外伝09♪~θ(^2^ )HK-File19-2:香港人常[口乞]的

「常[ロ乞]的」は,いつも食べてるアレってほどの意味。「家常菜」とかの言い方もあるが,今回は手持ちのガイド,「ツアイツェン常[ロ乞]的」(和訳版)に因んでみました。
 要するに街中にありふれた「定食」類なんですが…ここに注目し始めたのは今回の日程中,既に半ばを過ぎてから。
 今やグルメゾーンな九龍城であれこれお店を物色してて…何か妙に覚めてきてしまった。
 突出した味だけなら香港にゃとんでもないのがあるのはハッキリしとる。普通の人は何食ってんだ?

▲新源記茶餐廳の猪頚内火良炒反

[6日目]
新源記茶餐廳(九龍城)
快餐B
猪頚内火良炒反 29HK$
例湯と[女乃]茶付き
 客足が多そうなんで飛び込んだ店。
 例湯は,沖縄の骨汁にクタクタに煮込んだ菜っ葉が入ったの。
 [女乃]茶は,紅茶の渋みがクドくはあったけどチャンとミルクの臭みは取れてる。
 さてメインの「炒反」は…。
 炒飯やがな!!
「反」が何かと期待してたが,「飯」の略字じゃねえか!そう見たら,ただの「賑やか炒飯」やがな!
 頭の中でツッコミまくりながら食ってく。
 お…!?
 日本のと微妙に違うど?
 どうも…豚の頚の肉を滷味にしたのと,火[月退],つまりハムがキマッてるみたい。要は中華ハムと西洋ハムの合体から染み出したダシが,ちょっと考えられん肉味の深みになってる。
 は…早くも前言撤回…!
 いい。見た目以上にこの定食系…いいんじゃないかい?

[6日目]
栄発餐廳(油麻地)
 晩餐は,湯(スープ),主菜,油菜,白飯,[女乃]茶で50HK$。湯は2種,主菜は5種から選べるシステムでした。
 湯の選択は,
西湯(西洋風スープ) [イ十]菜[月退]茸湯
中湯(中国風スープ) 老黄爪猪骨湯
 いやあどちらも旨そうで迷うなあ~!!…どころの騒ぎじゃない。全然分からんぞ!?――黄色い爪が尖ってそうだから「中湯!」
 主菜はもっと酷い。
1 鉄板黒椒石班伴牛[テヘン+八]
2 紅焼[魚包]片砂鍋[鶏]
3 梅菜蒸[魚完]魚
4 家郷[石本][イ子][火局]魚腸
5 菠蘿沙拉骨
「家郷」が雰囲気よさそうだし3文字も変な漢字があるから「4号!」
 何一つ予想できんが,さて…何が来る?

▲栄発餐廳の晩餐・家郷[石本][イ子][火局]魚腸

 こんなん来ちゃいました。
 そもそここ,昨日通りがかって,大衆的で,でもちょっと雰囲気よくて気になった…ってだけの店。
 しかし――予想を遥かに超えて,良質!
 まず,湯で刮目。定食屋で例湯(サービススープ)と言えば,大抵クタクタの菜っ葉の大根湯でした。けど,ここのは…選ばせるだけあってキッチリした湯。具の「猪骨」はソーキでしたが,他の肉汁や,おそらく意仁も使ってあって四神湯めいた複雑な味。――「老黄爪」の正体は謎のままですが。老いて黄色くなった爪?ええダシ出そうな気がするような,しないような。
 次に油菜が出る。かなりの量である。野菜を出す思想そのものが健全だが,添えてあるXO醤に点けなくても十分食えるほど旨い。シャキシャキの歯ごたえ,野菜味のシッカリした深み。質もいいんだろけど香港の野菜が飛びきりとは思えんし…何の仕掛けがしてあるんだコレ?
 メイン。グラタンみたいな皿でジュウジュウ言いながら出てきたから一瞬たじろぐ。
「家郷」は家庭風,「[石本][イ子][火局]」はこのグラタン皿での焼き物,「魚腸」は文字通り魚の内臓らしく,つまりは「家庭風グラタン皿焼きオムレツ 魚の内臓入り」みたいな料理らしい。と訳しても,充分意味不明であるが。
 卵に小麦粉生地を含ませて焼く西洋オムレツタイプみたいで,食感はフワフワ。粉(春雨)や葱が入ってる。食べていくと,真ん中には魚の身をほぐしたようなのが埋もれてました。蛤みたいな貝の香りがしたが,これがこの魚(どの魚だ?)の内臓肉の味…なのか?書いててさらに正体不明に思えてきたから,読む人はもっと迷惑とは存じますが。
 と…とにかくである。この魚介が,しっとり華やかに泥臭い。この臭みが,蛋白な卵生地の澄んだ味と見事なコントラストになってる。一つ一つの素材以上に,構成で食わせるところがある店みたい。
 まさか!と思ったのは[女乃]茶。ほんの少しティーオーレ系で,紅茶の香ばしい苦味が去った後の一瞬,ほんの少しだけ儚くミルクが香る。この可憐な香り方,そしてそのミルクの香りと紅茶味の後味のハーモニーがもう…。――元々,香港[女乃]茶がミルクティーじゃない最大の特徴は微妙なバランス感覚なんだが,ここのは香港スタンダードとほんの少し崩して,しかも独自のバランスを再創造できてる。その崩し方の美しさ…。
 広東ってこうなんだ。…という,このお店は一つの道標になった気がします。

