外伝02-8부산대:《第八次最終日in Pusan》キムチチブの日

[前日日計]
支出1500/収入1850
負債 350/
[前日累計]
     /負債 144
§
6月14日(月)
1125ウォジョン ハルメナッチ(凡一)
ナクチ+コプチャンパブ7千KRW,500
1332 ソルビン(釜山大)
インジョルミソルビン7千KRW,250
1359ジャンセンシッタン(大学正門)
キムチチブ7千KRW,500
[前日日計]
支出1500/収入1500
負債 0/
[前日累計]
     /負債 144
§
 チェックアウト。西面のコインロッカーに荷を置き,温泉場へ。
 平日価格8千KRWの虚心亭にてのんびり湯あみに興ずる。
 本日の日程は,複数射程をとった昨日までと趣向を変えた。完全にフリー。出たとこ任せで動いてみようと思ってる。意気さえあれば,情報のある国では,むしろそれもかえって蛇が出て来て楽しい。
 インソルミトーストの開店時間が12時半になってる?確かに一昨日は10時半だったから平日は,ということか?
 凡一へ。目指した国際ホテルの辺りというのはどうも西面の北と同じ古くからの日本人街らしい。繁華街と風俗街が奇妙に入り雑じった空気でとてもいい飯食えそうにないので退去する。で,潰しのハルメナッチへ。
 今回,ある観光客中心のプログを当てにし過ぎた。在住者ならともかく,彼らの書く食行動に倣っても韓ドラ狂のニッポン人観光客的に嬉しげなだけであんまり美味しい旅行にはなりそうもない。──ということに早く気付くべきでした。それなりに知らないエリアに触れられて結果的な僥倖にはなったけど。
 でもその反動が,この日の最後半を面白くしてくれたのだから,旅行というのは何がどう転ぶか不思議なものである。

▲ウォジョン ハルメナッチ(凡一)のナクチ+コプチャンパブ

 ということで訪れましたのはウォジョン ハルメナッチ(凡一)。11時25分と既にかなり時計の針は回ってしまいました。
ナクチ+コプチャンパブ7千KRW,400
 久しぶりです。サラリーマンが入ってくる時間直前に滑り込む。出る頃には2階まで席が一杯になってました。
 同じ名前のハルメナッチでも東ネとは全くタイプが異なります。 ──東ネのは庶民と観光客の店,凡一のはサラリーマンの店。東ネは古い市街,凡一は地下鉄を上がってすぐの繁華街。味の方は,東ネはこってりニョンマム,凡一のはキリリと辛いあっさりニョンマム。
 辛さの緩和に寄与してるのが,やはりこのコプチャン(ホルモン)。そのままではややクドめの出汁がニョンマムの辛さの角を取る。ナクチの甘味は,この葛藤の後ろに隠れながら全体の背景画になっているという役どころにおさまってます※。ニョンマムも,これまたコプチャンの肉味とナクチの甘味に支えられて初めて際立つような,意図的な未完成さを留めてる。
※どうも見てると,ナクチを単独の具で注文する人も少なくないようです。
 この三位一体が,ナッチコプチャンの黄金図式。やはりたまに食うとこの構図の美しさには打たれるものがあります。
 海雲台でもナッチコプチャン,さらになにかの魚介を混ぜたのを見ました。客も若い層を中心にかなり多い。明らかにナッチポックンの進化形が形作られつつあるわけです。ただし,ちょっとポップな形態として。

▲ウォジョン ハルメナッチのナクチ+コプチャンパブがグツグツ煮えてるとこ

 さて本日のナッチコプチャン,客がいない時間にしたせいか早々に鍋の火を落とされてしまい,ニョンマムを煮詰めることができませんでした。あららと思いつつ最後の汁をパブに注いでポックンにすると──
おお?これはこれでイケますやんか?
▲ウォジョン ハルメナッチのナクチ+コプチャンパブをご飯と混ぜ合わせたとこ

 ひょっとしたら凡一のも,あんまり煮詰めない方が旨いのかもしれません。あるいはそれはそれで旨いのかも?焦げ味の入る前の,さっぱりニョンマムのままの方が,コプチャンとナクチの出汁との黄金図式にパブがそのまま加われる気もしました。この複雑味を纏った真っ赤なポックンの旨みは,これはまたナッチの場合とは全く違います。甘味をナッチとパブが,辛味をニョンマムとコプチャンがという2vs2の構図になってくる。
 この店では春雨を先に単独で食べてる客がいました。確かにコプチャンが入ると春雨は力を奮いようがなくなるデメリットはありそうです。同じようにナッチを繊細に味わいたいという場合はコプチャンは邪魔です。今後,この料理はどう展開してくんでしょうか?

