6時45分,尖沙[ロ且]地下鉄駅ホームに立。
まだ万全ではない。
万全じゃないが,かなり立ち直れたと思う。何だったのかは良く分からん。食あたりか,夏バテの類いだろう。
昨夜,夕方からずっと米澤穂信「追想五断章」を読んでは寝るのを繰り返した。おかげで読了してしまう。
出国は14時15分。尖沙[ロ且]を出るリミットを11時半とするなら,行動時間は残り4時間弱となる。
香港島へ。また海峡のトンネルをくぐる。
もはや…ここへ来ないと香港じゃない!
昨夜の一食を捨てる事を選んだのは,ほぼ,今朝のこの一食に備えるためである。
スタンレーSt.。
陸羽茶室。
二階席窓側の席が取れた。今回はじっくりワゴンを待って品定め。
生蒲鉾の豚骨ソースがけマッシュルーム添え
生姜入り中華風パイ
129元
どちらも〇特だったから高くついた。けどこのレベルで1500円なら当然納得!
生蒲鉾…これ時々当たるけど何て言うんだろ?すり身をほんの少し茹でてあるだけ。エビよりもっと小魚っぽい味わいだけどジャリジャリした歯触りはなく,クリームみたいにあくまで滑らか。これだけで十分に素晴らしい。
ここにオバチャン,サーブする時に白濁した汁をひとすくい回し注いだ。フレンチドレッシングかゴマだれかと思いきや,ソースというよりスープでした。見た目もだけどお味も豚骨。ただコッテリお下品系じゃない。意外なほどに味わいはは淡く澄んだスープ。
さらにマッシュルームを煮込んだらしきものが数切れ載る。
これらが混合したお味――こいつを何て表現したらいいんだろう?生蒲鉾が重低音に響く上に,豚骨スープが日本的な層で心地よく流れ,さらにマッシュルームの不思議な香気がふわりと飛翔する。技巧的過ぎもせず,打ち消しあいもせず,これらが自然に共存してる。この組合せの妙は。
あまりの美味に,ドンドン喉に吸い込まれるポーレイ茶。まだ二品目を物色中なんですけど…。
パイなんて飲茶かあ!?
という偏見は,わしには既にない。西洋の形を纏った絶品もここにはある。確固として。
まず生地だけ口にする。軽いサクサク感にほんのり卵とミルクの甘味。極めて上質な西洋パイ。全くデニッシュである。
けどこの中に入ってるのが…中華あん。肉まんの中身。
しかも肉はスネ肉らしく,固くて独特の癖のある肉汁,それも生姜をたっぷり効かせた香港らしからぬほどの強い肉あん。
この惑星上のどこの料理か分からんような取り合わせ――なんだけど,これが,実にビシッと結合してしまう。
なんでだ?どうなってる!?
ミートパイと捉えても生地が軽過ぎる。ジンジャーブレッドと見ればジンジャーが強過ぎる。
スネ肉とジンジャーが拮抗して作る微妙なバランスの中に,デニッシュがスッと入り込んで…なぜか危ういバランスを作ってるという――。
何ちゅうもんを作ってしまうんだ,香港?それとも陸羽の創作なのか?
さて。
主役のポーレイ茶。やはり,ここのには文句のつけようがない。香り立つ液体を飲み干しながら,本日も大満喫な陸羽でした。
目の前の3人客,料理の半分以上をパックに入れて,コンビニ袋に入れて持ち帰っていきます。パックは店の給仕が用意したから公認なんでしょう。高級感を持ちながらこういうこともできちゃうのが陸羽です。
湾仔,快楽餅屋へ。2度目の朝食だけどここもちょっと外し難いでしょ。
鶏尾飽
三文治
計6位
三文治は,一切れはレタスとハム。薄い自家製らしきマヨネーズのドレッシングです。
もう一切れは,トマトと茹で卵にハム。サウザンらしきドレッシング。
いずれも市販のものと一味違う。ここのはどれも何かしら独自の発達を遂げてて飽きることがない。
鶏尾飽。パンとは分離してるけどココナッツのジャリジャリ感が素晴らしく丁度いい。やはり逸品としか言いようがありません。
タイマッサージの看板がさらに増えた気がする湾仔でした。
さて,人生いい事ばかりは続かないもので――ここからは混迷致します。
蔓頓街。車[イ子]麺之家。
油麺
立ち食いそば屋。で,味も立ち食い並みでした。
カレーじみた出汁だけどマカオのみたいな漢方ブレンドでもなく,牛[月南]の柔らかさもまずまず。いや日本でなら最高だし,香港でも便利な割に味のよい店だろうけど…こういう店を観光メディアが勘違いしちゃうところ。味より何よりその辺が大変香港っぽいよなあと…そんなとこで納得しとこうかなあ。
▲義順牛[女乃]公司 油麻地店のミルクプリン。何回目やねん!?
