Range(中環・日本).Activate Category:香港シン一次(12) Phaze:車海老

献句
影見霊屋に蟹の道のある
✺✺✺✺✺✺✺✺✺✺✺✺

【本句】月涼し伽藍に蟹の道のある 〔名古屋A〕※夏井「月涼しは主季語。蟹の道はサブ。道のあるより道があるの方が?という議論はあった。体言止めの方が?けれど議論の末,全体で連体形なのではないか,という景にたどり着いた。酒も飲まずに二時間議論した。」


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ミニホテルのロビーのデスクシートを見て驚く。朝の五時からパソコン開いて入力してる男がいました。
0512 時間だけは十分あるので
前で一服してから、坂を降りる。

早朝の中環1 黄線の交差だけのセントラル路上

レッカー車が走り去る。深夜に路上駐車の車を引いて行ってしまうのがいるらしい。公じゃなかったら一種の強盗ですね。

早朝の中環2 五時半にもビルにこの位の灯がある。やっぱり働いてるんだろな……。

早朝の中環3 フェリー乗り場への高架も無人

畢打街 Pedder Streetから高架へ。
0530香港站へ左折。ふう、ビルのドアは開いてました。
早朝の中環4 高架から香港駅への右折点(撮影は南・山側向き)

あれ?地下へ降りるのじゃないのか?
あ、エスカレーターが違うんだ!奥から降りる。
早朝の香港駅への侵入路マップ

早朝の中環5 機場快線へは奥のエスカレーターから

早朝の中環6 中環のエスカレーターが無人なのを初めて見ました。

なるほど南側がタクシーの着く正面ゲートなのか。──なぜか香港站の構造とか、今回必要だったような開門時間とかの情報を記すHPがないのです。
機場快線の開くのを待つ人影

始発を待つ人が何人か。──全然早過ぎなかったらしい。あと12分と電光表示。現在0537だからこの列車で間違いない。0539ゲートも開きました。
次のために残った二百HK$をチャージして乗車。
以上のことを朝からよく口の滑る日本人のおじいちゃんが真後ろの席で長々と説明してたので、事実関係に間違いはなさそうです。
冇問題 モウマンタイ!
0552開車?早くね?怖っ!
いや「青き衣」と言えばどーしてもね。

0600青衣。──繁体字圏で過ごすと変換漢字が無茶苦茶になってます。スマホがユーザーの国籍を誤認しかけてるんでしょね。
暗いので墓の丘は確認できず。スケキヨの湾も無理だろな。
車内、ほぼ満席でございます。こんなんならもう一本早い便を作れよ。
機場到着のアナウンス。
機場快線の機場到着表示

0630にはイミグレを抜けてました。
228ゲートだからL6へ降りるらしい。

0637 甫田
甫田扁肉湯米粉
Putien Bian Rou Soup 450
久しぶりの扁肉(≒ミニミニ餃子)がなかなか染みました。

甫田の甫田扁肉湯米粉

二つ列車に乗らなきゃ行けなかったらしい。──違う、降りる駅を間違ったのか!地下モノレールは三駅あったのか!──あれ?これ過去何回かやったな?
いかん、汗が出てきた。0745はFINAL CALL。

まあどーせまだ開いてる店はないから免税買物もできまへん。タバコすいたいだけ。
吸うのは無理だったけど免税が開いた!タバコを二カートン購入してゲートへ急ぐと丁度バスの列の最後になりました。
なので甫田扁肉食った以外はほとんど何もできまへんでしたけど──まあ朝一だからね。こんなもんでしょうよ。

乗機用のバス車内から大嶼山

ようやく外は明るくなってきました。バスは……なぜじゃ?まだ出ません。
ああ、ということはこのバスがホントに最終便なのかな?
0726バス発車。

おおっトンネル?走ってる路面もきちんと白線を引いてある道路です。えっ!ロータリーまである?香港空港はこうしてニューヨークと異なる大規模一元管理を成立させてるらしい。これは大陸中国の発想です。

