外伝02-5중국집:《第五次二日目》チャジャンミョンの日

[今期首]/負債 908
[今期中]
0915 南原チュオタン(中央)
カンソイチュオタン 500
1245 テッシブ(前[竹/前])
何かお餅そのⅡ150(650)
1415 OPS bakery Haeunde
ドイツパンみたいな丸ブロートフェン
リーフパイ
シュークリーム 450(1100)
1430 香港飯店0410(海雲台)
チャヂャンミョン 400(1500)
1615 COFFINE GURUMARU
エスプレッソ
1630元祖コンナムルヘジャンクク(広安)
コンナムルヘジャンクク500(2000)
1705 coffeesmith(広安)
カフェアメリカーノ
チーズシューケーキ 170(2170)
1840 元祖ソムンダン・ソン・カルクッス(温泉場)
カルクッス300(2470)
[今期計]
消費1800/収益2470
負債 670/
[今期末]/負債 238

 ガイド婆あ?
 朝も早いというのに,中央駅の構内には「日本語通訳案内」のタスキを付けたおばあさん達がうろうろとしてました。釜山市の新しい事業でしょうか?
 植民地時代の,コリアンの感性からすると負の遺産であるはずの日本語スキルを,こんな風に観光対策に活かす発想は…過去の捉えが動いてる予感がします。
 さて,とりあえず彼女らを突破して地上に出る。この中央洞界隈の空気には,一種独特の味わいがある。あんまり気に入ったスポットもないのに,何かいいですな。
 2日目の朝食はまずこちらのドジョウで始めました。

▲南原チュオタンのチュオタン

 南原チュオタン。有名店みたいですが,おそらく場所柄からでしょう。
 久しぶりのチュオタン。かつこの店は初訪問です。
 土間に上がりこんで食うスタイル。奥に長い店で四人がけテーブルが12卓,二階もあるらしい。今のところ客はわし一人。夜のお酒の友がメインか?ちなみに酒は,メクジュ,ソジュあり。
 メニューには「関西」と漢字表示があるが?どーゆー意味?韓国で「関」ってどこよ?
 メニューと言えば,他にチャンジュビビンバブ5000Wも気になりましたが,初志貫徹でチュオタンに。
 すぐに来た。
 泥臭くかつ生臭く臭う骨っぽい泥。悪汁さえ取り去ってないこれが,モロに腹に流れ込んでくる。
 記憶以上に…なかなか他に例え難い味覚です。なんだけど美味い。腹の底から滋養が湧き上がってくる感覚です。
 さらに。ここは副菜もいい。例によってお膳マップにすると
①②③
④⑤⑥
①ほうれん草のゴマ和え
②ペチュキムチ
③キノコの甘煮
④生イカのキムチ
⑤カクトゥギ
⑥赤と緑の薬味
 薬味のネギと赤唐辛子…に見えた小皿を全部入れたらムッチャ辛くなった。ネギのはずはない。青唐辛子だったのか?
 ただ,この辛さはドジョウの泥臭さと消し合うことはないらしいのです。美味さはそのまま残ってきます。
 帰り際に脇をふと見ると,水中にうねる黒い糸の玉。泥鰌のダマらしい。メデューサの髪の毛みたいな不気味なヒトたちですが,食べてもきちんと臭い。真水で腹の泥を洗ってなおあれだけ臭いんだろうか?
 何を感心してるのか自分でも分からんよーになってきたが…大した奴らです。
 つまりアレです。この食材を尊ぶコリアンの感性には,何というか感心するんであります。
 日本だって一昔前までは,メジャーに食ってきたはず。
ドジョウ汁若い者よりよくなりて(芭蕉)
村酒宴フナやドジョウで踊りはね
念仏も二三遍入れるドジョウ汁
 日本で廃れた──おそらく「下品」とされて──この泥鰌食いが,韓国にだけ残ったのはなぜなんだろう?
 泥鰌は後からグイグイ来る。後味で食う部分もある食材らしい。胃の腑が熱く燃えるような感覚がやってきた。
 この臭みというかエグミというか,癖のある味覚を排除する食文化と,逆に珍重する食文化。一概に好いとか悪いじゃないけど,面白い違いです。

