▲香港の街角パン屋さんの風情。写真は中環のABC餅屋。
中華の蒸しパン。
西洋のハードパン。
日本の惣菜パン。
さらにチベッタンやイングリッシュスコーンまでの魅力を貪欲に吸収し,時には融合させて出来上がってるのが香港パン。
いや出来上がってはいない。未だ多様化の一途を辿ってるように見えるこの土地のパン。
博覧会のようなその多彩さを,本稿では,それぞれ和訳で表してみました。やはりちょっと無理やりになりますが…。
なお,本稿には鶏尾包だけ買ったパン屋は除外しました。除外してこれだけ回ってるわけで…自分でもゲップが出る…。
[初日]包点先生(旺角)
日式南瓜包(日本風カボチャ混ぜパン)
細壽包(ほんのり桃色で固いパン)
菜肉包(野菜と肉のアン入り包子)
基本は中華マントウ(アンのないアンマン)専門のチェーン店なこの店,前回はメインのマントウにばかり手が伸びてました。
今回よく見たら,かなりのバリエーションもある店だと気付かされました。
しかも…1年ぶりでつい嬉しげになって,なるたけ色違いを買ってみたら,これがどれもハチャメチャ!
まっ黄色の南瓜包。正確にはオレンジだけど,そう言っちゃうともっと不気味。南瓜味を混ぜ込んだカスタードクリームみたいなのが入ってるが,それなら生地はなんでオレンジなんだ?雰囲気か?
桃色の細壽包。「寿」が細いのはアカンやろ?って気もするが,白くて固くて乾いた感じのマントウ生地に中華あん。杏にしては酸味がなく重量感ある甘味だから,おそらく台湾苦茶之家で食った甘味用の蓮じゃないか?
バカ旨ってわけじゃないが,分かりにくい仄かな甘味の感覚は潮州菓子っぽい雰囲気。祝い事に使う伝統菓じゃないか?――にしてもさっきのオレンジもだけど,色の割に味がしない。着色料バリバリみたいな気がする。
その点安心っぽいのが真っ白の菜肉包。中のアンも極めて滑らか。大陸中国の菜肉包みたいな油ギッシュなまったり感がない。おそらく野菜が多めにそのまま使ってある良心的な味覚。
[初日]伊藤家
林民頓(ストロベリーパン)
鶏尾包(カクテルパン)
日式葱包(日本風ネギパン)
ポラ包(パイナップルパン)
計13.5HK$
林民頓。中華の「ス」の中にカステラが入ってるような食ったことのない味覚。日本人には違和感あるけど,パンの中にパンを入れる感覚って香港では割とメジャーなのか!?
日式葱包。日本の惣菜パンを真似たものだろう,葱とハムと…確かに日本の懐かしい味の名残があるが,日本より惣菜の量が絶対的に少なくて,かつパンに混ぜ込んである。中華圏の「日式」って看板は,れっきとした無国籍料理です。
あとの2つは香港パンの双璧,鶏尾包と菠蘿包。鶏尾には別章でたっぷり触れたからここでは後者について――パイナップルの甘味と酸味を微かに宿すコッペパンです。発想は,鳳梨をコッペパンのクッキー生地に使いましたって感じ?あんまり前回こだわらなかったけど,これも普段着の味でいい。
パインを料理のアクセントに使う発想は台湾や香港が起源みたい。スブタに入ってるパインを嫌う人は多いけど(というか減量前はわしも大嫌いでした!),日本のユズみたいな感覚やね。
全般…日本でのパン食いがオールラウンダーになった気がしてる今のわしですが,久しぶりに食ってみて,香港パンのこの奔放振りはホント戸惑うばかりです!
[2日目]伊藤家
連日の購入。今日もさらに変なんを選んでしまって…。
黒白芝麻QQ波 6HK$(3個)
鳥尾包 4HK$
「QQ波」!!?
パンに「波」?
読み方は…クルクルパー!!?
台湾の黒面祭並み!!!文字だけ読むと戦隊の必殺技かと見紛うばかりの謎の七文字に,つい手が伸びてしまって。
見かけは意外に普通のロールパン。QQ波光線の手がかりを得るためには――多少怖いが食ってみるしかないぜよ!
食ってみたら…おお!意外に美味いがや!(by信長)
名前の謎も一気に解けた。ゴマ味のパン生地。確かに黒胡麻と白胡麻がどちらも混じってて,微妙にブレた胡麻の味覚が面白い。柔らかいけど発想はドイツパン。
けれどさらに面白いのは――その胡麻パン生地の中に,モチモチあんが入ってる。どうやら南米のポンティケージョらしい。
このモチモチの食感を,漢語圏ではなぜか「Q」と呼ぶ。これは,台湾で習ってます。QQと2字重ねてるのは「とってもQ!」みたいな強調なんでしょう。
おそらく謎の「波」字は,ポンティケージョの頭文字の音訳でしょう。戦後の日本の新聞表記「マ元帥」(マッカーサー)みたいな感覚やね。
全体を訳すと黒白芝麻QQ波は「モチモチのポンティケージョ入り黒胡麻と白胡麻パン」ってとこ。
にしても,このパンinパンの感覚――ありそうでなかなか日本にない味覚。しかもこの場合,大げさに言えば南米パンinドイツパンなわけで…パン作りの発想の奔放さには驚かされるばかりです。
▲快楽餅店の鶏尾包とホットドッグみたいなロールパン。いつも食う,店北側の小さな公園のベンチにて。
[3日目]快楽餅店
鶏尾包
ホットドッグみたいなロールパン
計7HK$位
鶏尾包も旨かった。ふわふわで,あんまり小麦香が来ないパン生地…。
その不思議がある程度解消されたのがホットドッグ。見かけは日本でもよく見るロールパン。中身もソーセージの他に胡瓜とサウザンドレッシングみたいなのが入ってて,それだけ見たら極めて普通なんだけど――。
パン生地にもどの具材にも,まるでインパクトがない。
だから不味い,と言うんじゃない。それが美味になってるとこがスゴいんである。
パンが透明過ぎる…!?味がしないほどクリアにすうっとした味覚が最後まで続いて,最後の最後でキラキラと小麦香を放って消えてく。ドイツ・フランス系のハードパンでもイタリア系のドルチェパンでも日本の菓子パンや惣菜パンでもない,香港の透明パン――。
だから具材も当然,その感覚で揃ってる。これは鶏尾のあんも同じ。間違いなく意図的にパン生地の透明度に合わせてる。
その心地良さには,胃の底が震撼した。
この狭い,街頭売りに近い小店のパン屋――やはり化け物です!