乗機用のバス前方に乗機が見えてきた。

0736機内へ。
大彎区と漢字三文字を書いた GREATER BAY AIRLINE?
大彎区 GREATER BAY AIRLINEの機体

大湾区とはどこでしょう?「彎」が繁体字だから台湾か香港の航空会社のはずですけど──?
流石に眠気が襲ってきた。睡魔に捕まるのと離陸とどっちが早いだろう?
離陸直前の曙光

0806離陸。眼下に坪洲のような地形が一瞬見えたけれど定かでない。
香港の島影を見やって

飛翔

機内では一昨日のスマホブラックアウト時の記録のデジタル化です。物凄い量を記録してしまったので……。
荃湾購入A6フィールドノートから、機内で一昨日のメモをデジタル化

 小さなノートながら何と半分は使ってました。
 学生時代に実質4日のフィールドワークで8ミリ程のノートを使い切ってたから、まあこの位の分量にはなるんだけど……文字起こしは疲れる。やっぱりスマホに直接打った方が効率ははるかに良い。ただ久しぶりにやってみて分かったけど、フィールド記録を二度なぞるというのは、旅行実地で書き殴る自分と実地を離れて記録を定着させる自分とが会話しているような濃密さがあり、時間をかけるだけのことはあります。咀嚼度が違う。
翼の下に日本の地形が見えてくる。

正午帰国。
入国ラッシュです。
凄い。韓国語と中国語の集団が大多数、日本語の人間はほとんどいない。イミグレも再入国ゲートはガラガラでした。
電子申告を皆調べてきてるらしく既に行列が出来てる。電子チェックの後で意味のないゲートを一人ずつ通らされるだけ。
完全に状況が変わってるのです。
かつて中島みゆきが
♫今やニュースはショータイム
と唄ってたのになぞらえれば
♫今やニッポンは遊園地
です。現実的に考えるなら、イタリアやギリシャのように観光で漏れる汁を吸って生き残るしかない。あるいはインドネシアのバリのように、観光客の観たい「伝統」をギラギラさせて金を落としてもらうしかない。あれはあれで辛い状況に思えます。
普通の日本には絶対にない「舞妓」「歌舞伎」自販機(20Aボーディングゲート付近にて)

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福岡空港は工場中のこともあってバス停に大行列。ここでも日本語はほぼ聞きません。以前の帰国感覚と全く違う。
博多BTの二階行きだったらしい。太宰府からの帰路便でした。座ってる客はほぼ日本人らしい。大混雑で全然分かりません。何か有料でした。
まあ宜しい。うどんか何か食べて帰ろう。温度は丁度十度低い。
牧のうどん

1325牧のうどん
大(やわ麺)500

1406博多発となりました。
エレベーターに「G」の文字がないので戸惑う。そうか「1」しかないんだな、この国の場合。

中国初の100万kW級洋上風力発電所・三峡陽江沙扒洋上風力発電所〔後掲Record China〕

■レポ:大湾区 GBAの時代▼▲

 この時の行きの飛行機から見下ろした海上の風車群は、中国側公式サイトで「三峡陽江沙扒洋上風力発電所」と呼ばれるものでした〔後掲人民网、Record China〕。
 2023年3月時点で年度四半期累計10億kWhの生産を報じてました〔後掲同〕けど、丁度この旅行の月の2023年12月の12日に操業開始という情報もある〔後掲Yahoo!ニュース〕。共産国の公式発表だから実態が明瞭じゃないけれど、おそらく2023.12から全面稼働したのでしょう。
 スペックが物凄い。

【設備容量】200万kW
【供給電力】約56億kWh/年
(→主に粤港澳大湾区
  約240万世帯の電力消費量)
【CO2削減】▲約480万トン/年
【設備】
 洋上風力発電機315基
 洋上ブースターステーション4基
 海底ケーブル約1千km
 〔後掲人民网〕

