 部屋はガラス付きの壁と扉で仕切られてて,客席じゃない側のテーブルに一杯に広げられた料理書らしきカラーの大判本。
 売り子に立つ幸薄顔のスレンダーなお姉さんと,経営者らしき眼光ギラツくマッチョな御姉様。御姉様は,ちょっと時間が空くたびに奥の部屋でパソコンを打ちまくってます。精巧な業務分析とかしてそう。
 韓国でこういう新しいカフェが生まれてる理由。それは,韓国企業が世界を征していける理由とそんなに遠くない。そんなイメージが何となく湧きました。

 夜,南ポでもう一軒カフェしてみました。
 茶山。脇道からエレベーターなしで4階へ上がった場所だけどなかなか落ち着いたカフェ。
セジャ(緑茶) 5000W
 高いけど,シックな茶器まで備えた本格派。なのにタバコも吸えちゃう,日本にはなかなかない店。気に入った!
 茶器は3つ。プラス,お湯の入ったポット。急須,湯のみのほかにお湯を冷ます器。茶の発て方は,お湯を一度この冷まし器に入れて1分半ほど置く。85度位,中国茶と日本茶の間くらいか。この温度で初めて急須に入れて,抽出後はまたすぐに冷まし器に戻す。湯のみには冷まし器から注ぐ。
 つまり,急須で抽出しっ放しにすることを極度に避ける淹れ方です。
 3煎目には確かにややエグミが出てきた。韓国茶はやや厄介な茶葉らしい。
 お味の方は,固い味わいはかなりいいけど発酵もしてないしやや弱い。香りもそうインパクトはない。良く言えば,淡味を楽しむお茶なんだろけど。
 おっ?前の席に突如アーティストが来たらしく勝手にギターショーが始まったようです。終わる気配なく3曲目に入ったんで,逃げるように金置いて退散して…。
 帰りがけに国際市場のいつもの一角の屋台で,
パッピンス3500W
「ミナサーン」と日本人ツアー客が「こちらが韓国名物の…」と紹介し始めました。わしは博物館の展示物か?
 やっぱり…国際市場辺りはもう受け付けにくいなあ。

 10時。ソウル駅対面の路地に入り込む。
 地下鉄出口を間違えただけなんですけど…ムチャクチャ怖かった。
 ロシアンお姉様がわんさか出てます。しかし…皆さんがっちりとレスラーじみたいいガタイで「自衛隊入らない?」と声かけたくなる(入らないって。ロシア人だし)。ただでさえそんな皆さんが暗いネオンに彩られて…二度と通る気になれませんでした。
 歓楽街ってより――単に身の毛のよだつ怖い怖い夜の街。