▲ソルビン(釜山大)のインジョルミソルビン

 帰りの時間が刻々迫り来る中て,釜山大学へ行くのを忘れてたことに気づきました。
 行ってみると。予想は出来たけど,予想通りにどこも超満員。これはどーもならんかなあ…。
 そういえば韓国パッビンス(かき氷)もまだだった。中でも,韓国サボりの期間中に一世を風靡したらしいものに,ソルビンなるものがあるらしい。
 で,デジクッパブ通りだったと思う。ふと見上げると「雪氷」という漢字が視界に入り込みました。添えられたバングルは?そ…る…びん?えっ?ソルビン?
 なぜか釜山大学で遭遇したわけです。今回は見つからないかと諦めかけてたのですが…おおっ!あるじゃないかソルビン!
 13時32分。もう時間はないんだけど,入る。
インジョルミソルビン7千KRW,250
 2階に上がるとログハウスのような風情のゆったりした空間。こりゃくつろぐにもいーですね。流行るわけだ。
 小豆やら何やら加えたのもあったけど迷わずレジにてこの「きな粉雪氷」を注文。韓国でしか食えんパッピンスというならこれでしょ?──この4日間にもあちこちでこのインジョルミパッピンスは見てきました。
 出来上がりのベル。カウンターに赴くと…おお~!見たとこきな粉の山やんけ!
 席に持ち帰ってやっと唖然としました。──これ…どうやって食べるんだ?
 器一杯にきな粉が積まれてる。練乳も添えられてるけど,試しに垂らすと当然器の外に流れ落ちる。
 作戦を変え,中腹からきな粉を削る。下に隠れた氷が覗くと,きな粉と氷をスプーンで少しずつなら混ぜていけそうです。こうやってとりあえず体積を減らしていきました。
 氷といっても粉雪めいたキメの細かい氷。だから似た形状のきな粉とサクサクと混ざる。台湾の雪花氷ほどフワフワの綿菓子状じゃなくて,サラサラというのが近い。しかもなぜかあまり溶けていかないから急がないとドロドロということでもないが──。
 きな粉の朴訥な甘やかさが粉氷に絡まる。う~ん,こう書くと単に冷えたきな粉ということになるんだけど…なぜかスゴくハマる旨さ!
 日本のアイスにも時々きな粉は使われるけど比率が違う。半分から1/3はきな粉という状態です。氷を混ぜるだけでこんなに美味になるものか?どうやってこれを構想したんだ?
 氷の粉にきな粉が細かくまとわりつくからか?そうやってるうちに,氷きな粉みたいな独自の物体を合成してしまった。そういうことなのか?そういうことだとして,なぜこれがこんなに旨い?
 練乳が邪魔なほどです。

 ここのソロビンの予備情報は,なかった。
 完全に人の流れを読んで見つけたとこです。これさえできれば──釜山大学前歩きは便利なもので,学生の動きで人気店は一目瞭然,おまけにトイレも買い物も大学で済ますことが(いーのかどうかはともかく)お手軽にできます。ソルビンで腹を壊しても問題なし!実に便利!