 繰り返して申し訳ないけど共産国の情宣ですから「世界一」を豪語しそうなもんですけど、一応の世界一は英・リバプール沖の洋上風力発電所〔後掲タイナビ発電所、スマートジャパン〕。本拠地デンマークのDONG Energy社による「Burbo Bank Extension」プロジェクト。三菱重工業とデンマーク・MHI Vestas Offshore Wind社の開発した80m長の羽根(ブレード)で、8MW機(MHI Vestas社数字)が32基(2017年段階)という。
 風速の条件もあるので比較が素人にはし辛いけれど……恵州沖の洋上風力発電所も世界最大級であることは間違いなさそうです。

※JRE宮城加美町ウインドファームの例では、
風車4,200kW×10基
→発電量約10,150万kWh/年
 →一般家庭の年間消費電力量約23,100世帯分相当〔後掲世界を変える!?再生可能エネルギー〕
とのデータがあり、粗く1MW一基→250万kW/年と換算式を立てると、
8MW×32基×250万kW/年=6.4億kw/年
となり中国恵州沖の方が8倍以上大きいことになります。

 そもそも現時点で世界の洋上風力発電所の半分近くは中国が担っています。

※洋上風力発電設備容量
 世界   :57.6GW
  うち中国:25.6GW
       (44.4%)
{うち日本:0.085GW
     (2021数値)}
 うち
 2022年増 : 9.4GW
  うち中国: 6.8GW
(72.3%)
〔WFO(World Forum Offshore Wind:洋上風力世界フォーラム)「Global Offshore Wind Report for 2022」←後掲CRANE1000〕

 で、このエネルギーを何に充てようとしているかと言うと──

(現時点の供給量10億kWhは)3309ヘクタールの広葉樹の植林効果に相当し、粤港澳大湾区(広州、仏山、肇慶、深セン、東莞、恵州、珠海、中山、江門の9市と香港、澳門<マカオ>両特別行政区によって構成される都市圏)の建設にグリーンな発展の原動力をさらに追加した。〔後掲人民网〕

 ここに「大湾区」の語が出てきます。
 三峡陽江沙扒洋上風力発電所は、中国経済当局側の壮大なデッサンのほんの一角に過ぎません。その狙いは香港の成功を広東広域に拡大する、きな臭く言えば香港の大陸経済圏への取り込みです。その巨大な機構の基礎インフラが恵州沖発電所なので、それ単独で世界一かどうか、という瑣末な点は問題視されていないのです。
 本稿はもちろん経済誌じゃないので、基本的に興味本位に、やや無責任に「大湾区がホントに成功したら何が起こるか?」に主軸を据えて以下見ていきます。

2013年習近平提唱 海と陸のシルクロード構想〔後掲日経新聞〕

GBAの位置付け▼▲

 2013年の北京APECの際、APEC以外の国へも呼びかけて、中国・習近平国家主席は現代版シルクロード広域経済圏を提唱しました。これが中国語で「一帯一路」構想(陸:一帯 海:一路)で、中国主導の400億ドル規模の「シルクロード基金」創設を核にしていたので中国版マーシャルプランとも呼ばれ、元基軸の独自経済圏創出が目的と言われました。
 いかに高度成長を続けてきた中国とは言え、資金力が基本の経済戦争で、中国の経済的世界征服計画とも捉えうるこのプランは客観的にはヴィジョンに過ぎません。
 2019年に一帯一路を発展的に──つまり現実的にブレイクダウンしたとされる計画が、大湾区構想です。
 大湾区の語は、この時策定された「粤港澳大湾区発展計画綱要」に初めて掲げられます。