[3日目]嘉嘉餅店(北角)
シエン餐包(ミネラル塩のロールパン)
鶏尾包(カクテルパン)
蛋達(エッグタルト)
シエン餐は普通のロールパンか?シエン豆ジャンの複雑味の連想があったけど,効いてる塩のミネラル味はぼちぼち。
鶏尾包のドッシリ落ち着いた味と共通して,蛋達もずっしり重量感ある甘味。この重心の低さが特徴か?だとしたら…ここは選べばまだまだいい味見せてくれるかも?
[4日目]凱旋餅屋(佐敦店)
鶏尾包
蒜茸多士(ガーリックトースト)
鳳梨ス(パイナップルケーキ)
12HK$くらい(八達通で払えたから分からない) 香港メジャーのこの店,鶏尾包は意外に美味かったんだけど,他はまあ普通だったかな?鳳凰スはやはり,台湾のものか。
[5日目]Bread Talk(佐敦)
娘惹[口加]椰醤(女子のお好みココナッツジャム)
藍莓郷村(イチゴのカントリーブレッド)
葡式蛋達(ポルトガル風エッグタルト)
ネイザン通り側の出口から出たら,良さそうなパン屋があったんで,試してみました。
娘惹[口加]椰醤は英語名NONYA KAYA。KAYAがココナッツジャムのことだから,この場合の「醤」はジャムなんでしょう。ムチャクチャに甘いがパンに塗るとココナッツ香が抜群に立つ。
「藍莓郷村」はそのままだと地名としか思えん英語で書いてないと想像もつかんが,トスカーナのパンに似た素朴な味で最高!
葡式蛋達,何がポルトガル風かというと…おそらく卵じみてないとこなんでしょう。というかタルトは元々ポルトガル伝来なんだろうから,踏み外してんのは中華の卵使いを取り入れた東洋の方なんでしょう。かなり端正な味わい。
▲チェリコフの紙袋。いや,それだけの写真ですが…この文字とセンスにどうにもハマってしまってて。
[6日目]車[ガンダレ+里][歌-欠]夫 cherikoff
先述の鶏尾飽のほかに買ったのは
新[弓一/田/一/田/一]合桃飽(なぜか英訳でチベッタン・ウォールナッツ・パン)
ラサから遠く隔たるここ香港。「和式」と同じで雰囲気程度だろ?と疑念8割で選んだんだけど…これがビックリ,本当にチベッタンだった。イタリアの田舎パンよりもっと小麦粉を固めただけの素朴,というより愚鈍なほど真っ直ぐな味わい。現地では粘土みたいに食う,ほとんどカンコロ餅的食感のアレに,何とナッツを入れてる。これが合う!どう思いついたんだろ?
鶏尾にせよ店名にせよこの店,解釈が独創的過ぎ!
[7日目]富麗餅屋(元郎)
鶏尾包 3HK$
のほか
芝麻肉鬚包 5HK$
直訳すると「胡麻入りで肉がヒゲを生やしたパン」みたいな訳分からんパンだけど…印象で簡単に言えばピザパンやな。ベーコンの細切り(これが「肉髭」らしい)がチーズの上でぐちゃぐちゃになってる。胡麻はどこだか分からんが…いかにも下町の味っぽい。
Vitasoy麦精豆[女乃] 1HK$ちょいだったと思う
ミロ版の豆乳。これもなかなかいい。日本製にはない中途半端な豆腐味が,むしろ複雑に決まってます。このVitasoyって会社は屯門が本社との表示。
[9日目]快楽餅店(湾仔)
鶏尾包 2.5HK$
のほか
三文治(サンドイッチ) 8HK$
前回驚いたホットドックの影響で今回はこちらを購入。初めての買いだけど,マヨネーズソースがすごかった。明らかに手作り。卵を少なめに,しかし香りだけはガッチリ残して,滑らかに作られてる。油も少なめっぽい。あとはレタスとハムだけ。ホンットに見かけは当たり前過ぎるサンドイッチなんだが…パンが素直で美味いからか,十分過ぎるほどの薄いバランス感覚。
これぞまさに香港パンって味覚。
[9日目]
心思思 麺包西餅店 第五分店(佐敦)
他で見たけとはないがチェーン店ではあるらしい。漢字名からして良心的臭いし(「健康麦餅」なるビスケッツもあった),いかにも下町パン屋の雰囲気なんでつい手を出しちゃいました。
椰糸[イ条](ココナッツ棒) 3HK$
ココナッツクリームを周りに巻いてるパン。カヤの衝撃の余韻で期待して選んでしまったが,ココナッツはあんまり効いてない印象。
ブルーベリータルト(漢字名は書き忘れた) 6HK$
これは絶品!食ったことがない!
2層目のチョコケーキ層が,上下のバターケーキの層と意外な合い方をしてるらしい。日本でも有りがちに聞こえるが…バターケーキに卵が強くきかせてあるから出せるマッチングになってるようです。