豚インフル満開真っ盛りの今日この頃,皆様におかれましてはご健勝のこととお慶び申し上げます。
イミグレに並ぶ観光客の4人に1人がどでかいマスクをしてる台湾へ,男は裸一貫顔剥き出しでやってまいりましたわけです。やっぱりちょっと不安だけど。
何となく決めた民権東路のサンルートホテル(海外一号店!)へ飛び込みで宿が取れました。部屋に入ると――
ゲゲッ禁煙マーク?フロントが間違えたな!
引き返して苦情を言うと「現在,台湾房間里都不能吸煙」。
忘れてました…今は部屋の中は全部ノースモーキングな国なのね…生き抜きにくい時代になったものよのう…
てことで張り切って参りましょー,台湾9連休!
とりあえず,民族東路の丸林魯肉飯に向かってみた。
魯肉飯が有名ってこの店,木造のかなり重厚な店構え。上海でこのパターンは期待できる大衆店が多かった。台湾ではどないだ?
魯肉飯と湯(汁)だけは個別注文で,他のおかずもバイキング。台湾じゃファーストフードの類型として他でもよく見る形態だけど,ここの場合は違う。それだけ飯と汁に力入れてるって姿勢みたい。
魯肉飯が来た。このメニュー自体は何度も食ってきた。おかずにちょっと小ライスが欲しい時に重宝する。
でもこれを美味いと思ったことはなかった。これ,ご飯にソボロがかかってるだけ。それに何より,このソボロが不味い。ムンムンに漢方臭いの。五香粉のもっと強い味がギンギンに付いてて,そんならタダの白飯出してくれえ!って声を大にして青年の主張したかった。君タチは何でこんなもんをみんながみんな食ってんだよ!食えてんだよ!
話を戻して――目の前にやってきた丸林魯肉飯のことである。
箸を動かす。
▲丸林魯肉飯(1日目)。ご飯と湯は注文制,菜(おかず)はビュッフェスタイル。
あれえ?――食えるぞお?
過去の記憶は確実に「不味いぞ!」センサーがピコピコしてんのに,現在の味覚が真反対の反応を示す。そのパターンを,もう最近は半ば予期してるけど…。
なるほど――大阪寿司と全く同じパターンなんだな!米の飯ってもんを味わう舌がないから,その米の味にマッチしてるアクセントの味覚も理解できない。米の味が分かって初めて,この漢方臭いソボロが微妙にキイた飯がどれほどの美味なのか,やっと理解できたわけさあ!いや,日本のソボロに例えるのもおこがましい!
――とこの時には思ってたんだよな~。まさかこの旅行の最後には,その「漢方臭いソボロ」にグルッちゃうとはなあ…。時々自分の舌の変化が空恐ろしくなることがありますワ。
▲丸林魯肉飯(1日目)で団欒中の家族連れ
3日目,近くまで寄ったついでにぶらっと行ってみた嘉義鶏肉飯。
松江路と南京東路の交差点から南西,路地を入った住宅街の真ん中に,遠くからもよく目立つ看板を掲げてる。広さは結構あんだけど,構えは通りに開けっぴろげでホントに庶民的。昼前なのに客足も絶えない。その風情に惹かれて,結局入ってしまった。
鶏肉飯(小)と木耳の和え物,魚丸湯を注文。一汁一菜で立派なランチになったんだけど,これが75元。日本円で250円以下ってのは,台湾の物価水準からしてもやはり安い。
▲嘉義鶏肉飯の鶏肉飯,魚丸湯,木耳の和え物
絶対ってほど来店にこだわりがなかったのは,タイの鶏メシをイメージしたからです。あれは,美味いけどもう食い厭きた。しかも,何をどう言っても安っぽい。作り方:1)鶏肉を甘煮。2)白ご飯にぶっかける。3)口にかき込む。みたいなもんだろ。
ちなみに,これが北に伝播したのが,恐らく奄美の鶏飯だと思う。
この鶏メシ,南中国発で東南アジア一円で食える料理と言う。だから台湾にあるのは発祥地の形態なんだろけど,にしても大差あるもんじゃねだろ?台湾まで来てまたアレ?って感じだったわけ。
そんな感じで半信半疑,一口つまんでみる。
やっぱり鶏メシだな…あ!でも!へえ~!!鶏メシなんだけど,タイのと全然違うじゃん!?
鶏肉がしこしこの歯応えでしっかり食わせる。爽やかに甘く,もたれない汁が飯に染み入る。
この汁なの!シェン菜とヌクマムで煮たタイの甘煮と深みが違う!台湾南部が本場の料理だって言うし,東南アジアの鶏メシの源流であることはまず間違いない。でも…元はこーゆーのだったんだ…
でも振り返れば――そーゆーのっていうのが何なのか,この3日目にもまだ分かってませんでした。
思えば――9日開の台北滞在で,最初の食事に魯肉飯を食い,ブログ第一章にこの前回まで大嫌いだった食事をピックアップしてたのは,どうにも宿命を感じるさあ。
5日目にルー味という,どうやら台湾で最も色濃い味覚の存在に気付きました。その味覚を売りにしてる店を探索するうちに気づいたんだけど――ルー味,台湾漢字の繁体字では「滷味」って書きますが,魯肉飯を「滷肉飯」と書いてる店を複数見かけました。
▲滷味料理本に紹介されてる滷肉飯
なるほど――「魯」の字は「滷」と,発音も「ルー」で同じ。声調(イントネーション)も同じ!!要は,当て字なんだな!