粵港澳大灣區イメージ図(圖 : 翻攝自海外財富網)〔後掲Newtalk新聞〕

※原注 香港貿易発展局公表資料を基に作成。各指標は2019年~2021年の直近の公表値を参照

 粤港澳大湾区は香港特別行政区、マカオ特別行政区、広東省広州市、深セン市、珠海市、佛山市、恵州市、東莞市、中山市、江門市、肇慶市(以下「珠江デルタ9都市」という)を含む。総面積は5.6万平方キロメートルであり、2017年末の総人口は約7,000万人である。中国でも開放度が最も高く、経済活力が最も強い地域の一つで、国家発展の大局において重要な戦略的地位に立っている。粤港澳大湾区の建設は、新時代において全面的に開放的な新しい枠組を形成する新たな試みであり、「一国二制度」の発展を推進する新たな実践でもある。党の第十九回全国代表大会の精神を全面的に貫徹し、「一国二制度」の方針を全面的かつ精確に実行する。広東・香港・マカオの総合的な優位性を十分に発揮し、内地と香港・マカオ間の協力を深め、国家経済発展と対外開放における粤港澳大湾区の牽引役を果たす。香港とマカオが国家の発展大局に溶け込むことを支援し、香港とマカオの福祉を増進する。香港とマカオの長期的な繁栄と安定を確保し、祖国人民とともに民族復興の歴史的責任を負うことによって祖国の富国繁栄の偉大な栄光を共有することに向け、本計画を作成する。 〔後掲ジェトロ/仮訳/序文〕

 2019年は逃犯条例を巡るいわゆる香港民主化デモの年です。一国二制度について「発展を推進する新たな実践」かつその「方針を全面的かつ精確に実行」するためのフレームとして、粤港澳大湾区が語られます。
 香港とマカオについて「福祉を増進」し「長期的な繁栄と安定を確保」する対価として、「国家の発展大局に溶け込む」ことを要求している、というのがリアルな読み方でしょう。
 香港民主化デモの武力制圧の構えを「鞭」として見せつつ、生活と経済を「飴」とした政治的服属の要求に対し、おそらく香港の経済界は「飴」を受け取る判断をし、その意向を大陸側に表明した……と想像されます。
 2019年の真の二制度の格闘は、水面下でこそ本格的な決着に達したのかもしれないのです。

大湾区発展計画のタイムライン〔後掲KPMG〕
「第十九回全国代表大会の精神」というのは、陳腐に言えば習近平体制への服属です。2017年のこの大会では、従来の5つの党指導思想※に次ぐ6つ目の思想:「新時代の中国の特色ある社会主義思想」が党規約に明記されています。これも最も陳腐に言えば、マルクス・レーニンと毛・鄧・江・胡に習近平が並立する、つまり第六王国の成立を意味します。

※①マルクス・レーニン主義、②毛沢東思想、③鄧小平理論、④三つの代表(江沢民提唱)、⑤科学的発展(胡錦濤提唱)

 ただし共産大陸中国も「裸の王様」ではありません。計画綱要の「機会と挑戦」節には、要するに我の強みと弱みのかなり冷徹なSWOT分析がなされています。長文ですけど全体で読まないと分かりにくいので、まとめて掲げます。

