外伝09♪~θ(^2^ )HK-File11:鶏尾包

▲鶏尾包の中を割った状態のドアップ。快楽餅店。
 復習すると――このパンは,外側は普通のロールパンの事が多いが,中のアンは古いパンにココナッツミルクを混ぜたもの。
 他の漢人域では見かけたことがないし(注),その「下品さ」から考えて…そうそう外国に広がるとは思えない。恐らく世界中で香港にしかない。
 広東語では「がいめいばう」に近い発音をするらしい。
 名前の由来は,英語名のカクテルパン。パンを混ぜる製法を「カクテル」と捉えたらしい。中国語ではカクテルを「鶏尾酒」と書くので,その漢字を冠したようです。
注 唯一ニューヨークのチャイナタウンの悦心餅屋では売ってた!さすがはニューヨーク!ってゆーか香港人!

[初日]伊藤家 4HK$/個
 やっぱり,これ…いい!
 外側のパンと内側のアン(こっちもパンなわけだが)の相性が抜群。あの「なんかヤバイ感じ」の甘ったるい味覚は残しながら,実はかなり繊細なバランスを要求されるパンなんじゃない?
 このパンは,単に廃物利用じゃない。いや,元々は廃物利用の貧民食だったろう。けど,だからこそ工夫されて独特の美味が創造されたんだと思う。アフリカ系奴隷がアメリカのディープサウスで生み出したケイジャン料理と同じく。

[2日目]伊藤家
 昨夜に引き続き買ってしまった…やっぱりいい!!惚れてしまった…。  しかしこのパンの異様な安さ――パン屋側が今も製造してる理由には「売れ残ったパン,捨てる位なら鶏尾にしちゃえ!」みたいな面は否定できないんだろな。糖度を持たせりゃそれ以上は腐らないだろし…。
 このパンが,香港人のマーケット,つまりクソ合理的な購買者と製造者の間にしか存在しないのは,その辺に理由があると思う。
 けれど…伊藤家はもう止めよう。香港の他のパン屋も回らなきゃもったいない。明日は大本命,快楽麺包で試してみたい。

[3日目]快楽餅店(湾仔)2HK$位
 伊藤家のと全く違った…。
 期待はずれ?とんでもない!もっと微妙なバランスなんである!!
 アンは,伊藤家より遥かにココナッツ臭が緩くて,もっとパン生地と食べ分けがつかないほどに「パン」でした。
 ここのパンの特徴として,外側を覆う生地は,西欧のハードパンと全く違う,あんまり小麦香が来ないふわふわとした透明感を持つ。この透明感ゆえに,中のアンのココナッツ臭がわずかでも十分にアクセントになりえてる。この微妙さが,美しいまでに美味なんである!!
 このパンのバランス感覚の意味に思い至る。このアンにはパンであってパンでない,微妙さが求められる。パン過ぎたら外側とのアクセントを欠くし,パンじゃなくなると単なるクリームパンになる。微妙に違う二層になって初めて,ショートケーキのような美味を構成する。だからこそ,外側のパンの性格にも左右される。
 こりゃあ…香港の中でもかなり多様化してそうだぞ?もっといろんな店で買ってみた方がいいぞ!?

▲パイレーツ・オブ・カリビアン広告。中国語名は「加勒比海盗」。地下鉄ホームにて。
 鶏尾包とは何の関係もない。

[3日目]嘉嘉餅店(北角)
 アンは,快楽餅店とは逆に,今までになくしっとりドッシリと落ち着いた濃い味。でもクリームパンにないジャリジャリした舌触り。中華饅頭に「糖包」という砂糖煮みたいなアンのがあるけど,感覚としてはあれに近い。
 結果,バランスで食わすと言うより,糖包の西洋パン版みたいなクリームパン感覚のパンになってしまってるのが,ちょっと残念。どっちが香港標準?
 それとも標準なんてないのか?