 西面方向へ北上。
 全身アメリカ国境に彩られ,ドラえもんの面がデーンと背中に来てるカバンをしょった幼児が車内を走り回ってます。何からどうしたらいいのか分からんが…親も何とかしてやれよ。
 かと思えば──隣では,ムチャクチャに長い髪の女がモーレツな勢いで五線紙に音符を書き付けていく。なぜここで?何から指摘していいか分からんけど,色々と不気味だぞ?
 10時50分,地下鉄が地上に出た。温泉場,今回もここへやって来ました。
 11時20分,泉一温泉ホテル入居。45千Wと少し高いけどオンドル部屋に個室温泉。
 オンドル部屋の長所の一つは洗濯物が完璧に乾くこと。早速とりかかる。
 逆に短所は…部屋から動きたくなくなること。快適過ぎるんである。しばらくのんびりしてしまって,再出撃が遅くなった。

 宿を出かけに,併設というかメインの温泉を覗く。コンジュンタンというらしい。
 目の前の市場といい,この界隈,古びた温泉街っぽくてますますお気に入りになってます。
 地下鉄へ。車内は満席。通路に立ってたら名物・車内売り子が,何とちょうど真後ろで口上を始めてしった。モノは膝のサポーターらしい。おっさんの着脱を繰り返しながらの大音声がムチャクチャ煩わしい。
 
 正午前に[竹前]・長[竹前]に着く。
 目当てにしてたのはチョングッチャンの店だったんだけど,どうも潰れてる模様。アレの食えるとこ,今いずこ?
 ここは初めて歩くけど,町としてもあんまし特記すべきものがないなあ。寂しいダウンタウンってとこ。
 それで,テッシブなるお店で伝統スイーツ系が飛ぶように売れてたからちょっと購入。どれもパッケージあたり2500W。お餅,白地に黒まぶし。

 再び地下鉄へ。ヨンサンで3号,水営(スヨン)で2号に乗換えて海雲台を目指す。
 今回はソコギではなく香港飯0410海雲台店。昨日の店の別の支店です。
 壁のメニュー表には
チャジャンミョン 4千W
チャジャンミョン コプッペイ 5
チャンポン 4
チャンポンパブ 4.5
チャンポン コプッペイ 5j5
ポックンチャンポン 5.5
クンマンドゥ 4
クンマンドゥ バンセブチ 2
タンスユク 小9 大15
コンキバブ 1
ウンリョス 1
チャジャンバブ 5.5
 こんなとこが韓国中華のメニューか?

▲香港飯0410海雲台店のチャジャンミョン

 チャジャンミョンはセール中だったんで食ってみた。
 これまでチャジャンミョンはほとんど食って来なかった。何で韓国で炸醤麺食わなあかんねん?という感覚でしたけど…今回は炸醤麺じゃなくてチャジャンミョンとして試してみたい。
 見た目,日本の冷麺です。
 汁のない麺に黒々とソースがかかって,わずかに添えてある胡瓜の細切り。
 [舌甘]麺醤が効いてる。ただしほぼ単独で使ってる。唐辛子の辛さはほとんどない。しかし,ではこのわずかな辛味は…?
 コチュジャンではなさそうです。醤油に近い苦味ある塩辛さ。これは逆に辛味というより…甘さ?何だこの逆転は?
 自分の連想に驚いたけど,この甘さには類似品がある。──松山醤油餅です。あの苦みを帯びた醤油の香り高い甘さに通じる甘味。
 [舌甘]麺醤には砂糖は入らない。小麦粉と塩を混ぜたものに,特殊な麹を加えて醸造する味噌の一種です。偶然なのかどうか,この味覚感覚は,韓国土着の自然な素材から発する甘味に通じてると思います。
 つまり,中華が韓国化される際に,[舌甘]麺醤がコリアン風に解釈された。その解釈のもとに使われてるのがこのチャジャンミョンじゃないかと思えるわけです。
 中国の[舌甘]麺醤使いは大抵唐辛子と併用する。炸醤麺は基本唐辛子辛くて,そこに甘さが隠し味として効いてるもの。回鍋肉,麻婆豆腐,京醤肉絲,醤爆鶏丁といずれもそうです。
 なぜこれほど唐辛子を多用する韓国で,本場で使われてる唐辛子辛さが失われたか?
 言い換えれば,唐辛子辛さを捨ててまで,[舌甘]麺醤の甘さをピュアに味わおうとする感性は何なのか?
 韓国の伝統的な甘味センスがそこにあるんだと思います。トックの砂糖に頼らない甘味の姿。それはホットックでも同じ。チャジャンミョンにおいては,それが近代以降の唐辛子文化より優先されてるわけです。
 韓国ではチャジャンミョンは子供の食べ物という感覚だそうです。ですが逆に言えば,その位に食文化的に自明の,古めかしい味覚なんではないでしょうか?