 現在、世界の多極化、経済のグローバル化、社会の情報化、文化の多様化が着々と進展しており、グローバルな管理システムと国際秩序の変革が加速しているため、国際間の関わりと依存関係が深まっていき、平和発展の流れを逆転させることはできない。新しい科学技術革命と産業変革が満を持しており、「一帯一路」建設は着々と進展している。粤港澳大湾区の国際競争力向上により、より高い水準で国際協力と競争に参加するための新しい空間が開拓された。新しい発展理念による先導のもと、中国は供給側構造改革を進め、経済発展の品質変革、効率変革、動力変革を推進している。大湾区はモデルチェンジと革新による発展のため、新たな活力を注ぎ込んでいる。改革を全面的に深化して重大な前進を得ることによって国家管理システムと管理能力の現代化レベルが明らかに向上している。大湾区の協力発展メカニズムの革新、協力発展における諸課題の解決に新たな契機を提供している。
 同時に、粤港澳大湾区の発展は挑戦的な課題にも直面している。現在、世界経済の不確実・不安定な要素が増え、保護主義が台頭している。また、大湾区の経済運営には生産能力過剰や、供給と需要構造の不均衡など顕著な矛盾と課題があるため、経済成長の内的動力を増強する必要がある。「一国二制度」の下、広東・香港・マカオ間の社会制度、法律制度および関税区域は異なっている。市場の相互接続の更なるレベル向上が早急に必要とされているが、生産要素が効率的かつ便利に流通するための良好な局面はまだ形成されていない。そのため、大湾区内部の発展格差は依然として大きく、協同性、包容性の更なる強化が早急に必要とされている。一部の地域と分野には依然として同質的競争と非合理的な資源配置が存在する。香港の経済成長には持続的で安定した支えが不足しており、マカオの経済構造は相対的に単一で発展資源が限られている。珠江デルタ9都市は市場経済体制を更に完備しなければならない。地域の発展空間はボトルネックに直面し、資源エネルギーの制約が厳しくなっている。生態環境によるストレスが増大し、人口ボーナスが次第に減退している。 〔後掲ジェトロ/仮訳/第一章第二節 機会と挑戦〕

 前段が【チャンス】、後段が【リスク】です。
 前段では、世界秩序のゲーム盤での経済戦を前提にします。ややまどろっこしいけれど、単純な軍事覇権主義は捨てられています。代わりに国際的経済戦を戦える核として、大湾区の急速な育成に勝機を見出しています。
──正直、香港民主化デモを大陸中国は血みどろに弾圧するものと思っていました。多分、香港市民も半ばそう予想していたでしょう。そうならなかったのは、ほぼ間違いなく、新世紀の中国の国際競争力の核となりうるのが「香港が生きたままの大湾区」しかないと北京が認めたからです。これも多分、冷静な香港世論が予期した香港生存の勝機だったでしょう。
 かつ、後段【リスク】は序盤で大湾区共通の、中盤で各構成地域別の弱みを端的に暴いた上で、終盤では資源と環境の両面での崩壊、さらに人口ポテンシャルが当然に武器になるわけではない点まで言い切ってます。
 香港に関して言えば、経済成長を維持するための「持続的で安定した支え」の欠如を、さらりと言ってのけてます。つまり、「香港の未来にも大陸(の人口的厚み)が必要なはずだ」と言っている。──香港市民はともかく、香港経済界はその主張に諾と返した。それは単に大陸共産中国の鞭に屈したのではなく、長期的な損得勘定をした上の選択だったと思われるのてす。

交通インフラの景色▼▲

 前掲計画綱要に言う「生産要素が効率的かつ便利に流通するための良好な局面」は端的に言えばインフラでしょう。
 綱要作成者は、66百万という大湾区の人口ポテンシャルだけをあてにしてません。要するに、この人口に「速度」を与え、高回転させるビジョンを持ってます。──ちなみに66百万人という規模は、日本の首都圏の倍、丁度三大都市圏を合わせたほどです。

※試算:6,783万人
首都圏(東京都区部に加え横浜市・川崎市・さいたま市・千葉市・相模原市など)3,723万人
近畿圏(大阪市に加え京都市・神戸市・堺市など)1,930万人
中京圏(名古屋市に加え愛知県、岐阜県、三重県3県)1,130万人
(各2008年データ)〔wiki/三大都市圏〕

 大湾区の交通インフラとしての初手は、香港-マカオを繋ぐ世界最長の港珠澳大橋(2018年開通)でした。ただし、どういう内部事情※なのか許可制による重規制状態が続き、利用が低調な状態が続いてます。

