本伝03-STEP22:食って死ぬか?痩せて死ぬか?

 105日目 
▲27.0kg(100+9kg)

あなたならどっちがいいッスか?
 まったく…栄養関係の本を探すのは疲れます。だってほとんどが一種の「宗教」本…善良そうに書いてる本でも,とうに否定された学説をさも自信たっぷり主張してる。
 「ここがおかしい!?日本人の栄養の常識」(柴田博,技術評論社)という書籍は,しかし非常に科学的でした。分析がマクロなのだ。
 栄養学の現行水準をこれまでずいぶんけなしてきたけど,それは分かってもいない栄養の良し悪しをミクロで判定してるから。納豆はイソプラボンで体にいい!なんて,ミクロでは本当かもしんないけど,長期間そればっかし食べてたら体を壊すはず。
 柴田氏は,そういうミクロの議論を一切しない。アウトプットの統計データでマクロに検証しようとしてる。
 例えばこんなの。摂取する食品数と死亡率の関係。65~84歳の165人を母集団にし,3日間に摂取した食品数が厚労省目標の30程度の集団と,それより多い集団,少ない集団に3類型化して,それぞれ以後5年間の死亡率をチェックしている。結果は,多い集団の3%程度に対し,少ない集団は約20%。──食品数が多いほど体にいいことが,ハッキリ数字で確認されてる。
 数多くの健康本が陥ってる「〇〇は健康に良い」というミクロ議論のドロ試合を,単純だが見事に回避してる。
 なんでこういう本が売れずに(失礼!)新興宗教まがいの「これやれば理由は知らんが確実に痩せるぞヨ」本ばっか書店を埋めてんだ?
 以下,わし自身驚いた点を3点だけ挙げてみます。驚いたちゅうより怖かったって方がホントだ。

 ①現在のエネルギー摂取量は終戦直後以下
 だから,むしろ低エネルギーをこそ懸念すべきというのが柴田氏の主張。メタボのお祭りやるんじゃなくてね。
 このデータは,なんとメタボの火付け役,厚労省の調査。しかも法定の調査である国民栄養調査なのです!
 昭和25年2098kcal
 昭和45年2210kcal(MAX)
 平成15年1920kcal
 「以下」どころか終戦直後を9%も下回るのです!国民栄養調査には昭和25年より前のデータはないけど,おそらく戦時中並みということになる。
 20世紀の初めの日本人の平均寿命は30歳代後半。欧米並の50歳を越えたのが昭和22年で,昭和55年頃に世界一になった。
 エネルギー摂取量のピークとほぼ重なる年代です。そしてここから現在に至るまで,エネルギー摂取量は低下し続け,ついに戦前レベルにまで戻ってしまった──というのが日本人の栄養状態の歴史らしい。
 日本人が短命だった時代,死因トップは脳血管疾患。米の割合が多過ぎて,動物性タンパク質や脂肪が不足していたためと言われる。現在でも発展途上国の栄養状態はエネルギー・タンパク質不足型低栄養と呼ばれるが,日本もまさにその状態だったわけです。
 しかし昭和40年頃から脳血管疾患の死亡率は下降し始め,平均寿命が世界一になった昭和55年頃,死因トップがガンに入れ替わった。
 増加したエネルギー摂取量は,タンパク質と脂質の増によるもの。これらのお陰で,現在30代のわしは辞世の句を読まなくて済んでるわけ。
 しかし,内容的にはともかく,エネルギー摂取量は低下してるのも事実。
 FAO(国連食糧農業機関)の調査では,世界平均を下回り,発展途上国の平均に近い。中国や韓国より下なのです!
 そもそも,エネルギー摂取量の制限という発想はエネルギー過剰のアメリカ人のために作られたもの。「発展途上国並みの我が国においては,むしろ低エネルギーの害を知るための実験モデルが必要ではないか」と柴田氏は言う。
 タンパク質や脂肪の必要性は明確だが,エネルギー不足自体の影響はまだよく分かっていないらしい。カロリーという尺度がそのくらい意味のないものだというだけかもしれないし,それ自体の不足が危機的なのか,誰も知らない。実験例すらほぼ皆無なんだって。
 するってえと──後者だとすれば,カロリー管理で体重半減狙うなんて,とんでもなく危険じゃないの!と今さらながら怖がってる僕チャンでした。
 ただ,可能性としては,人間のカラダは本質的にはカロリーみたいに単純な「燃料」で動いてるんじゃなく,タンパク質・脂質とか微量栄養素とかファイバーとかのより細やかなレベルで処理されてると考える方が正解でしょう。低カロリーでもそれらが揃ってれば問題ないはずだけど…まあ,病気になったら報告しまッス。
 しかし,これだけはハッキリしてる。既に十分低エネルギーの日本人には,カロリー制限はとっても危険な行為なのじゃ!

②日本人には脂質と糖分は,むしろ不足している。
 戦前の短命な日本人が世界一の高齢化を実現したのは,脂質の摂取量の増加による。これは統計的な事実で,平均寿命が世界トップになった昭和55年の脂質の摂取量は昭和25年の実に3倍の55g/日。この水準は現在もほぼ同じ。
 世界各国の1人当たり脂質消費量と平均寿命をグラフにプロットすると,両者の比例の関係は明らか。このトレンドラインで見ると,仮に脂質の摂取量を現在の日本人平均の半分,23g程度に抑えると,平均寿命40歳位。日本人平均の半分です。いわば,1人だけ戦前の日本人の寿命に戻ってしまうのじゃ!
 大ざっぱに言うと,脂質を抑えると,痩せるかもしれないけど2倍死にやすいカラダがあなたの手に!という感じ。
 このトレンドライン,1人当たり100g/日位から平均寿命70歳の水準で横ばいになってる。実は日本のレベルは,この横ばいから落ちるかどうかの瀬戸際にある。現在以上に脂質を減らせば,寿命は一気に短くなるのです。
 だから…肉を食おう!食わなきゃ死ぬぞ!

 糖分については,次章の実験と一緒に話すとして──
③日本の子どもに増えているのは肥満以上に痩せ過ぎ
 厚労省の国民健康・栄養調査で児童・生徒を肥満と痩せの比率を出したものを30年前と比べてる。
 肥満1.62倍,痩せ2.99倍。──柴田さんは「だから小児肥満の増加はウソ」と論じてる。
 しかし,要するに中間の普通層が減っているわけ。人間として適正な食事というものが,日本から消え失せつつあるのです!
 「カラアゲでもケーキでも僕ちゃんの好きなもの食べていのよン」な家庭。
 「ああ,冷蔵庫の適当なもん食べといて!母さん忙しいのよ!」な家庭。
 このいずれかばかり増えた結果が,肥満と痩せの両極分化なんじゃないの?どちらもに共通するのは,食生活を軽視する姿勢。
 実はわし自身も,親が共働きで孤食することが多い環境で育ちました。一人で炊飯器で飯炊いて缶詰めかラーメンを食べる。親がいるときも,料理が上手くない──というより料理が嫌いらしく,あまり食卓で感動したことがない。
 だからお願いです!今お母さんの人,どうか子どもに,本当に美味いとはどういうことか教えてください。食育で大事なことはそれだけだと思うんですが…