油麻地まで戻って義順牛[女乃]公司で口直し。
馳名隻皮[火敦][女乃]26HK$
義順のお味はもちろんウルトラ級。調子に乗ってもう一食行ったのが運の尽き。
発[イ子]記
C 冬桑草[サ/女古]肉[石卒]湯飯 30元
+[女乃]茶3元
汁が2つになってしまった。しかもどっちも何ちゅうか…ひなびたお味。
しかも湯飯って何だ?単に湯と白飯か?
湯は,例湯と同じく大根だらけ。ただし臓物とキノコの淡白な深みがある。何となくそんな味か?と独断で飯を投入するとまあ食えたからそのままクッパにして食う。すると,当たり前だけど腹が張り裂けそうになりました。――とても胃炎の病み上がりとは思えない素敵な食いっぷりですこと。おほほほほ。
とまあ最後の一食は迷った割に,岩鬼並みに(古いけど)思いっきり豪快なる空振りであったわけですが――まあ強がりついでに一言だけ言えば。
ここの料理,全てに「大点」「中点」など飲茶的な表示が付いてます。見た目は完全に町食堂なんだけど,半分くらいの客はお茶のポットと2品程度を注文してくつろいでる模様。
独り客のお爺ちゃんは蒸篭でまったり飲茶。二人連れの若い刈り上げ男は茶碗と代わる代わるに[イ子]の円筒から飯をもぐもぐ。
つまり,上環のお店みたいな飲茶の前進的食堂って,生きた化石でも何でもなくて,未だに香港の路地裏のあちこちでこんな風に営業してる。
そもそも――この点も空振りでしたが――この店を選んだのは,[保/火][イ子]が3種類位あったからでランチメニューのCにはそれを期待して…豪快だったんですけど,飲茶的にお茶と[イ子]にすればもう一品包子でも付けて50行かない位か。
いや,その「飲茶的」って感覚そのものが「日本人観光客は飲茶楼でしか知らない」ってだけで…香港人にはスタンダードな普通の食生活そのものだって疑惑が,この最後の段こへ来てもの凄く強くなってきて。
これは…とんでもない終わり方をしちゃったんじゃね!?
香港って元々ディープなイメージではある。
でも観光用の仮面をかなぐり捨てたその日常ってことになると,さらに次元の違う底無しのディープさを持ってるんじゃね?しかもそれは香港の凄く遠い場所じゃなく,今日の佐敦とか,観光エリアのすぐ裏手の路地裏とかに普通にあるんでは!?
全く…とんでもない終わり方であります。終わり方ですらないかもしれません。
11時45分,リュックを担いで尖沙[ロ且]ホーム。
地下鉄に飛び乗り損ねた。
12時ジャスト,香港[立占]からエキスプレス乗車…と同時に発車。なかなかのスピードではある。
ゲプッ。
込み上げて来る別離の念と胃液が熱い。これは,帰りの機内食2食は…ちょっと無理かなあ。
空港にて。
去年と同じ福[サ/名]堂茶荘で今年の白茶は?と聞いてみたら70元で白牡丹を出してきたから購入。今回もまた新しいお茶に魅了されてます。
台湾の木柵鉄観音,四川の毛峰茶と中国茶のラインナップは底が知れない。
CIのチェックインは完全自動化されてました。デルタ並み。誰も並んでない。中国なのに…と考えると一種感動的。
さあ機内へ。行きに見逃したドラゴンタトゥーの女のラストを見ようかね!
20時40分。とりあえず広島空港に着いてる。
手荷物のレーン前にいるけど,とりあえず出て来ない。帰りもロストしてたらもうCIの乗り継ぎ便は使わんかもしれません。
まあ帰りは,お茶だけしか実害はないからいーけどね。
ちゃんと荷物をゲットして20時45分。空港リムジンに飛び乗れた。
21時半定刻,広島駅新幹線口帰着。
リムジン下車すぐの喫煙所にてタバコを吹かす。銘柄はまだ香港で買ったWest。
デジャヴに襲われる。正味5日前のこの時間,尖沙[ロ且]のネイザンロード沿いで同じように吹かした。あの銘柄はPeaceだったか。
前世の記憶のようです。たった5日前なのか!?――濃ゆい5日だったことよのう。
順徳という土地は,それほど衝撃的だった。
あの2日間は,あの食の光景はちょっとしたエポックになってしまった。
一個人にとってだけとは思えない。あの場所は,中国の食の歴史でも大きな展開の場所だった。広東料理という最も特徴的な中華の変種を生んだ,海賊と貧困の,決して幸福とは言えない土地。
そう考えるのは,今や,わしには大げさでも何でもない。