※2017年にコンクリート強度の偽装の疑いが報道されており、運営当局側に不安が生じたか、圧力がかかった可能性がある。また、港珠澳大橋は二つの人工島を経由するけれども、風水の観点から、両人工島の形が蛇の対峙する相を成し、不吉との意見がある〔堪輿家:”大橋「兩蛇對沖」損風水招災害” (中国語). 東方日報. 2019年←wiki/前掲〕のも影響したかもしれません。

(上)大湾区横断交通インフラ予定〔後掲深圳ファン〕
(下)深中通道の伶仃洋(れいていよう)大橋と西人工島(奥)(2023.11’28 小型無人機から、中山=新華社記者/鄧華)〔後掲新華網〕
 なので、東京湾ベイエリアのアクアトンネルに相当するインフラは「深中通道」と目されてます。広東省の中山と深圳を橋とトンネルで結ぶこのルートは、2023年11月末に連結終了、2024年開通予定〔後掲新華網など〕。両側8車線、設計時速百km/h。中山-深圳間の移動時間は現・2時間から約20分に短縮される予定です。
 前掲計画綱要「生産要素が効率的かつ便利に流通するための良好な局面」は本格的には物流、デジタルネットワークやマーケット(株式市場)の統合※でしょうけど、経営風土的には動力と交通などの基本インフラが整えばなし崩し的に進んでいく可能性が高い。

※広東省(广东省人民政府办公厅)は2023.11.21付で「『デジタル・ベイエリア(湾区)』建設に向けた3カ年(2023-2025年)行動プラン」(广东省人民政府办公厅关于印发“数字湾区”建设三年行动方案的通知)を発しており〔広東省HP 文件库 > 全部文件 > 粤办函←後掲ジェトロ〕、この中で「ベイエリア(湾区)通」プロジェクトを構想してます。5つの「通」
①データ通 ②インフラ通(5G整備) ③ビジネス通 ④産業通 ⑤ガバナンス通 ⑥生活通
⑦デジタル化による地域間の融合
⑦の中では「『投資広東』プラットフォームと大湾区企業誘致プラットフォームの活用」「大湾区と長江デルタ、京津冀(北京市・天津市・河北省)、川渝(成都市・重慶市)の経済圏との地域間提携」を謳っていますけど、具体の姿が見えません。

 おそらく2025年頃を皮切りに、怒涛のように経済ネットワークが構築されていくでしょう。
 今回見聞した人的な交流で言えば、深圳の空港や地下鉄への連絡バスには既に列が出来ている状況でした。
 イミグレーションがどの程度の規制なのか気になりますけど……「その時代」は刻々迫りつつあるのは実感できます。

GDPの前年比の変化(Hong Kong GDP Growth Rate 1962-2023より同著者作成)〔後掲JBプレス2023.2.1〕

2023年の香港は今宵限りか?▼▲

 国際交易への依存度が高い香港は、COVIDによる移動の停滞、特に2020年から2023年1月までの約3年間に及ぶ中国本土間の移動制限の打撃をモロに受けました。1998年のアジア経済危機を超える大不況で、2020年と22年のGDPはマイナス成長です。
 金融セクターで働く香港人口は総数の8%と言われます。COVID前、香港金融界の大きな顧客層は大陸中国の経済人でした。中国本土では購入できない高利回りの積立保険購入や、世界の金融市場への香港の銀行を通じたアクセスなどの金融サービスが人気だったのですけれど──具体の数値はないけれど、香港金融界の従事者はぐんと減り、その隙間に中国本土の保険会社や投資信託企業が流入しているといいます〔後掲JBプレス2023.2.1〕。
 つまり、2023年の香港の状況は直近3年と比較すれば異例なもので、今後も継続するという保証はありません。

 今年になって、香港と中国本土の移動制限が緩和されて以降、中国本土からの問い合わせは急増しつつあり、2025年ころには2020年以前の取引規模に戻るでしょう。〔投資顧問会社木下明穂氏見解←後掲JBプレス2023.2.1〕