▲順徳人の梅菜或[木覚]角蒸[魚完]魚

[7日目]順徳人 魚米至尊 Faithful Restaruant(ママ)
午市速○套餐
A 梅菜或[木覚]角蒸[魚完]魚,木桶飯 36HK$
例湯無し,[女乃]茶付
「或」の文字は,どっちかを選べってことらしい。う~む,本日は梅菜って気分だな。[木覚]角って感じじゃないんだよな――とか悩んでみたいが…どっちも訳が分かんない。まあ日本人だから梅だな。「梅菜!」
 来たのは,白身魚に黒ずんだ野菜が乗ったのとライス。
 このライスは,文字通り本当に木桶に入って出てきました。でもご飯の国の人だもの的な日本人としては,インディカ米を桶で炊いたからって大して美味い気はしないな…木桶を有り難がる感覚があるのか,香港人?
 梅菜は,少し酸っぱくて紫蘇みたいな香りがあって…タカナ?からし菜?どちらとも違う気がするが。
 いずれにしてもこの野菜,白身魚とよく合う。魚はプリプリしたウナギと鶏肉を合わせたような食感の,中華でよく出るあれである。どれだ?――調べたら,[魚完]は日本語で「あめのうお」,つまりビワマスだという情報もヒットしたが自信がない。
 魚の下の,これも分からんが何かの葉野菜も,魚ダシでひたひたになってて美味。
 ところで,「順徳」って何だ?――とまた検索したら,どうも大陸中国の地名らしい。しかも広東料理の4大中心地の一つみたいで…これも尾を引きそうな気配になってまいりました。→順徳料理詳述

[7日目]阿四快餐(尖沙[ロ且])
星期四(木曜日)メニュー
12)干炒猪[テヘン+八]炒公[イ子] 34HK$
 いやあ素晴らしい!干して炒めた猪(豚肉)なんである!しかも[テヘン+八]も炒めちゃってて,最後の「公[イ子]」に至っては何が何やら見当がつかんのである。わしと同じく興味をそそられたアナタは下記リンクをクリック!
写真
 はい,無駄な時間でしたね。
 焼そばやがな…。
「干炒猪[テヘン+八]炒公[イ子]」で,なぜに焼そばか?猪や公はどこ行ったんよ?
 謎は謎を呼び,雲が雨を呼び,オイラが叩くと嵐を呼ぶぜといった大変な状況であるが,しかしこれを一口頬張った途端――どうなってしまったのか!!?
 それは永遠の秘密です。より正確に言えば,忘れました。さらに具体的に書けば,メモを消してしまいました。
 長く引っ張ってしまいましたが,いやあ,凄かったんだろなあ!
 終わりです。はい読んだだけ無駄でしたね。

[8日目]全新美食店(佐敦,白加士街と宝霊街の四つ角)
焼売 7HK$
シエン肉粽 10HK$
写真
 あんまり皆さんが寄ってタカって貪りついてるんで,ついに買ってしまいました。
 宿に帰って口に入れるや…しばし固まっちゃったほどの美味。
 焼売。ほとんど蒲鉾,しかも山口辺りの上質蒲鉾と間違いそうな口当たりの細やかさ。そんな軽みから入ってくるのに,噛んでくとギンギンに滲み出てくる肉味。
 粽。お握りから餅になる一歩手前の絶妙な粘り方。肉汁より,出汁が印象強く米に染みてて,このバランスもたまりまへんえ。
 こーゆー共産国の食料配給センター的なとこは,手頃ではあるんで,大陸か否かを問わず何度も利用はしてきた。早い,安いってだけの「エサ屋」が多いとばかり思いこんでたんだが…庶民に身近なだけあって客足の多いとこは捨てがたいみたい。まさに常[ロ乞]的のお店として。
 それとも,この配給センタータイプでも旨けりゃメジャーになってしまう,これも食の町・香港ならではの現象?