[4日目]凱旋餅屋(佐敦店)
 香港に何店あるんだろ?ってほどのメジャーチェーン店だけど,ここの鶏尾包…意外や意外,ムチャクチャ美味かった!甘味がやや分かりやすいからだろうか?
 観光客が最初に食うならここのをお勧めしたい,的な味?ともかく,さすが香港地場メジャーです。

[5日目]美心西餅(佐敦地下鉄駅構内) 4.5HK$
 メジャーチェーンと言えば凱旋と並ぶ美心西餅さん。
 けれど鶏尾に関しては…ほとんどココナッツクリームパン。まあ確かに美味いんだが…ちょっと綺麗過ぎる!――と怒ることはないが,初心者が安心して食えて満足できるのはこれだけど,どうも…もっと後ろめたい味じゃないと!って気がして,やっぱりちょっと怒ってたりする。

[6日目]喜利餅店(中環) 3HK$
 パンそのものがかなり健全な味覚な上に,あんは基本に忠実なジャリジャリさで変にココナッツ甘くない。
 真面目なパン屋さんの一本気な鶏尾にエールを送りたい。

▲チェリコフの鶏尾包。旨かった!

[6日目]車[ガンダレ+里][歌-欠]夫 cherikoff(太子)2HK$位
 基本形ではない。
 この店なりの解釈をしてる。
 他よりはるかに甘味を抑えてるアン。
 一緒に買ったチベッタンブレッドと同様,計算された朴訥さが輝く生地。
 まっすぐな小麦香が続いた先に,ほんのり微かなココナッツの甘さが,後味にぽわっと灯る。その味覚の曲線の,美しい筆使い!
 いい店です。美味いのはもちろんだけど,非常に香港的な野心家のパン屋だと思う。こういうとこがが,雑踏の中にふと営業してる。それが香港というラビリンス。

[7日目]富麗餅屋(元郎) 3HK$
 本来の鶏尾からはズレてる。ココナッツクリームパン系。
 けれど,後ろめたい重い甘味をきっちり残してる。好ましい香港味だと感じました。
 こーゆー展開もあるんやね。鶏尾クリームパンとでも言うのか?
 あと,ここのは完全にクリーム味もするのに,パンとクリームの境目がぼやけてる印象。

▲富麗餅屋のパン。元郎のベンチにて。左の,中央に一筋,アンが出てるタイプのがここの鶏尾包。

[8日目]ABC餅屋(中環) 3.8HK$
 蘭芳園のまん前のこの店。雰囲気と店名のベタさから期待した通り…かなりいい!
 アンが体に悪そうな変色系で,ジャリジャリしてる。ココナッツが後ろめたそうに響く感じが,まさに正しい鶏尾包。さすが老舗・蘭芳園対面営業(?),正しい香港パン屋です。

[9日目]快楽餅店(湾仔) 2.5HK$
 なるほど!王道の鶏尾包に共通するのはこのタイプの食感なのか!
 パン変色系――と呼びたい。この…どこから外側か内側か分からん状態。鶏尾を知らん人が食ったら「何やねんコレ?中が腐ってんで?おーいちょっと(パン屋の)オバチャン!真ん中の生地,グチョグチョで変な味するで!」的な――つまりアンが外側のパンに同化してしまってる仕上がり。ロールパンの一部がなぜか不気味にぶよぶよで,けれどそこからココナッツの香りがほのかに立ち上る。そんな風情のパン。
 鶏尾はこの変色パン的なヤバさが,イコール味わいになってるんだと思う。
 その点からしてもこの快楽の鶏尾は…最高!

[9日目]陳誠記
 地下にある店内へ降りる階段の入り口で,気のいいお婆ちゃんがカート売りしてた鶏尾包。
 ココナッツ味の糖包系だが,アンのシャリシャリ感が好ましい。
 王道の変色系とは違うんだけど…これはこれで十分よく出来た鶏尾。鶏尾の捉え方は,どうも中華蒸しパンの伝統に戻ったこの糖包系と,全く新しい変色系の2つに別れてるようです。
 いやあ連日,よく食ったもんだ!ご馳走様!

▲こちらはGANTS(漢訳:殺戮都市?)広告。2階建バスの側面にどどーん!と来るとさすがにインパクトです。
 なお繰り返すが,鶏尾包には何の関係もない。いや,鶏尾って見た目ただのロールパンなんで,あんまり絵にならんのよ。それに外観はほとんど差がない。こんだけ毎日食って,ほとんど写真撮ってませんので,こんなんで紙面を埋めてみました…。

※ wp移行段階おまけ:今「殺戮都市」でググるとこんな変な動画がヒットする。何よこれ?