外伝09♪~θ(^7^ )第八日日_稲の香に頭抱えし飲茶かな【2:後半戦】@第7次香港

 この店にこの時間というのは,ほとんど自虐行為です。
 12時20分。倫敦大酒楼。
 でも何だかんだ言って店が巨大で,かつ店員さんが物凄い手際で空席に押し込んで,いや御誘導頂けますすから,この日も何とか席は取れました。
ソーメイ
小龍包
排骨と芋の煮物250

▲倫敦大酒楼のソーメイと小龍包

 ソーメイは──やはりいい。先の店のお茶とのギャップもありますが…これ,結局大陸では一度も飲めなかったな。
小龍包
 また初歩的なものを頼んだもんですが,今回の,味を確かめる目的上は最適かと。
 一つ目をかじってハッキリ分かりました。
 違う!今回他で食べてきたのと,これは,完璧にズレてる!
 いや,批判しとるのではありません。喜んどるんですけどね。
 肉の味覚の響き方が,重いというか,荒味が取ってないというか──味覚の角は広東風に取ってあるのに,どうも焦点の当て方が違う包。そう感じました。
 もちろん旨い!やや重い肉質は,日本人的にはむしろ好まれるタイプだと思います。けど広東的には重い。
 このヘンテコなズラし方って──何なんだろう。

▲倫敦大酒楼の排骨と芋の煮物

 二品目,排骨と芋の煮物 。
 排骨にも同じ重さを感じました。しかし,それを感じながら,下側に隠れた芋に行き当たった時──騙された感じだけど,これはこれでいい。
 芋の朴とつな甘みと排骨の肉汁の甘やかさが交差する。排骨には芋の滋味溢れる甘みが宿り,芋には排骨の肉汁が吸われて複雑味を増してます。
 でもこの芋使いは?どこかで味わった気が?
 あっ!台湾だ! 台湾のスイーツの芋使いがこの味覚のパターン!
 芋の甘みを使う中華ってそんなにはないはず。
 この倫敦の,広東よりわずかに深くえぐってくる味は,台湾,あるいは広義の福建の味覚との間でのチューニングで構成されてるのではないか?
 広東と福建。この両者は似てるけれども,広東では出汁の層の味覚をいわば「諦めてる」のに対し,福建は背景として出汁を最低限に使う。倫敦の味は,広東的にはあるはずのない層に出汁を使う…というより正確にはその層にも使う選択肢を持って,それを必要に応じて使ったり使わなかったりしてるんだと思う。それを味覚的に保守の立場の香港人は嫌うだろうけれど,そのアクセントもありとするなら,面白い味として知覚されうる。
 という辺りの自信がないのでアレなんですが──香港という食文化はこんな風に常に貪欲に進化あるいは葛藤を続けてる。そういう朧気なイメージを感じたわけです。
 そういった文化的ダイナミクスが蠢いてる場というのは,そこに住まう味覚人(特に現代の消費社会人)にとって,本質的な意味でこの上なく幸福なロケーションなんではないでしょうか。
 とかしみじみしてたら──せっかちな給仕のおばさん,最後の一口を頂こうとしてたソーメイの碗を抗議の間もなく取り去って行ってしまいましたとさ。ううう,早く帰れってか。はい,おしまい。

 深水[土歩]に西九竜中心 が出来てる?→写真
 長沙湾政府の庁舎の南西隣に当たる界隈で,通りがかりに見かけました。
 んだけど,そんなに人が群れて群れてたまらない…という状態にはなってないようです。何となく官製(なかんずく共産系)の企画っぽい?
 にしてはえらくキワドい挑発的な女性のマンガが広告になってますが…何か奇妙な場所になってるようです。

 只今19時,金鐘。
 香港島をしばしぶらついてか金鐘から全湾線に乗り換えようとしたら,とんでもないラッシュに巻き込まれる。
 全然乗れないぞ?列そのものが全然列車にたどりつかない。どーすんだコレ?まあそれは,中還まで行ってから乗ればいーんだと思う。この一本しか香港島と九竜を結ぶ鉄道路線はないわけだからな。
 でも面白いからそのまま待ってますが…既に5本乗れなかったんですけど…。皆さん毎日こうなの? それとも金曜だけ?