▲ ジャンセンシッタン(大学正門南東)のキムチチブ

 この店も学生たちの挙動が手がかりでした。
 実は,目をつけたものの覗き込むと完全に満席。他店はさすがにそろそろ空いて来てる時間帯で,店によってはガランとしてきてるんですが…。からり人気店のようです。でソロビンを先攻したんですが,戻ってきてみると2,3席空いてるようです。
 ガラス張りだったんで,まず覗きこむ。角に庵でもあるのかと見紛うばかり,木製基調の落ち着いた調度と内装。そんな風雅なたたずまいに,筆文字で3つだけメニューが掲げてあります。
 キムチチョンゴル?旨そうだな? その隣のは…きむち…ちぶ?何だったっけそれ?
 その場でクグると──ソウルのサラリーマンの間で人気になりつつあるキムチと豚肉の煮込み?
 この時見たサイトの「煮込み」という表現が気になった。確か,何回か触れた時には「何だよ豚キムチのことか」とスルーしてきた記憶がある。しかしこの時には,なぜか勘が囁いた。
 ただの豚キムチとは,これは違うのではないか?
 恐らく,キムチをメインに据えたこんな地味なメニューだけを掲げた店が,得てして目の高い学生で万客御礼,しかもその風情があまりに端正にキマリ過ぎてたことが直観のスイッチを押してくれたと思う。
 ここでしょ?入るべきでしょ?
 ジャンセンシッタン。大学正門南東。
1359キムチチブ7千KRW,500
 立ち上る湯気とコチュジャンの香り。キムチチブの皿が置かれる。
 海苔。コンナムル。同じくモヤシの汁。パブ。4種の皿の真ん中に大皿が鎮座する。
 皿を並べるは極めて穏やかな挙動のアジュマ。マイナーだけど実は市井の韓国人には珍しくない。至誠惻怛を絵にかいたような情感を醸す旧き良きコリアン。彼女はポソリとバングルを落として去る。聞き取れなかったが,置いて行ったのはハサミと焼肉の摘まみに使う鉤。
 ところで?──改めて眼前の皿に途方にくれる。
 これ…なの?
 シチューかと思った。
 今まで食べたものの中では,ボルシチが一番近い。あるいはドイツで頼んだロールキャベツ。
 真っ赤に染まった巨大な野菜。まあ白菜だろうが,にしても丸ごと一つが切られもせずに出てきた。その脇に,やはり切られもせず一塊の肉。これもまあ豚肉だろう。ペチュキムチと豚肉。もちろん豚キムチなんだから予想通りの素材なんだけど,何ともこの…あまりの率直さに動揺する。
 それで?
 とりあえず切ろう。ナイフとフォークはないけどハサミと鉤がでたんだから,これで切るんだろう。肉は箸で崩れるほど煮込まれてるようだから,白菜をキムチの要領で(キムチなんだけど)一口サイズに切り崩す。
 口へ。
 キムチだ。
 なんじゃそりゃ?と聞こえるだろけど,今のは感嘆の一語である。当たり前のキムチの味の下に,豚肉のスープが端正に,しかし濃ゆく立ち上がる。豚肉?いやこの酸味はキムチそのものから汁に溶け出したものが,再び白菜に絡まったものでしょう。
 概ね,さっき外観で思い付いた通りに──これはボルシチです。発酵した白菜の酸味と肉汁が基調になってる。おそらく違うのは,使われてるのがペチュキムチってことだけ。
ニョンマムのボルシチ的応用──。
 使われてる材料だけめ言えば,やはり豚キムチに違いはないのである。しかしキムチが,自らから発した出汁と再び出会う時,その共鳴が,食べる側にまだ味わったことのない重層感を感じさせる。
 この店を,単に絶賛しててそれでいあんだろうか?そんな迷いを感じました。
 おののきと言ってもいい。
  キムチだけでこれだけ繁盛してるこの店の謎はまだまだ感じてます。キムチそのものは,それだけ単独で食べたらどれだけ凄いのか?煮込み料理ばかりってことは煮込み専用キムチなのか?煮込みのキムチと具材のキムチは同じなのか?
 しかしそれらは,初遭遇のわしには重荷過ぎたのでした。

 それにしても。
 このジャンセンの2ブロック北にも素晴らしく端正なパスタ屋を見つけてます。腹が持つなら行く気だったのですが…いや,それも置きましょう。
 こういう端正な店が,今回の釜山大学歩き,特にこの2軒のあるような裏通りに増えてきたことです。
 かつて繁盛してたギンギンギラギラ店や,安くて手軽な,例えば校門すぐのトースト街などはどうも客の姿が明らかに,桁違いにと言っていいほど減ってます。
 この釜山大学界隈の店の入れ替わりは凄まじい。2年来ないと見当たらない店,初めて見る店だらけです。学生の嗜好性は正直です。感性にマッチする店,しない店は瞬時に見分けて短期間で白黒をつけて行きます。この街に来ると,日本以上に「この街を作ってるのは我々だ」という断固たる意志を感じます。
 例えば今回,一度は候補に挙げた店の一つに「なべや」とバングルで書いた店がありました。頼もうと思ったメニューは「メウンタン カツナベ」。つまり釜山のメウンタンと日本のトンカツの結合。この店は,日本料理の韓国ヒュージョンが10種ほどメニューに据えてました。
 韓国の,特に若い層の思考の飛翔度は,少なくともアジアではフロントランナーになりつつある。経済界的には戦略性とか創造性ということになるのでしょうか?──そういう予感です。
 また次回にも,ここへは来ると思います。
 その時には,しかし戦慄を予感しつつ来ると思います。

 空港への帰路。沙上を発した空港線が河を越える。
 沙上と徳川は同じ地勢,つまり河に面した旧釜山の西の境。水運に寄っていた時代に立った市場を核に形成された街。
 サボサ駅。工業団地らしい。英語のアナウンスはサボサ・ニュータウン。
 釜山の方向性は明らかにこの川向こうを指向しつつあるようです。
 飛行機から見下ろすとこの川向こうは一面の農業地帯。このエリアにまたさらなる街が出来ていくのでしょうか?
 韓国は一体いつまで突き進むのでしょうか?そしてどこへ?
 収縮しつつある国への帰途,羨ましいような恐ろしいような,不思議な落差を感じつつ。