▲元祖コンナムルヘジャンククのコンナムルヘジャンクク

 16時を回って,広安(クワンガン)に入る。
 夕涼に海へと流れる人の流れに身を任せると,海岸通りに出る。久しぶりです。
 一度入ってみたかった元祖コンナムルヘジャンククへ。
 ①
② ③
 ④ ⑤
  ⑥
①ジャガイモ
②カクトゥギ
③イリコ
④豆腐
⑤ペチュキムチ
⑥ヘジャンクク
 韓国で,特に老舗大衆店でハッとすることがあるのは,この配膳の美しさ。写真を見てください。ざっと無造作に並べたように見えて,この見事にカラフルに映える配膳。完成されたワザです。
 さあお味。ジャガイモは,カクトゥギと同じ甘酸っぱい赤ソースに浸かってます。食べると,浸かってるどころか芯まで,この甘酸っぱい発酵味が染み通ってるのがわかります。
 これからすると,イリコは意外にそのまんま。だけど焼いてあるらしく素朴に香ばしい。
 小皿の圧巻はペチュキムチ。辛くない。いや辛いはずなんだけど…発酵の酸っぱさの中に紛れてほとんど隠し味になっちゃってる。それでいて嫌みな酸っぱさじゃなく,きちんと香り高い。酔い心地にさせる発酵味。
 いいキムチです。お代わりしてしまった。
 貴州と比べてみたくなる。双方とも酸っぱ辛さが特徴であることは共通してるんである。あえて差異を求めるなら,貴州が唐辛子辛さをメインにしてるのに対し,韓国はどちかと言えば発酵の酸っぱさをメインに据える点か?
 貴州でも,唐辛子流入以前の苗族の食文化には当然唐辛子は含まれなかったはずで…そうすると逆に,両者の違いが見えなくなる。
 これだけ遠く離れた2つの地域が?
 こういう飛び地の状況を説明するモデルはこれしかない。──同心円モデル。つまり中華圏も含めてかつて東アジア一円に発酵食文化圏が存在した──?
 いや,フナ寿司や納豆やクサヤもそこに含まれるものとしたら,日本列島さえも?
 さて最後になりましたが,肝心のヘジャンククはと言えば…卵味のせいか何かピンと来なかった…というのが正直なとこです。モヤシが底の方に効いてる気もするんだけど,本当に正直なとこ分からなかった。
 と,こういう副菜だけに感動した店っていうのも経験がないなあ。スゴい老舗はこういうもんなのか?

▲coffeesmith(広安里)のアメリカンとシュークリームチーズケーキ

 トキワ(前回訪問)からヘジャンククまでの間はカフェだらけになっちゃってました。その中でも目を引くセンスのこちらcoffeesmithで一服。ケーキも頂いてみます。
 コンクリート剥き出しの壁,木目調でまとめた床と調度。異様に落ち着けるカフェです。
 真っ正面には海,海雲台へ渡る橋が夕日に映えてげに美しき風情なり。
 韓国の意外な名物と段々気付いてきたアメリカーノ。本場のお茶めいた淹れ方を忠実に再現しとります。
 ケーキは,濃ゆいクリームチーズそのものみたいな白い塊がパイ生地にくるまれてるという風体。というか,シューというのが文字通りでクリームチーズをシューでくるみましたよというケーキなんでしょう。
 いいお茶です。
 今,海雲台から湾をまだぐ橋に,ふわりとライトが灯った。波打つような薄紫の照明が泣かせます。
 シーサイドとしては海雲台以上だと思うんですが,どうでしょう?

▲サランカルクッスのカルクッス

 最近知ったけど,温泉場のメインストリートは,カルクッス通りとしても名を成してるらしい。
 中でもごった返してる店,サランカルクッス。カルクッス通りの十字路側手前のお店。通りすがりに偶然空いた席を見つけたんで,反射的に飛び込んでしまいました。おかげで少し食い過ぎましたが。
「レン」の文字が手作りを指すらしい。4500W。小上がり含めて4席テーブルが30ほどで,ビアガーデンか大衆飲茶店を思わせる規模です。
 口に含む。
 これは…。
 口蓋に充満する小麦の甘味。かんすいもコシも余計なものはまるでない,まさに麺たるべくして生まれた麺。
 山東刀削麺だ──。
 あるいはかつての牛肉麺ストリートの麺。
 食の基本とも言える粉モン文化は,広東のみならず。
 くちた胃腸が静まってから温泉に浸かり,オンドル部屋の安楽に眠りに落ちたコリアの旅の一日でした。