▲倫敦粥麺店の魚民(?)艇仔粥

 注文したけど通じない。
「日本人か?マネーマネー」とふざけた動作で日本語メニューを持ってくる。「マネーマネー」は意味すら分からん。どうやら艇仔粥は壁だけに貼られた特別メニューらしく,日本語メニューにはない。客も少なかったので壁を直接指して「我説的是[シンニョウ+寸]」個[ロ巴]!」と恥ずかしい注文をしてしまいました。
 それでもどうしてもここで艇仔粥はを食べて確認したかった。19時20分,倫敦粥麺店。
魚民(?)艇仔粥35HK$ 200
 この試みはある意味成功し,本来的には失敗しました。
 失敗というのは──ここの,おそらく香港一二を争う粥の場合,艇仔になると味が濁るんであります。
 香港粥のルール通り,混ぜずに上澄みを食べていく。いつもと同じく,石窟の中に踏み込んだような「ジーン」と来る耳鳴りに襲われる。ここの米スープは口蓋を震撼させる完成度を失うことはない。
 しかし艇仔の要素は?粥に合わせて淡くしてるのか?と思ったら,どうも単に下側に沈んでるようです。この時点で既に,この粥では艇仔は成立しないことが明らかですが──。
 食べ進む。鶏皮と花生、白身魚が顔を出す。やはり旨い。この取り合わせ自体は西関と同じですし,比率的にも成功してます。
 しかし,濁るのです。
 艇仔の構成物は最初の状態では混ざってないので,粥と白身魚だけだとイケます。粥と鶏皮,あるいは花生だけだと,やはり上質です。単品だとシンプルな味覚が相殺されずに違う相で交差する。
 しかし,艇仔本来の複雑味になると,濁るのです。複雑系の味覚だと,粥のシンプルな味わいを邪魔してしまう。
 これは,コンプレックスとシンプルとの衝突というだけじゃない。それよりも,食文化の異質さが剥離を生んでしまってると考えるべきでしょう。
 つまり,おそらく順徳と広州について感じた以上に,大陸広州の食文化は,香港のそれと異質なのです。
広東料理の世界は繊細です。それゆえに,それぞれ完成されたコスモスは,そう簡単に他と混ざらない。それだけの広がりを持っているし,持たざるをえない。
 わしはこれらを同じ広東だと扱うことを止めなければならない。
 肝に銘じたのはそのことに加えて──そういう食文化を持ちながら,なおも洋食ともインディアンスパイス文化ともなお交わって行こうとしてる香港の食の,痛みと逞しさです。
 今回,「ガイドブックは不要 飲茶編」というサイトで教えて頂いたのですが──この著者は陸羽には行かないようにしてるそうです。長いんですが引用します。
『常連さんは今までのようにゆっくり点心を楽しめない,店員も常連さんにゆっくりサービスが出来ない。
何でも掲載してしまうガイドブックにも問題があると思いますが,私はこういうお店があってもいいと思うので足を運びません。
 こういったお店には観光客が生半可足を運ぶべきではないのではと思います。
 陸羽に行かれる方は、そういったお店だと理解して行ってください。』
 わし的にはだから行かないとまでは決心できませんが…あの疎外感の理由はちょっと判った気がしました。
 香港もまた,爆走してるだけじゃなく,血涙を流してる。いやむしろ,流血してるからこそ爆走するのだ。
 沖縄を連想します。

▲Main first Cafeのエスプレッソ ダブル

 19時50分。佐敦はMain first Cafeに沈み,長い冒険のような体となったこの日の記録を整理する。
エスプレッソ ダブル22HK$
 タバコは吸えませんが,ここのエスプレッソ,かなり本格派です。
 渋みが効いてるので早く飲まないと酸味が増すタイプですが,香港にもついに通えるコーヒー屋ができたか…と感無量。

 北角では三徳素食館に久しぶりに伺ってました。もちろん夜のお茶うけにです。
老婆餅
原来[サ/原][サ/西] 餅→写真
 老婆餅は元朗のとはかなり違う。素食だからというのは関係ないと思うのだけど…中身は,白餡のジャリジャリするタイプのもの。日本の昔羊羹みたいなものでしょうか?妙に旨いです。中国茶にはぴったし。
 と誉めておいてから何ですが,原来[サ/原][サ/西] 餅のほうは…何か別の意味でスゴい。
 これ,何から出来てるんだろう?ヨモギとは違うんだけどそんな感じに薬臭い香草の香りを楽しむ御菓子と見たんですが,確かにこれが気に入っちゃうと離れられなくなりそうな味ですが──まあそりゃそうだ,こんなのスイーツにしてもちょっと他にはないからね。

▲ Chez Choux 西樹泡笑のシュークリーム

 お茶うけはもう一種,Chez Choux 西樹泡笑でも買ってました。
シュークリーム
 抹茶が美味しそうだったんで買ってみました。ここのは前からハマッてるんだけど…抹茶,なかなかイケました!
 ここのシューはフランス的にしっかりとしたシューで,止められないんであります。今回は外国人で列が出来ました。香港人には実は人気ないんでしょーか?