 ただ結果的に、2025年頃の「香港経済復活」が大湾区のスターターとなる可能性が出てきた、と捉えることもできる情勢だと考えます。ある程度の疑いは持ちつつ、香港の現況を以下でも参照していきます。

(再掲)太子の皇崗口岸(香港-中国出入境検査場。24h開放)への直通バス乗り場

GBAで「香港」は消えるか?▼▲

 次の言説は、多分台湾の論者によるものです。
 GBAにより香港は、主体性と文化を喪失していく、と主張されてます。

那麼香港受到的影響是甚麼呢?首先,香港與國際社會聯繫的主體性將會消失。香港自港英時代起,就和國際社會有非常密切的聯繫,不管是世界各國或國際性組織,如果未來香港位處於大灣區之下,那麼香港與外界的聯繫是否將被消失,依制度必須由廣東省來節制?〔後掲Network新聞〕

「香港與國際社會聯繫的主體性」──香港と国産社会の連携の主体性、それが失われて広東省の一部に組み込まれる。
 ただ、感覚的には、香港は近代の主体的な「人格」というより、ヌメヌメとした有機体というイメージで捉えてます。そもそも「国際連携の主体性」とは何でしょう?よく考えると実体的ではありません。

「一國兩制」其實真正保障了香港與澳門的主體性。香港自1997年回歸中國以來,在中國龐大的人流與巨額的金流沖洗下,20年前對中國內地的優勢早已消失殆盡。在中國人大量的進出香港,影響香港經濟後,莫說港澳人生活壓力加大,20年前充滿港英風情的市容與文化氛圍,也早已推變為作派味十足的中國傳統風俗,只有在離島還能領略港英時代的氣氛與悠閒。這還是在「一國兩制」下的現狀,如果當時沒有鄧小平提出的五十年不變,香港可能在回歸的五年後就被融化為中國的一部分,東方之珠也早已黯然退色。〔後掲Network新聞〕

 文化喪失論がノスタルジックに語られます。
 中国人の大量流入により香港経済は影響を受け、香港・マカオ人はそのプレッシャーに押され──
「充滿港英風情的市容與文化氛圍」──充満していた英国風情ある文化的気分は
「也早已推變為作派味十足的中國傳統風俗」──もはや中国伝統風俗に完全に置き換えられ
「只有在離島還能領略港英時代的氣氛與悠閒」──もう離島にしか英領香港の気分と優雅は残っていない。
 確かに。今回離島に再訪した見聞からも、のんびりほのぼのした19C香港の空気を香港離島だけは引きずっているのかもしれません。
 でもそれを言うなら──台湾でも日本でも、19Cの空気をどれほど留めているでしょうか?
 悲しいかな文化は変転するし、一人香港だけでなく、現代東アジアの激しい変転の渦はただ単なる過去の化石的な保存を許さない。まして大湾区が共産中国綱要作成者のタイムライン通りに、それこそ現・香港並みに高速回転し始めたなら、それは従来の東アジアに無かった大渦です。