▲喜多[サ/利]廳の麻婆豆腐飯

[8日目]喜多[サ/利]廳
麻婆豆腐飯 27HK$
[女乃]茶付き
「檸檬蒸鶏頭魚」ってのに惹かれて入店したのにランチだけだと言われ,半分ヤケクソで注文したのに…美味かった。
 まさに広東風四川料理。唐辛子辛さはそれだけじゃ不足なのに,スープのまろやかさだけで食えるし,このまろやかさが逆に唐辛子辛さを十分際立たせてて,全体として十分なインパクト。
 [女乃]茶,これも意外に良し。香港正統派のバランス感。
 サービスはやっぱり最低っぽいが…これが味覚と繋がらないし,繋がずに美味い限り客は来るってとこが,香港のド・リアルさです。

▲陳誠記茶餐廳の鼓椒鶏球飯

[8日目]加掌分道
陳誠記茶餐廳(尖沙[ロ且])
鼓椒鶏球飯 33HK$
例湯:腐竹銀杏猪[月土]湯
油菜が15で追加可能(菜心,通菜,唐生菜,白菜[イ子])
 観光地にして繁華街のど真ん中からふと地下に降りただけの場所なんだが…ここはいい!
 雰囲気,ダイナーみたい。それも本格的アメリカンダイナーじゃなく,沖縄のオリエンタルなダイナーにそっくり。
 入り口に仏壇がある。明らかに素食じゃないけど,ややそっち方向の,良心的なスタンスの店っぽい。
 湯。銀杏と意仁が効いた薄い肉味の本格派。
 飯。見かけありきたりのぶっかけ飯で,残念な予感がしたけど…裏切られる。鶏肉のミートボールに絡んだこのソースが飯にも染みわたり,噛めば噛むほど豆鼓の香が振動する。そこに,絶妙な黒胡椒と唐辛子味が冴えてくる。
 技巧的にどーとかってより,極めて真面目に作ってます。いい!
 香港の真面目な食堂――まだなかなか探せないが,探し当てるとスゴくいい!大陸と違い,かなりのヒット率。
 つまり,それを支持する一定数の,舌にシビアな庶民がいるのだ!

[9日目]
 昨日に引き続き,佐敦の角の店,全新。
 米粉のパッケージを皆さん買ってるみたいなんで,適当に言って買ってみた。どうも10を15にボラれたか量を積まれたっぽいが,まあとにかく買えた。
 システムがどうも分からん。粉プラスで何か焼売みたいなのが入った。調味料も3種類かけられた。
 結果買えたのがコレ→写真。焼売も昨日と変わらぬ鉄板だが,米粉もプヨプヨのムチムチ。にしてもこの黒ソース,何て言う品なんだ?

[9日目]陳誠記茶餐廳
時菜北茹滑鶏飯
例湯:章点蓮覇猪骨湯
33HK$
写真
 ここは…本当に何なんだろう。
 例湯を飲んで最初がっかりした。色は茶色だが,上湯は,昨日の白濁の四神湯めいたのと同じか?ここは正直,技術的にポケットが広いわけじゃないんだな。
 でも出汁に合わせる形はやはり違う。名前通りにレンコンが入ってて,微妙なバリエーションは持たせてる。
 飯も昨日と似てます。ただ肉は骨が多くて,少しコリコリしてる。スープも黒豆じゃない。もっと馴染みの味だ。
 椎茸に似たキノコみたいでした。味の素を使えば似た味は出るだろうに,何かのキノコのぷるぷるした味を,素朴に,鶏肉にしっとりと吸わせてる。
 この,技術の間口で,ちゃんと違いを出そうとする朴訥な真面目さ。観光客的に知られる香港らしくないんだが,庶民感覚では実はこれが香港らしいのかも知れない。

[9日目]
営発餐廳(油麻地)
醤爆茄子猪頚肉[保/火]
中式:青紅羅白猪骨湯
写真
 再訪。何か爆発しそうな名前の3番を選ぶ。他は
1鉄板黒椒鶏[テヘン+八]伴牛[テヘン+八]
2紅焼鮑片菜胆鶏
4腐乳通菜炒牛肉
5鮮茄紅[ネ三]魚
西式:凍氷鶏茸湯
 上湯は,ここも前回と似た味。しかし,やはり微妙な変調の努力をしてる。人参と瓜が入ってるが,この中に染みてる味が…茴香だろうか,漢方系の何かが強く香ってる。
「[保/火]」だから一人用鍋が出た。「爆」ってことは四川系の辛味でガッと炒めてる。そこでどう広東してくるかが楽しみだったが,初めは茄子と豚肉の豆板醤炒めにしか感じられなかった。しかも頚肉だから,普通の中華めいた油ギッシュさ。
 けど辛味の下には,やはり広東の緩やかなスープが流れる。きっちりと広東-四川料理してきてます。
 陳誠記に共通する地味な気真面目さ。こういう店をもっともっと見つけて味わってみたい。――と第二次の最後になってやっと思い至ってる我が愚昧なる香港滞在でした。