つまり魯肉飯って,ルー味で煮付けた肉ソボロご飯。
台湾人が定番にするわけだ。これぞルー味の基本メニューなんだから!
▲羅新路 金峰魯肉飯の店頭風景
7日目,羅福路にみつけた金峰魯肉飯へ。
魯肉飯(小) 25元
苦瓜排骨湯 45元
やっと分かってきた。ご飯にソボロ肉がかかってるから美味いんじゃない。ソボロからご飯に染み出したルー味が美味いんです!
ご飯がまるでご飯じゃなくなっちゃう!日本人一般の味覚から言えば,簡単には「苦く」なる。シナモンとクミンを中心にした漢方スパイスが飯粒に染み込んじゃって,「臭く」なる。
苦くて臭いその飯粒は,けれどそんな単純な表現に収まらないほど,豊潤に苦くて臭いの。その緻密さを味わえてしまえば,ルー味の奥に隠れてる,やはり苦くて臭い肉汁がたまらなくなる。甘さにさえ感じられてくる。
わしの味覚がおかしくなってんのかな?日本人的には間違いなくそうなんだろな。でも,台湾人的には正常な,むしろ一般的な味覚がコレなんだ!
この奇妙な深みの罠に,朝から客足の絶えないここ金峰で,完全に落ちてしまっております。
▲羅新路 金峰魯肉飯
8日目,重慶北路の円環近く,龍縁。
同じ並びで目を付けてた龍鳳号って店も発見。どーも似た店名で似たよな系統のメニューだなと思ったら,店内の表示によると龍鳳号の2号店が龍縁ってことらしい。
両方を偵察してみて,雰囲気が明るく客も既に入ってる龍縁の方に入店することにした。
ここもルー味の店です。完全にハマっちゃってます…
魯肉飯 20元
香[サ/如]脚筋肉羹湯 40元
湯もまずまず美味かったけど,唸ったのはここの魯肉飯のルー味のバランス。
苦味がやや控え目なの。でも単に少量ってだけじゃなくて,肉と米の味の間の絶妙な位置にルー味が来る。計算されたルー味の強さ。ルー味なのに,スゴくすんなり食えるルー味。
何か…書いてて,京都のダシの使い方みたいな気分になってきた。
素材の味を殺さず,むしろ最大化するバランスで投じられたダシ。そのバランスは,延々重ねられた試行錯誤の先にしかない。巷の歴史が生み出した黄金の味覚が,こうして目の前に結晶してる。
▲龍縁 魯肉飯アップ
8日目,再び丸林魯肉飯へ。
他の店で経験値を上げた舌が,1日目に食ったここの魯肉飯をどう感覚するのか?それを確認したくてさ。
魯肉飯
味噌鮮魚湯
鶏肉と胡瓜の炒めもの
豆腐の煮物
で計145元を食う。
▲民権東路 丸林魯肉飯2回目
やはり…スゴいね!1日目には十分味わったとは言えない魯肉飯も,ルー味と肉汁とが丁度良く出てるし,ご飯自体もかなり上質みたい。
総合的な安定感で,群を抜いてます!
やっぱり大入りの店内。窓際の席に老夫婦。発話に不便があるらしく,木製の卓上に手話で話を弾ませてる。窓外に沈みゆく西日が,幸福な会話を赤く鮮やかに染め上げてます。
9日目,最終日。西門の何家排骨[魚+ノギヘン]って店に立ち寄ってみまし。
排骨[魚+ノギヘン]湯55元
魯肉飯(小) 25元
▲西門街 何家の魯肉飯
ここの湯は素晴らしかった。それは別にお話したいけど,魯肉飯は同じく飯に染み入る汁の声(芭蕉)じゃなくて味がベリベリハッピー!ルー味はその引き立て役って位置関係で構成されてる。四神湯の雑炊版って感じ?
魯肉飯としては亜流なんだろな。ただ,西門一繁盛してる東呉大飯店の対面って場所柄,日本人観光客とか外来の者にはウケがよかろう。チャンとルー味ではあるし,台湾でしか食えない味でもある。
立ち位置の巧妙さも面白い店です。
やや期間も長いし,現地でチケット買って香港か沖縄にでも足を延ばすか?とか,最初は考えてた今回の台湾旅行。
結局,台北にず~と滞在してただけでした。時はまさに,新型インフルが香港でアジア第一号の罹患があった直後。いざとなったら体制の緩そーな基隆からの国際フェリーで帰国しよと目論んでたこともあるけど。
一番の訳は,台北の食体験が魅力的過ぎたから!古都・台南とかでも食べたかったけど,とても移動する気になれませんでしたワ!
地下鉄のホームのベンチやトイレの位置を覚えるほどぐるぐる回って,仕舞にゃあ二十日鼠みたいな気分になってきた9日間の怒涛の台北滞在日記。さあ始まるよお!