大湾区(GBA)と他ベイエリア※との比較〔後掲KPMG〕

※いわゆる世界三大ベイエリア:サンフランシスコ・ニューヨーク・東京

 その時の経済状況、それはそちらのアナリストにお任せします。大湾区の文化はどのようなものになるでしょうか?──先の例えを繰り返せば、日本の三大都市圏が結合した文化的状況です。新宿から一時間で京都嵐山に行けたら、京都はどう変わるでしょう?お昼に江戸前そばを食べれる状況でも、名古屋人はきしめんを食べ続けるでしょうか?
 香港人口740万人(2021年)は大湾区のそれの11%強、9人に1人です。例えば日本人口に占める沖縄県人の割合(1%強)より、はるかに大きい。──順徳など佛山、マカオなど特色ある地域と比較しても、香港は大湾区の京都又は沖縄ほどの最も突出した文化的特異点になるでしょう。例えば他県人の一定数が「そうだ京都へ行こう」と衝動に駆られたり、沖縄ポップが日本全国にインパクトを持ったりする事例を考えれば、香港は自己も変化しつつ特異点であり続ける可能性は低くはないと思います。
 現段階で、香港が大陸中国、あるいは広東省全体にインパクトを与えたという事例を、見つけることは出来ません。だから、66百万人の文化的核融合が今後生み出す「大湾区文化」が如何なる相を呈し、そこへ香港が相応の影響力を持つという楽観的な見通しは立てれません。でも共産大陸政府の立ち位置からして、シンガポールやニューヨークのような文化的モザイクは形成を許されないでしょう。
 大湾区は人類が経験したことのない文化の「るつぼ」となるでしょう。そこで何が産み出されるのか──そう考えると、少なくとも今後10年ほどは大湾区へ通い続けることになりそうです。

(再掲)粵港澳大灣區イメージ図(圖 : 翻攝自海外財富網)〔後掲Newtalk新聞〕

補論:大湾区とニッポン▼▲

 次の記述は香港在住の日本人の方のもののようです。おそらく、香港ファンの日本人の多くが共鳴する意見のように感じますので、一応付言しておきたいと思います。

 今や香港市民の力だけでは中国には負けてしまうので、日本、並びに他国の力を貸してあげられたら嬉しいなと私は思っています。
 香港の歴史や現在の状況を見て「他の国の問題」と考えてしまうのは日本人の悪いクセ。
 香港は中国と違ってかなり親日ですし、このまま香港が中国に飲まれてしまったら、次は日本がターゲットになっているということを自覚した方がいいと思うんです。
 このままでは日本が狙われ始めた時、きっと他国は誰も手を差し伸べてはくれませんよ。〔後掲日本語しか……〕

 ワシの見通しでは、悲しい意味で、それは多分違うと予想してます。
 以上のヴィジョン構築と行動から見たとき、大陸中国ははるかにクレバーで、同じ意味でスニーキーです。大湾区に香港が呑み込まれた後、自己の統治下に属している限り、香港人が異端の文化を謳歌するかしないかには、あまり興味はない。大湾区構想の元々のグランドヴィジョンである一帯一路が指すように、大陸共産中国が欲するのはユーラシアを跨ぐ自己の経済ブロックであり、それを持ってアメリカの経済ブロックに対峙する状況です、
 そのタイムラインの障害とならない限り、中華人民共和国は日本列島など狙ってはいません。頼んでも狙わないでしょう。冷徹な政治判断で動いてる集団ですから、過去の復讐をしようともしないでしょう。──これは明清朝が、半・敵対国でありつつ日本と距離を置いたのと同等の棋譜です。
 まして大湾区の高機能経済が実現した後、明らかに落日の島を、軍事的にも経済的にも欲する理由が何かあるでしょうか?大湾区での未曾有の「実験」が成功したら、中国は北京・上海・四川でもそれを応用するでしょう。そうなった後の中国が東海上の島を狙うでしょうか?──南西海域での中国軍は確かに挑発的な行動を繰り返してますけど、それは現チャンピオンたるアメリカを睨んだゲームであって、日本を相手にしてはいません。
 かの時代、日本列島は自然な成り行きとして、大湾区の遊園地になっている確率が高いと思います。というより、遊園地として生き延びるしかなくなるでしょう。そういう意味で、大湾区の動向に注目しておいた方がいい。ヨーロッパにおけるギリシャ、アメリカに対するジャマイカ、日本の特定層にとってのハワイのような観光に特化した土地として、かつて大東亜の盟主を僭称した国は長い余生を送るのでしょう。
 中世シルクロード上、法隆寺は、東の終着駅を自称しました。でも一帯一路の現代版シルクロードは、陸路も海路も日本まで伸びてはいません。そこはゲーム盤の外なのです。

(再掲)2013年習近平提唱 海と陸のシルクロード構想〔後掲日経新聞〕
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